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大義 ってなんなのさ 22-4

 お菊、おいち、お凛、小次郎だが七里頼周と揉めて七里をタコ殴りしたので七里の怒りを買い府中龍門寺城の外れのぼろ屋に放り込まれたのである。

「大阪から来たのに酷い扱いやな!」

「うわあ。なんやねん。このボロ屋」

「あちゃあ。屋根に穴が。小次郎!直してよ」

「なんだよ。ここはよ」

 待遇のひどさにお菊、おいち、お凛、小次郎は怒ってたがすぐに下間頼照が間に入ってお菊たちに仕事を頼んだのである。

 昨日の件だが越前一向宗から離反した形になった杉津砦に行って仲直りの交渉である。上手く行けばそのまま杉津砦の代官もお菊たちに任せると言う。もちろんお菊たちも七里に体よく追い払われたとは感じたが。


「杉津砦は近江や若狭からの海沿いの越前の防衛線よ。他に岡崎山砦、大良砦とか小さい砦がいくつかあってそれをまとめて杉津砦と呼んでるわ。陸路は木の芽砦群が近江から越前への侵入を防ぐの。この両砦(杉津砦と木の芽砦群)は地元民の山道で往来も出来るわ。朝倉時代は信長公の前では役に立たなかったけど今回は大丈夫よ」

 弥生が説明してくれたのである。府中龍門寺城の西の海沿いにあるのが杉津砦、陸路の南にあるのが木の芽砦群で越前の防衛線として重視されていた。美濃方面の南の村岡山(今の勝山)にも美濃からの織田の侵攻を防ぐ砦を用意していた。なお越前の一向宗の本拠地は加賀との国境に近い天台宗の寺院の豊原寺を接収して万が一の時の最終拠点にしていた。

「杉津砦の前は湊もあるので船で物資の搬入が楽なのでここ府中龍門寺城にとっても大事な箇所なの。なんとか仲直りしてね。海がきれいな良い場所であなたたちも気に入ると思うわ」

 弥生が言うと

「好きなようにして良いですか?」

 お菊が聞くと

「もちろんよ。頼照様には相談済みよ」

「昨日みたいに暴れて思い知らせてやれって!」

 弥生とマリアが返すと

「よっしゃ!さっさとこのボロ屋とお別れやね!」

 おいちが言うと準備に取り掛かったのである。

「ワシが道案内しよう」

 了観と言う地元の僧が案内を買ってくれた。


 出発前だが再度いざこざがあったのである。

「杉津砦の村長さんの娘さんを返して」

 お菊らが府中龍門寺城の牢番に言うと彼らも頼照の許可があったので渋々娘を返したのである。

「誰?」

 彼女は牢で寂しそうにしてた。14歳くらいの娘だった。

「つらい思いをさせてごめんね!お家まで送るよ」

 お菊が言うと彼女も出してもらえると理解し喜んだ。

「ありがとう!」

 娘はお花と言った。

「お米も頂戴ね」

「待て!聞いてない!」

 蔵番がお菊に断ったが

「村長さんにお詫びをせんといかんやろ?」

「ちょっとくらいええやん!」

 お凛とおいちが言うと小次郎や雑賀衆、堺衆が馬の背中に勝手に米俵を積み始めたのである。

「こら!やめろ!これは大事な兵糧だ!」

 蔵番が騒いでも小次郎は相手にしてなかったが。

「また悪ガキどもか!」

 騒ぎを聞いて杉浦玄任が慌てて飛んで来たが

「杉浦さん?懲りないっすね」

 そう言うとまたもや杉浦は小次郎に簡単に羽交い絞めにされたが。弥生は見てない振りをしていた。マリア、たま、庄助は笑いをこらえていたが。


 こうして一行は弥生、マリア、たま、庄助に見送られ杉津砦に向かったのである。山道を2時間馬の背中に揺られると日本海が姿を現したのである。

「いいね!」

「おお!」

 一行は蒼い美しい日本海に癒されるも海沿いを更に2時間揺られてようやく腰が痛くなった頃にようやく杉津砦に着いたのである。杉津砦だが目の前を1本の道だけが通りその先は崖と海が広がる険しい断崖の山城だった。

