第136話 攻略対象同士でヒロインを押し付け合う乙女ゲームもあるよね。
まず、確定させるべきなのは、朝香蘭のパートナー枠を開けることである。
つまり、まずは敵と肩を組まなければいけない。
「私……先輩と……!」
「えー! ちぃちゃん、この間も渡邉先輩と組んだでしょう? 次はオレと……」
「いいや、最近の千代は陽太に構いすぎだ。ここは平等を期すべく俺と組むべきだろう」
「平等ってェなら俺でもいいだろ。な? 千代? お前が言い出しっぺなンだし、俺の分まで全部やれよ」
クソッ! 邪魔が入ったか!
私は内心舌打ちをこぼしながら、渡邉さんに視線を送る。とにかく、利害は一致しているんだ。手を組めるところは組むべきだろう。
あと普通に蓮実玲児とは組みたくない! 交流会だって言ってんだろうが。
「そうだね。この間の観覧車は私と千代ちゃんが一緒だったもんね。だから今回は、私以外と組んだ方がいいと思う。みんなが言う通り、桐原くん以外で」
こ、この女……! 確実に桐原陽太をフリーにする為に、まず私を売り払おうとするとは……!
だがしかし、墓穴を掘ったようだな……!
「じゃあ、今回はお姉ちゃんは私と組む?」
ああほら、やっぱり朝香蘭が声をかけてきたじゃないか……! 己が欲を優先しすぎて、かえってルートを潰しかけている。
脳内で慌てた様子で言い訳をする渡邉さんの姿を想像していたが、予想に反して、彼女はいたって落ち着いた様子で、首を横に振った。
「今回は交流会だよ? 私たち、お互いよく知った者同士なんだし、今回は別の部員と組んだ方が良いと思うの」
「あー……そっか。そう言われると、確かに……」
何だと⁉︎ 中々上手い言い訳を用意したものだ。
実際、真面目な朝香蘭は、渡邉さんの言葉に納得して、彼女とグループを作るのをやめにしたようだ。
「でもそれなら、橘さんと組もうかな? 橘さんも、男子達と組んじゃったらよく見知った相手と組むことになっちゃうもんね」
それは確かにそうだ。渡邉さんの意見が通るのならば、そういうことになってしまう。
まずい。私は個別ルートに彼女を導くために、交流会などという面倒な行事を提案したと言うのに、このままでは本末転倒になってしまう。
だがしかし、ここまでの道のりを用意してきた渡邉さんのことだ。この朝香蘭の意見に対しての反論も、きちんと用意してきたに違いない。
そう考えた私は、再び渡邉さんの様子を見る。
彼女は、滝汗を流しながら、「そ……あ……」などと呟きながら、目を伏せている。
あ、ダメそう。何も考えてなかった感じだ、これ!
「で……でも、蘭ちゃんと千代ちゃんは、もう既に仲良いじゃん……! 交流会なんだし、関わりが薄い人と組むべきじゃない⁉︎」
いかにも苦し紛れといった様子で、渡邉さんが言い放つ。
「確かに……目的を考えれば、そうかも……」
けれど、その言葉に朝香蘭は説得されてしまったようだった。
まずい。まずすぎる。良くない流れだ。
「で、でも……」
「え! もしかして千代ちゃん、蘭ちゃんと仲良くないと思ってるの!」
こ、こいつ……! 私が口出しするのを避ける為に、敢えて論点をずらしてきやがった……!
「え……私、橘さんと、仲良くないかな……?」
朝香蘭が、大きな瞳を伏せて、悲しそうに瞬きをする。
いや、クラスで一番話す女子なんだから、仲悪いとは思うわけないだろ……!
「仲良し……! ベリー仲良し……! ベストフレンド、フォーエバー……!」
「そ、そんなに……? なんだか照れちゃうな、あの、良かったら、私も千代ちゃんって名前で呼んでもいいかな……。なんだかタイミングを逃しちゃってて」
「う、うん……! 良い、よ……!」
「わあ、嬉しい! えへへ……千代ちゃん」
なんだか生ぬるい空気が流れつつあるが、本題はそんなことではないのだ。
朝香蘭が誰のルートに入るのかという話で……!
「えっと……それで、グループ……」
「あ、そうだった! ……考えたんだけど、お姉ちゃんとも千代ちゃんとも違うグループを組まなきゃいけないなら、蓮実くんか水瀬くんがいいよね」
「え……? どうして? 桐原くん……とか、柊木くんでも別にいいよね?」
「だって、この間の観覧車は桐原くんと柊くんと乗ったでしょう? お姉ちゃんと千代ちゃんが、それが理由で同じグループにならないなら、私だってそうじゃない?」
そう言われてしまうと……ぐ、ぐうの音も出ない……!
理路整然と理由を話す朝香蘭に、一点の曇りもない瞳で見つめられてしまうと、流石の渡邉さんでもそれ以上粘るのは難しいようだった。
策士策に溺れるとはこのことだ。
だがまずい。このままでは、朝香蘭が蓮実玲児か水瀬彗斗のルートに入ってしまうことになる。
どうにか……どうにかならないのか……!
「はァ〜? 俺はアンタと交流深める気はねェンだけど?」
私の祈りを汲んだかのようなタイミングで、蓮実玲児が声を上げる。
こ、こいつ……! さ、最悪だ……!
最悪だけれど、蓮実玲児のその言葉は、突破口になりそうな気がした。




