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地獄からの巫女 26-1 挿絵あり

挿絵(By みてみん)

「あわわ。まともに当たっちゃった」

 菊之助だが腰を抜かして涙目でへたり込んだ。

 腹を手持ち大筒で撃ち抜かれた塙直政だが仰向けに倒れ大量の血を流したままぴくりともしなかった。

「この人、本願寺にお布施に来た人だよ。織田の大将だったんだ」

 お菊は思い出したように言った。

「う。気持ち悪い。何?すごく嫌な感じだ。この人の念?」

 そしてお菊は戻しそうになったのを必死に口を抑えた。

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。極楽浄土に無事に行ってや。持念仏様、ウチらを守ってくれてありがとや」

 おいちはいつも懐に忍ばせてる持念仏を取り出し塙直政の遺骸の前に置いて塙直政に念仏を唱えた。

「門徒衆同士で殺し合ってさ。あたし、何してるのさ?」

 お菊は呟いた。

「大丈夫かいな!残りも何とか倒したわ!いや、参ったわ」

 お凛の堺衆も塙直政の配下を倒して駆け寄って来た。

「発中、但中!怪我は大丈夫かいな?」

 2人は肩や太ももを血に染めながら

「なんとか!」

「生きてます!痛たた」

 顔をしかめながら笑顔で返した。

「堺衆も随分やられたわ」

「こっちもや。まずいわ」

 堺衆も雑賀衆も予想以上の戦死者や負傷者を出したのである。


「天王寺砦の包囲はウチらの部隊は遠慮させてもらうしかないわ」

 おいちが言うとお凛もうなずいた。

「お菊もあれじゃ体力を回復させないと戦えんしな」

 お凛は気分悪そうにうずくまるお菊を見ながら言った。


「えいえいおー!」

 塙直政の本陣を落とした石山本願寺の本隊は嬉しそうに雄叫びを上げていた。

「なんかちっとも嬉しくないのは気のせいかいな」

 おいちが呟くと

「アンタの本音やろうな。よう分かるわ」

 お凛は無表情に言うと怪我人だらけの堺衆の陣に戻って行った。


「壊滅した?」

 天王寺砦の留守役の明智光秀だが何とか落ち延びて来た佐久間信盛、信栄親子、三好康長、ろくたちからの知らせを聞いて驚愕していた。

「塙直政殿は?」

「我々のため、殿(しんがり)を務めてここに戻って来ていない次第でして。くくく!」

 老齢の三好康長が泣きながら光秀に詫びたのである。

「(塙直政の隊の)本陣の旗印は既に倒れており本願寺の兵がこちらに展開しているようです!包囲する段取りかと!」

 溝尾茂朝が緊張気味に言うと

「この壁板もぺらぺらの 安い城 じゃあ3日と持たないね。援軍を信長公に頼もう。あと、京都所司代の村井(貞勝)殿と島田(秀満)殿にはこれも」

 光秀だがさっさと信長宛てと京都所司代宛ての書状を2枚作ると間者だが包囲される直前の隙を縫って京に向かって去って行ったのである。

 

 間者を見送ると

「家老様(佐久間信盛)を守るために君の御父上(塙直政)は名誉の戦死をされた。君が塙家を継ぐのです。しっかり」

 光秀は父の戦死を聞き涙を流す塙直政の嫡男の安友を笑顔で慰めた。


「しかしこれはちょっとまずいですな」

 藤田伝五が苦い顔で言うと

「敵は1万以上はいるな。こちらは2千もいない。こんな壁がぺらぺらの安造りの城では(鉄砲が貫通するので)気休めにもならない。向こうには面倒な雑賀衆も居るのだろ?普通に守ったら殺られる。策を練らねばね」

「少し高台で周りは湿地が多いので敵も動き難いので狙撃に徹すれば多少は有利ですかね?」

「それとも今すぐここを出て敵の包囲網を強行突破しますか?」

 溝尾茂朝と藤田伝五が聞くと光秀はにこりと笑い

「家老様はお疲れだろ?無理だね。それに追撃され下手して若江城まで巻き込みたくない。僕は下天が静まるのを見るまで死にたくもないからね。実はもう策を練ったよ」

 光秀はにやりと笑った。

「ふ、危機は好機ですかな?」

 藤田伝五と溝尾茂朝も少しにやりと笑うと光秀は数秒間黙った後、

「根来衆のろくを呼べ」

 荒深小五郎に命じたのである。


「根来衆の分裂で我が軍はこの様(ざま)だ。5千の兵を失ったなど信長公には弁解の余地がない。下手したら今回の敗因を作った貴殿の首をよこせと信長公に言われかねない」

 光秀はろくに爽やかに伝えた。

「くっ!予想外の邪魔が入ったからだよ!」

 ろくは不満そうに言った。

(お菊たちか)

