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第127話 ホラー映画見てる時、リアルに飛びあがっちゃうよね。

 空が……青いな……。


 半泣きの渡邉心菜を連れた朝香蘭と、案の定ふらりと姿を消した蓮実玲児と水瀬彗斗から離れて、ゆっくりと深呼吸を繰り返していると、徐々に指先に力が入るようになってきた。


 グッパグッパと手の開閉を繰り返しながら、空を見上げると、グロッキーな私の姿とは裏腹に、気持ちの良い晴天が広がっていたのだった。


「どう? ちぃ姉? ちょっとは具合良くなった?」


 人が脱力しているのを良いことに、ピッタリ隣に張り付いていた百田七緒を押し除けながら、私は頷いた。


「良かったぁ……。オレも、ちぃちゃんのチャレンジ精神旺盛なところ、結構好きだけど……。無理しちゃダメだよ」

「……乗ってみないと、わからない……」

「え、あれ? もしかして、ちぃちゃんも遊園地、あんまり来たことない?」


 諭すような言い方をされて、少し気に障ったので反論してみると、桐原陽太は目を丸くして尋ねてきた。

 

「えっ! 嘘、意外! ちぃ姉ママとパパ、こういうところに連れてくるの好きそうなのに」


 百田七緒の言葉は、最もだった。


 というのも、私は今回初めて遊園地に来たわけだが、「遊園地に行こう」と両親に誘われたのは、一度や二度ではないのだ。


 しかし残念ながら生まれた瞬間から前世の記憶を持っていた私にとっては、遊園地は圧倒的アウェー。待ち時間は長いし、ガキの頃なんて、身長制限に引っかかりまくって乗り物にも殆ど乗れなかった記憶が、前世で刻みつけられていた。


 そのため、どれだけ誘われようと首を横に振り続け、「そのお金で乙女ゲームを買ってくれ」と返してきたのだ。


 思い返せば、部活のメンバーと遊園地に行くと話した時、両親は微妙な顔をしていた。親不孝な娘ですまない。


「……実は、オレも初遊園地……」


 はにかみながら、桐原陽太が言った。


 それはそうだろう。長年の軟禁生活の中で、遊園地に行く機会なんて、ないだろうし。


 ……あれ、私のせいで初遊園地ですか? はい、そうです。なんてこった。


「陽にぃまで? えー、それなら僕、今日は二人にめいいっぱい遊園地を楽しんでもらいたいなあ」


 罪悪感に胃を痛めていると、百田七緒がそんなことを言いながら、両手をギュッ握る。


 ま、眩し……! まるで光属性みたいなことを言い出しやがる。まるで私が自分の蒔いた不幸の種を無視する外道みたいに思えてくるじゃないか……。


 私は妙な焦燥感に襲われて、立ち上がる。いつの間にやら体調は良くなっていたようで、問題なく動けそうだった。


「……行こう。陽太の……初遊園地、楽しませ……なきゃ」


 心を焦がす使命感を胸に、私はそう宣言したのだった。





 私がうっかり忘れていた、飲み物を買いに行った柊木悠真には、桐原陽太が連絡を入れてくれたらしい。


 どうやらもう少し戻るまでに時間がかかりそうとのことで、「大丈夫そうなら待ってるから遊んでいていいよ。千代ちゃんの体調が良くなったのなら良かった」との返事をもらったらしい。


 すまない……私のために飲み物を買いに行ってくれたというのに、すっかり忘れて置き去りにしてしまい、すまない……。


 そんなこんなで、私たちは桐原陽太が行きたいアトラクションに行くことになったわけだが……。桐原陽太が選んだのは、なんとお化け屋敷だった。


 どうして……? この人、光担当の男じゃないんですか……? 何故そんな闇深い場所に行かなきゃいけないんですか……?


 お察しいただけるかと思うが、私はホラー系に対する耐性が、全く、ない。


 ジャンプスケア系では心臓が止まりかけるし、追いかけられると息の根も止まりそうになる。出来うる限りホラー系のものとは距離を取っていたいと思っている。


 が、しかし。


「あの、お化け屋敷に行ってみてもいいかな……。前にちぃちゃんに借りた乙女ゲームでお化け屋敷に入っているシーンがあって、オレも入ってみたかったんだ」


 などと恥ずかしそうに言われてしまっては、断ることはできなかった。乙女ゲーマーとしても、不幸の元凶としても。


 待機列に並びながら、小さく息を吐いて、全身に気合を入れる。


 私は……この世界の神……。こんなお化け屋敷如きは、私の想像の範囲内に収まっているはず。つまりきっと……解像度が低い。だからいける。大丈夫だ。


 己に言い聞かせながら進んでいると、楽しげな笑みを浮かべた桐原陽太が、声をかけてきた。


「もうそろそろだね、ちぃちゃん。楽しみだね」

「ソウ……ダネ」

「あははちぃ姉、手と足が同時に出てるよ。もしかして何か、緊張してる?」

「ソンナコト、ナイヨ」

「いや、ロボみたいになってるし……。え、もしかして、本当に緊張してる?」


 笑っていた百田七緒が、怪訝そうな表情に変わった。


 そういう察しの良さは、もっと別のところで発揮してもらいたいのだが。


「え……ごめん、もしかしてちぃちゃん、こういうの苦手だった? ちょっとホラー要素の入ってる乙女ゲームとかもやってるから、てっきり大丈夫なものかと……」


 うん、あの、乙女ゲームがやりたすぎて、頑張ってるんだよね……。それに、乙女ゲームに入ってるホラー要素は結構ぬるめなんだよね。苦手な人が多いから……。


 けれど、そんなことを眉を下げた桐原陽太に言ったところで、仕方がない。私が在すべきことは、奴を不幸にした分、遊園地を楽しませることなのだ。


「大丈夫……。私、いける……!」


 強い意志を込めて発した言葉に、少し不安げな顔をしながらも、二人は頷いてくれた。

 


 

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