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女心と秋の空 24-4

 が、次の瞬間、乾いた発砲音がすると

「だあ!」

「ぐは!」

 護衛の傭兵は次々と手足や肩を撃たれ崩れたのである。そして味方が崩れると真っ先に逃げ出したのである。

「何だよ!不甲斐ないぜ!マジで予想通りかよ」

 小次郎が護衛たちが呆気なく崩れるのを見ると声を裏返したが

「みなの縄ほどけ!武器を出せ!守りに徹しろ」

 忠兵衛は命を出したのである。みんないっせいに縄をほどき荷駄も開けられ薙刀や槍がお菊、おいち、お凛、小次郎、七ッ童子らに手渡されたのである。

 山賊だが30名弱で能面を顔に被り獣の毛皮を被っていたが山賊にしては毛皮の下の甲冑や乗ってる馬も立派で明らかに山賊ではないのはお菊たちも見抜いたのである。

 鉄砲だが翁の能面を被った男が茂みからひとりで次々と狙撃命中させたのである。隣には弾込めの猿や犬の能面を被った男たちも居た。


「ん?あれは」

「たま!なんで?」

 しばらくすると鬼の横にひょっとこの能面を被った男が現れたまを連れて居たのである。たまの首筋には脇差が当てられ光っていた。たまは怯えていた。

「お菊さんとやら?前に出て来てもらおうかいな?アンタに用があるんや」 

ひょっとこは言うと

「お菊!来たらダメ!あたしはいい!」

 たまは必死に返したのである。

「ふふふ。好きやで。そう言うお友達思いの健気なのはよ」

 ひょっとこは嬉しそうな声で返した。


「行ったら駄目です!」

 忠兵衛もお菊を止めようとしたがお菊は薙刀を構えながら前に進み出たのである。お菊は今日は自慢の長髪を手拭いで束ねてうまく変装していた。男たちはお菊が分からなかったのである。

 お菊が前に出ると茂みに居て護衛を撃った翁がひょっとこと並ぶとお菊に銃口を構えたのである。

「卑怯者!堂々と太刀で戦え!顔を見せろ!」

 お菊だが手拭いをほどき長髪になって吠えると

「卑怯かもしれんがアンタが生きてたら織田の殿様は困るんやな。悪く思わんでな。南無阿弥陀仏」

 ひょっとこが言うと

「そう言う事だ。ただし、我々の手伝いをしてくれるなら厚遇するよ」

 翁も言った。お菊の直観の通り間違いなく聞き覚えのある声だった。

「あなたたちは門徒を殺して女は犯すだけの獣(けだもの)だ!敵だ!」

 お菊が返すと

「戦だからね。仕方が無いのさ。感情だけでは大局は見えないよ。まだ子供だね。仕方ない。ならばさらばだ」

「直撃されても突っ込んで差し違えてやるさ!」

 お菊が叫ぶと翁は鉄砲の引き金を引いたのである。鉄砲の大音響が響いた。

「あたし、死んだか」

 お菊は直撃されたと思って腹を見たが何の異変も無かった。

 翁には不運、お菊には幸運にもこの鉄砲は不発で火を噴いたが弾が出なかったのである。

 お菊は無事だったのを悟るとその隙に猛然と翁に突っ込んだ。たまも唖然とするひょっとこの手を同時に噛んだのである。

「痛ぁ!」

 ひょっとこはたまを手放すと猿が慌ててたまに発砲したが飛び出した副船長がたまを庇ったのである。

「ぐ!」

 右肩を撃たれて副船長はたまを庇ったままのけぞったがたまを取り戻したのである。

「副船長!ありがと!」

 お菊はそう言うと猛然と薙刀で翁に突っ込んだが翁は鉄砲を捨てると冷静に太刀を抜いてお菊の薙刀を防いだのである。

「卑怯者!あなたがそんな事するなんてさ!」 

「そうだね。これは卑怯だったね。この距離で当たらないなんて君はさすが阿弥陀如来様の御加護があるって事にしといたよ。実は空砲なんだけどね。まぁ欲しい物を得るためには味方も欺かないといけないからね。次はこうも行かないけどね」

 翁は軽く返したが。

「あなたはいつも人を馬鹿にしてさ!」

 お菊は翁に薙刀で連続で斬り付けたが翁は難なく太刀でかわしたが。


「みんな!賊を追い払うんや!」

 おいちが命を出すと上杉兵、小次郎や七ッ童子、おいち、お凛らも槍や薙刀で太刀打ちを始めたが重装備な相手だけあって苦戦していた。ただこの山賊たちは丸腰の者や手負いの者への止めや深追い、殺しはなぜかしなかったのであるが。

 

