女心と秋の空 24-6
「わ!ホンマにお菊、おいち、お凛や!小次郎もや!」
まえこも下間頼廉に続いて驚きながらやって来た。
「よくぞ無事で!」
まえこに続いて清澄と悠然も驚きながら来た。
「雑賀の郷に帰りたかったねん!」
「堺に帰るための気合が違うねん!」
おいちとお凛が飄々と返したが。
「あたしは早くお風呂に入りたい!この臭う着物はもういい!」
お菊が真顔で言うとみんな笑いが起きた。
「でもすごい!これ、本当に臭いから奴隷に見えるわ!」
まえこも再度驚きながら返したが。
「忠兵衛様!ありがとうございました!助かりました!」
お菊、おいち、お凛、小次郎、七ッ童子、雑賀衆、堺衆、越前衆は改めて石山本願寺まで連れて来てくれた忠兵衛に礼を言ったのである。
「ははは。私も依頼を全う出来て安堵しているよ。今回の依頼主の越後の阿虎様や船長にも報告しておくよ」
忠兵衛も山も安堵しながら返した
「阿虎様ありがとう!いやあ、阿虎様、かっこいいな!」
お菊は素直に言うと
「ウチも負けてはおれん!強く美しくやな!」
「堺の女豪商で一旗咲かせたいわ!」
おいちもお凛も続いた。
「よし!じゃあみんなお風呂で汗を流そう!」
「女子が先やで!」
お菊、おいち、お凛、小雀、蛍、鶴首、越前の女子、まえこも本願寺の大風呂に入ったのである。
「いやあ!生き返った!」
お菊が湯船で喜ぶと
「ほんまやな。さてと、ウチらも明後日には雑賀の郷に帰るわ」
「ウチも堺に戻る」
おいちとお凛も続いた。
「越前の女子と男子どうするのさ?」
「下間頼廉様の部隊に組み込むそうやで。なんか(信長配下の)佐久間(信盛)隊が若江城に来たから大規模な迎撃部隊を編成するらしいで」
まえこが説明した。
「大阪に戻ってもすぐにドンパチかいな」
「やれやれやな」
おいちとお凛が溜息をついた。
「あ、弥生さんやマリアさん、おふうさん、心眼殿は大丈夫かな?」
「越後に逃げたって噂はあるけど分からないんや」
まえこは暗い顔でお菊に返した。
「そうか。無事だと良いけど」
お菊は寂し気に返した。
「婆や!ただいま!」
「お菊さん!お帰りなさい!無事でよかった!」
桜花院に帰ったお菊を婆やは抱きしめたのである。
「小次郎もお風呂上がったら帰って来るよ」
お菊は軽く言ったが
「今回も激戦だったと聞いたので。阿弥陀如来様の御加護があったのでしょう」
「そうだね。運が良かったよ。越後の阿虎様の船が来てくれなかったら終わってたよ」
お菊は本音を言った。
「本願寺は越後の上杉と組むようですよ。だから加賀は上杉に渡すようです。大丈夫かしらね」
「大丈夫だよ。阿虎様なら阿弥陀如来様を信じる者同士で何とかしてくれるよ。戦うだけじゃなく謀も女子力も大事って阿虎様に教わったよ」
お菊が笑顔で返すと婆やはよく分らず不思議そうな顔をしたが。
その日の晩、小次郎も桜花院に帰って来るとお菊と小次郎は婆やの振るってくれた手作りの夕食を3人で楽しんだ。しかしお菊だが婆やとの話は盛り上がったがなんか小次郎とは盛り上がらなかった。
お菊だが根拠は無かったが越前に居た頃より小次郎が変わったように感じていたのである。
翌日だが久々に本願寺の道場でお菊はおいち、お凛、まえこらと組み合ったあと、午後は巫女の仕事をしたのである。
越前での一向宗の敗北の知らせが大阪に届いていたのでお菊らの予想通りだが布施に来てくれる人は少なかったが。
しかし以外な人物がやって来たのである。
「お嬢ちゃんたち、さすがだね。越前から生きて逃げ帰って来たとはね。巨椋池には迎えに行けなくてすまなかったよ。(下間)頼廉様からも注意されたけどこちらも訳有りで部隊の集まりが悪くてね」
六花仙の根来衆のろくだった。
「いちいち嫌な奴やな」
「逆に来てくれなくてよかったわ」
おいちとお凛が小声でぶつくさ言ったが。
「本願寺が死守している楼が岸砦から木津砦の木津川沿いの防衛線の南端に織田の佐久間信盛が天王寺の脇に本願寺を牽制するための砦を作ってるらしい。それを牽制するために頼廉様に根来衆に木津砦に入って欲しいと言われたけどこちらは色々あって兵が足りない。あんた(まえこ)の大和衆と弥吉の和泉衆で何とかしておくれよ」