 光秀も察した。ろくの言い分もその通りであったので

「分かった。貴殿の言う事も一理あるね。ここは僕のせめてもの情けさ。すぐにここを出て行って欲しい。包囲が終わってないので逃げられるだろう?」

 光秀は笑顔でとんでも無い事を言ったのである。

 確かに本願寺の包囲はまだ終わっていないが見つかれば裏切者で真っ先に討たれてしまう。

(この腹黒の若造が!)

 怒りでろくは飛び掛かって光秀を叩き斬ってこの城を本願寺に渡そうとも一瞬よぎったが光秀が凄腕でお菊をも苦戦させた相手と聞いていたので堪えたのである。

「もちろん 手柄 があれば今までの失敗はすべて チャラ にするけどね。君の 仇 は法力を使い過ぎて動けないはずだが?」

 光秀は再度とんでもない事を平然と言った。

 ろくの配下衆はそれでも 無理だ と言いたげな顔をしたが。

「着替えは用意した。自由に使って構わないよ」

 光秀は変装用に着替えをろくたちの前に置くと

「は!心遣いありがたく!その お言葉 に偽りなしで!ご期待を!」

 ろくはそう言うと着替えを受け取ると配下のわずかな根来衆を連れて砦を包囲されていない方面から出て行ったのである。


「あれで良いのですか?お菊は法力を使って弱ってますので少しまずいのでは?」

 藤田伝五が聞くと

「ふ、出来っこないさ」

 光秀は軽く返した。

「これはここを守るための時間稼ぎなんだよ。囮だよ。門徒に知らせろ!鴨(カモネギ) が出て行ったとね!」

 ろくら根来衆が出て行くのを確認すると光秀は冷徹に言った。

「本願寺の 鴨狩り で包囲の時間は気持ち稼げるよ。京都所司代からの偽書も届けば時間は更に稼げる。ふん。まぁ、やって見せるさ」

 光秀はそう言うと奥の陣小屋に下がったのである。


 ろくが天王寺砦を追い出されたと聞いて裏切者の粛清のため本願寺は追討隊を出しろくの行方を追ったのである。

 おいちだが下間頼廉と父親の鈴木重秀の本願寺本隊へ交渉に出掛けて行った。

 お菊だが体力が戻らず誰かが背負ってくれたのは覚えているがそのまま疲労で背中の上で眠りこけたのである。


 その日の夕方、お菊は目を覚ましたのである。

 お菊は小さな寺の本堂と思しき場所で寝かされていた。

「ここは?」

 お菊がか弱い声で聞くと

「気にせず寝ててええで。お腹空いたか?お粥でも食べるか?」

 お凛が横におり笑顔で返した。

「ははっ。お目覚めかい」

「マリアさん?」

 お凛の横には木津川砦のマリアもなぜか居た。

「休んでろって。しばらく戦は起きないぜ」

 しばらくすると小次郎も粥を持って来たのである。

「小次郎?なんであなたが居るのさ?ここはどこなのさ?」

 お菊がか弱い声で聞くと

「四天王寺の坊さ。ほれ」

 お凛がお菊の上半身を起こすと小次郎が粥の入った匙をお菊の口に含んだのである。

「ありがとう。おいちは?」 

「本願寺に行ってる」

 小次郎は粥の入った匙お菊の口に含ませながら言った。

「なんでさ?」

「今後の作戦の話じゃないか?」

「そうなの?」

「そうさ」

「分かった」

 お菊は粥を何口か含んだ後、

「小次郎、凛凛、ありがとう。寝る」

 そう言って再度横になると深い眠りに着いたのである。


 翌日の夕方前にお菊は再度目が覚めた。

 自分で上半身を起こして周りを見ると阿弥陀如来像が鎮座していた。どこかの寺の本堂に居た。幾分か体力は回復した。気のせいと思ったが普段より回復が早く感じた。

「お!起きたかい?小次郎に粥持って来させるよ!」

 マリアが気付いてやって来た。

「すみません。弥生さんは?」

「弥生も本願寺に行ってるよ」

「そうなんだ」

「天王寺砦に居るのが大物(明智光秀)だから慎重になってるのさ」

 マリアは軽く言った。