「それにしても丹後にも越後にも行かずまさか敦賀に来るとはね。なかなか裏をかくのが好きなんだね」

「あなたが言うなってさ!」

 お菊が翁に太刀打ちしながら返したが。

「いつまで本願寺の肩を持つのかな?越前で私欲にまみれた坊主たちを嫌ってほど見たのに」

「うるさい!仲間のために戦ってるんだ!」

「君のその信念が仲間を危険に、いや、死に晒してるんだよ?」

「あなたたちが襲って来るからさ!」

「負けるのが分かってるくせに戦うのは僕は理解できないけどね。負けを認めれば全て終わるし楽になるけどな?」

「うるさいったら!ええい!」

 お菊は間を置いて連続突きを仕掛けたが

「ちっ!」

 翁は油断したのか薙刀が上腕に少しかすったのである。

「まったく。それほどの力を持ちながら間違った力の使い方しか知らないとはね。まぁ味方にならないなら極楽浄土に行ってもらうしかないな」

 翁は軽い切り傷を負ったので後退したが

「逃がすか!」

 お菊は翁を深追いしてしまったのである。

「お菊!馬鹿!独りで前に出過ぎだ!」

 小次郎が慌てたがその通りでお菊だが翁を追って前に出過ぎて賊の鉄砲兵に囲まれたのである。

「う!しまった!」

「迂闊だったね?僕の最期の情けだよ?今度は実弾入りだよ。どうする?本願寺の兵として乱世の途中の見知らぬ戦場で果てて終わりにするか?信長公のために戦って生き抜いて泰平の幸せな世を見届けるか?」

「勝手に決めるな!自分の夢を押し付けるな!」

「前も言ったよね?信長公の夢は僕の夢。僕の夢は信長公の夢。美しい泰平の世さ」

「自分の見たい世界は自分で決めるさ!美しくても汚くても!」

 お菊は複雑な顔で翁に返した。


「わ!やめろ!」

「大の男が女子(おなご)に大人気ないわ!」

 お凛とおいちたちがお菊の支援に突っ込もうとしたが前に進めず苦戦してた。

 しかし再度、茂みから鉄砲の音がすると変な雄叫びと同時に男たちがわらわらと出て来たのである。

「む?」

「なんや?」

「なに?」

 翁、ひょっとこ、お菊や賊の鉄砲隊は唖然としたが。


「ひゃっほう!」

「おい!若い女がたくさんだぜ!」

「頂きぃ!」

 いかにも軽装で野蛮な足軽衆がわらわらと出て来たのである。


「いかん!敵の増援だ!数が多い!」

「何人いるんだ?やべえ!」

 忠兵衛と小次郎だが山賊の援軍と思い慌てたが

「なんや?こいつら!こちとら取り込み中やで!」

「まったく。僕らの邪魔をして。お菊!君はつくづく運が良いね。勝負はお預けだ!」

 突然の賊にひょっとこと翁は怒ってたが。

 翁は猿と犬に鉄砲の弾込めをさせると味方の鉄砲隊と奴隷を奪おうと襲い掛かった本物の山賊に発砲したのである。

「一行に近寄らすな!」

「賊は叩き斬って構わぬ!」

 翁とひょっとこが命を出すと

「なんで今度はあたしたちを助けるのさ?」

 お菊が翁に聞くと

「信長公のお膝元で治安を乱されては困るのでね!あと 君 以外は興味は無くてね。僕は欲しい物は何とか手に入れたい主義でね。忠兵衛殿!下がりなされ!」

 翁は山賊を撃ちながら忠兵衛に言うと

「え!十兵衛様で?分かりました!いったん後退!下がれ!」

 忠兵衛も翁の正体を見抜き慌てながらみんなが戦に巻き込まれないよう若い越前衆ら中心に戦場から後退させたのである。

「支援するよ!」

 お菊だが鬼の面や犬の面を被った武者を支援しながら山賊と太刀打ちしたのである。

「雑賀衆!七ッ童子も支援発砲やで!お凛は守りやで!」

 おいちら七ッ童子も後方から援護しお凛ら堺衆は後方の守りに徹したのである。


「こらあ!やめんか!」

 今度は近江方面から正規の織田軍の騎馬や足軽が怒鳴りながら数奇向かって来たのである。

「瓢箪(ひょうたん)印!小谷城の留守役の羽柴秀長隊と思われます!」

 荒深小五郎が言うと 

「よし!後は任せよう!お菊。人生は考える事もたくさんあるのさ」

「あ~くたびれ損やったな。全員撤収や!」

 翁とひょっとこだが部隊を整えると騎馬で猛然と敦賀に戻って行ったのである。


「やべえ!」

「逃げろ!」

 本物の山賊も羽柴隊に気付くと慌てて山中に消えて行ったのである。


「助かったわ~」

「やれやれ」

 おいちと忠兵衛は安堵の声を上げた。


「く!自分の道は自分で決めるさ。でもさ……」

 お菊は猛然と去り行く翁とひょっとこの騎馬隊を見ながら呟いたのである。



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