第36話 影の世界
「――わぁあああああああああああーーっ!!」
わたしは影の中に落下していた。
真っ暗闇の中、スカイダイビングをしているような状態だ。
すると、ふと真下に地面らしき平地がうっすらと見えた。
(ヤバイ! このままだと地面に叩きつけられて死ぬ!!)
くっ、考えてる暇はない!
わたしはサングラスを投げ捨て、魔眼を露出。
一か八か!
左目を閉じ、右目を『緑色』に変える。
「魔眼チェンジ! からの、全力の風魔法ーーっ!!」
今のわたしは命の危機に瀕して、激情に呑まれている状態。
必然、『魔眼の暴発』も凄まじい。
わたしの緑色の瞳が煌めき、真下に向けて猛烈な強風が出現。
それによって形成された風圧がふわりとわたしの体を下から押し上げる。
「お、これならいけそう!」
わたしは風魔法を暴発させながら、地面に近づくにつれ徐々に減速。
風圧がクッションとなり、何とか落下速度を相殺することができた。
そして、地面に転がるように着地する。
「わだぁ! な、なにこのぶよぶよした地面は!?」
だけど意外にも、地面は柔らかくわたしの体がバウンドした。
これなら、そのまま落ちていても大丈夫だったかな?
「ふぅ、ひとまず助かったけど……ここからどうするか」
わたしは上を見上げた。
でも、相変わらず暗い空が広がっているだけだ。
周囲も真っ暗だけど、何とかかすかな光があるおかげでギリギリ視界が保たれている状態だ。
「ここが、ボルザルドの深淵魔法の世界……どうやって脱出すればいいんだ……!」
恐る恐る歩きながら周囲を探索していると、不意に何かの影が動いた。
「なにっ!?」
体を硬直させてその場に止まる。
動いた影の先を凝視すると、ノッシノッシとデカイ図体の化け物がわらわらと現れた。
『エモノ、キタ』
『コレハ、オデガ、ヤル』
『イイヤ、オデノ、モンダ』
真っ暗な世界から現れたのは、同じく全身が真っ黒の化物。
見た目はカエルに似ているけど、ゾウと同じくらいの大きさがある。
「な、なに、コイツら……!?」
わたしはすかさず『鑑定』を発動させる。
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【深淵魔物】:『深淵魔法』により生み出された疑似生命体。主人の命令に忠実に動くが、知能は低い。
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わたしは鑑定文を見て、息を呑む。
「深淵魔物……!? こいつら、深淵魔法で生み出された魔物なのか!?」
すると、いつの間にかわたしを取り囲むように集まっていた数体の巨大な怪物カエルが、井戸端会議をしていた。
『デモ、ゴシュジンサマ、ランボウスルナ、イッテタ』
『ガンキュウ、キズツケチャ、ダメ』
『ソウダッタ』
『タシカニ』
『ヤサシク、コロス』
これはかなりのピンチだ……。
今はモッフィがいないから、本当に一人っきりの勝負になる。
背筋に冷たい汗が流れるけど……わたしは以前の洞窟で、マンドラゴラの絶叫によって魔物の集団に襲われた時のことを思い出した。
「そうだ……。あの時も、わたしが多くの魔物をやっつけたんだ。モッフィが、戦闘経験を積んでおくのも大事だって言ってくれて」
モッフィがいる時は守ってもらえるけど、いつでもモッフィが傍にいてくれるとは限らない。
わたしは覚悟を決めて、深淵魔物たちに立ち向かう!
「モッフィなしでも、絶対にここから生き伸びてやる! 魔眼チェーンジ!」
一番攻撃力と制圧力が高そうな魔眼へ。
わたしは、左目を『赤色』に、右目を『黄色』に切り替えた。
「ダラダラと喋って隙だらけだからね! 先手必勝ってことで、わたしの攻撃で蹴散らしてやる! 食らえ、炎魔法と雷魔法のミックス暴発だーーっ!!」
ギュルルルル、とわたしの両目に高濃度の魔力が密集し、瞳がギラギラと輝く。
刹那、迅雷が深淵魔物の一群を貫き、即座に大爆発が発生する。
『『『ギャァアアアアアアアアアアアッ!!』』』
雷に蹂躙され、爆発に巻き込まれたカエルたちは、爆風に呑まれて散り散りに飛んでいった。
そして、ドガガァン!! と一斉に闇の空間に激突していく。
ぐで~、とカエルのお腹を見せて倒れていく深淵魔物たちを見て、わたしは目を見開いた。
「今、あの深淵魔物たち、壁みたいな場所に一斉に激突した……? ハッ、もしやこの影の世界は壁で囲われた狭い空間なんじゃ!?」
さらにカエルが激突した見えない壁のような部分を見ると、かすかにヒビのような亀裂が入っていた。
まさか、あの壁も破壊できる――!?
『ナ、ナンノ、オトダ!?』
『ミロ! ナカマガ、ヤラレテルゾ!』
『ナンダト!?』
『ドウイウコトダ!?』
仲間の黒い化物カエルたちが、どこからともなくわらわらと湧き出てきた。
そして、新手のカエルたちの意識は、ターゲットである幼女に向けられる。
『アイツガ、ヤッタノカ!?』
『ガキノクセニ、ドウヤッテ!?』
『ナンデモイイ! コロスゾ!』
『デモ、ガンキュウ、キズツケチャ、ダメ!』
ドドドドド、とわたしに殺到してくる巨大カエルたち。
わたしは鋭く視線を切り、その瞳の動きに連動して雷魔法が空間を切り裂く。
その直後、カエルたちの中心で炎魔法の大爆発が轟き、大地がゴゴォン……! と揺れた。
爆風に呑まれたカエルたちはやはり壁に激突し、見えない防壁に亀裂を刻む。
「やっぱり、そうなんだね!」
――活路が見えた!
「わたしの魔法で深淵魔物たちを倒し、この影の世界を構築してる壁を破壊すれば、きっとここから脱出できるはずだ!!」
わたしは壁に向けて駆け出し、魔眼を煌めかせた。
そしてヒビが入った透明な壁に、雷魔法と炎魔法を撃ち込む。
激しい轟音と地響きに震撼すると、さらに大きなヒビが刻まれていた。
そして、そのヒビの奥から光のようなものが小さく射し込んでいるのが見える。
影の世界が少しずつ崩れていく感覚があった。
「やっぱりそうか! この壁を破壊したら、ここから抜け出せるんだね!」
すると、後ろの方からカエルたちが現れてこちらにやって来ていた。
わたしはニヤッと笑い、疼くように煌々と輝く美しい『魔眼』を煌めかせながら。
大魔法をドカドカとカエルたちに撃ち込んで、ついでに壁の破壊を進めていくのだった。




