屍を越えてゆけ 25-7
「オイオイ!裏切者ってのはこうなるんだぜ?」
佐久間信盛、信栄親子、三好康長、ろくたちの天王寺砦への後退のために三津寺砦で殿になった佐久間玄蕃、こと、猿と配下の河童、八戒は裏切った根来衆に襲い掛かったのである。
根来衆だけでなく雑賀衆もだが猿の言う通り、鉄砲の技量は高いが太刀打ちなど接近戦は苦手だったのである。
根来衆も鉄砲で反撃したが特に猿、河童、八戒だが鉄盾をうまく使って鉄砲の弾を防ぎつつ根来衆の懐に飛び込むと躊躇なく十文字槍を突き刺したのである。
根来衆も防戦したが猿、河童、八戒は佐久間隊の精鋭部隊を自称しているだけあり太刀打ちでは力量差がありあっという間に根来衆は数名を次々と刺し倒されたのである。
「オイオイ!物足りないぜ!もっと楽しませてくれよ!」
猿たちは血にまみれて狂喜していた。
「行くぜ!根来衆を支援する!」
裏口からおいち率いる雑賀衆の前衛が鉄盾と槍を持ち、鉄砲の支援を受けながら猿たちに突っ込んだが
「うは?なんだ?そのへっぴり腰はよ?」
「修行が足りんブヒ!」
河童と八戒らが対応したが雑賀衆の前衛若衆は鉄盾を持って突っ込んだものの揉み合った末、前衛5人は全員倒されたのである。
その隙に逃げ出した根来衆と河内衆と合流するも雰囲気で雑賀衆は押されていた。
「いかん!後退!体制を直せ!盾を展開!」
「無理に前に出るな!3人掛かり体勢!鉄砲!後ろに構えろ!」
太刀打ちが得意な七ッ童子の無二と下針が指示を出し、鉄盾を展開し動揺する味方を落ち着けようとしたのである。
間もなくお菊、おいち、お凛らも合流したが進めない味方を見ておいちも悟ったのである。
「気を付けて!手強い!」
「う!やるやんけ!どうする?」
無二の報告においちも動揺していた。
「お嬢ちゃんたち!先に極楽浄土に行ってな!あばよ」
ろくたちだが猿たちがうまく雑賀衆を抑えたのを見て、佐久間信盛、信栄、三好康長と三津寺砦を脱出して行ったのである。
「こらぁ!逃げるな!裏切り者!」
おいちがろくに怒鳴ったが
「はん?俺らを突破出来たら追い掛けても良いぜ?」
「勢いだけブヒ!」
河童と八戒はにやにやしながら返した。
「あれぇ?前に高屋城で見た女の子たちだ!うわぁ!」
猿が嬉しそうに言うと
「残念だな!さっきの女みたいに散々かわいがってやろうと思ったのにな!」
「この世の極楽浄土を楽しめずホントの極楽浄土に送る事になるなんて勿体無いブヒ!」
河童と八戒も続いた。
「どけや!下衆!獣!」
おいちが吠えたが
「はん。ここは戦場だぜ?女をかわいがるのは男の流儀だぜ?この世の楽しみだろうが?」
「お前らおいしそうブヒ!ブヒヒ!」
河童と八戒がにやけると配下の男たちの不気味に笑った。
「懐に突っ込まれたら盾の隙から鉄砲であいつらの頭をぶっ飛ばしてやれや!」
おいちがイラつき小声で蛍と鶴首に言うと
「は!でも……」
「ち、ちょっと、難しいかも」
猿たちの気迫に押されてるのか蛍と鶴首も弱気な返しをした。
「堺衆!向かって来たらアンタら異国人衆で奴らを力で抑えてあの忌々しい顔に鉄砲ぶち込んだれや!」
お凛もイラつきながら配下の堺衆の異国人数名に命を出した。黒人の男たちで背丈と腕力は間違いなく猿たちを上回っていた。あとは技量不足を気合で上回れるかである。
ただおいちも兵力以上に技量差で劣ると感じたようで突撃の命を出すのをためらい、時間ばかり経過していた。
「ねぇ?いつまで俺たちを待たせるの?つまんないな」
猿が挑発するように言った。
「確実にアンタらを地獄に送る方法を考えてるねん!」
おいちが返したが。
「お前らのお目当て、逃げちゃうぜ?」
「もう充分時間は稼いだブヒ!」
河童と八戒もにやけながら続いた。
「3人掛かりで突っ込ませます?」
「犠牲は増やせんわ!逃げたのは爺や(岡吉正)よ叔父上(鈴木義兼)に任すわ。この下衆猿をなんとかせにゃあかんわ!」