「明智殿か。確かに危険かな」

 お菊も呟いた。


 小次郎は昨日と同じように粥を持って来た。

「少しは調子良くなったな?」

「そうだね」

 お菊は小次郎に返した。

「自分で食べるよ」

「良いよ。遠慮するな」

「ありがとう」

 お菊は何口か粥を口に含んだもらった後、

「おいちは?お凛もどうしたの?」

「おいちは昨日から本願寺に居る。雑賀衆とお凛ら堺衆は難波砦に戻った」

「怪我人が多いからね」

「そうだな」

「どうやって天王寺砦を落とすのさ?」

「まだ決めてない。迂闊に近付くのは明智殿の隊だからちんけな城であっても危ない」

「そうだね。あ!」

「なんだよ!急に」

 お菊が突然大声を出して小次郎は驚いたが。

「小次郎、胸騒ぎがする!」

「どうしたんだよ?」

「嫌な予感がする」

 お菊は何か得体の知れない嫌な何かを感じたのである。

「寝てろって。疲れてるんだよ。でも人の背中で涎を垂らしながら寝るのはやめろって」

 小次郎がにやりと笑いながら言うと

「余計!背負ってくれたのあなただったんだ。悪かったけど力を使い切ってるから仕方ないじゃん」

 お菊は口を尖らせ少し赤面した。

「心配するな。この坊の北の四天王寺に本願寺の僧兵と志願兵の大隊3千、弥生さんとマリアさんの部隊が入って天王寺砦の東を包囲してる。西は下間頼竜様、南は鈴木義兼様の雑賀衆、北には六地蔵の部隊を各3千毎に展開している。信長公は本願寺と和睦交渉を再度始めるそうだ。京から書状が来た。しばらく戦は無い。安心して寝ろって」

 小次郎はお菊の頭を撫でて寝るように言ったのである。

「分かったけど」

 お菊は横になった。

「なんかあったらそこの呼び鈴を鳴らせば俺の配下でも来るからな」

 小次郎はそう言うと出掛けて行った。

「小次郎には悪いけどおいちや雑賀衆、お凛や堺衆がいないとなんか不安だな」

 お菊は布団の中で呟いた。


「ここに違いないかい?」

「は!間違いないです」

 お菊の居た四天王寺の坊の庚申堂の外には狐目の無造作な乱れ(ぼさぼさ)髪の町女といかつい町男たちが様子を伺っていた。

「ははは。雑魚(ザコ)揃いだね」

 庚申堂を守る護衛の兵を見て狐目の女はにやりと笑った。

「負傷者続出でおいちと雑賀衆、お凛と堺衆は難波砦で休んでるとか」

 配下の坊主頭も返した。

「お菊は動けないのは違いないね?」

「は!小次郎とか言う小僧が粥を本堂に持って行ったと内応者が言ってました。ただ、六花仙のマリアが居るとか」

「弥生は居ないな?」

「本願寺に行ったようです」

「弥生が居ないのは助かったよ。マリアと小僧はあたしが捻りつぶしてやるって」

 狐目の町女は変装したろくであった。変装した配下衆と出入りの野菜屋の振りをして中に入る体制を整えた。

 しかし

「ろく様。やっぱやめましょ。このまま根来に帰りましょ」

「例えお菊を討ったとしても怒ったおいちや雑賀衆は絶対に根来の郷に攻め込んで来て禍根を残しますぜ!」

 ろくの配下たちは今後の根来での振る舞いや雑賀衆との関係を考えてこの作戦に躊躇したのである。

「馬鹿言ってるんじゃないよ!裏切ったあたしもお前らも根来にもう居場所は無いんだよ!ここでお菊の首を(織田の)若江城に持って行けば織田の下で土地持ちになれるんだよ!本願寺の負け戦何ぞに付き合わなくて良いんだよ!どうせ織田の世になるんだよ!織田の世になったら堂々と根来に帰れば良いんだよ!お前ら本当に付いてるのかい?根性無しだね!」

 ろくが怒ると配下衆は渋々従ったのである。


 ろくたちは太刀を野菜の荷駄に潜ませて庚申堂に向かったのである。



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