不器用な祝福
王宮の一角、かつて仲の良い姉妹が互いのためだけに作り上げた小さな小屋。
最早使われなくなって久しい、秘密基地の扉が微かに軋みを上げながら開く。
「ここにいたのね」
「エルフリーデ………陛下。どうしてここに………」
過去を懐かしむように、ただ今の自分には小さすぎる椅子に腰掛け、ひとつひとつ思い出の品を手に取っていたシャルロッテは、突然の訪問者が新王であったことに驚きの声をあげる。
「エルフリーデでいいわ。いまこの時だけは昔のままの姉妹として話すこと………私からの謝罪を受け入れるにあたってのミナト陛下からの条件よ。どんな無理難題を提示されても文句の言えない立場だもの。これで事が収まるなら、こんなに安いことはないでしょ」
エルフリーデは日頃の疲れを吹き飛ばすように大きく伸びをすると、子どもの頃のように姉の隣に無遠慮に腰を下ろした。
「大丈夫?連日の御前会議で疲れてるでしょ」
「姉様こそ、傷はもういいの?」
「ええ、もう完璧!!エルフリーデが王宮侍医を手配してくれたおかげで、力仕事だってなんだって出来るんだから!!」
シャルロッテがわざとらしく腕まくりをし、真っ白な陶器のような肌の柔腕を見せると、エルフリーデはほとんどついていない筋肉を潰すように握り、姉が痛がるのを見て笑った。
「それだけ叫べれば元気なのは嘘じゃなさそうね。ところで、さっきなんだって出来るって言ってたけど、国政も手伝ってくれるの?」
「手伝いたいのは山々なんだけれど………国外追放が決まっちゃったの」
意地の悪い妹の問いに、シャルロッテはバツの悪そうな表情でボソボソと呟く。
「そうだった、私が決めたのよね。本当に大変だったんだから。クライスが議場でいきなり姉様を処刑すべきだって言い出して、私が懸命に止めたのよ。追放刑に決まった後も、将来に禍根を残すとか、シンギフ王国が姉様を旗頭に王権を狙いにくるかもとか、領土問題がややこしくなるとか………あんまりにもうるさいから、口を塞いでしまったの」
「兄様ったら、エルフリーデに華を持たせようとしてくれたんだ。ワタクシと同じで、少しだけ面倒な性格をしているけれど、その調子なら大丈夫そうね。でも、兄様の口撃を止められるなんて凄いわ。口を塞ぐって、どうやったの?」
「姉様って意外とウブよね」
エルフリーデはわざとらしく首を傾けた。
「えっ、どういうこと?」
「もう忘れたの?クライスと私は夫婦なのよ。夫婦同士が喧嘩しあって、口を塞ぐとなったら、方法はひとつでしょ」
「………ええっ!?もう、そこまで!!??早すぎますわ!!!!!」
驚きのあまり叫び声をあげる姉に対し、妹はただ声をあげ笑い、つられてシャルロッテも大声で笑った。
「とにかく、エルフリーデって王様は救国の英雄で、中興の祖で、慈悲深く寛大な偉大な王様なんですって」
「ええ、とっても偉くて、とっても強くて、とっても優しい、自慢の妹よ」
シャルロッテはそう言い、仕返しとばかりに妹をジッと見つめると、エルフリーデは気恥ずかしそうに視線を逸らした。
「そろそろ時間でしょ。国外追放の刑を受けた大罪人を盛大に見送るわけには行かないけど、裏門まで送るくらいは出来るわ」
「そんな勝手していいの?また兄様がうるさいんじゃあ………」
「いいのよ、どうせ一歩ここから出れば、クライスのよこした護衛が必死にかくれんぼしながらついてくるんだから。そうだ、クライスから伝言。『平民となった一族の恥さらしのために見送りなど考えるだけで反吐が出る。誰もお前になぞ興味はない。せいぜい辺境で張り合いのない余生を過ごすのだな』ですって。一言一句間違えるなって言われたんだからね」
呆れたようにため息をつくエルフリーデを見て、シャルロッテは堪えきれず吹き出した。
相変わらずの口の悪さ………けれど、その裏にある不器用な祝福に気づかないほど、彼女は愚かではなかった。
やがて、その美しい瞳に僅かに涙がにじむ。
そこには、かつて兄と呼んだ男との別れへの寂寥の念と、深い感謝が入り混じっていた。
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