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第131話 今、何て言った?

「どうして……」


 半円に切り取られた空に額を擦り付けるよう寄りかかりながら、渡邉心菜が嘆きの声を上げた。


 それは血の底から這い上がってくるような、恨めしそうな声だった。


 あの後……渡邉心菜発案の、プレゼンテーション対決の結果は、こんな顛末になった。





「さあ……どっちと乗る⁉︎ 勿論、桐原くんの方だよね!」


 自信満々に詰め寄る渡邉心菜を前にして、朝香蘭は少しだけ考える素振りをして、すぐに「そうだね」と呟いた。


「そもそも、桐原くんと柊木くんの意思は、どうなの?」

「オレ? オレは、えーっと。まあ、朝香さんと乗っても良いけど……。二人だとちょっとまだ、気まずいかなあってのが本音かも」

「あはは、私もそうかも。同じ部員同士、交流を深めたい気持ちはあるけどね。柊木くんは?」

「ボク? ボクは正直千代ちゃんと乗りたいんだけど……」

「そうだよねえ……。橘さん」


 え、私?


 急に名前を呼ばれたので、顔を上げると、こちらにみんなの視線が集中していて、驚きに目を見開く。


 な、何だよ……。


「私より先に、橘さんが誰と観覧車に乗るのか決めた方が、良いんじゃないかな?」

「え……?」

「多分、みんな橘さんと一緒に乗りたいんだろうし……ね?」


 朝香蘭がそう声をかけるも、どこからも何も返ってこない。一方で、特に否定の言葉もないので、彼女はその沈黙を肯定と受け取ったようだった。


「ほらね。だから、プレゼンするなら私じゃなくって、橘さんにじゃない? もしくは、じゃんけんとか、くじ引きとかで……」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 朝香蘭の言葉に、渡邉心菜が焦った様子でストップをかける。


「今、千代ちゃんは関係ないでしょ!」

「ええ、関係大アリだよ。むしろ、今回の話の中心は橘さんじゃないの?」

「そんな……! 違う……違うよね、千代ちゃん……!」


 縋るような視線を向けられ、激しく頷く。


 勝手に人を話題の中心に据えないで欲しい。……もしかして、朝香蘭もこんな気分だったんだろうか。


 本当うにごめん。でもあの、ヒロインだからさ……! 乙女ゲームのヒロインは意思と人権を無視されがちだからさ……! (諸説あります)


「私……私は、あの、先輩……! 先輩と、乗る……!」

「そ、そう! そうそうそうそう! 約束してたの!」


 兎にも角にも話の中心を朝香蘭に戻したい一心でそう告げると、渡邉心菜も激しく頷いている。今、我々の心は一つと言って良かった。


 よくわからないところがあるのは確かなのだが、彼女はカプリング厨であるということだけは、疑い様のない事実だった。


「あ、なんだ……。ごめんね。それで私……。え、でも、女子三人ではダメなんだもんね? でも、うーん……男子と二人では、ちょっとまだ……」


 朝香蘭が葛藤し始める。


 その横で、私と渡邉心菜が固唾を飲んで見守っていると、不意に、柊木悠真が手を上げた。


「千代ちゃんと一緒じゃないなら、別に意味ないし、陽太とボクと朝香さんんと、三人で乗ろうか?」

「え? いいの? その、スチル回収? とか何とか言ってなかったっけ」

「うん、でも、あれはヒロイン相手じゃないと意味ないよね?」

「ん? うん、よくわからないけど、そうなんだ……」


 噛み合わない会話をしながら、何やら三人で乗ることが決まりかけていた。


「待ってよ! 蘭ちゃんというヒロインがいるのに、三人って冗談でしょ?」


 案の定、渡邉心菜が食いつく。けれど。


「お姉ちゃん……。お姉ちゃんは、まだそんなに仲良くない男の子と二人きりになるのは気まずいなと思う私の気持ちを、慮ってはくれないの……?」


 朝香蘭にそう悲しげな顔をされてしまっては、それ以上言葉が継げないようだった。


「じゃ、蓮にぃは乗らないみたいだし、残りは彗にぃと僕で終わりだね。はい、じゃあ会議が長引いた分、サクサク乗ろうね〜」


 何か言いたげなまま、百田七緒に背中を押された渡邉心菜は、こうして私と二人、観覧車という小さな

異空間に放り込まれたのであった。





「おかしい……こんなのおかしい……。だって蘭ちゃんこそが本物のヒロインのはずなのに……」


 観覧車に乗り込んで以降、渡邉心菜はずっとこの調子だ。正直、触れて良いものか迷うほどである。


 けれど、こうずっとぶつぶつされているのも、気分の良いものじゃない。


「あの……先輩?」


 意を決して話しかけると、ようやくその瞳が、こちらに向いた。


「ねえ、千代ちゃん。()()()()()()()()()んじゃない?」

「え……?」


 やりすぎた? 一体、何の話だ?


「だって、こんなの、千代ちゃんが蘭ちゃんの位置に成り代わっちゃいそうじゃない? 勿論、私は千代ちゃんが同志だって信じてるから、誤解してないけど……」


 彼女が一体何を言っているのか、いまいちよくわからない。


「成り代わるって……どういう」


 その真意を掴もうと尋ねると、彼女はきょとんとした表情で、当然のように、言い放った。


「え……だから、千代ちゃんが『ロストタイム』のヒロインに成り代わっちゃいそうだって話だけど?」


 ……は? 今、何て言った?

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