大義 ってなんなのさ 22-1 挿絵あり
「おお!味方だ!」
「助かったわ!」
「やった!帰れる!」
坂井弁慶とおいち、菊之助の声でお菊は目が覚めたのである。
「ご無事で何より!」
「すぐに迎えを連れて来ます!伊賀で本願寺の陸路隊が待ってます!」
伊賀から来た伊賀衆の物見の兵と長島願証寺から脱出した部隊はようやく合流できたのである。
「生きててよかった!」
「雑賀の郷に帰れる!」
「南無阿弥陀仏!」
小雀、蛍、鶴首ら七ッ童子の女子も抱き合って涙ながらに喜んでいた。
「よかった」
お菊もそう言うと安堵して坂井弁慶の背中で再度目を閉じたのである。
お菊は目を覚ましたのである。お菊はいつの間にか布団に横になっていた。誰かの怒鳴る声が聞こえたような気がして目が覚めたのである。
「お目覚めか!良い運動になったぞ!」
「わはは!」
お菊を交代で背負って来た三井寺坊主と坂井弁慶が軽く笑いながら言ったが。
「ありがとう」
お菊は2人に礼を言うと布団から上半身を起こしたのである。
「お菊?大丈夫?」
舞が心配そうにお菊に言った。
「あれ?舞?ここは?」
「お菊、ここは伊賀の郷よ。もう大丈夫よ。疲れたでしょ?安心してゆっくり休んで。おかゆ食べる?」
「ありがとう」
お菊は舞におかゆを出してもらうと口に含んだのである。
「おいちや小次郎は?」
お菊が聞くと
「隣の間で本願寺の陸路隊に今回の戦の報告をしてるわ」
舞が言うと
「あたしも行く」
お菊はそう言うとよろけながら立ち上がったのである。
「無理しなくて良いのよ」
「姫様や雑賀衆に任せておけって」
「お菊さん。休みなさい」
舞、三井寺坊主と坂井弁慶はなんか強張った顔でお菊に休むように言ったが
「あたしも行く」
お菊はそう言って襖を開けようと手を掛けたのである。
ただ襖の向こうから聞こえて来た話にお菊は固まったのである。お菊は襖を開けずに聞いてしまったのである。
報告していたのは雑賀衆の七ッ童子の副官の無二と家老の岡吉正である。七ッ童子の隊長はおいちだがなぜか無二が突撃隊の経緯をおいちに代わって報告していた。それが終わると岡が今度は淡々と本隊の経緯を報告していた。
岡によると願証寺を脱出した本隊は長良川揖斐川を渡り織田の大鳥居砦の前を突破しようとしたが最後に顕忍、下間頼旦の脱出を見破られ大鳥居砦の柴田隊と激戦になったのである。多数の足弱衆(女子、子供など戦えない者)は脱出できたが大激戦になり結局、顕忍、下間頼旦が戦死。雑賀衆も岡自身も含む負傷者や戦死者を多数出し、何とかここまで逃げたのである。なお喜兵衛も戦死し、脱出できなかった屋長島、中江の砦に居た門徒衆は降伏するも許されず信長に砦ごと焼かれておそらく2万が焼き殺されたと報告していた。
重い空気がこの間を流れていたがお菊は突如、襖を開けたのである。
一番奥に心眼、弥生、ろく、マリアら陸路隊の面々が座り説明を聞いていた。
「お菊!」
お菊の憎しみに溢れた顔を見て心眼と弥生、マリアらが強張った顔で返した。
おいちだが背中越しで顔は見えなかったが珍しく肩を震わせていた。怒ってるのか泣いてるのか分からなかったが。
お菊もこの無様な敗北と残忍な結末に怒りと悲しみがこみ上げて来たのである。
「お嬢ちゃん。いや、大したもんだね。この不利な状況を自分の裸を見せて男を引き付けて突破したなんてさ。天晴さ。見上げたよ」
ろくはお菊を褒めたつもりだったがお菊には嫌味に聞こえたのである。
「うわあ!」
お菊は泣き叫ぶと脱兎の如く飛び出すと、ろくに飛び掛かり殴り倒したのである。
「お菊!やめろ!」
「お菊さん!落ち着いて!」
「やめて!」
小次郎、七ッ童子の無二、小雀、蛍らが慌ててお菊を取り抑えたのである。
「なんで助けてくれなかったのさ!なんでさ!いっぱい死んだのにさ!」
