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女心と秋の空 24-2

 その日の夜、明智光秀だが荒深小五郎と息抜きのために敦賀で評判の料亭に馬で向かっていた。

「信長公が越前の戦の件で満足して何よりだったよ」

「越前の統治は柴田勝家様、敦賀の統治は丹羽長秀様と蜂屋頼隆殿が行うそうです」

 小五郎は光秀に返した。

「敦賀の管轄が温厚な丹羽様とウマが合う蜂屋殿で何よりだよ」

 光秀は不仲な佐久間信盛ではなくて良かったと軽く言ったが

「佐久間殿には大阪の石山本願寺との戦いで主力を張ってもらおうと信長公はお考えと」

 小五郎が小声で言うと

「まぁ家老様(佐久間信盛)のお手並み拝見かな?ところで岡崎山砦を出た船だが若狭(美浜国吉城)の粟屋勝久殿から姿を見かけないし越前三国にも来ていないようで敦賀に逃げたと言ってるが?」

「は!敦賀に入ったのは違い無いでしょう。物見から似た船が港に居ると知らせが来てます。見つけ出して信長公に差し出しましょう」

「いや、上杉の船や屋敷が関わっている手前は(まだ信長と友好関係の上杉家に)手荒な真似は出来ない。僕の所領の西近江を移動中にでも何か理由を付けて捕らえよう。まぁ今日は名物の蟹でものんびり食べよう」

 光秀はそう言うとゆっくり料亭に向かったのである。


 お菊、おいち、お凛、たまは敦賀港のお役人の山田太郎とたけしの馬の後を付いて歩いていた。

「何でウチらがこんな目に合うねん!ぶつぶつ」

「聞いてないよ。もう」

 巻き込まれたお凛とたまは文句を言ってたが

「豚さんや牛さんみたいに文句言わない。大阪に帰るためだよ」

「ま!この調略の天才のおいち様にお任せやで!」

 お菊とおいちが言っても

「大丈夫かいな。ぶ~ぶ~」

「もぅ っつたら」

 お凛とたまは小声で文句を言ってたが。


 一行は15分ほどで料亭に着いたのである。

「なんやねんこれ。遊郭そのまんまやんけ」

「うわぁ」

 お凛とたまは変な声を出したが。

 でも店の中に入り宴会場に通されると今度は全員違う驚きの声を上げたのである。

「うわぁ!豪華!」

「すご!」

 名産の越前蟹や海の幸、海老、刺身、煮魚、酒が大量に用意され芸者が三味線を持ち構えていたのである。

 お菊、おいち、お凛、たまの分もちゃんと用意されていた。

「あら、おいしそうね」

「あたしたちも食べて良いの?」

 お菊とたまが小声で言うと

「さ!お嬢さんたちも食べて食べて!」

「腹が減っては戦はできない!たらふく食いね!」

 山田太郎とたけしが言うと

「ありがとうございます!」

「頂きます!」

「おいしそ!」

 お菊たちはありがたく豪華な食事を頂いたのである。


「山田太郎様!たけし様!今日はありがとうございます!お酒もどうぞ!」

「楽しいです!どんどん飲んでくださいね!」

 おいちとお菊だが山田太郎とたけしにくっついてどんどん酒を注いだ。 

「あは!悪いね!俺たち小役人はこれしか楽しみないからな」

「体も細くて戦下手は地味なこんな仕事しかないからな!」

 山田太郎とたけしは酒をぐびぐび飲みながら返した。

「でも命の危険が無くて良いじゃん?」

 お菊が軽く返すと

「んだな。でもお偉いさんにはアゴで使われて軍資金だ兵糧米だ鉄砲だを急に集めろって無茶を振られてな。はぁあ」

「石高も増えないからこうするしか楽しみが無いんだよな」

 山田太郎とたけしはヤケ気味に飲んでた。

「バレたらまずくないですか?」

 たまが聞くと

「そうしたら袖の下を通すのだよ。殿たちだって見て見ぬ振りさ。面倒が起きたら俺たちに振るんだからさ」

 山田太郎とたけしは不満を言いながら蟹や魚を食べまくり注がれた酒をぐいぐい飲んでた。


「意外とお人良しかな?」

「そやな」

 お菊が小声で言うとおいちも返した。

「でも見た目と違ってお役人も実は大変みたいだね」

「世の中は難しいな」

 たまにお凛も返した。


「よし!踊ろぞ!」

「ほれほれ!」

 山田太郎とたけしだが満腹になったのか立ち上がり芸者が三味線をじゃんじゃん鳴らし始めると芸者と一緒に楽しそうに踊り出した。

「お嬢さんたちも!」

「踊れや踊れや!」

 踊り慣れてないお菊とたまはぽかんとしてたが

「よっしゃ!踊ったるわ!」

「それそれそれ!」

 おいちとお凛が山田太郎とたけし、芸者と踊りまくったのである。


「明智日向守様!今日はようこそいらっしゃいました!」

 その頃、料亭に到着した明智光秀たちを店主が迎えていた。

「ご主人。うまい越前蟹の噂は聞きましたよ。ところで隣が随分賑やかですね?」

 光秀は隣の間の大騒ぎを苦笑いしたが

「申し訳ありません!離れを用意しておりますので!」

 店主は光秀を気遣ったが

「いや、構わない。賑やかな三味線は僕らも楽しいからね」

「まことに結構ですね!」

 光秀も小五郎も苦笑いした。


 山田太郎とたけし、おいち、お凛、芸者たちは楽しそうに踊り狂っていた。お菊とたまは手を合わせて音頭を取ったり時折休憩する山田太郎とたけしに時々酒を注ぐなどしたのである。

