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ノイズ2100  作者: べりゆる
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感情の残滓(デブリス)


カイの死から数週間。ルカの日常は、完璧な最適化へと戻ったはずだった。しかし、彼の制服のポケットにある古びた詩集は、グリッドの監視を逃れたブラックホールのように、微かな、しかし確実な「重力」を持ち続けていた。


ルカは、都市の最下層にある廃棄区画「ロスト・データ・センター」の調査を命じられる。そこは、効率化の過程で切り捨てられた旧時代の物理資料が、深い塵に埋もれている場所だった。


薄暗い保管庫の中で、ルカは奇妙な光景を目にする。

瓦礫の山の上に、一人の幼い少女が座り、鼻歌を歌っていたのだ。この管理都市において、グリッドに接続されていない子供が存在すること自体が、あり得ないエラーだった。


少女の名は、セピア。


彼女はルカを見つけると、怯えるどころか、無邪気な笑顔で駆け寄ってきた。


「こんにちは、お兄ちゃん。セピアの『お友達』になってくれる?」


ルカにとって、「お友達」とは、互いのリソースを補完し合う互助関係を指す古代語だ。しかし、この少女には提供できるリソースなど何もない。


「お友達? 私と貴女の間に、どのようなシナジー(相乗効果)を期待しているのですか?」


ルカの問いに、セピアは首を傾げた。「シナジー? うーん、わかんない! でもね、お友達は、一緒にいると、ここが『ポカポカ』する人のことだよ」


セピアは、自分の胸をトントンと叩いた。


ルカは、その仕草に、死んだ櫂の言葉を重ねた。心臓のノイズ。グリッドが決して許容しない、非効率なエネルギー代謝。


ルカは、セピアを都市管理当局へ報告義務があった。

しかし、彼のバイオフィードバック装置は、なぜか作動しなかった。ポケットの詩集が、微かに熱を帯びたような気がした。


「……調査の間だけです。貴女を、ここに留めておきます」


それが、ルカにとって人生で初めての、グリッドの命令に対する「非効率な嘘」だった。




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