 一行は杉津砦の門に着くと

「開けてください!娘さんをお返しします!」

 お菊は杉津砦の門番に頼んだ。

「お花が帰ったよ!」

 お花も声を上げると城兵が驚いて門の上の見張り台に集まって来たのである。

「おお!姫様や!」

「本物や!」

 お花を本物と確信するとようやく門は開いたのである。


「お花!」

「父上!母上!兄上!」

 お花は両親に抱き付き感激の対面を果たしたのである。

「良かったな!」

「ほんと!」

 小次郎とお菊が言うと

「娘を助けてくれてありがとうございます!」

 お花の母親が感謝すると

「何故娘を助けてくれたので?私は堀江景忠と申す。杉津砦城代です」

 お花の父親の堀江景忠が不思議そうに聞いて来たのである。


「急に増税や!払わんから娘をさらうなんて悪党過ぎるやろ?」

「七里とか言う坊さんの頭を木魚代わりに叩いて懲らしめてやったわ!」

 おいちとお凛が言うと

「七里様の頭を木魚代わり?」

「はぁ?」

 堀江景忠の家族や家臣はよく分らずぽかんとしてたが。


「これは娘さんへのお詫びじゃ!織田信長が今年の夏にも越前に来ると言われておる。みんな一致団結して戦おうぞ!」

 了観が馬の背中の米俵を指さして言うと

「阿弥陀如来様のために戦いましょう。よろしくお願いします」

 お菊も堀江に手を差し出すと

「あ!こちらこよろしく頼み申す!」

 堀江も慌ててお菊と握手をしたのである。

「ところで目付はどなたに?」

 堀江の家臣が不思議そうな声を出すと

「このお嬢さんたちが目付じゃよ」

 了観が言うと

「ええっ?あなたたちが?」

 堀江たちは予想外だったので驚きの声を上げたが

「父上!このお姉さんたちも(石山)本願寺から来たんだよ!お菊さんって六花仙だって。雑賀衆のおいちさんと(堺衆の)お凛さんも府中龍門寺城との交渉をしてくれるんだよ」

 お花が言うと

「あなたたちが六花仙?雑賀衆?驚きました」

 堀江たちは相変わらず驚いていたが

「もっと ごつい人 と思ったかな?」

「意外と 爽やか美少女 やろ?」

 お凛とおいちが軽く言うと笑いが起きようやくみんな和んだのである。


 杉津砦だが背後に大良砦がありさらに木の芽砦群に山道で往来できるようなっていた。陸路と海沿い路から越前への侵入者を共同で抑えるのである。更に杉津砦の北に開けた集落と半島が日本海に突き出ておりここにも岡崎山砦が配置されていた。杉津砦が突破された場合は岡崎山砦で籠城し緊急時は船で脱出するのである。


 お菊たちは岡崎山砦をあてがわれた。日本海に突き出た半島にある堅牢で風光明媚な砦である。自分たちの砦にお菊、おいち、お凛、小次郎、七ッ童子、雑賀衆、堺衆は盛り上がった。

 しかし3日も経つとその盛り上がりもすっかり冷めたのある。

「暇だね」

 御殿から海を見ながら手持ち無沙汰でお菊が呟いた。

「信長公っていつ来るか分からんから備えろって言われてもな」

 お凛もあくびをしながら言った。

「茶店も無いしね」

「本でも持ってくれば良かったかいな」

 お凛もお菊に返した。

「のんびり出来んかもな」

 おいちの声がすると小次郎、七ッ童子と一緒に御殿に戻って来た。

「思ったよりも兵糧も武器も少ない。まずい」

「鉄砲が全然少ないですね。雑賀から運ぶ手配をかけますが」

 小次郎と無二が続いた。

「堀江殿に相談するよ」

「いや、ここは土地が狭いからお花の件も含めてホンマに無い袖かもな。ウチも行くか」

 お菊はおいちと地元の了観を連れて杉津砦の堀江景忠に兵糧や武器の配分を頼みに向かったのである。

 

「お菊殿、おいち殿、実は……」

 堀江はこの地域の事情とこれまでの経緯を説明したのである。この地域は山が海に迫り土地が狭く米があまり取れず漁業で生計を立てていると言う。今回、杉津鳥や大良砦に駐屯している兵は越前の府中など内陸から援軍として来ているがみんな自腹で参加しておりかなり窮していた。

 堀江も越前の一向宗の拠点の豊原寺や府中龍門寺城だけでなく加賀の一向宗にも兵糧や鉄砲や武器の提供を求めたが良い回答は無かった。

 

 越前は1573年の夏に織田信長が朝倉義景を滅ぼしてた後、越前の統治のために義景の旧臣を雇ったがその中での内紛が越前の争乱のきっかけであった。

 信長は越前の道案内に功があった前波吉継を代官にしたが前波は朝倉家中では身分が低く態度も横柄で反発する富田長繁の謀反で討たれるのである。富田はその後、越前の一向宗門徒衆を煽って越前を手に入れようと越前の門徒衆と行動し敵になりそうな人物を排除し出すがその殺伐としたやり方に越前門徒衆は反発。富田と越前門徒衆は騒乱になるが戦力の少ない富田相手に苦戦したのである。そこで越前門徒衆は加賀の門徒宗に援軍を要請し越前の門徒衆はようやく前波吉嗣を倒したのである。


