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第130話 乙女ゲームをプレイする人間かどうか。大切なのは、それだけだ。

 さて。そんなわけで、観覧車に乗るべく、誰と誰がペアになるべきか、という話になったのだが……。当然大揉めした。主に私と渡邉心菜が。


「ここは勿論、蘭ちゃんと桐原くんがペアになるべきだよね」

「えっオレ?」


 隣で驚いている桐原陽太の姿は視界に入っていない様子で、渡邉心菜がそう強く主張する。


 出たなカプリング厨(ライバル)……!


 奴がそう出るというのであれば、こちらも黙っている訳にはいかない。


「……いや、朝香さんは……悠真と、乗る……!」

「え? ボクは千代ちゃんと乗りたいんだけど……」

「というか、私の意思は……?」


 柊木悠真と朝香蘭が困惑している気配は感じるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


「……やっぱり私の前に立ちはだかるんだね、千代ちゃん……」


 なぜか腰を落としながら、渡邉心菜が言う。臨戦態勢のような姿勢をとる彼女に警戒して、私も若干腰を落とした。多分、意味はない。


「……こっちの、セリフ……」

「ふふ……やる気だね。どっちも引く気がないとあっては、ここは蘭ちゃんに決めてもらうしかない……。つまり、やることはわかるね? そう……プレゼンテーション対決……! どちらの推しが強いか、ヒロイン様に決めてもらおうじゃない!」


 こうして、渡邉心菜は朝香蘭の意思をまるで無視した対決を挑んできた。


 朝香蘭には悪いが、こんな私に有利な対決を挑まれたとあっては、引く訳にはいかない。何せこちらは創造主(作者)なのだ。奴らを作ったのが私である以上、最も詳しい人間は私をおいて他にいない。


 正直言って勝ち戦なのだから、退く理由がないとも言える。


「いい……よ」


 私は抑えきれない笑いを噛み殺しながら、深く頷いた。





「桐原くんの素晴らしい点は、やはりその繊細な感受性と、根の善良さにあると言えます」


 慈愛に満ちた笑みを湛えながら、渡邉心菜が桐原陽太を手で指し示す。


 指された桐原陽太の方は、大袈裟に体を揺らしながら、胡乱な目で渡邉心菜を窺っている。


「勿論、最初の方には警戒心も抱いているでしょう。けれど、それを表面には出さないところが、妙に儚げな雰囲気を演出していて、危うい魅力に繋がっているとも感じますね……」


 しみじみと語る様子は、どこか別の世界を見つめているようにも思える。


「他人に対する不信感と、内心では愛情を渇望し、人を信じたいと思っている善性。それらが混ざり合って、アンビバレントな感情になっているのが、複雑な人間性という魅力となっていて………」


 ……なんか、この人、妙に桐原陽太に詳しくないか?


 いや、自分の理想を投影しているだけ、という可能性は否定できないのだけれど。


 たかが部活動の後輩に対して、心理状態などの言い回しが、妙に断定的である、というか……。まるで本当に、見てきたように話すのが、妙に気になった。


 実際、何か身に覚えがあるのか、桐原陽太も警戒心を露わにして、感情のない目で渡邉心菜を観察している。


 妄想……? いや、それにしては、的を射すぎている。


 一体この女は、なんなんだ……?


 単純に、生きた人間を推すヤバ人間、というだけじゃない。


 ()()は、一体、()だ……?


 正体不明の怪物が現れたような感覚、と言えば伝わるだろうか。


 今まで、少しやばいがただの女子高生として認識していた存在が、ぐにゃりとその姿を歪ませたように感じられて、空恐ろしかった。


「千代ちゃん」


 不意に、その視線がこちらに向けられる。


「え……?」


 全ての音が右から左に流れていた私は、突如として呼ばれた名前をなんとか拾い上げて、顔を上げた。


「次は、千代ちゃんの番だよ」

「私の……番?」

「もう! ぼーっとしてたら、私が勝っちゃうよ! 次は千代ちゃんが、柊木くんの魅力を語る番でしょ?」

「魅力……? 悠真の……?」

「あれ、本当にどうしたの? もしかして、また具合が悪くなっちゃった?」


 少女の白い手が、こちらに伸びてくる。


 私は肩を大袈裟に揺らして、後ろに飛び退く。遊園地に似つかわしくない静寂が、一瞬広がった。


 見られている。みんなの視線が、私に集中している。


 落ち着け。別に、危害を加えようとしてきたわけじゃない。


 私は小さく息を吐いて、気を落ち着かせると、現在の状況を思い出した。


 そう、そうだ。プレゼンテーションで、桐原陽太と柊木悠真のどちらかをヒロインと同乗させるか選んでもらうところで……。


「ごめん……ちょっと、ぼーっと、してた……」

「なんだ、良かった〜! じゃあ、千代ちゃん、いける?」

「うん……」


 不安げに寄せられていた渡邉心菜の眉が、ゆるりと解かれる。その姿は、先ほどまでと違って、普通の女の子に見えた。


 私は何度か深呼吸をして、再び思考を回す。


 ええっと。そう。プレゼンテーションだから柊木悠真の良いところを、アピールしなくちゃいけない。


 柊木悠真のいい所、いい所……。


「……乙女ゲーマーとしての、才能が、ある……!」


 これは圧倒的な長所に違いない。


 あまりにも自信がありすぎて、胸がずずいと前に出てきてしまうくらいだ。


 けれど、拍手喝采が起こるばかりか、誰も何も言わない。妙な雰囲気に首を傾げていると、言い辛そうに渡邉心菜が口を開いた。


「……うん。それで?」


 それでとは……?


 彼女が一体何を言いたいのかわからず、傾けた首がますます傾く。


「えっと……勿論それだけじゃ、ないよね?」


 それだけじゃないよね……? もしかしてもっと長所を言えってこと……? これ以上に、要るのか……?


 いいや、要らないだろう。この長所は、他を凌駕して有り余る素晴らしい点だと言えるのだから。


 それに、正直柊木悠真って元のキャラ設定から外れてきているから、よくわからないんだよね。だから、これ以上を求められても困る。


 自分が創造主(作者)とか、よく考えたら関係なかったわ。なんかこいつ、キャラ変しやがったし。


「……柊木くん、可哀想……」


 渡邉心菜のその言葉が、妙にもの寂しく響く。


 その横で、柊木悠真は、感情が読めない微笑みを湛えていた。

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