↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/129

武器は 女 なのさ 21-3

 お菊たちだが長島願証寺に籠城して3週間が経過していた。海路だが織田の船団に封鎖されているので兵糧が搬入できず兵糧米が徐々に減り始めていた。野菜と肉は尽きていたが野菜は願証寺の庭を畑にしてカブ、ナス、アブラナなど早く成長しそうな野菜を植え、肉は魚を願証寺の目の前を流れる長良川揖斐川で釣るのである。伊勢湾河口に面してるので運が良ければ海の魚も釣れ、カサゴやスズキ、ハゼが多いが当たれば鯛やウナギ、ヒラメも時々釣れた。

 今日はお菊は調子が良かったがカサゴや小振りなスズキばかりだったが。

「ようし!雑賀の釣りキチおいちの腕前見せたるわ!目標10匹や!」

 おいちが張り切って糸を垂らしたが

「頑張ってね。ふぁあ」

 お菊は興味なさそうにあくびをしながら返したが。


 しかしこの日はおいちは不調だった。

「おかしいな?今日は全然釣れんな?」

 おいちが不思議そうな顔をしてると

「あたしたちもダメですよ」

「お魚さんどこかにお出かけですかね?」

 蛍も鶴首も不調だった。

「今日はあたしの勝ちかな?お魚さんも釣られる相手を選ぶんだよ!」

 お菊がにやにやしながら言うと

「変な男にすぐ釣られるお菊に言われたないな」

 おいちが口を尖らせると

「だって向こうが勝手に来るんだから仕方ないでしょうが!あんただって気になった男をすぐに釣ろうとするでしょうが!」

 お菊が返すと

「勝手に近寄るのは断ればええやん!あとその言い草は勘弁ならん!ウチはちゃんと吟味して釣るわ!」

 おいちが返すと

「話もしないで断るのは失礼でしょうが!せっかく声を掛けてくれてるのにさ!」

「ウチ、アンタの事好きやけどアンタの あたしモテます って言うのがちょっと癪やな!」

「あたしは清く正しく美しくいたいのよ!」

「ぜ ~ んぶ 済んでおいてそれは無いって! うぶ な振りはもうあかんで!」

「なにおぉ!」

 お菊とおいちのいつもの小競り合いが始まると

「あ~ おいち様とお菊さん、また始まった」

「元気だね」

「お腹空いてるから多分、気が立つんだよね」

 小雀、鶴首、蛍が呆れ気味に言った。

「こんな時に何やってるんだか」

 小次郎も呆れ気味に返したのである。


 その時、鏑矢(かぶらや)が織田の関船から音を立てながらのんびり飛んできたのである。そのまま小次郎の近くに着地した。

「なんだ?」

 手紙が括り付けてあり小次郎も理解したのである。

「しょうがない連中だな。俺がその 恋文(こいふみ) とやらを読んでやるか。ええと 賑やかなあなたたちを見ていると故郷に置いてきた娘を思い出します。この戦が何事も無く静かに終わりあなたたちが無事に故郷に帰れるのを祈っています。私も故郷の娘に会いたいです。なんだこれ?恋文じゃないぜ。 オッサン からだぜ。まぁ良く出来てるけどな」

 小次郎は軽く言ったが

「あなた。もうちょっと成長しなさいな」

「ホンマやで。これはめちゃええ話やで。心配する親子(おやご)さんの想いやで」

 しかしお菊とおいちは小次郎の予想外に大真面目に返したのである。

「分かってるぜ!でもここは 戦場 だろうが!敵さんの 情け も結構だが俺たちは干からびるまでここに居る訳にはいかないんだぜ?この良い オヤジさん を倒してでもここを出ないと行けない時も来るのさ!」

