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情けは人のためなのさ 23-4

 7月上旬になると七里頼周が自ら配下衆を連れておそらく最前線になる木の芽砦に入ったのである。

 大良砦には七里の配下の若林長門守を入れ岡崎山砦には了観が配下の圓宮寺党を率いて入ったのである。

 ある日だがたまと庄助が木の芽砦群から岡崎山砦にやって来たのである。

「七里殿が兵糧を回してくれってさ」

 庄助が言うと

「こっちもあまり余裕ないんやけどな」

 おいちがぼやいたが30俵程を回したのである。

「心眼殿、弥生さんやマリアさんはそっち?」

 お菊がたまに聞くと

「杉浦(玄任)殿と美濃方面の村岡山砦に居るって」

「久々に弥生さんに会いに行きたいな」

 お菊はたまに返したが

「杉浦殿にばれたらまたうるさいよ。村岡山砦も兵糧不足でピリピリしてるらしいよ」

 庄助はやめた方が良いと返したのである。

 お菊は実は全員での脱出の件を考えていただけであったが。

「七里殿はやる気満々だよ。進むは極楽、退くは地獄っていつも掛け声を上げてるよ」

 庄助が侮蔑するように言った。

「他の門徒衆も七里さん毛嫌いしてるから戦になったら逃げ道も考えないとね」

 たまも小声で続いた。


「全然アカンな。みんな気持ちがばらばらやね」

 たまと庄助が木の芽砦群に米を持って帰った後、お凛は小声で言った。

「長島願証寺の時のような気合が全然感じられんわ」

 おいちも同意した。

「阿虎様が言っていた逃げる方法を考えておこうよ。弥生さんに一度相談したいな」

 お菊も呟いたのである。


7月中旬になると丹波からこずえと平助が船でやって来たのである。

「米を持って来たよ!ちょっとだけど」

「さすがこずえと平助や!」

 おいちは大喜びだった。こずえたちだが米を50俵持って来たのである。ただ志願の兵は20人とこちらもわずかしかいなかったが。

「まずい事になった。若狭衆は信長公に降伏した。敦賀(湊)は門徒衆は使えない。若狭の海が通れないので丹後から船で物資を送るのけど若狭の水軍衆に見つかったら襲われるのでこれが最後になるかもしれない」

