朱の牢獄
「あら、フェルリオールの魔力が消えたわ………いえ、まだ残り火はありそうかしら。どのみち長くはなさそうね」
「よそ見?その余裕な態度、ちょっと癪に障るわね。戦いには、特にレディーが相手なら尚更、目の前の敵に集中するのがマナーってやつじゃない?鮮血呪縛」
血により生み出された朱の牢獄が、四方から対象を押し潰すように収縮する。
トートはそれを避けることなく無抵抗で拘束されると、アルベラに視線を送り苦笑した。
「貴方って意外と真面目よね」
「意外は余計じゃない」
「ごめんなさい、褒めたつもりよ。で、どうする?アタシにはもう戦う理由がなくなっちゃったんだけど、アルベラちゃんがその気なら付き合う位の優しさはあるわ。でもちょっと言いにくいんだけど、このまま続ければ勝敗は明らかよね」
トートの肌に打ち込まれた鋲が勢いよく飛び出し、自ら意志を持つように深紅の呪縛を切り裂いていく。審美公と呼ばれる大悪魔は鼻歌まじりで枷を外すと、大きく伸びをし扇情的なポーズで挑発する。
十分な余裕を感じさせるトートとは異なり、アルベラの身体には至る所に傷が見られ、口角には微笑を湛えているものの疲弊していることは誰が見ても明らかであった。
「そう煽られると逆らいたくなるんだけど………今日のところは遠慮しておくわ。先約があるの」
アルベラの指先から零れ落ちる血が止まり、裂けた皮膚が閉じていく。
「すっかりお熱ね、羨ましいわ。それにしても、アレは何?」
「さぁ、何のことかしら」
「昔馴染みでしょ。手加減してあげたんだし、少しくらいサービスしてくれても罰は当たらないわよ。『神託の勇者』………嫌になるほど耳にしたこのフレーズも、あの子の前では色を失うわ。だってそうでしょう?アタシ達『六大魔公』と『神託の勇者』に明確な優劣はあってはならないのよ。何者にも必ず勝てる力、そんなものがあればフェルリオールの口癖『作品』に成りえないもの。結果が決まっている物語ほどつまらないものはないしね。英雄の誕生を願う民衆にとっても、アタシ達にとっても、神託の勇者と崇められる本人にとっても」
心のすき間に入りこむようなねっとりとした視線に、アルベラがため息をこぼす。
「あの子だけが隔絶した力を持つのは何故?本当に神とかいう傍迷惑な超越者がいるのだとしたら、アタシ達の足掻きも神の筋書きの一つに過ぎないというわけ?………到底受け入れがたい結論ね。少なくとも、弟にはそんな惨めな想いはさせられないわ。アタシ達は何にも寄らずともアタシ達でいられる………貴方もそんな子供じみた願望を持っているから、あの子達と一緒にいるんでしょ?人の王と悪魔の臣下、嫌いじゃないわ」
「おしゃべりが過ぎるんじゃない?あまりうるさくすると、レーベが目を覚ますわよ」
「あらやだ、興奮しすぎたわね。アタシ一人でアルベラちゃんとデートしてたなんて知られたら、三日は口を聞いてもらえないわ。そろそろお暇しようかしら。………アルベラちゃん、もしフェルリオールと話す機会があったら伝えておいて。また次の世界で会いましょうってね」
「ええ、覚えていられたらね」
トートは悪態をつくアルベラをからかうように投げキッスをすると、闇に溶けていった。
「次があればて……あなたも、ワタシも」
消え入りそうな声で呟かれたアルベラの言葉に反応する者は、もうそこにはいなかった。
面白かった、これからも読みたい、AI先生による絵が可愛いと思った方は是非、☆評価、ブックマーク、感想等をお願いいたします!!
基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。