ろくが言うとまえこも荷が重いと思ったのか
「あなたが直接に頼廉様に言ってや。木津砦を一緒に守る阿形様と吽形様も急に勝手を言うなって怒るで」
まえこがろくに返すと
「大人の事情なんだよ。済まないと思うよ。そうだ、雑賀と堺のお嬢ちゃんの部隊でも代わりに回して欲しいねぇ」
ろくが言うとおいちは少し考えた後、即答した。
「分かったわ。紀伊の国人同士やから手伝うわ。父上(鈴木重秀)に援軍を頼むわ」
「堺と本願寺の行き来が出来ないと困るからな。(堺の自治組織の)会合衆にも頼むわ」
おいちはろくが同じ紀伊の出同士、お凛も堺と本願寺の陸路の確保を考慮して同意したのである。
「さすが。すまないね。頼廉様には追ってあたしが詫びておくよ」
ろくはそう言うと去って行った。
「根来衆の兵が足りないってどうしたねん?」
お凛がおいちに聞くと
「越前で根来衆に多い真言衆を加賀の門徒が弾圧したから根来衆の主流派が反発して兵を出し渋ってるねん」
おいちが返すと
「なんか本願寺もその辺の仲直りとかの調整が下手やなぁ」
お凛が呆れたが
「大和衆や和泉衆じゃ心持たないから助かったわ」
まえこか安堵すると
「ええねん。どちらにしろ堺と本願寺の陸路が遮断されたら危険やからね」
お凛、おいち、まえこらは今後の策略などを熱く話していたが。
お菊だがなんか冷めた自分に気付き
(みんなすごいね)
と言いそうになったのをお菊は抑えたが。
「ねぇ。なんで本願寺だけど本願寺の南の天王寺に織田が砦を作るのを見逃すのさ」
お菊が不満を言うと
「なんか噂やけど顕如様は信長公とまた和睦するらしいで」
「ええっ?」
お菊は知らなかったのでおいちに変な声で返した。
「信長公の方が戦況が有利なのにうまく行く訳ないじゃん」
お菊が返すと
「なんか策があるらしいわ。時間を稼ぐんやて。だから織田の天王寺の砦の件は黙ってるんやて」
何かを知っていそうにおいちが言ったがお菊はなんか興味が湧かず
「なんだかなぁ」
そう言ってそれ以上聞くのはやめたのである。
数日後、おいちと七ッ童子は雑賀の郷へ、お凛も堺に帰って行ったのである。まえこも阿形、吽形、弥吉らが守る木津砦に戻って行った。
越前衆だが男子も女子も下間頼廉の屋敷に訓練のために送り込まれた。
お菊は広い道場にぽつんと残されたのである。
「おいちとお凛らが帰ってくるまでお堂で巫女でもしてようかな。あたしも木津砦に行こうかな?」
お菊がそう呟いた時、清澄と悠然がやって来たのである。
「(丹後に居る)こずえと平助っていつ帰るんですかね?」
お菊が聞くと
「実は明智光秀公が丹波方面へ進軍を始めたんで丹後に2人とも留まってるんですよ」
「丹波の赤鬼の荻野直正公が明智殿に抵抗してるけど丹波衆も信長公を恐れて赤鬼に付く者、明智殿に付く者と混乱しているようで」
清澄と悠然が暗い顔で言った。
「明智殿が丹波攻め?」
(越前から帰ったばかりなのに信長公の命だろうけど忙しい人だな)
お菊は光秀に余計な感情を持ったが。
「丹波衆へ援軍を出さないのですか?」
お菊の問いに清澄と悠然はしばらく黙ったが
「織田の佐久間信盛の部隊が本願寺の目と鼻の先の若江城に入った以上、本願寺の守りが優先で余裕が無いのです」
「越前でも大事な兵をたくさん失ってしまったし」
お菊は清澄と悠然の本願寺への不満を感じてしまったのである。
「そうですか」
お菊もそれ以上は言わなかったのである。
「顕如様も策は練っていますので少し様子を見ましょう」
「そうだ!頼廉様が越前の兵や新兵の訓練の手伝いにお菊殿に来て欲しいって言ってましたよ。行ったらどうでしょう」
「分かりました」
お菊は頼廉の訓練場に行く事にしたのである。
「てやあ!」
「とお!」
頼廉の訓練場では越前からの男女の若者衆や新たに本願寺にやって来た老若男女問わない志願兵が集まり声を上げ、真剣にたんぽ槍での模擬戦や組み合いの訓練をしていた。
頼廉配下の屈強な僧兵に交じって小次郎も新兵の訓練を指導していた。
「頑張ってるね?小次郎」
お菊は小次郎の背後からにやにやしながら脅かすように声を掛けた。
「わ!お菊!なんだよ?」
小次郎はお菊の突然の訪問に驚いていたが
「おいちも七ッ童子も凛凛も国に帰ったからね。手伝いに来た」
