武器は 女 なのさ 21-4
9月中旬になると兵糧を節約するために高齢者は3日に一度、戦いに向いて無い者には2日に一度に食事は減らされたのである。そしてこれに耐えられない体が弱い者は死に始めたのである。
前線に投入されるであろうお菊やおいちや雑賀衆、若衆は1日一度は配給されたが魚も取れる量が減ったのである。織田も兵糧が不足しているのか以前は昼間に女子が魚釣りをしていても発砲せず恋文の鏑矢をのんびり飛ばしてたがここ数日は遠慮なく発砲するようになったのである。魚釣りは夜だけになったのが夜の釣りも9月半ばより雨が降らなくなり願証寺を囲む木曾川長良川揖斐川の水位が下がり魚も釣れなくなったのである。
「最悪な雰囲気だね。お爺ちゃんお婆ちゃん亡くした家族は(願証寺の)偉い人を恨んでるし。みんなお腹が減って殺気立ってるし。敵さんまでも苛立ってるし」
お菊は溜息をついた。
「なんか近く下間(頼成)様は決めるみたいですよ」
「捨て身でここを出るって」
蛍と鶴首が小声で言った。
「おいちや雑賀の重臣衆、小次郎の奴も最近ずっと本堂で作戦会議してるもんね」
「もうお米も蔵にあまり無いって。船(の木材)も壊して薪(燃料)に使ってるから冬も越せないって。やるしかないよ!」
小雀だけ気合を入れてた。
「そうだね。絶対に生き残って大阪に帰っておいしい物を食べるって自分に念じないとね」
お菊が呟いた。
お菊はある日、おいちに声を掛けたのである。
「おいち、お偉いさんは何か良い策を考えてるのかな?みんなもうヤバいよ。持たないよ」
「考えてる。すごい作戦や」
おいちは軽く返した。
「へぇ!教えてよ!」
「秘密厳守で今はアカン。間もなく発表するわ」
おいちは冷静に返した
「それまで持つのかな?」
「持たせる。絶対にやる」
おいちは語気を強めた。
「でもさ、生きて大阪に帰れるかな?」
危険な作戦とお菊は思ったが
「アンタとウチ、女子衆の美少女たちが全てを決めるねん」
「はぁ?」
おいちの返しにお菊は意味が分からず変な声を出したが。
9月最終週、下間頼成らは最期の作戦を実行しようとしていた。
頼成は前線を率いる小隊長を選抜し本堂に集め、最期の作戦の話を始めたのである。
この作戦の第一の目標は願証寺に残っている多数の足弱衆(非戦闘)の住民を脱出させる事である。
何故これほど待ったのかと言うと願証寺を囲むように流れる木曽川長良川揖斐川の水位が下がるのを待ったのである。
川の水位が下がれば歩いて渡れる区間が発生しそれを利用するのである。願証寺の出城として抵抗していた大鳥居砦との間である。
「でも……」
小隊長の誰かが小声で言った。大鳥居砦を今、守るのは柴田勝家の配下衆で織田側もそれを分かっており願証寺から歩いて逃げて来た者を大鳥居砦で狙うべく鉄砲で待ち構えていた。
「本隊は脱出組だ。願証寺の経験の多い強者と盾を付ける」
「盾だけじゃ厳しいのでは?」
心配の声が上がったが
「敵の大鳥居峠の目を反らす。私とおひょう、坊主衆で決死隊を編成する。我々は伊勢湾に展開する織田の安宅船だけを狙って焼き討ちする。出来れば5隻、いや、10隻は焼き払う。そうすれば安宅船を援護すべく敵の船は川から海へ移動する」
「決死隊?死んじゃうってですか?」
誰かが驚きの声を上げたが
「気にしなくて良い。その通りだよ。私はこの戦の責任を取るだけだよ」
頼成は笑いながら言った。
「安宅船を攻めるのは分かりましたが逆上した織田の陸の部隊(小木江城や五明砦)が願証寺に押し掛けて来るのでは?」
「逆にまずくないですか?」
鶴首と無二が心配そうに聞くと
「決死隊の一部を足弱衆が完全に脱出するまで願証寺の護衛に残す。織田の陸戦隊だが兵糧不足や大将格(織田信長、織田信忠、丹羽長秀、柴田勝家、前田利家、滝川一益ら)がここを離脱しているので思ったよりも兵は減っている。逆にこちらから撃って出る」
「こっちから撃って出る?」
小雀と下針が驚いたが
「突撃隊で小木江城を攻略する。ここは織田の一門衆が集まっておりここを攻めれば周りの織田の陸戦隊は慌てて支援に来るはずだ。ここに織田の部隊を惹き付けつつ隙を作り本隊は脱出する」
