第129話 スチル回収は必須だよね?
地獄の電車ごっこでなんとか乗り越え、お化け屋敷を出ると、ちょうど出入り口のところに柊木悠真が立っていた。
「あ、千代ちゃん、体調大丈……泣いてない?」
泣いてねーし。ちょっとビビっただけだし。
「お化け屋敷苦手だった? 千代ちゃん、ジャンプスケア系の演出苦手だしね……よしよし」
眉を下げながら頭を撫でてくるので、首をあちこちに動かしながら逃げようとするも、まるで逃げる先をあらかじめ予想していたように手がついてきて、普通に撫でられてしまった。
こ、コイツ……! 普段幻想を見ている癖に、たまに私の理解度が高いの、なんなんだよ……!
謎の敗北感を味わっていると、なんだかゴテ盛りのドリンクを差し出されて、反射的に受け取ってしまった。
「体調は良くなったって聞いたから、せっかくだしここでしか頼めないものにしてみたよ。千代ちゃん、苺好きだから苺のドリンクにした」
言われてみると、色々入っているようだけれど、基本は苺らしい赤い液体だ。
促されるまま一口含んでみると、甘酸っぱくて気分がすっきりとする。疲れた体に有難い爽やかさだった。
「……美味しい」
「良かった! 少し休んだら、皆と合流しようか。ボク、連絡しておくね」
何から何まで有難い話なのだが、孤独な世界の黒幕の姿として、これは正しいのだろうか……?
「悠真ー! お化け屋敷、楽しかったよ〜。想像していたより、色々演出があるんだね」
「ちぃ姉が可哀想なくらい震えてて、大変だったよ〜! でも僕、無事に出口まで連れてきたんだよ!」
柊木悠真に誘導されて座ったベンチで、私がほっと息をついている間に、男子連中は先ほど入ったばかりのお化け屋敷の話で盛り上がっていた。
おい、百田七緒。人の醜態を拡散するな。
「あ、玲児くん! 彗斗くん! こっちこっち!」
不意に、柊木悠真が大声を出しながら、大きく手を振った。目線の先を追うと、確かに小さくそれらしき影が見える。
視力、良! えっ、攻略対象補正って、視力にもかかるんですか?
「……あれ、朝香さんたちは?」
近づいてきたシルエットが、二つ分しかないと気がつくと、桐原陽太が声を上げた。
「ン? あー……知らねェ。どっかで遊んでンだろ?」
両手をポケットに突っ込んで歩いてきた蓮実玲児が、悪びれもせずに答える。集団行動とかいう概念が、存在しないのかもしれない、コイツには。
「ふむ。朝香たちとは、途中で逸れてしまったな。玲児がひたすらに絶叫系に乗り続けるのに付き合っているうちに、姿を見なくなったな」
予想通りと言えば予想通りとはいえ、酷い話である。もう少し女子たちの気を使ってやってほしい。一応、乙女ゲームの攻略対象なのだから。
まあしかし、現在の好感度が初期段階だと考えると、まあそんなもんだよなと腑に落ちる気持ちもあるのだから、乙女ゲーマーって業を抱えているよね。
「もー……。まあ、ボクもそんな感じかなと思って、朝香さんにも連絡を入れておいたから、そろそろ……あ、いたいた! 朝香さーん、渡邉先輩ー!」
再び、柊木悠真が大声を上げながら、手を振った。その先に、こちらに手を振り返しながら、小走りでやってくる小柄なシルエットが二つ見えた。
この、態度の差よ。蓮実玲児なんて、手を振りかえしてくれることもなかったからな。
「はあ、遅れちゃって、ごめんね。家族へのお土産とか見てたら、レジが思ったより混んでて……」
「……朝香さんも、これ、飲む?」
息を乱している朝香蘭に、飲みかけのドリンクを差し出すと、「いいの? ありがとう」と軽い調子で受け取ってもらえたが、遠慮しているのか、一口だけ飲んで返却された。
「あ、これ美味しいね。……橘さんは、体調大丈夫そう?」
「……うん」
「良かった〜! 折角だし、一緒に楽しみたいもんね」
ニコニコと微笑みかけられて、思わず口角が上がる。柔らかな気遣いにほっこりとした心地がした。
「次、何に乗ろうか?」
柊木悠真の声に、渡邉心菜がすっと手を上げた。
「観覧車……はどうでしょう」
「観覧車ァ?」
げえ、と嫌そうな顔をしたのは、蓮実玲児だった。絶叫系にばかり乗るだけあって、観覧車のようなスピードのない乗り物には興味がないらしい。
「「え、観覧車は1日の終わりのイベントじゃないの?」」
きょとんとした顔で、柊木悠真と桐原陽太が声を揃えた。英才教育の影響が伺える反応だ。
私がうむうむと頷いていると、渡邉心菜もうむうむとやっていた。同志よ。
「それもそうなんだけど……。なんか、気がついたらみんな、バラバラになっている気がするから、揃っているうちに確定イベントにしておこうかなって……」
なるほど。自由人のせいで演出にまでこだわっている場合ではないと思ったらしい。
「なんだかよくわからないけど……いいんじゃない? 私、観覧車好きだよ」
「流石蘭ちゃん! じゃあ、誰と誰が一緒に乗るかなんだけど……」
「え? 女子は三人なんだから、私達で一緒に乗って、あとは男子がわで好きに別れて貰えばいいんじゃ……」
至極真っ当なことを言い出す朝香蘭の前で、渡邉心菜が目を見開く。
「え? 観覧車イベントなんだから、二人で乗らなきゃダメしょう?」
「え?」
「そうだよ! 朝香さんはもう少しお約束というものを勉強すべきだね」
「え?」
「そんなんじゃスチル回収できないよ」
狂人に囲まれた哀れな朝香蘭は、周囲の圧力に屈して、「そっか……」と頷いた。
可哀想だけど、スチル回収のためには必要な選択肢だよね。




