↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/128

武器は 女 なのさ 21-5

 出発直前だが

「女子衆!円陣組もうや!みんな手を合わせて!気合いや!手筈通りやで!生きて帰るで!」

 おいちが声を上げると

「えい!えい!おおっ!」

 お菊や小雀、蛍、鶴首ら女子衆はみんな手を合わせて円陣を組み、元気良く返したのである。

「男も負けんな!行くぜ!」

「うおおお!」

 小次郎が叫ぶと無二、発中、但中、下針、菊之助、三井寺坊主、坂井弁慶ら男子衆も雄叫びを上げたのである。


「さようなら!」

「長生きしろよ!」

 願証寺守備決死隊の見送り受けて突撃隊は出発したのである。本隊も準備に動き出していた。突撃隊が上手く小木江城に入ったら本隊は一気に長良川揖斐川を渡り大鳥居砦の横をすり抜けて多度神社方面に脱出するのである。


 この日は月も休んでおり辺りは暗闇に覆われていた。沖合では下間頼成やおひょう、願証寺坊主衆ら捨て身の決死隊と織田水軍との戦いが始まり燃え上がった安宅船だけが明るく輝いていた。5隻目も炎上し織田の船団は大慌てで救援に沖合に移動し始めていた。

「よし。うまく行ったな。頼成様。あなたの作戦は完璧です。無事に地獄に行ってください。南無阿弥陀仏」

 部隊を先導する船頭は呟いた。船頭は小木江城と願証寺を何度も往復したのでこの航路を知り尽くしていた。数か所泳ぐ個所があるが木曽川の水量が少ないので浅い川底や中州を歩いたり腰まで浸かる程度で行けた。突撃隊は暗闇を粛々と歩いた。眼も暗闇にも慣れて来たのである。川の流れる音と遠くから戦闘の雄叫びや絶叫、鉄砲の音がかすかに聞こえた。


「きれいだな」

 燃え盛る幾隻もの安宅船を見てお菊は不謹慎だが呟いた。

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」

 女子衆は念仏を唱えた。

「あの人たち 人 じゃなかったかもね」

 お菊が呟くと

「はい?」

 おいちは変な返しをしたが

「あたしもかもね」

 お菊はうつむきながら言うとおいちはお菊が怖がってるのかと思い

「本願寺に絶対に帰ろうや。凛凛も弥生さんも待ってるで」

 おいちはお菊の肩を抱いて軽く返したのである。


「うう!寒い!」

 9月末だと夜は寒い。下半身だけ水に浸かっていて完全に泳ぐ区間は小木江城の手前の最後の区間だけだが寒さでみんな震えていた。

 

 しかも男子は最後の関門があった。

「男子!女子が(小木江城)の扉を開けるまで水面下に潜む!目だけ出して音を立てず体を冷やすな!扉が開いたらすぐに突撃するぞ!」

 三井寺坊主が男子衆に言うと

「無茶振りだぜ!仕方ないがな。こんなに水が冷たいのによ!」

「くそ!でも俺は絶対に雑賀の郷に帰るぜ」

 小次郎と無二はぼやいたが。

「目の前の女子の尻でも見ながら体を温めておけって!死んで見納めは嫌だろうが!」

 坂井弁慶が味方の男子衆を笑わせて励ましたのである。


 遠くにあったと思った小木江城だがあっと言う間に目の前に迫った来たのである。暗闇に明るく浮かんでいた。

「竜宮城やな」

 誰かが呟いた。竜宮城は知らないが。

「閻魔城(地獄の閻魔大王様の城)やろ?」

 誰かの言い分(セリフ)にみんな危うく大笑いしそうになったが。


「作戦はここまで完璧だ。小木江城の護衛の関船もいなくなった」

 船頭は嬉しそうに呟いた。小木江城を守る関船だが沖合の戦闘の応援に出航し不在で小木江城は丸腰になっていた。沖合では安宅船や関船が多数炎上しまだ激しい戦闘が続いていた。