「小木江城ですが塀も修復されており守りも硬いです!お言葉ですが無理です」
小木江城に入った事があるお菊はそう簡単に突破できないと反対したが
「君の言う通りだ。そう簡単には入れない」
頼成が返すと
「そや!だから美少女隊のお出ましやね!」
おいちが軽く言った。
「はい?」
みんな意味が分からずぽかんとしてたが
「女子衆だが裸で小木江城に行ってもらう。そしてそれに見惚れた所を門を開けてもらう。中に入れればこちらのものだ。接近戦になれば君なら容易いだろ?お菊」
頼成が冷静に言った。
「女子だけじゃ中に入っても倒し切れないですよ!」
小雀が言うと
「男子衆は女子衆のすぐ後ろを行く。女子が門を空ければ男子も乱入するように」
頼成が言うとみんなぽかんとしてたが
「裸のじょ、女子とだ、男子が一緒なの、か?」
どこかの男子が戸惑いの声を出すとみんな冷静になり、またあまりのその奇天烈で恥ずかしい策に女子も男子も顔を赤くしたのである。
「これ、まじ?」
「あたし 彼氏 いないんだけど?」
女子衆はひそひそと動揺しながら赤い顔で話をしていた。
頼成だが構わず続けた。
「部隊配分だが安宅船への決死突撃隊は私とおひょうと願証寺坊主衆、願証寺を守る決死守備隊は(頼成の部下、下間)頼旦と年寄組(50歳以上の者)」
「爺ちゃん、婆ちゃんが」
若者らの悲壮な声が漏れた。
「本隊は顕忍様、願証寺門徒宗、指揮は雑賀衆の岡吉正殿、佐武義昌殿、的場昌長殿らで。戦闘は避けて足弱衆(非戦闘員)も盾を持つよう。大鳥居砦を通り越して多芸大社まで行って各自ばらばらに逃げれば織田の追っ手は来ない。不確かだが伊勢衆や本願寺の陸路隊が動いているとの情報があるので運が良ければ合流するよう」
「はっ!」
岡、佐武、的場らは武勇の者らしく力強く返事した。幾分、動揺も収まったのである。
「突撃隊は雑賀衆、お菊、小次郎、三井寺坊主と坂井弁慶、若者衆の男女全員。指揮はおいちに任せる。1時間後に決行する。食事はたらふく食べて良い。作戦の段取りは指揮隊長に話した通り。健闘を祈る」
「今から1時間後?」
「今夜なの?」
みんな今日とは思わず仰天したがこれは作戦が織田方の漏れないためと天候のためである。
願証寺の中だがにわかに慌ただしくなったのである。兵糧を全て使い切って飯を振る舞ったのである。みんなすごい勢いで飯を食べていたがお菊はあまり食べてなかった。
「お菊!ちゃんと食べな!」
おいちが声を掛けたのである。
「どうしたん?」
「あれを見たら食欲なんか湧かないよ」
お菊は悲し気に言った。
若衆にも両親や祖父母と別れを惜しんでいる者が多数居たのである。
「お菊。あの人たちのために今日は絶対に勝つ。ウチは絶対に雑賀の郷に帰る」
おいちは強く言ったのである。
「おいち。そうだね!ゴメン!弱気で!」
おいちもそう言うと口にご飯を運んだのである。
「お菊さん!」
「梅!」
その時、梅だが頼成とおひょうとやって来たのである。
「頑張ってください!」
「もちろんだよ。梅。大きくなったら大阪においで。待ってるよ」
「うん!絶対に行くよ!」
お菊は梅を抱きしめたのである。
「お菊。君には私からも重ねて礼を言うよ。この作戦は間違いなく成功する」
「はい」
頼成はお菊に握手を求めたのである。お菊だが頼成と握手したが
「あ!」
お菊は頼成の手から凄い何かを感じたのである。ただ恐怖はなかった。
「私は信長公と散々争ったが彼に恨みは無い。彼は下天を治める大儀で戦ってる。私も阿弥陀如来様の教えを広める大儀で戦っている。互いにぶつかるのは必然なのだ」
「はい」
「私は君に同じ力を感じる。私は若い頃は自分の力を汚らわしいと思ったが今は阿弥陀如来様のために使えて誇りに思ってる。君の力は私以上の物を感じる。君も自分の力に怯えるかもしれないが誇りに思い阿弥陀如来様、いや、この世のために使うよう」
「はい?」
お菊は頼成が何を言ってるのかよく分らなかったが。
(なんだろう?人じゃない?あたしもなのか?)
