第137話 余計な余計なコブがついてくるなんて、ついてくるなんて、聞いてない。
「蓮実くんは、私とグループを組むのは嫌ってこと?」
悲しげ……というよりは、やや困惑した様子で顔を伏せる朝香蘭の姿に、私の方が罪悪感が湧いてくる。
そうだよね。部活の活動だって言ってるのに、こんな我儘を公言しやがるだなんて、おかしいもんね。
誰だよ、こんなおかしいキャラクターを作った奴は。私だよ。
「ンまァ、そういうこったな」
朝香蘭の可憐な仕草も、蓮実玲児には関係がないようで、奴は薄ら笑いを浮かべながら、鼻を鳴らして見せた。
こいつは本当に……。
私は呆れながらも、今しかないと意気込んで、慌てて口を挟んだ。
「玲児は……操縦、必要……」
「あァ? 俺は車かなんかかよ」
「だから……朝香さん……迷惑、かける」
「おい、俺を何だと思ってンだ」
うるせえな。攻略できない面倒臭攻略対象だよ。
「だから、玲児……やめた方が、いい」
「そ、そう……なのかな?」
私の説得に、朝香蘭は困惑した様子のまま、ちらりと蓮実玲児に視線を遣る。
蓮実玲児は、すでに話題の興味を失ったのか、隣に座る水瀬彗斗のお茶を強奪していた。
あ、殴られた。
「えっと、じゃあ、水瀬くんとグループを組むのが良い……のかな?」
順当にいけば、当然そうなるだろう。だがしかし、それは、困るのだ。
「えっと……彗斗は……」
けれど、上手い言い訳が思いつかなのも確かだった。しかし、水瀬彗とは、蓮実玲児とは違って話が通じる相手だ。
私は水瀬彗斗の方を振り返って、ウインクをし……ようとしたが、失敗して、パチパチと瞬きを繰り返す。
水瀬彗斗は、そんな私の様子を、不思議そうに眺めた後、ハッとした様子で大きく頷いた。
「すまない。実はすでに千代と組む約束をしていてな」
「そう、そう……そう!」
さすが水瀬彗斗である。どういう意図の組み方をしたのかはわからないが、結果として素晴らしい提案をしてくれた。
ぶっちゃけ、私が誰と組もうが関係はないし。後ろの方で、「えー!」と柊木悠真が不満げな声を漏らしている気もするが、たいした問題じゃない。
これで、残るは二択……! つまり、柊木悠真と桐原陽太のどちらかと組むしかなくなった。
「なんだ、そうだったんだ。えー……じゃあ」
朝香蘭が意見を述べるより先に、私は口を開く。
「陽太……この間、観覧車の時は、選ばれたから……次は、悠真」
「いやいやいや、結果として三人で乗ったんだから、そこは桐原くんでも変わりないよね?」
チッ! やはり口を出してきたか、渡邉さん……!
放心状態でいれば良いものを、ここにきてチャンスが巡ってきたと気がついたのか、意気揚々と口を挟んできた。
「というか、柊木くんと蘭ちゃんって、確か同じクラスだったよね? だったら、やっぱり別のクラスの桐原くんと一緒になるのが良いんじゃない?」
くっ……! 中々良いところをついてきやがる。
だがしかし、私にも返す刃はあるのだ。
「でも……二人、あんまり……お喋り、ない……。同じクラス、だから……もっと、仲良くなって、欲しい……」
そう、ぶっちゃけ、朝香蘭と柊木悠真は、あんまり会話したことがないのである!
……いや、わかる、わかるよ。お前今まで何やってたんだって話でしょ?
違うんだよね。なんかの……なんかあの人たち、私を挟んでしか、会話してくれないんだよね。だから、仲を取り持とうとしても、限界があって……その……だから今頑張ってるんでしょうが!
「千代ちゃん……もしかして、心配かけてた? わかった、千代ちゃんがそういうなら、ボク、朝香さんとグループを組んで、仲良くなるよ!」
「私も、千代ちゃんがそう言うなら……!」
やったぜ。動機はややどうかと思うが、思惑の通りにことが運びそうである。
「で、でも……!」
だがしかし。渡邉さんはやはり中々しぶといようだ。
「もしかして……」
明らかに反論の声を上げようとしていた渡邉さんが、桐原陽太の声に釣られて、視線をそちらに向ける。
長いまつ毛を伏せた桐原陽太が、悲しげに微笑みながら、頬をかいていた。
「先輩は……オレと一緒には、組みたくない……ってことかな? ちょっと悲しいけど、そういうことなら……」
「いえ組みたいです!」
即答だった。
渡邉さんは、桐原陽太と朝香蘭のカプリング好き。ということは、桐原陽太自体も好きである可能性が高い。
だとすると、推しが悲しんでいたらまあ、そら即答しますわな。
「なんだ、良かったあ。オレ、先輩に嫌われてるのかと思っちゃった」
「いや全くそんなわけがないです。烏滸がましい」
「あはは、先輩、早口だ〜」
ブンブンと首を振っている渡邉さんの横で、朝香蘭が口を開いた。
「えーっと、じゃあ、私と柊木くん、千代ちゃんと水瀬くん、お姉ちゃんと桐原くん……が、同じグループだね。それで、蓮実くんが余っちゃうんだけど……」
あ、そういえば、そうだ。すっかり存在を忘れていたけれど、そうなってしまう。
ぐ……! 非常に不本意だが、ここはうちのグループに引き取るしかないだろう。……世話は水瀬彗斗に丸投げしよう。
「じゃあ、うちで……」
しかし、私が手を挙げかけていると、それより先に、柊木悠真が手を挙げていた。
「じゃあ、ボク達のグループで引き受けるよ。朝香さん一人だと大変だろうけど、ボクもいるし。いいよね、玲児くん?」
「あァ? つーか俺、その交流会? とか、参加したくねェンだけど?」
「それはダメだよ、蓮実くん。折角なんだし、楽しんで部活しようよ」
いや、ちょっと待ってくれ。折角、折角柊木悠真と朝香蘭を同じグループにできたのに、邪魔な奴がついていたら、フラグはどうなっちゃうんだ……?」
「はっ! 私ったら、何を……? 陽蘭を同じグループにするはずだったのに、どうして……?」
渡邉さんも意識を取り戻したようで、困惑した様子で口元に手を当てている。
思惑の通りにはなった。はずなのに。
「あー……ダリィ」
「あはは、頑張ろうね、玲児くん」
どうなってしまうのか、見当もつかないなんて!