小声でおいちは無二に返した。
「怖がっていないでさ。こっちにおいでよ。遊ぼうよ!すぐに殺してあげるよ!」
猿が言うと彼の配下衆から笑いが起きたが
「殺しを遊びにするな!」
お菊が猿に怒りながら返すと
「はぁ?君たちの大好きな教祖さまだって言ってんじゃん。進むは極楽。退くは地獄ってさ。同じじゃん。あはは!」
猿は相変わらず軽く返すと再度彼の配下衆から笑いが起こった。
「顕如様に対して無礼者が!」
無二が怒りの形相で返したが
「う!コイツぅ!」
お菊だが一瞬、きつい返答に躊躇したが。
「ちょうど良いね。君たちも3人。俺たちも3人。時間があればたっぷり 楽しめた のになぁ~。あ~あ!今日は時間が無いんだよね。あの女の子みたいに たっぷりかわいがって あげたかったなぁ!涙を流して喜んであの世じゃなくて君らの言う極楽浄土とかに行ったと思うよ!君たちもおいしそうだもんな!もう我慢できないよぉ!」
猿が自分の股間を抑える下品な冗談をすると猿の配下衆から余裕とも感じる笑いが起きたが。
「コイツらぁ!」
お菊は怒りが溜まり始め
「キモイわ!なんやねん!」
「下衆野郎め!」
おいちと無二も引き気味に言ったが。
しかし
「コラ!お前ら自分でそのお粗末な マス 隠れて掻いとれや!臭いんや!ウチらに触れんのも勿体ないわ!」
お凛が強烈な啖呵を切ったのである。
お凛からの予想外の強烈な一言に今度は猿の配下衆、だけでなくおいちやお菊らも全員、唖然としていたが
「てめぇ!」
河童だが鬼のような形相になると
「調子に乗るな!死ねやぁ!」
突如、お凛に猛然と突っ込んだのである。体の大きさからは考えられない速さで河童は瞬時にお凛に突っ込み十文字槍で刺そうとしたが
「!つっ!」
お凛は素早く避けて薙刀を振り下ろしたが河童も
「見え見えなんだよ!」
素早く避け再度、十文字槍を突き刺そうしたのである。
お凛は薙刀の柄で防いだが柄は折れて十文字槍はお凛の右わき腹の胴丸を削って通り過ぎたのである。
「へへ!運が良いな!」
河童だがそのまま十文字槍を真横に振ってお凛の腹を掻き斬ろうと思ったが
「ぐ!」
誰かが河童の両肩を突如、背後から抑え込んだのである。
「お凛サマ!イジメるな!」
振り返ると堺衆の黒人の大男がいつの間にか河童の背後に回り込み力技で抑え込んだのである。
「クソ!やべぇ!」
河童は動けずにうなったが次の瞬間
「まえこの仇や!地獄に落ちろぉ!」
お凛は背中に背負っていた鉄砲の銃身を握ってそのまま河童の頭に渾身の力で振り下ろしたのである。
鉄炮の台株が河童の頭を直撃し、骨が折れたのか砕けたのか分からないが鈍い嫌な音がすると河童は泡を吹き白目を向いて膝から崩れたのである。
「河童の皿を割ってやったで!こいつら全員しばいたれ!」
お凛が叫ぶと堺衆は猿たちに突っ込んだのである。
「生意気ぃ!」
河童を倒された猿は激高すると大将格のおいち目掛けて突っ込んだ。おいちの護衛2人が負傷したがおいちは逃げ切り
「あなたが地獄に行けってさ!」
おいちに代わりお菊が猿の相手をしたのである。
「へぇ!お菊ちゃん!君、噂通りだね!すごいね!」
猿はお菊の一撃をかわすと反撃したがお菊も素早く跳ねて避けたのである。
「楽しいよ!久々だね!こんな相手は!」
猿はお菊に何度か十文字槍を連続突きしたがお菊はこれをも薙刀で器用に避けたのである。
「まぁ、おいちを殺して次は君かな?お凛はあの出来の悪い異国人の奴隷をどかしてからかな?」
猿がにやりと返すと
「出来の悪いのはあなたたちだってさ!え?おいち?」
お菊はおいちが逃げた方を見るといつの間にか八戒がおいちを狙っていたのである。
「もらった!ブヒ!」
八戒だが配下衆とおいちを狙って突っ込んだのである。
ただおいちも冷静に対応した。
自らも鉄砲を持つと配下の若衆と隊列を組み盾も持たずに突っ込んで来た八戒たちに的を定めたのである。