「私は後ろに下がってあなたたち女子衆の戦果を待ちます。手筈通りに。絶対に上手く行く。おいちさん、お菊さん」

 船頭の男はそう言うと下がって男子衆に合流したのである。


 ここから女子衆が先頭に木曽川を泳いで渡り小木江城の門まで行くのである。みんな緊張と恐怖が頂点に達していた。


 お菊も珍しく緊張して弱気になったのと作戦の再確認をおいちに行ったのである。

「おいち。あたしはあんたの後ろにいるからね。でもさ、いくら何でも女の裸を見てお城の門を開けると思う?」

「心配無用や。男はみんなスケベやからな。長い籠城で女を触ってないからみんな女に飢えてるやろうし」

「あんたって結構大人だね」

「アンタこそ うぶ な振りするな!アンタの裸を見たら男は喜んで寄って来るわ」

「ぷっ!」

「あれ?今日はお菊の得意の 清く正しく美しく で怒らんかったな?」

「男はみんなスケベに笑った!」

「まぁでもそれは男の本能やで。仕方ない。子を残さなアカンからな」

「そうだね。でもさ、おいち」

「なんや?」

「理由は何であれ敵の 助けてあげよう と言うあの人たちの 善意 で中に入るんだよね」

「そうやな」

「その 善意 を踏みにじるんだよね」

「そやな。悲しいな。戦やから仕方ない」

「あたしら地獄に落ちるね」

「そうかもしれん」

 お菊とおいちは淡々と話した。


「もし、門が開かなかったら?」

「撃ってくるやろうな。運良く生き残ったら男子と合流して逃げるだけや。上から狙われたら逃げるのも難しいかな。でもこれで死んだら間違いなく極楽浄土に行ける」

「門が開いたら?」

「地獄行きやね。ええやん。一緒に地獄に行こうや。地獄に行く前に雑賀の郷にウチは絶対帰るけどな」

 おいちはお菊の肩をぽんと叩いた。

「分かったよ」


「そや!お菊。アンタに頼んでええかな?」

「何さ?」

「一人目を殺る合図やけどウチは上手く出来そうもない。アンタに頼みたいんや。すまんけどええかな?」

 お菊は少し考えたが

「分かった。殺るよ」

 承知したのである。お菊は 門は開かない と思ったからであるが。

「ホンマにすまん。よし!やったろや!進むは極楽!退くは地獄や!」

 小木江城の目の前の木曽川を泳いで渡ればもう小木江城の門に着くのである。


「おい!水軍衆だが結構大事になってるぞ!」

「まずくないか?」

 小木江城の門の前に立つ織田の門番たちは沖合で燃え盛る織田軍の安宅船や関船を見ながら心配そうに言った。

「今、清州城に支援を頼む早馬を送った!」

「敵の動きが分らん!監視怠るな!」

 門の上の監視の足軽たちも大慌てだった。

「くそ!月が出ていないから暗過ぎて敵の様子が分らん!」

「おそらくだが大鳥居砦と願証寺の間にある長良川と揖斐川の水位が下がると歩いて渡れるって言うから大鳥居砦が危なそうだが?」

 門番の足軽たちが話しているその時であった。


「門番さん!助けてや!」

「助けてください!」

「え?うわあ!」

 門番たちは仰天した。素っ裸の女子数人が助けを求めて突然、川から姿を現したからである。

「怖くて逃げて来たんねん!」

「寒い!怖い!」

「中に入れてください!」

 おいちと小雀、蛍、鶴首ら女子たちは渾身の演技をした。そして門番の男たちが戸惑うのも構わず無理やり抱き付いたのである。

 他の女子もぞろぞろと木曽川から上がり塀の前に並んで

「助けてください!」

「降伏します!抵抗しません!」

「寒い!お城に入れてください!」

 大騒ぎしたのである。

「うわあ!まじで寒い!凍える!」

「焚火に当たりたい!着物も欲しい!」

 ただ本当に寒くて女子は凍えていたが。