 小次郎も一気に返すと

「なにさ!その 優しくない 言い分さ!」

 お菊は感情的に返したがただ、それ以上小次郎には返せず

「まぁそうやけど。確かにここで干物になるのは嫌やけどな」

 おいちも冷静に返したのである。

「これからどうなるか分かんないが俺は覚悟してるぜ!絶対斬り合いになってでもここを脱出するぜ!」

 小次郎が今度はいらつきながら屋敷に戻って行ったのである。 

「何さ!もう。でも確かにどうなるんだろ」

「ほんまやな。そろそろ米も尽きそうやし」

 お菊とおいちが心配そうに返すと突然、大雨が降って来たのである。

「わ!」

「釣りはおしまいや!」

 女子衆も慌てて屋敷に帰ったのである。


 翌日もその翌日も空いてる時間は女子衆は塀の上で昼間から交代で釣りである。

 籠城でする事が無いので時間潰しになるが本当に兵糧が急激に消耗し不足しており少しでも 食料 を確保するため魚を釣るのである。お菊は内心は辟易してたが。

「ふわぁ。眠い。昨日は俺たちはイマイチだったな」

 小次郎が眠そうに言った。男子衆は真夜中の暗闇で魚を釣るのである。昼間に男が塀の上で魚を釣ると織田の関船から撃たれるからである。

「男は大変やねぇ」

 おいちが小次郎を冷やかしたが

「まぁ、女は確かに撃たれないよな!生きたまま捕まえりゃ売り物にもなるし気に入ったら自分の奴隷(モノ)にすりゃいいもんな」

 小次郎が嫌な返しをすると

「ねぇ小次郎。苛立ってるのは分かるけどさ。もうちょっと まとも な言い方したら?」

 お菊もいらっとして返すと

「本当の事を言って悪かったよ!」

 小次郎は不機嫌に返すと屋敷に戻ったが。

「あ~みんな苛立ってるな!」

 おいちは諦めたが

「ほんと。でもお腹、空いたな。鶏(とり)さん食べたいな。甘いお団子も食べたい」

 お菊も元気なく呟いた。

 食事だが兵糧を節約するため8月末になると1日1食に絞られていたのである。みんな空腹で苛立っていたのである。


 数日後、おいちは織田の小木江城に降伏の交渉に行っていた三井寺坊主と坂井弁慶と話しをしたのである。毎日のように行っては何の進捗も無く帰って来るのであるが。

 2人の冴えない顔を見て

「今日もダメかいな」

 おいちが聞くと

「今日もダメでした」

「あとは本願寺の判断だけですが」

 三井寺坊主と坂井弁慶も返した。

「それも望み薄かいな」

 おいちも諦め気味に言った。

 信長は願証寺だけでなく石山本願寺の明け渡しも求めていた。だから願証寺を封鎖して人質として取っていたのである。本願寺が応じないので願証寺が苦境に陥っていたが。

「小木江城の織田の諸将は我らに同情してくれるのですが信長公がやはり厳しいようで」

 三井寺坊主が言うと

「やっぱダメかいな。なんか良い策ないかいな。干物になるのは嫌やな」

 おいちはぶつくさ言った。

「おいち様。こうなったら敵に 情け を掛けてもらうしかないですが」

「小木江城の織田の若様や諸将だけでなく伊勢や尾張の織田の足軽兵にも門徒衆が居るので我らにも同情的な者も多いです。ここの親子を連れて行って泣きを入れてみようかと」

 三井寺坊主と坂井弁慶が練ってる作戦を言った。

「そんな芝居に引っ掛かるか分からんけど。他に手段も無いしな。ダメ元かいな。やるしかないかいな。頼旦様に相談するかいな」

 おいちもやり方を変える事に同意したのである。


 9月上旬、お菊は頼成の居る本堂に呼ばれたのである。頼成の横においちら雑賀衆と重臣衆も居た。

「あたしが?この子と?」

「危険な頼みですまないが君に受けてもらえないか?」

 頼成はお菊に頭を下げたのである。頼成の横には3歳くらいの女子が居た。この女子は梅と言うが両親は戦死し孤児で願証寺で育てていると言う。

 ただ、おいちは頼成の横で不満そうな顔をしていたが。


 願証寺だがお菊が梅と小木江城に行って親子を演じて涙で降伏を訴える策を練った。ただ信長だが願証寺から逃げた者を殺すよう命を出していた。危険な目にあったら捨て身の抵抗をするのである。だからお菊が選ばれたのである。

「もし君に危害を加えるようであれば君は遠慮なく暴れたまえ。君なら容易いだろう」

 お菊の実力を知っている頼成が言うと

「その時はワシらもお菊殿と一緒に全力で逝きます!」

 三井寺坊主と坂井弁慶も覚悟したのである。

「まぁそうなったらここも攻められるだろう。でも我々も受けて立つよ。兵糧を考えるともはや仕方ないのだよ」

 頼旦も覚悟を決めたように言った。

 お菊だが悩んだがこのままここで飢える事を考えると捨て身でやってみる事にしたのである。


「お菊!すまんわ。こんな展開になるなんて思わなかったわ!帰って来てや」

 出発前においちはお菊を涙目で抱きしめたのである。

「帰って来なかったら多分、織田はここを落としに来るよ。先に極楽浄土に行くだけだよ。あんたらあたしの事は気にしないでもここで頑張ってよ」

 お菊も諦めたように言った。

「そやな。そうなったらここで終わるのも仕方ないかいな。南無阿弥陀仏。嗚呼、雑賀の郷に帰りたかったわ」

 おいちは涙目で言った。

「おいち!諦めんな!お菊!俺はお前が帰るの待ってるからな!」

 小次郎は強がった。

「良い根性だね。小次郎らしいよ」

「本気だ。俺は死なないぜ。ここで死ねるか。絶対に大阪に帰る。気合入れて帰って来いよ」

 小次郎だが両手をお菊の頬にそっとやったのである。

「分かったよ」

 お菊も笑って返したのである。


 小木江城だが願証寺の北側に木曽川を挟んで目と鼻の先に建つ城である。小木江城から北に進むと尾張まで陸路で行けるので織田家の重要防衛拠点であった。船だと願証寺から1キロとすぐである。

