武器は 女 なのさ 21-7
長島願証寺の突撃隊は小木江城を奪い取ったのである。
しかし
「作戦はこれからが本番やで!小隊長!みんな手筈通りやで!」
おいちが大声を上げると各小隊長は手筈通り動いたのである。
蔵に集まると中から着物や甲冑を集めて裸のみんなに配る部隊、米を出して腹ごしらえさせるため炊き出しをする部隊、長槍、鉄砲や弾薬硝薬を分配する部隊。
戦死した織田の足軽からも身包みを剥がす部隊も大忙しだった。願証寺の裸の兵たちに再利用するのである。みんな着物が手に入ってまずは寒さ対策で安堵していた。
お菊だが頼んで最初に倒した隊長の男の甲冑と着物を拝借したのである。この男は小さな持念仏を持っていたがそれはこの男に返したのである。
「本当にごめんなさい!南無阿弥陀仏。あ!そこの人!この人も綺麗に並べてあげて」
お菊は遺骸を整理する部隊に後は任せて男の元を去ったのである。
辺りを見ると織田秀成、秋姫、信広、信成、信直ら一門衆や重臣衆の遺骸は蔵の横に甲冑を着たまま丁重に並べられていた。小木江城を奪い返すであろう織田に引き取ってもらうためである。
名も無き足軽たちも今回身包みは剥がされていたが丁重にこちらも並べられていた。門を開けて歓待してくれた彼らへの敬意を払ったのである。
おいちの元に寄ると
「さすがお菊やね!ちょっと休んでええで!もうすぐ織田の兵がここに押し掛けるからな」
おいちはお菊に炊けたばかりの握り飯を差し出した。
「ありがと!あんたも今日は冴えてるよ」
「当たり前やん!絶対に大阪に、いや、雑賀の郷に帰るで!」
おいちは握り飯を食べながらお菊に力強く返したのである。
「船頭さんも無事で良かった!」
小雀も受け取った着物を着ながらやってきたのである。
「船頭さんは道案内に必須だから安全な奥に下げましたので」
蛍も続いた。
「姫様!御殿を燃やす準備出来ました!」
「門は全て封鎖しました!鉄砲隊の配置も完了します!」
発中と但中兄弟も報告を上げた。
「よし!御殿を燃やせ!敵が来るから来たら撃ちまくるんやで!並行して1時間後に脱出の支度もな!」
おいちが命を出すと御殿に火が付けられたのである。
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
三井寺坊主と坂井弁慶だが生き残った僧兵衆とこの燃え盛る御殿を祭壇に見て自発的に戦死者への念仏を唱えたのである。
願証寺の東にある五明砦の部隊だが陸路で移動できるのもあり願証寺の決死隊が織田の水軍衆の安宅船や関船を襲った報復のため願証寺に押し寄せたのである。
1時間程度の戦闘で織田の水軍衆はかなりの犠牲を出しながらも下間頼成、おひょうらの部隊を壊滅させて願証寺に押し込もうとしていたのである。
しかし願証寺を攻めていた織田の攻城隊は小木江城から突如火が上がった予想外に仰天していた。
「おい!大変だ!小木江城から火の手が!」
「どうなってるんだ?」
「水軍衆を攻める部隊は囮だったのか!まずい!小木江城に向かうぞ!」
織田信忠の代官の佐々成政だが決断すると信忠から預かった配下衆を連れて小木江城に移動を始めたのである。
「我々はここで引き続き願証寺攻めを継続!水軍衆にも砲撃を頼め!」
水軍の指揮も兼ねてた滝川一益の代官で甥の滝川雄利が指揮を引き続き執り、一益の家臣衆の滝川忠征と水軍衆の九鬼嘉隆の部隊とで願証寺の攻撃を続けたのである。
ただ願証寺への攻撃の威力は大いに下がったのである。
「やった!」
小木江城から上がった火の手を見て願証寺の本隊も雄叫びを上げたのである。願証寺に攻めて来た部隊の一部も小木江城救援のため撤収したのも確認した。
「よし!みんな!行くぞ!大鳥居砦の部隊は無視して一気に多芸山に逃げ込め!逃げればこっちの勝ちだ!」
岡吉正、佐武義昌、的場昌長、喜兵衛ら雑賀衆と願証寺の守備隊を先頭に本隊は水量の少ない長良川揖斐川に入ると一気に歩いて渡り始めたのである。
「小木江城が落ちそうだと?」
大鳥居砦を守る柴田勝家の甥の柴田勝政、勝豊は小木江城から上る火の手に驚いていた。
「救援に行くか?」
「もう間に合わんだろ。敵ながらよくやる」
勝豊は勝政に冷静に返すと
「(願証寺から逃げ出すであろう)敵は数万。こちらは5千。まともにぶつかっては抑えるのは難しいな」
勝政も現実的に判断した。
「手柄を立てれば良いのさ。策はある。足弱衆(女子供)は放っておけ。狙いはひとつだ。篝火を焚きまくれ!目の良い奴を連れてこい!」
勝豊は策を練ったのである。
お菊は小木江城が静かな間だが怪我人の手当てをしてた。
「大丈夫ですか?」
「俺はもういいよ。女の裸をたくさん見たんで安心して極楽浄土に行かせてもらうよ。はは。うぐう」