お菊が無き叫ぶと
「こっちの戦力が少ないんだ!仕方なかったんだよ!無理な作戦で味方を死なせられないってさっきも雑賀のお嬢ちゃん(おいち)に言ったろうが!」
ろくも口から出た血を吹きながらお菊に恨めしそうに返したが
「お菊!許せ!」
「お菊!ごめんなさい!」」
心眼と弥生も間に入ったのである。
「出撃を許可しなかったのは我々の判断だ。まともに織田とぶつかっても味方が持たないと。気に入らんならこの俺を気が済むまで殴れ!」
心眼が言うと
「あなたを殴れるか!殴りたいのはこの作戦を立てて知らん顔してる大阪の大人たちだよ!わああ!」
お菊は泣き伏せたのある。
しばらくするとおいちも恐ろしい形相のまま立ち上がると外に出て行ったしまったのである。
「すまぬ」
「お菊、おいち、ごめんなさい……」
心眼、弥生、マリアらはうなだれていた。
お菊とおいちだがお菊は疲労の回復、おいちは腕の治療のため伊賀で10月末まで特別休暇が出たのである。
おいちだが珍しく拗ねてたのである。
本願寺の本隊の撤収時も雑賀衆のみんなが雑賀の郷に出発する時も体調が悪いと顔も出さなかったのである。
雑賀衆も仕方ないと言った感じで特に何も言わず出発して行った。
3日間この状態が続いたのでお菊は心配になっておいちに声を掛けたのである。
おいちが閉じこもる間の外から
「お~い。おいち。元気か?」
お菊は声を掛けたが
「大丈夫」
ひとこと返事があるだけだった。
お菊だが舞に相談したのである。
「おいち、重症だね?何か気晴らしの方法ないかな?」
「う~ん。そうだ!みんなで温泉に行こう!忍びの隠し湯があるのよ!」
舞が思い付いたように言うと
「良いね!誘おう!」
お菊は喜んだが
「でもおいち、拗ねてるから多分行かないって言うと思うけど」
舞が言うと
「策は考えた!こうしようよ!ごにょごにょ」
「な~るほど」
舞はお菊に同意したのである。
お菊と舞は再度、おいちが閉じ込もる間の外に来ると
「お~い。おいち。起きてるか?」
お菊が声を掛けると
「起きてる」
ひとこと返事があった。
「入って良いかな?」
「あかん」
「連れないね」
お菊が返すと返事がなかった。
お菊は舞と顔を合わせると互いにうなずき そうっ と襖を音を立てないように開けたのである。
おいちは肘を付いて横になって庭をぼんやり見ていた。
「おいち。温泉に行こうよ。舞が良い温泉知ってるよ」
お菊が軽く言ったが
「すまんけど気が乗らんねん」
おいちだが予想通り断って来たがお菊は舞と再度顔を合わせてうなずくとおいちに飛び掛かったのである。
「うわあ!何すんねん!」
おいちが仰天すると
「おいち!温泉行こう!行くって言うまで離さない!こちょっと!」
「気分転換しよう!こちょこちょと!」
お菊と舞はおいちに飛び掛かると羽交い絞めにしながらくすぐったのである。
「あはは!ちょい!アカン!マジでくすぐったいって!あはは!」
おいちは笑いながら悲鳴を上げたが
「温泉行くって言うまでやめない!」
「良い湯だよ!伊賀の隠し湯だよ!」
お菊と舞はおいちをくすぐり続けたが
「あはは!分かった!参った!行く!温泉行くからやめてや!あはは!」
お菊と舞はようやくおいちをくすぐるのをやめたのである。
「はぁはぁ。アンタらマジで何すんねん!ひどいやろ!」
お菊と舞がくすぐりをやめるとおいちは怒り出したが
「怒らない!おいちと温泉、嬉しいな!」
「お湯に浸かったら気分も変わるよ!」
お菊と舞はおいちに抱き付いたままおいちに頬擦りして返すと
「たはぁ。今回はウチの負けや」
おいちも降参したのである。
舞だがお菊とおいちを赤目温泉と言う伊賀の郷から南にある山奥の温泉に連れて来たのである。