「狙えや!蜂の巣や!斉射!」
おいちが叫ぶと一斉射撃を掛けたのである。
しかし八戒たちは煙幕から姿を現すとそのままおいちの部隊に襲い掛かったのである。
「!嘘やろ!当たったはずや!」
「死ねぇ!ブヒィ!」
八戒だがおいちに近寄ると斧を振り下ろしたのである。おいちだが慌てて鉄砲の銃身で斧を防いでいた。おいちの配下衆も八戒の配下衆の槍を慌てて鉄砲で防いでいたがおいちの援護に遅れたのである。
おいちだが八戒の斧を何度か鉄砲の銃身で受け止めたが力負けして体制を崩したのである。
それでも
「近寄るなぁ!」
おいちは一瞬の隙を見て八戒の兜を鉄砲で殴り付けたが八戒はビクともせず逆に鉄炮を叩き落とすと
「もらった!ブヒィ!」
再度、斧をおいちに振り下ろしたのである。
「うわぁ!」
おいちは間一髪太刀を抜いて防いだが完全に力負けしていた。そのまま小屋の壁に押し付けられたのである。
「生意気ぃブヒ!ろくに扱えないのに高級な太刀でブヒィ!ブヒィ!」
安物の太刀なら折れてそのまま押し切られていたがおいちの名刀は刃軋みしながらも粘ったのである。
「うわあ!おいち様!」
雑賀衆の悲鳴でお菊はおいちの救援に慌てて向おうとしたが
「待てよ!お菊ちゃんの相手は俺だよ?おいちが押し切られて真っ二つになるのを拝んでなって!」
猿と配下衆が薄ら笑いしたがお菊は 切れた のである。
「ざけんなぁ!」
お菊は絶叫すると一瞬、猿との間を取った隙に背後の猿の配下を薙刀の柄で振り返り様に首をへし折り、驚いたもう一人の腹に薙刀を突き刺したのである。
「君!マジで楽しいぜ!死ね!」
猿は激高して再度、お菊の腹に十文字槍を突き刺そうとしたがお菊は瞬時に驚く高さに飛び上がると薙刀を猿に振り下ろしたのである。
猿は慌てて避けたが
「うぎゃああ!」
間に合わず槍を持った腕の肘から下を斬り落とされ獣のような悲鳴を上げ、倒れたのである。
猿の救援に入った別の男も
「畜生、バケモノ……」
言い終わる前にお菊に首を刎ねられ倒れていた。
「おいち!待ってて!」
おいちの救援に向かったお菊にそれでも別の猿の配下衆が突っ込んで来たが
「うわあ!お菊さんの邪魔すんなぁ!」
盾を持った菊之助が男たちに体当たりして防いだのである。
「菊坊!ありがとう!」
お菊はそのまま八戒に突っ込み背中から薙刀を突き刺したのである。
しかし
「貫通しない?」
甲冑の繋ぎ目から薙刀をねじ込んだが ガリっ と金属に当たる音がして貫通しなかったのである。
「ならば!」
お菊は脇差を抜いて八戒の首を取ろうと無理に背後に近付いたが
「生意気ぃ!ブヒィ!」
逆上した八戒はお菊の腹に肘鉄を思いっきり食わせたのである。
「ぐはぁ!」
お菊だがそのまま3メートル吹っ飛び壁に叩き付けられたのである。甲冑を着ていたのでそれほど痛みはなかったが危うく気を失いそうになった。
「痛あぃ。うわぁ!」
しかも八戒はすごい勢いでお菊に飛び掛かりそのまま斧を振り下ろしたのである。
慌てていたのでお菊は薙刀の刃で受け止められず柄で受けてしまったのである。
「ヤバい!折れる!持たない!」
さすがのお菊も観念したが島やんが柄に埋め込んでくれたあの細い金属線が紙一重で防いでいた。
「二重甲冑と気付かずにブヒ!死ねやブヒ!生意気なガキィ!ブヒィ!
怒髪天の八戒は渾身の力を込めると細い金属線は悲鳴を上げていた。
「下がれ!うわぁ!下がれってさ!」
お菊は八戒の腹を涙目で必死に足蹴をしたが巨漢の八戒はびくともしなかった。
八戒から解放されたおいちは起き上がると口の中を切ったのでぺっと血を吐き出した後、近くに転がっていた手持ち大筒を担ぐとお菊の救援にふらふらと鬼の形相で走りながら向かったのである。
おいちは八戒の背後に回り込むと兜の錣に銃口を突っ込み
「お前が死ねやぁ!」
叫びながら引き金を引いたのである。
大音響と共に八戒の頭は砕けて兜だけ飛んで行った。