腹を撃たれて横渡る男は冗談を言いながらも苦しそうに言った。
「痛っ。くうう」
隣の男も腹を撃たれて苦痛に顔を歪めてた。
しばらくすると小次郎がやって来た。
お菊は怪我人から離れると
「あの人たちどうするの?」
小次郎に聞いたが
「連れて行けない。置いて行っても織田に殺されるから撤収時に味方が楽にするって」
「あたしら地獄に落ちるしかないよ」
お菊は暗い顔で呟いた。
「頼成様、おひょう様たちの決死隊は良くやってくれたわ。時間を稼いでくれたわ。ありがとう。南無阿弥陀仏」
おいちは手を合わせて死んだ頼成、おひょうらの部隊に念仏を唱えた。
「やっと織田の水軍衆も落ち着いて願証寺を砲撃しているようやね。本隊はここが燃えてるのを見て無事に逃げ出してるわな?」
おいちは物見櫓の上から遠くて暗い願証寺方面の戦場で上がる炎を見ながら言うと
「おそらく。大鳥居砦をどのくらいが無事に突破出来るかですがね」
無二が返した。
「三分の二、いや、半分でも御の字かな?そう言えばウチらの突撃隊の犠牲や怪我人は?」
「3割ほどが駄目です」
無二が暗い顔で返すと
「分かった。ここに留まる時間は30分に変更しよ。多分願証寺の本隊はうまく逃げてるわ。なんか嫌な予感がするねん。信長公が戻って来たら逃げれるのも逃げらなくなるわ」
「勘は大事にしましょう。了解です」
無二はおいちの案に了承したのである。
その時であった。
「敵だ!敵が来た!」
暗闇の中を五明砦方向から小木江城目指して松明の明かりが列を成して向かって来たのである。
「予定通り!引き付けてから撃て!女子は弾込め!勢いはこちらにある!」
「敵は移動で疲れてる!敵が疲れ切ったらここを出て突破するぞ!俺たちは勝てるぜ!国に帰れるぜ!」
発中、但中兄弟が雄叫びを上げると願証寺の突撃隊は盛り上がったのである。
織田の先鋒は信長の嫡男の信忠の配下衆で勇猛と噂の佐々成政が率いていた。ただ彼らも自軍の形成が不利なのは承知していたが小木江城の織田一門を何とかしようとむしゃらに盾を持って突っ込み、門をなんとか突破しようとしてたのである。
しかし無理がたたり攻め手の織田側は小木江城の願証寺の鉄砲で犠牲者を増やしてしまったのである。
指揮を執っていた織田信次、平手久秀、佐々成政の嫡男が撃たれると崩れていったん後退したのである。
おいちはこの隙に味方と城外に出る決断をしたのである。尾張津島方面に陸路を向かい、途中で西に進路を急変させ長良川揖斐川木曾川の川幅の狭い浅い箇所を一気に渡り多芸山まで逃げそのまま織田の勢力圏外の伊賀まで向かうのである。
「よし!みんな本番や!出るで!」
おいちが大声を上げると
「絶対に待ち伏せがある!盾を使って突破するぞ!」
無二も続いた。
先頭は盾を持った屈強な三井寺坊主と坂井弁慶ら僧兵衆である。全員外に出て走ったのである。
予想外だが小木江城を出て直ぐは反撃も銃撃も受けなかったのである。しばらく走った後だがいったん休憩し隊を整え暗闇に目を慣らせて松明も付けずに一行はひっそり北に進んだのである。
でもお菊だけでなくおいちや他の者も 何かがある と直感したのである。
しばらく20分ほど暗闇を静かにゆっくり進むと
「火薬の匂い!」
お菊が呟くと
「盾を出せ!」
三井寺坊主と坂井弁慶ら僧兵衆が危険を察知し盾を出し
「伏せろ!」
誰かが叫んだ瞬間、鉄砲による待ち伏せ攻撃を受けたのである。
「予想通りやね!敵さんも通してくれんね!」
おいちがぼやくと松明がともり、敵部隊が目の前に現れたのである。
「愚かな長島の門徒衆よ。貴様らのおかげで尾張や美濃、三河の門徒衆は苦しんでるのだ」
「成敗してやるぜ!」
中年の武将と若い十文字槍を持った荒武者が目の前に立ち塞がったのである。荒武者の横には彼と同じ年くらいの姫が鉄砲を構え彼女の周りも女子の守備兵が鉄砲を構えて守りを固めていた。
「あの人ら誰やねん?」
おいちが道案内の船頭に小声で聞くと
「まずい!信長公の娘婿の池田恒興様とその娘、せん様と婿の鬼武蔵、森長可様だ!」
船頭が心配そうに言った。
「強いんかい?」
「恐ろしく強い!」
「マズイやん!」
おいちが焦ると
「やむを得ない!前方に強力な隊で抑えてここから各自暗闇に紛れて多度山に向かうしかない!恒興様が居ると織田の本隊(織田信長)がもう動いてるかもしれん!」
船頭が焦ったが
「おいち!あれ!もしかしたら!」
お菊もおいちに驚きの声を上げたのである。
池田隊に見覚えのある2人が居たのである。
「嘘やろ?」
おいちも声を裏返してしまった。
石山本願寺で一緒に修行していた伊勢の出の千代目と尾張の出の一郎が森長可の前衛に居たのである。