お菊は無意識に思ったが。
最後の食事を終えるとみんないよいよ最終準備に入ったのである。
女子は全員丸腰であるが男子は槍か太刀だけ持った。ただ泳ぐ区間は少しあるのでなるべく身軽にするためである。小木江城に着く前に溺れては仕方ないからである。
「小次郎!この薙刀、頼むね」
「任せろって!小木江城に入ったら真っ先に渡してやる!」
お菊は義姉のさちから引き継いだ代々伝わる愛用の薙刀を小次郎に預けたのである。小次郎も力強く返した。
「では諸君、さらばだ。苦労を掛けてすまなかった」
頼成とお票と願証寺坊主衆だが片道の小舟に乗った。伊勢湾に浮かぶ織田の安宅船目指して突撃するのである。
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
下間頼旦ら残った衆が送る言葉を唱えたが
「頼成様!すぐにワシらも極楽浄土に参りまする」
年寄衆を束ねる老人が言うと
「我々は地獄に行く。あなたちは迷わず極楽浄土に行きなさい」
頼成はにやりと笑うと小舟で出航して行ったのである。
(何だろう?法力みたいなのを感じるけど違う?凄い力だけど?妖力?)
お菊はみんなと一緒に手を合わせながら呟いた。
「姫様!ご無事を!」
雑賀衆だが岡、佐武、的場と泳げないので本隊で行く喜兵衛がお菊と手を取り合っていた。それも終えると
「よし!突撃隊も準備や!女子は前に集まってや!脱いでな!」
おいちが気合を入れて言うと
「うわあ!恥ずかしい!マジで!どしよ!」
普通の女子はみんな躊躇していた。お菊も男子が居るので嫌だった。夜間で明かりが少ないと言え恥ずかしいものは恥ずかしいのである。
しかし真っ先にさっさと脱いだのは海女の集団だった。漁師の男たちも勝手に脱ぎだしみんな平然としてた。
「隠すほどでもねえって!」
「あたいらこれで魚を取って生活してるんよ!」
おいちら雑賀衆の女子もさっさと脱ぎ出したのでみんな渋々だが女子は脱いだのである。
「腰巻も無しやで」
おいちが言うと
「ええ!素っ裸?」
女子は再度悲鳴を上げたがおいちや雑賀衆がそうしたのでみんな倣ったのである。
お菊も渋々である。
ただ男子からも
「男も全部脱げ!女子に失礼だろ!」
雑賀衆の無二と下針が言うと
「そうだな」
男子も褌を脱いだのである。
しかし
「気持ち悪いぶら下がってるの見せんな!履いておいてよ!」
どこかの女子の突っ込みに大笑いが起き、その場は和んだのである。
しかし
「ああ!」
驚きとも悲鳴とも聞こえる声が上がったのである。
沖合の織田の安宅船から火の手が上がったのである。
すぐに2隻目の安宅船も火が上がりしばらくして雄叫びや絶叫が聞こえて来たのである。3隻目でも戦闘が始まったようで鉄砲の音も聞こえて来た。
「始まった!」
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
みんな手を合わせたのである。
さっきの和んだ空気はどこかに飛んでしまったのである。特に戦慣れしていない若衆だがみんな恥ずかしさはどこかに去り、緊張より恐怖が充満し始めたのである。
「みんな!行くで!」
おいちが声を上げたがみんな明らかに恐怖で怯え、進むのを躊躇していた。
「マズイわ!どしよ」
おいちが焦ったその時であった。お菊だが驚く男子衆をかき分けて菊之助の前に行くとにこりと笑って
「菊坊!縮こまっている場合じゃないぞ!行くぞ!」
ぽん と菊之助の背中を叩いて軽く言ったのである。菊之助は恥ずかしそうな顔をしてたが再度大笑いが起きると全員、女子を先頭に小木江城に向かったのである。