「おいちはともかく凛凛が踊り好きとは思わなかった」

 お菊はみんなを見ながら苦笑いしたが

「みんな楽しそうで良かったよ。でもいくら何でもちょっと飲みすぎじゃないかな?大丈夫かな?」

 たまは山田太郎とたけしの飲み過ぎの心配をしていたが。

 

 たまの心配通りだったが30分も踊り狂っていた山田太郎とたけしだが席に戻ってぐったりしてたが最後はそのまま爆睡してしまったのである。

「あらら?大丈夫かいな?」

「無理し過ぎやねん。まぁ楽しかったけどな」

「ウチらは布団の出番が無くて何よりやで!」

 おいちとお凛も呆れたが計略通り山田太郎とたけしの相手をする必要は無くなったのである。


「あらまぁ。いつも通りやねぇ」

 しばらくして料亭のおかみもやって来ると苦笑いしていた。芸者もくすくす笑ってた。

「山田太郎様とたけし様は女の子と遊ぶ前にいつも酒を飲み過ぎて踊りまくるからこうなるんですな」

 入って来た料亭の主人も呆れ果ててた。


「とりあえずご馳走様でした」

「あんがとね」

 そう言うとお菊たちは山田太郎とたけしを布団に入れて置いたのである。

「明日の朝に奥さんに連絡して引き取ってもらいますわ」

「皆さんも気を付けてお帰りなさい」

 料亭の主人とおかみもお菊たちに帰るように言ったのである。

「でも意外とお役人も大変なんやな」

「本当だね。でも意外と良い人だったかな」

 お菊らは爆睡する山田太郎とたけしに礼を言って襖を開けて廊下に出ると見覚えのある人物と鉢合わせしたのである。この男も厠(トイレ)に行くため廊下に出ていたのである。

「え?」

「ん?」

 2人は顔を見合わせると

「お菊!何をしてるか!」

「明智殿こそ何でここに!」

 お菊と光秀は互いに仰天したが

「護衛!捕らえろ!」

 荒深小五郎がお菊たちに気付き慌てて護衛に命を出したが

「嫌だよ!ごめんなさい!」

「どわ!」

 お菊は光秀の両肩を押して突き倒すと

「どけぇい!」

「さいなら!」

 お凛とおいちも足技で光秀の護衛3人を次々と倒すとそのまま料亭を飛び出して闇夜に消えて行ったのである。


「ふぅ、うまく逃げられた。びっくりした」

「なんであの人おったんかいな?」

「越前蟹でも食べにきたんかいな?」

 お菊、おいち、お凛は何とか上杉屋敷に戻ったのである。


 しかし上杉屋敷に戻ると

「ヤバい!たまがおらん!」

 おいちたちはたまが居ないの気付いたのである。


 お菊たちは船長に慌てて事情を説明すると船長の副官の男たちが急いで料亭に向かったのである。しかし30分後、副官たちはとぼとぼと帰って来たのである。


「どうもたま殿は明智殿に捕まってしまったらしいです」

「どうしよ?」

「諦めなさい。いや、明日、もしかしたらここに明智殿が来るかもしれないな」

 船長はお菊たちに緊張気味に言った。

「でも上杉屋敷に手は出さへんと!」

「通行手形もあるやん!」

 おいちとお凛が返すと

「とにかくこの時間じゃ何も出来ない。明日に考えよう」

 船長は明日、日が昇ってから判断すると言ったのである。

 

 翌朝だが上杉屋敷は緊張に包まれていた。しかし屋敷やその周囲は普段通り静かだったのである。

「昼になったら軍を連れてくるかもしれんが」

 船長は緊張気味に言ったが昼になっても夕方近くになっても何も起こらなかったのである。

「あれ?どうなってるのさ?」

 お菊たちも予想外に拍子抜けしたが。

 しばらくして様子を見に船長の副官たちは再度、織田の敦賀城の周辺を探りに出て行った。


 副官たちは夕方遅くに上杉屋敷に戻ると織田信長が越前に向かって出陣した以外は敦賀城に変化が無いと知らせた。信長に同行したのは丹羽長秀や信長の小姓衆だけで明智光秀は出陣しておらず敦賀城に居る可能性が高いとの事だった。

「明智殿の事だ。信長公が居なくなった明日になったら動くかもしれない。再度明日まで様子を見よう。もし何も無ければ君たちだけでも大阪に戻す段取りをする」

 船長はお菊たちに伝えたのである。


 翌々日になっても上杉屋敷の周囲は何の変化が無かった。光秀だがこの日も来なかったのである。



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