 平助が心配そうに言った。

「そっか。なんか信長公にしたら時間が掛かってるなと思うたら足場を固めてたんかいな」

 おいちが呟いた。

「兵も充分に休ませてるから今回の織田軍は危険だね」

 こずえも暗い顔で言った。


 積荷を降ろしてる最中だが平助とこずえは密かにおいちとお凛に駆け寄ると

「おいち!お凛!この船に密かに乗れ!」

「顕如様から雑賀衆や堺衆への配慮からあなたたちは戻せって命が出てるのよ」

 小声で言ったのである。

「帰るならみんなで帰る。一人では帰れん」

「ウチもやな」

 おいちとお凛は断ったのである。

「君たちがここを出たら越前衆は降伏させるらしい。本願寺の坊官が織田の松井夕閑公と和睦の交渉している」

「甘いで。長島(願証寺)では信長公は降伏を許さなかったんやで。和睦した振りをして門徒を撃っては斬っては焼いたんやで。ホンマやったら今すぐに降伏して欲しいわ」

 おいちが返すと平助とこずえは少し黙ったが

「顕如様はすぐに和睦したいようだけど本願寺の坊官で越前、加賀に所領がある者はは米の収穫が終わるまで交渉を長引かせたいらしい」

 平助とこずえが暗い顔で言うと

「戦場に行った事が無いからそんな悠長な事ができるんかいな。門徒衆の命より自分の懐の方が大事なのかいな。悲しいな」

 おいちは呟いた。


 結局おいちとお凛は丹後行きの船に乗らなかったのである。

「なんでお前ら帰らなかったんだよ!平助とこずえも何やってんだ!」

 小次郎がおいちとお凛に怒ってたが

「本願寺は信長公と和睦する話をしてるらしいで」

「交渉が終わるまではここに攻めて来ないと思うけどな?」

 おいちとお凛は適当に返したが

「信長公がそんな口かよ?梅雨が明ければ交渉なんて無視して攻めて来るぜ!」

「鉄砲があるからそう簡単に落ちんわ!」

「加賀へ逃げれば良いやろ!」

 おいちとお凛もムキになって小次郎に反論したが

「おいち!凛凛!木の芽砦群の七里殿のとこに行こう!」

 お菊が急に言ったのである。

「何しに行くねん?」

「降伏してもらおうよ」

「無理やろ。あんなオッサンでも武勇の誉れうんたらかんたらやで」

 おいちもお凛も無駄と言ったが

「ダメ元でやろう!行こ!良い考えがあるさ!」

 そう言うと渋るおいち、お凛を連れて木の芽砦群に向かったのである。


 木の芽砦群に着くと護衛の兵に七里の居る屋敷に案内するよう頼んだが兵はみんな嫌そうな顔をしていた。

「なんか嫌な予感やな」

 おいちが言うとその通りだったのである。

 七里だが屋敷で加賀から来た配下衆と昼から酒盛りをしていたのである。

「やれやれやな」

「終わってるかな?」

 おいちとお凛は呆れたが

「良い機会だったよ!手筈通りね!」

 お菊が言うと

「そやな。分かったわ」

「やるだけやろうや」

 おいちもお凛も返したのである。


 宴会場ではたまや他の女子が七里や配下の男たちに触られながら嫌々酌をしていた。

「七里様!盛り上がりの最中に申し訳ありません!」

 宴会場に入ってお菊が大声で言うと

「なんだ?本願寺の雑賀の三羽烏か?」

 七里は面倒そうに言うと周囲の者も同じような反応をした。

「お菊!おいち!お凛!」

 たまは驚いていたが。

「今日はご相談に参りました!」

「なんだ?」

 七里が面倒そうにお菊に返したが

「盛り上がってる最中に申し訳なく先にお酌させて頂きます!」

 お菊、おいち、お凛だが七里に酌をまず率先し行ったのである。その後は七里の配下の者にも酌をしたのである。色々どさくさに紛れて触られたがそこは3人とも我慢したのである。一周して再度お菊、おいち、お凛は七里に酌をしたのである。

 そして

「本願寺の顕如様はこの戦いを無意味と感じられ信長公と和睦のお話をされてると」

「フン!知ってるわ」

 お菊の問いに七里は不愉快そうに返した。

「兵も兵糧も鉄砲も足りてないのでここは先に信長公に詫びた方が良いかと」

 お凛が言うと

「武田勝頼公は野戦だ。ここは籠城戦だ。俺は負けん」

 七里は自信満々に言ったが

「味方の士気が低いのにそれは無理やね!」

 おいちが正直に言うと

「お前らいつから参謀になった?黙ってろ!」

「だからこうやって盛り上げてるんじゃ!」

 七里と配下の者が言うと

「気合いじゃ!お前らも呑めや!わはは!」

 七里が再度おいちの腰に手を回すと配下衆は大笑いしたが

「戦はひとりでやるんちゃうで!」

 おいちがきつい口調で言うと

「そんな無策な作戦で死ぬのはおかしいってさ!」

「ひとりで勝手に戦えや!」

 お菊とお凛はそう言うと三人掛かりで七里を押さえ付けて とっくり を七里の口に押し込んで無理やり飲ませる暴挙に出たのである。七里だが変なうめき声をあげて手足をばたつかせたがさすがに急に大量に飲まされたので伸びて倒れてしまったのである。

「あ~!すっきりした!」

 お菊たちが言うと

「調子に乗るな!この小娘たちが!」

 七里の配下衆が怒ってお菊たちに殴り掛かったが全員酔っているので千鳥足で しらふ のお菊たちの相手にならなかったのである。

 お菊、おいち、お凛らにこてんぱんにされてたまや他の女子が唖然とする中、お菊たちは岡崎山砦に退散したのである。


 お菊らの予想通りだが翌日、七里の使者が怒りながら岡崎山砦に来たのである。

 七里の元に詫びに来るように言ったがお菊たちはこれを拒否したのである。

 ただ暴挙は詫びてこれ以上は迷惑を掛けられないので大阪の本願寺に帰ると伝えたのである。お菊だが本願寺に帰るための名分の悪事をわざと演じたのである。

 七里の使者はお菊の返事に怒り府中龍門寺城の下間頼照に処罰を託すと言いながら木の芽砦群に帰って行ったのである。


「みんなここを出ようよ。若狭が通れないならまずは加賀の阿虎様のとこに行こう」

 お菊は決めたのである。

「発中と但中。アンタらすまんけど村岡山砦に行って七里頼周殿と揉めたんで心眼さん、弥生さん、マリアさんに加賀の尾山御坊の門前町にある阿虎様の店に後退するって連絡しといてや」

 おいちは七ッ童子の発中と但中を弥生、マリア、心眼らが居る村岡尾山砦に送り込んだのである。


「了観上人。お世話になりました。すみません。こんな形で終わって」

 お菊たちが了観に詫びたが

「ははは。おぬしらなかなかやるな。面白かったわ。加賀に早く後退しなされ。岡崎山砦としては信長公には降伏する旨の使者を敦賀に送るわ」

 了観もにこやかに返した。

 

 ただ、七里だがその後はこの件で何も言わなかったのである。戦力が不足しているのと織田信長が近江小谷城に入り明智光秀、羽柴秀吉が近江で大軍を用意しているとの噂が流れたからである。

 8月に入って発中と但中が村岡山砦から帰って来たが2人は慌てふためいていた。

 発中と但中によると村岡山砦、木の芽砦群、杉津砦の内陸の後方にあり安全なはずだった府中龍門寺城が織田軍に襲われて大混乱に陥っており至急の援軍を求めていたのである。お菊たちは何が起きてるか理解できなかった。





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