「どうした?わ!」

「なんだこりゃあ!」

 門の上の監視兵もたくさんのたくさんの裸の女子に仰天していた。

「秀成様を呼んで来い!」

 慌てて一人の兵が城代の織田秀成を呼びに行ったのである。


 秀成だがたくさんの女子の声がするのと兵に呼ばれたので慌てて駆け付けたが

「どうした!どわあ!」

「ちょっと!なんなの?この娘(こ)たち!」

 秀成と一緒に駆け付けた 秋姫 もたくさんの素っ裸の女子を見て仰天し赤面してた。


「助けて!降参します!武器は無いです!だから恥ずかしいけど裸で来たんです!」

「寒い!助けて!」

 鶴首や蛍も半泣きで演じた。

「くしゅん!くしゅん!寒い!」

 お菊は真剣に寒いのでくしゃみをしてたが。


「どうしましょう?」

「殿から(織田信長から願証寺から逃げた者は一人も脱出させるな、殺すように)命は出てるが」

 秀成は最年長の信広に相談した。信広も戸惑っていた。

「さすがに丸腰の相手を撃つのは気が引ける」

「100人はいますし。若い女子ばかりだし。もったいないし忍びないかな」

 秀成の家老たちもこの女子に同情したのである。

 実際にここに来ていたのは10代半ばから20代前半の若い女子ばかりだったが。

 女子はわざと横に並んで声が城内に届くよう声を上げた。これは川の中に潜む男子に気付かれないためでもあった。

 秀成は悩んだ。


 ただ女子の声を聞いて

「おい!願証寺から若い女子が逃げて来たらしいぞ!裸だぞ!」

「まじか!見せろ!いや、助けてやろうぜ!」

「嫁を探すぞ!」

 城内の足軽たちは違う盛り上がりを見せていたが。塀によじ登って女子を見る者まで現れる始末であった。


 お菊だが演技が下手そうなのでおいちの後ろに居た。門の上を見ると

(あの姫君!)

 梅に握り飯を密かに渡した姫に気付いたのである。

 姫は味方のはしゃぐ足軽に呆れていたが秀成、信広と何か話し合っていた。

(あの人、戦になったら逃げて欲しいけど!)

 お菊は彼女の無事を念じたのである。


「うむむ」

 秀成はまだ悩んでたが

「若様(秀成)、助けてあげたら?忍びないわ」

 秋姫も逃げて来た女子に同情したのである。

「罠かもしれん。くノ一が居るかもしれんが」

 信広は躊躇したが

「くノ一が居たとしても丸腰だから良いんじゃ?兵も喜ぶ」

「むしろ丸腰の女子を殺したって噂の方が織田の名に響きまする」

 一門衆の織田信成と織田信直も女子に同情的に言うと秀成は決断したのである。


「入れてあげよう。焚火を焚いてあげるよう。着物も用意を」

 秀成は命を出したのである。


 秀成と信広、姫たちが指示すると門の上に居た別の足軽兵が手を上げた。

「女子!分かったから落ち着け!」

 おいちと小雀らに引っ付かれていた門番の足軽が言うと門の錠を開ける音が外にも響いた。


(あの人たちの 善意 をあたしたちは 踏み潰していく のさ!あたしたち 最悪さ!)

 

 お菊が心の中で呟くと小木江城の門扉はゆっくりと開いたのである。

 女子衆は歓喜の声を上げたのである。そしてみんな一斉に城内に雪崩れ込んだのである。


「こうなったら 進むも地獄、退くも地獄 さ!生き残るためなら何でもするさ!」

 お菊は涙目で口走った。


「開いた!畜生め!」

「阿弥陀如来様に俺たち しばかれる な。準備!」

 門が開き女子衆が城内に入ったのを確認すると川の中に潜んでいた小次郎、無二ら率いる男子衆も讒言(ざんげ)の念を持ちながら突撃の準備をした。


 地獄の門戸 は今、開かれたのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。