「間に合ってるぜ」
「ま、良いけど。勝手に手伝わせてもらお」
お菊もそう言うとたんぽ槍を持って相手を探した。
「進むは極楽!退くは地獄!」
強靭な僧兵がたんぽ槍の訓練で大声を上げながらあまり強くなさそうな新兵を何人もしごいていた。
「なにさ?あのやり方。太刀打ち苦手なら集団戦の訓練をさせれば良いじゃん」
お菊がちょっと口を尖らせ不平を言うと
「越前衆は期待外れだな。戦に向いていない」
小次郎はばっさり越前兵を酷評したが
「全員戦が得意な訳ないじゃん!戦い方をその人に合わせれば良いじゃん!」
お菊は声を荒げてしまったのである。
「それでも兵は足りないんだ!だから鍛えて前線に送り続けるのが俺の仕事さ!」
小次郎が返すと
「兵の得意技に合わせて配置しなければ無駄死にを増やすだけでしょうが!」
「お前、偉そうになったな?」
「なんですって?あたし、間違ってる?」
小次郎の返しにお菊はさすがにいらっとしたのである。
「まぁいいさ。太刀打ちが出来ない奴は鉄砲でも持たせる。女子は最悪飯炊きでも雑用でもさせるさ」
「あなたさ?前はそんなんじゃなかったよ?どうしたのさ?」
「俺たちは負け込んでるから勝たなきゃいけない。ちょっとイラついてるのさ」
小次郎もお菊に当たるように言った。
お菊は怒りと悲しみが混じり
(この戦いはそもそも無理があるのさ!)
と言おうとしたのとをぐっと抑えて
「まぁ、良いけどさ。たまは賢かったね。良く見てるよ。うん」
とだけ、ふてくされながら言った。
「じゃあお前は織田に捕まって本物の奴隷になるか?いや、お前は捨て身で突っ込んで出来るだけ撫で斬りし極楽浄土に行けってさ!」
小次郎も返す言葉で返したが
「うるさいってさ!お馬鹿!」
お菊はそう言うと小次郎を足払いして押し倒すと怒ってずかずかと訓練場を出て行ったのである。
「あたた。なんだよ、あいつ?」
小次郎だが尻をさすっていたが。
頼廉の配下の僧兵や新兵たちは突然の小次郎とお菊の大喧嘩にぽかんとしてたが。
お菊だがそのまま桜花院に戻ったのである。
小次郎との喧嘩で苛立ち膨れながらぼうっと薙刀を見てたが
「あれ?薙刀が錆びてる?そう言えばあまり整備してなかったな」
薙刀の錆びに気付いたのである。
婆やに聞くと堺に島野屋と言う良い研屋がいると教わったので行く事にしたのである。
堺の外れの鍛冶屋町に婆やの教えてくれた島野屋はあった。
「こんにちは」
お菊はそうっと扉を開けると中では何人もの男が太刀を打っては研いでいた。
「あのう」
お菊が言う前に一番偉そうな無精ひげのもじゃもじゃ頭の30代くらいの男が
「お嬢ちゃんは帰った!帰った!」
お菊の話も聞かずにお菊を追い返そうとしたのである。
「むかぁ!話くらい聞いてよ!」
お菊が男に抗議すると
「薙刀かい?お父ちゃんお母ちゃんに頼まれたんじゃないのか?」
男の傍に居た50代くらいの男がお菊の薙刀を見て肩を持ったが
「あたしのです!」
お菊が返すと一同、一瞬静かになったがその後はどっと大笑いしたのである。
「何がおかしいのさ!」
お菊は怒ったが
「お嬢ちゃんがこんな物騒な物を持ったらあかんで」
中年の男が言うと
「なんか分かんないが俺の店は腕利き専門なんだ!雑兵はお断りだ!」
無精ひげの男が言うと
「何ですって?」
お菊も自分が身分が無いのは認めつつさすがにカチンと来たが。
「お代は、ほれ」
中年の男が研ぎ代の書いた表を指差すと
「ええっ?」
お菊はあまりの高額に怒りがどっかに行き声を裏返してしまったのである。
「こんなにするの?研ぐだけじゃん!」
「研ぐだけじゃない!刃こぼれも直す!太刀は 侍 の命を守る大事なモンだろうが!」
無精ひげが大声を上げると
「ぐ!」
お菊も返せなかったのである。
「そう言う事だ!帰った帰った!」
無精ひげに言われてお菊は返せなかったので渋々店の外に出たのである。
「何さ!仕事馬鹿ばっかさ!小次郎も無精ひげもさ!」
お菊は膨れたがなんかあの男をうらやましくも思ったのである。
しかし
「あたし、信念が足りていないのかな?」
ふと自分を思ったりもしたが。
お菊だが他の研屋も考えたがやはり一番繁忙してるこの島野屋が気になったのである。




