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第128話 答えは電車ごっこ。わかるよね?

 結論から言うと、全く大丈夫ではなかった。


「……っ!」


 悲鳴になり損ねた吐息を口から漏れ出しながら、私は完全に動きを止めた。体が先に進むこと拒否している。


 ……オッケー。待ってね。うん。まあこんなのね、大したことないですよ。深呼吸さえすればね。うん。


 うん……無理かも!


「ちぃちゃん、まずそう?」


 顔を覗き込んできた桐原陽太にすら、ビビり散らかしてしまった。やめろ、今急に顔を出すんじゃない。ホラー演出かと思うだろ。


 臓物が口からこぼれ出そうになりながらも、私は大きく頷いた。


「……まずい……!」

「うわ〜今までちぃ姉がこんなに直球で窮状を訴えてくることあった?」


 いいや、ない。ホラーは苦手なものランキングの中でも割と上の方に入るからね。流石に強がってどうにかなるものでもない。


「やっぱりダメだったか〜……ごめんね。やっぱりさっき、列から出るべきだったね」


 桐原陽太が、大袈裟に肩を落とす。


 己が罪悪感を減らすためにここまで来たというのに、全くもって情けないことである。


 本当にすまないと思っている。思っているのだが、人には向き不向きがあるし、できることとできないことがある。

 

「陽太……悪く、ない」

「そうだよ〜! 結果的にダメだったけど、ちぃ姉もいけると思って来たわけだし、陽にぃが謝ることじゃないよ」


 責められるべきは私の自己判断の甘さである。


 私が百田七緒の言葉に、小刻みに頷いて見せると、桐原陽太は安心したように息を吐いた。


「……ありがとう。でも、ちぃちゃん、歩けそう?」

「……無理」

「無理かぁ〜。でもほら、途中退場はできるらしいから、そこまで頑張れない? ちぃ姉?」


 幼い子供に言い聞かせるように尋ねられて、心底情けない気持ちになる。


 自分から行くと言い出しておいて、なんたる体たらくだ。


「……手、引っ張ってくれれば……最後まで、いける……。目、瞑ってる」


 自分で動くことは出来ないが、連行されればどうにかなるだろう。


「ええ! それ結構危なくない? それに、音とかもあるから目を瞑っても限界があるんじゃ……」


 私の甘い見積もりに対して、桐原陽太が現実的な意見を出してくる。


 だがしかし、大人としてこれ以上情けないところを曝け出すことには、抵抗があった。


 え? 子供に手を引いてもらってお化け屋敷を乗り切ろうとするのは情けなくないのかって? 黙りな。


「……大丈夫」

「本当かなあ」


 力強く頷いた私に対して、百田七緒が懐疑的な目を向けてくる。


 もしかして私、信頼が、ない?


「……わかった、ちぃちゃんがそこまで言うなら、フォーメーションを組もう」


 フォーメーション?


 首を傾げる私を置いて、桐原陽太と百田七緒がコソコソと何か相談し始め……。何かが決まったのか。二人揃って大きく頷いた。


「……さ、じゃあ、行こうか!」


 高らかな宣言と共に、桐原陽太が私の背後に立ち、目の前には、百田七緒が立った。


 百田七緒に腕を掴まれたと思ったら、そのまま背を向けられ、肩に両手を誘導される。同時に、背後から伸びてきた手に両耳を塞がれた。


 こ、これは……!


 子供がやる電車みたいなやつ(変則バージョン)……!


 まさかこの歳になってこれで移動することになるとは思わなかったが、でかい人間に挟まれているおかげで、視界が悪く、さらに音も聞こえづらいので、対お化け屋敷としてはかなり良さそうである。


 これなら、下を向いていればなんとかなりそうなものだ。


「……行こう!」

「あはは、おー!」

「出発進行〜!」


 湧いてきた自信によって声を上げると、楽しげな声がかすかに聞こえてきた。


 恐らく、お化け役の人も、「何やってんだ?」と驚いたと思う。


 だけど、それでなんとか出口まで出られたのは本当なので、結局電車ごっこが最強なんだと思う。

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