 お菊は地味な着物に着替え、桂女のように頭に白い布を巻いて自慢の長い黒髪をその中に束ねた。母親らしく見せるためである。小船に乗るとお菊は梅に優しく言った。

「梅。今日はあたしの事、母上って呼んでね」

「うん、母上」

 梅はお菊に抱き付いた。

「でも生きてここに帰れるのかな」

 3歳の子供と思えぬ言葉にお菊は衝撃を受けたが。

「大丈夫だよ」

 お菊は笑って返し梅をぎゅっと抱きしめたのである。

 細身な強面の船頭は慣れた手付きで木曽川で小木江城を守る織田の関船に手を振り合図をしながら小舟を進めた。

 20分ほどで一行は無事に小木江城に着いたのである。


 小木江城の門が開くとお菊と梅、三井寺坊主、坂井弁慶は中に入ったのである。


 織田信長だが小木江城を拠点に指揮を取ろうとしていたが信長は長期戦への備えと休憩で清州城に帰っており城代は弟の秀成に任せたのである。補佐には信長の庶兄の信広や織田の一門衆も付けていた。

 小木江城だが小振りな城だが塀や門は修復されており外からの守りは硬そうだった。ただ城内は櫓や大小の屋敷と蔵があるだけの簡易な構造だった。中で乱戦になれば脆いかとお菊は察した程である。

 

 三井寺坊主と坂井弁慶はいつものように慣れた感じで城内に入った。城内で三井寺坊主と坂井弁慶に対応する者もいつもの事で慣れていた。ただお菊と梅を見て少し戸惑っていたが。それでもお菊は梅と冷静に振る舞ったが。

 しばらくして屋敷に居た城代の秀成の前に通されたのである。

 秀成だがお菊の思ったよりもかなり若い自分に齢が近い17歳前後の若者に見えた。秀成の横には同じ年齢かと思われる姫も居た。

 秀成を支える信長の庶兄の信広は50歳手前の年齢相応の温厚そうな男であった。

 秀成はいつものように三井寺坊主と坂井弁慶と解決策が無い話をだらっとしてたがやはりお菊たちを見て

「どうします?」

 と困惑気味に信広や一門衆と小声で相談していた。信長は願証寺から出て来た門徒衆は成敗(殺す)するよう命じていたがやはり若い幼い母子を見て情が出たようで忍びないと思ったようであった。

「ちょっとかわいそうよ。あんまりよ」

「でも兄上の命は逆らえないし。何か良い策ないかな?」

「本願寺と交渉中なので でどうかな」

 秀成は姫と信広と小声で相談していた。


 しかししばらくして槍を持った足軽が数名お菊と梅の周りに展開したのである。

「母上!」

 梅が怯えたが

「大丈夫!」

 お菊は梅を抱いて安心させようとした。ただお菊はいざに備えて前掛けの下に巻いていた派手な腰紐の内側に脇差を隠していたのである。

「叔父上(織田信直、信長の妹婿)!しばし!」

 秀成が慌てて止めたのである。

「殿の命はやはり」

 信直は信長の命通りに動こうとしたが

「兄上と本願寺との交渉中に余計な火種は立てたくなく!」

 秀成が返したのである。しばらくすると信直は足軽を下げたのである。お菊と梅はまずは安堵したのであるが。

 お菊だが思い切って直訴したのである。

「若様!せめて子供や女子だけでも外に!我々は今後は信長様に従います!二度と逆らいません!」

 お菊は秀成に深く頭を下げたのである。

「お気持ちは分かりますがあなたたちを外には出せませぬ。本願寺と兄上は交渉していますが不調と聞いています」

「すまんが恨むなら本願寺を恨んでくれ」

 秀成と信広はお菊の願いを断ったのである。本願寺と信長の交渉はやはり平行線だったのである。

「今日もめぼしい成果がなかったが。悪く思わないでほしい」

 秀成は寂しそうに言った。

 結局は何も進展なく願証寺に戻る事になったのである。


 小木江城を出る直前

「ちびっ子!これをお持ち帰り!」

 秀成の横にいた姫が駆け寄って梅に何か手渡したのである。

「?ありがとう」

 梅は不思議そうな顔をしたが握り飯が入った袋を渡したのである。

「わあ!」

 梅は中を見て素直に喜んでたが。

「ありがとうございます。でも、良いんですか?」

 お菊が逆に姫に心配そうに聞くと

「私たちだって何も好き好んでこんな事していないのよ。仕方なくしてるの。恨まないでね」

 姫は悲しそうに言った。

「分かっています。分かっていますが。あたしたちだって(なんで本願寺が助けてくれないのさ)」

 お菊は全部言うのを止めたのである。


 小舟は願証寺に戻って行ったのである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。