掴んだもの、離したもの
シャルロッテを助けるべく崖下に向かい飛び降りたミナトを表現しがたい浮遊感が包み込む。
天地は逆さになり、空を見上げながら落ちていく感覚に瞬間混乱に陥るが、ミナトは指先に巻きついた革紐を力の限り引き寄せることで、なんとかシャルロッテの手首を掴むことに成功した。
(クッ、最悪の事態は免れたけど、このままじゃ二人とも地面に叩きつけられて即死だ!!これで少しでも時間を………!!)
ミナトは腰に括り付けてある鉤爪付ロープを、崖の途中に突き出している木に目掛け無我夢中で投げる。
ガッ
ロープが木に巻きつきピンと張ると同時に、二本の腕に凄まじい衝撃が加わり、身体がバラバラになったかと思うほどの信じがたい痛みが神経を駆け巡る。
「グッ………!!!!!」
ミナトは喉をつく悲鳴を飲み込み、奥歯を噛み締めあらん限りの力で両手を支える。
左手にはシャルロッテ、右手にはロープ。
今にも砕け散りそうな枯れ木により辛うじて支えられた二人は、ミナトの膂力だけで断崖にぶら下がる。
腕の筋がミチミチと音を立て千切れていくなか、ミナトは絶え間なく襲う激痛を気付け薬代わりに懸命に堪える。
「離してください!!ミナト様にはやらなければならない事があるはずです。ここで死ねば国は滅び、民も家臣も路頭に迷います。ワタクシはもう良いのです。お願いです、自分の身を大切になさってください。ミナト様のためだけではなく、ミナト様を必要とする多くの民のためにも」
枯れ木がメキリと音を立て、枝が大きくたわむ。
シャルロッテは自分の腕を固く握りしめるミナトの手を振り払おうとするが、万力のような力で掴む指を剥がすことは出来ず、ただ風に揺れる葦のように己の身を運命に任せた。
「ダメだ、一緒に帰ろう。皆の所へ。ボクを必要としてくれる人がいるように、シャルロッテを必要としている人は沢山いるんだ………何より、ボクが君を必要としてる」
ミナトはシャルロッテに向け、無理矢理笑みを作った。
しかし、額には血の入り混じった汗が浮かび、手は痙攣を始めている。
「ミナト様………キャア!!!!」
乾いた音と共に、二人の命を支えていた枯れ木が折れる。
木は根元まで裂け、辛うじて動きが止まるが、このままでは二人の運命は火を見るより明らかだった。
(地面までゆうに100メートル以上。下は剥き出しの地面。もう途中に掴まることのできる物もない。この高さから落ちれば100%命はない。でも背嚢にある魔具を使えば………あるいはシャルロッテだけなら救えるかもしれない。だけどボクは………)
「シャルロッテ、今から3数えたらボクはロープから手を離す」
「ダメです、ミナト様まで巻き込むわけには参りません!!もう十分です、どうかこの手を離してください………」
「安心して、絶対に助けるからボクを信じて。これからも、この先も………いくよ。1、2、3!!!!」
ロープを離すと、世界が再び逆さに上昇を始め、二人の目に映る景色は凄まじい速度で変わってゆく。
ミナトは激しい風圧のなか背嚢に手をかけ、一枚の呪符を取り出し、封を切る。
(これがあればシャルロッテは助かる………ボクの選択が正しいかは分からない。だけどボクは選んだ。皆、後は任せたよ)
呪符が輝きを帯び、込められた魔法が発動する。
周囲を覆う眩いばかりの光は、崖から遥か下の大地を照らし、その幻想的な美しさにより戦機を窺う兵士達の目を奪った。
今にも戦端が開かれんとする極限の状況において、空から降り注ぐ神々しい光の塊は、戦場を埋め尽くす兵士達にとって神の啓示を想起させた。
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