違和感の夜
朝になった。
今日は、よく晴れている。
母「あんた、また洗面所で顔を洗うとき、水はね散らかしたでしょ!」
また始まった。
るいは、トーストとウインナーを口に運びながら、スマホに目を落とした。
母「ねぇ!聞いてる?」
るい「はいはい。分かったって」
母「分かってない!何回言わせるの!」
小さなことを、何度も。
もう慣れているはずなのに、どこかで疲れていた。
にこは、夜遊びのせいでまだ寝ている。
父の慎は、仕事が忙しく、
しばらく帰ってきていない。
祖母の頼子は、そんな空気など気にも留めず、
ただ静かに、晴れた空を見ていた。
るい「……また、こんな朝か」
小さくつぶやき、家を出る。
会社社員「水沢さん!書類、間違えてます」
るい「え……あ、申し訳ありません」
朝のやり取りが、頭のどこかに残っていた。
気にしないつもりでも、引きずってしまう。
――また同じこと言われてるな。
ムカつく。
でも、自分も悪い。
そんな気持ちが、うまく整理できないまま、
ミスをしてしまった。
思った以上に、落ち込んだ。
けれど――
今日は、父が帰ってくる日だった。
それだけで、少しだけ気持ちを立て直せた。
るい「よし、帰ろう」
夕方の電車は混んでいる。
るいは、こんな毎日に少し疲れていた。
るい「ただいまー」
母「おかえり!もうすぐお父さん帰ってくるって!
にこもやっと起きたのよ」
自分が仕事をしている間、にこは寝ていた。
少しだけ、腹が立つ。
でも――
それも、すぐに流した。
母「今日、すき焼きにしようと思って!
お父さん、久しぶりに帰ってくるから」
《バタバタバタ》
にこが走ってくる。
にこ「すき焼き!?やったー!!」
相変わらずだな、と少し思う。
おばあちゃん「すき焼きかい。慎も喜ぶよ」
頼子は、優しく笑っていた。
19時を過ぎた頃だった。
父「ただいまー」
皆「おかえりなさい!」
にこ「お父さん久しぶり!!」
勢いよく抱きつく。
父「おぉ、にこ。また派手な化粧になったな」
優しく笑う父。
るい「お父さん、無事で良かった」
父「るいは、帰ってくるたび心配してくれるなぁ」
そう言って、頭をくしゃっと撫でた。
その手が、少しだけあたたかかった。
母「さぁ、すき焼き食べましょう!」
久しぶりに、家族全員が揃う食卓。
たわいもない話が続く。
にこの夜遊びの話を、
母とるいは父に伝えた。
――あれ?
少しだけ思う。
自分も、母と似ているのかもしれない。
頼子は、その様子を静かに見守っていた。
食事を終えたあと、
父がぽつりと話し出した。
父「また、少し帰れない日が続くかもしれないんだ」
一瞬、間があく。
父「……すごく、大変な事件でな」
その表情は、いつもよりわずかに硬かった。
家族は、顔を見合わせる。
けれど――
誰も、詳しくは聞かなかった。
それが、いつものことだったからだ。
るいは、そのときは、
まだ――
何も知らなかった。