 この戦いに活躍したのが加賀から来た七里頼周や杉浦玄任だった。

 しかし加賀の門徒衆は越前の門徒衆を家臣のように扱い、また信長との戦いに備えるために重税や兵役など課したのである。そのため七里や杉浦に対する一揆が起きたが七里は首謀者らを鎮圧すると門徒衆同士なのに残虐に処刑したのである。


 大阪の石山本願寺もこの騒ぎを聞き下間頼照ら坊官を送り込み混乱の収拾を図ったが信長が越前に攻め込むとの情報もあり備えをする都合もありこの問題にうまく対応できなかったのである。


 そして大きな不満を越前一向衆に残したまま、また巻き込まれる形になった越前の真言宗や天台宗など他宗派も不満を募らせて居たのである。


「厄介な問題やな。顕如様の手にも負えんかも」

「下間頼廉様が七里殿を非難しているの分かったけどどうしよう」

 おいちとお凛も頭を悩ませたが

「一度、府中龍門寺城に戻って七里殿と杉浦殿に頼もうよ。顕如様や頼廉様の名前を聞いたら変わるよ」

 お菊だが七里と杉浦に直談判をする事にしたのである。


 お菊、おいち、お凛だが了観とすぐに府中龍門寺城に向かったのである。

「嫌な感じやな」

「ホンマやな」

 おいちとお凛が口を尖らせた。

 府中龍門寺城は加賀の門徒衆が幅を利かせていた。越前の門徒衆を使うような対応をしていた。この日は心眼、弥生、マリアは村岡山城、たまと庄助は木の芽砦群で作業をしていて不在だったが。

「木の芽砦群にたまと庄助が居るなら近いから今度会いに行こうかね」

 お菊たちは意外と近くに居たたまと庄助を気遣う話をしながら七里と杉浦の居る間に通されようとしていた。

「話が通じそうもないおっさんやけどな」

「頼むしか無いよ」

 おいちにお菊が返したが。


 襖を開けるとお菊たちは唖然としてしまった。

 昼間だったが七里と杉浦は宴会をして居たのである。

 酒だけでなく豪華な蟹や鯛が置かれ遊女が2人と戯れていた。

「なんだ?あ~!本願寺の生意気なガキ共か!何の用だ?」

 七里は酔いながら言った。


 お菊は唖然としていたが怒りがこみあげて来たのである。自腹で食い扶持に苦しみながら兵として送り込まれ前線に立ち、さらにその上に税を掛けようとしながら贅沢三昧してる七里と杉浦に腹が立ったのである。

 ただお菊に代わりおいちが冷静に対処したのである。


「杉津砦ですが兵糧も武器も足りません!至急手配を頂けますでしょうか!」

 おいちは深々と頭を下げたのである。お凛に促され、お菊もおいちに倣ったが。


「おお、おお。さすが雑賀の姫やな。手筈を分かってるな。偉いぞ。でもここも余裕が無い。自分たちで近くの農家や商人から無理やり徴収しろ。信長に仕えるより俺たちの方が良いだろ?」

 七里は上機嫌に言ったが

「加州大将様(七里)!杉津砦は土地が瘦せており収穫少なく!これ以上は無理です!反発を招きます。何とかか府中龍門寺城か豊原寺からの物資を廻して頂きたく!」

 おいちは粘ったのである。

 七里は不愉快そうな顔をしてたが

「豊原寺の鉄砲を廻しましょう。雑賀衆は役に立ちますよ。顕如様や頼廉様への機嫌取りですよ」

 杉浦が言うと七里も渋々だが頷いたのである。

「分かった。廻してやる。おい!お前らも飲むか?」

「いえ!味方を待たせてますので!」

 ただおいちはそう言いながら七里と杉浦に酒だけは注ぎ軽く話し相手をして機嫌取りをしてくれたのである。


「おいち、さすがや。見直した」

 お凛がうなった。

「あたしには 出来ない」

 お菊の怒りは収まったが納得できなかったのである。


「鉄砲お待ちしております!米も是非!」

 おいちだが腰に手を回されても笑顔で酒を七里と杉浦に注いだのである。

「分かった!分かった!織田を抑えてくれよ!がはは!」

 七里も杉浦も上機嫌だった。


 20分ほどでお菊、おいち、お凛は府中龍門寺城から撤収したのである。なんとか鉄砲と米を確保したのである。短い時間だが長くお菊は感じたが。

「おいち。ありがとう。本当に」

 お菊はおいちに礼を言ったのである。

「仕方ないって!七ッ童子や雑賀衆にひもじい思いをさせたくないし鉄砲無いと戦えんからな!ウチは酒、苦手やから注いで機嫌取りくらいしか出来んし」

 おいちが軽く返したが。

「アンタ、マジで見直したわ」

 お凛も呟いたが

「気にせんでな!まんま のためやで!」

 おいちは相変わらず軽く返したが目は笑ってなく悲しそうだった。


「あたしたち 何のために戦ってるんだろう」

 お菊はぼそりと呟いたのである。


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