貫いたもの
「どうされましたか、私はまだ生きています。そして後数百回は生き続けるでしょう。例え時の歩みが草木の芽吹きよりも遅くとも、いつかは根は石を割り、大地を緑で満たします。苔のような取るに足らない信念が神に届き得た時、私の生涯は真に誇りうる作品となり得るのです」
「そんな時は来ない。貴方は惨めに死ぬ。何も叶えられない。何も成し遂げられない。与えられた役割通り、無様に無意味に死ぬ。それ以上でも、それ以下でもない」
「………最早言葉は不要です。運命の歯車が貴方の愛する者を飲み込む前に、どうか行動で貴方の信念を示してください」
言い終えるよりも早くリオは大地を蹴り、距離を一瞬で詰める。
剣を天高く掲げ切先を影に向けると、フェルリオールは小さな光球を無数に生み出し、影を分散させる。
「もう種明かしをする必要は無いようですね。しかし、私が詐術が露見した場合の事を考えていないと思いましたか。眩いばかりの輝きはより深い影を生みます。太陽も人も、その光が激しければ激しいほど、濃い闇が生じるのです。ならば自身が制御できる程度の明かりで身を守るのは自明の理。貴方の刃は、私の心臓には届きません!!」
リオが最も濃い影に向け剣を振るうが、フェルリオールは僅かに苦痛に表情を歪めるだけで、すぐさま砂塵に紛れ荒野に身を隠す。
「リオッ!!後ろだ!!」
デボラの声に導かれ、リオが跳躍する。
太陽を背にしたリオの真下には深い影が落ち、自身が作り出した影の中心に剣を突き立てた。
白銀の刀身がフェルリオールの心臓を貫き、流れ落ちる真紅の血とともに影を捉える。
しかし、六大魔公の名を冠する大悪魔の肉体は塵となることはなく、赤黒い血溜まりと身を貫かれる苦悶のなか、ゆっくりと口を開いた。
「終幕」
刹那、影が影を生み、漆黒の球体となりリオの身体を闇に閉じ込める。
「逃げろっ!!」
デボラが叫ぶと、その黒球は周辺の土や石、大気から光までありとあらゆる物質を飲み込み、一つの小さなブラックホールとなり、無限と思えるほどの質量の圧縮により生じる重力により、中心に捕えたリオを押し潰す。
「くそがっ!!こんな訳のわからねえ場所で死ぬのかよ!!」
大地に斧を突き立て襲いくる引力に耐えるデボラの肉体が、地面ごと黒球へと引き寄せられていく。
遂には叫び声すらも飲み込まれ、固く閉ざされた口からは血が噴き出した。
「口寄せ『お下劣筋肉達磨女』」
まさに黒球に押し潰されようとした瞬間、視界すら飲み込まれていたデボラの瞳に光が差し込む。
「ふうっ、間に合ったようですね。出会ってから間もないので口寄せが成功するか不安でしたが、人間性に対する深い洞察と正確な理解のおかげで命を救うことが出来ました。あと人って口寄せ出来るんですね。無謀なチャレンジの重要性を学べました。とりあえず感謝と金銭をお願いします」
「………ちっ、色々とツッコミてえ所はあるが、ありがとよ。今度しこたま飲ませてやるから、それで勘弁しろ」
「上司との差し飲みの次は、取引先との接待ですか。厳しい予定が続きますが、社畜としては断れないのが辛いところです。デザートが美味しい店でお願いします」
「優男は生きてっか?」
「なんとかね〜。だけど、これどうなってんの??」
ライノスは溜息をつきながら視線を黒球があった場所へと向ける。
そこには神が戯れに土を掬い上げたかの如く、ポッカリと丸く削り取られた大地の姿があった。
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