馬の背中の上では拗ねてたおいちだが温泉に浸かってようやく機嫌が直ったのである。
「いやあ!温度も湯質もええ感じで気持ち良いわ!」
「ここは忍の衆が修行した後に入るの。疲労回復に良いの」
機嫌を直したおいちに舞が返した。
「癒されるなぁ」
お菊もほっとしていた。
しばらく3人は黙って気持ち良く湯に浸かっていたが
「今回は信長公に痛い目に遭ったけど次は ぎゃふん と言わせてやらんとな」
おいちは呟いた。
「そ!その意気よ!」
舞も調子良く返した。
「お菊には感謝せんとな」
「それはあたしの言い分だよ。疲れて動けなくなったあたしを見捨てなくて連れて帰ってくれてありがとう」
お菊は素直においちに礼を言ったのである。
「アンタが本気を出してくれたから生きて返れたんや。雑賀の衆としてアンタには礼を言うわ。アンタがあの力を出してくれなかったらウチらは全滅してもおかしくなかったわ」
おいちが冷静に言った。
「そんな事ない。女子衆のみんなの力だよ。生き残るためなら男の前でも裸にでもなってやるさ」
お菊が笑いながら言うと
「いやぁ、ほんとすごいね。聞いてびっくりした。あたしじゃ無理かな」
舞が返すと
「下間頼成様の策だよ。すごい策だよね。でもさ、裸のあたしたちと見て憐れんで城に入れてくれた人たちの善意を踏みにじった事は悔いてるけどね」
お菊は暗い顔で言った。
「裸の美少女が居たら男は本能で動くわ。助けたろと思ったんやな。仕方ないわ。せめて冥途への思い出にしてほしいわ。ウチらも阿弥陀如来様に怒られるやろうな」
おいちも遠くを見ながら言った。
少し暗い空気が流れたが
「まぁ女子も男子もみんな隠さずに堂々としてて良かったかな?」
おいちが軽く言うと舞は苦笑いしてたが
「生き残って つがい になった子もたくさんいると思うで!良い事やね。それで子宝に恵まれるとかな」
「そうだね。そう思う」
お菊が返すと
「あれ?いつものアンタなら 清く正しく美しく じゃない 品が無い とか怒りそうやけど今日はえらく素直やな?アンタも 色んなの を見て目が慣れたかな?」
おいちがお菊を冷やかすと
「おいち!いやらしい!もう」
舞が珍しく顔を赤らめて返しおいちが笑ったが
「清く正しく美しく は捨てた。人をこんだけ 殺めて それは無いってさ」
お菊がにこりと笑いながら返すと逆においちと舞は少し固まった後、
「ウチらも生き残るため仕方なしやね!」
「向こうが襲って来るんだから仕方ない!」
おいちと舞は慌てたが。
「頼成様が最期に言ってた。頼成様は若い頃は自分の力を汚らわしいと思ってたみたいだけど今は阿弥陀如来様のために使えて誇りに思ってるって。だからあたしもこの力を阿弥陀如来様、この世のために使おうと思ってるんだ。これが人の力か何かも分からないけど」
お菊が遠くを見ながら言うと
「そうなんや?」
「そう?なの?」
おいちも舞もよく分らないと言った顔をしてたが。
「それにしてもみんなよく生き残ったね。伊賀衆もすごいって言ってたよ」
舞も改めて感心して言うと
「運が良かっただけだよ。でもさ、伊賀も(信長が目を付けていて)危ないんじゃない?」
お菊が小声で聞くと
「そうね。伊勢の(信長に降伏したため名目上の守護代の)北畠(具教)様だけど(長島)願証寺を放置していたって理由で信長公の怒りを買ってるらしいの。伊賀も 惣 の力が強く願証寺に協力してるから信長公は目を付けてるって」
舞は暗い顔で言った。
舞だけでなく伊賀衆も今回、本願寺が願証寺を救援出来なかった事に失望と今後の恐怖を抱いていたが舞はその件は胸にしまっておいたが。
「こんな静かな郷なのにね」
お菊は山里を見ながら呟いた。
「そう。いつまで静かかな」
舞も寂しそうに言った。
「夕空がきれいだな」
お菊は再度、呟いたのである。




