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母なるとは良いことさ 20-4

 1574年6月末だが石山本願寺の命でお菊、おいち、冬と小次郎は雑賀衆の船団で長島願証寺への救援部隊として向かっていた。

「まったく凛凛の奴!船が苦手だからってまたドタキャンかいな!」

 おいちは膨れていた。

「仕方ないって。苦手のものは苦手なんだよ」

 冬がお凛を庇うように言った。

 お凛だが再度船と海が苦手との理由で海路隊への編入を拒否したのである。ただ顕如もそれは理解してお凛ら堺衆は陸路隊に編入されたが。

「それにしても本願寺も今回はマジだな」

 冬は乗船する安宅船に並走するもう1隻の安宅船と4艘の護衛の関船の船団を見ながら呟いた。

 本願寺だが顕如が檄を飛ばし長島願証寺にも多数の門徒が集まっていた。

 顕如も今回は信長との戦いはもう避けられないと覚悟し多数の門徒や雑賀衆を動員したのである。

 おいち、冬、お菊、小次郎の乗る安宅船にはおいちが爺やと呼ぶ鈴木家の重臣の岡吉正が乗り船長の狐島吉次も鈴木家の重臣である。

 もう1隻の安宅船も船長は松田源三と言う鈴木家の重臣が操船し七ッ童子(ななつわらし)の小雀、蛍、鶴首、下針、発中、但中、無二らが乗っていた。

 関船にも白浜で騒ぎを起こした菊之助、喜兵衛、三郎ととおいちの父親の直臣の佐武義昌と的場昌長が乗り、雑賀の浄土真宗の強靭と評判の僧の坂井弁慶と三井寺坊主らまで動員されていた。

「信長公に ぎゃふん と言わせんとね!二度ある事は三度あるやね!」

 おいちもこの雑賀衆の大戦力を見て自信満々に言った。

「姫様。今回は幸運と思った方が良いですな。この紀伊半島の南側は波が荒くて結構危険な航路ですから。今回はおそらく阿弥陀如来様の御加護があったのでしょう。物資は順調に願証寺に運べましたからな」

 船長の狐島吉次も笑顔で続いたのである。

 今回だが海が穏やかで願証寺に何度も船団で物資を運び込めたのである。

「ただし、信長公もかなりの船を集めているので海戦になるかもしれませんが」

 船長は最後に心配そうに言った。

「殿(鈴木重秀)から船を失いたくないので海戦は控えるよう言われてますからのう」

 岡が続いた。

「承知や。帰りの船が無いのは困るからな」

 おいちも続いた。

「織田の戦力は7万。こちらもそのくらい集まってるので前のように行くと良いのですが」

 前回の長島合戦では信長は願証寺への補充を断ち切れず信長側の兵糧が不足したので包囲を断念して1ヶ月で撤退したのである。

「今回ですが敵の船だけは注意ですな。予想外に多い可能性がある」 

 船長は呟くように言った。


「あれ?ところでお菊と小次郎はどうした?」

 冬がお菊と小次郎がいないのに気付くと

「姉さん。あれ」

 冬の配下の駿河衆が苦笑いしながら船酔いで船縁から海に顔を突きだして伸びてるお菊と小次郎を指差したのである。

「ありゃりゃ」

 冬も苦笑いである。

「気持ち悪い。こんなゆったりした動き、慣れない」

「うぇえ。早く着いておくれよ」

 この日の海は穏やかであったが波に合わせてゆったりした船の上下の動きは慣れてないお菊と小次郎は参っていたのである。


 船団は順調に東に進み長島願証寺に向かっていた。

 ただ船長は南蛮望遠鏡を覗き込みながら伊勢志摩の沖合はかなり陸から離れて大回りしていた。そして何か配下の者と相談していた。ただこの日は問題なく通過で来たのである。

 伊勢湾に入り波が収まるとお菊と小次郎は船酔いからようやく解放されたのである。

「お菊!小次郎!元気か!」

「元気じゃないよ」

 おいちにお菊は返したのである。

「なぁ!お伊勢さん(伊勢神宮)にみんなで行こうや!」

「え?大丈夫?」

「物見遊山じゃないぜ?」

 お菊と小次郎は怪訝な顔をしたが

「ええやん!爺やと船長の許可を取ったし伊勢山田(山田三方)には雑賀衆の馴染みの商人が居て話も通るねん!」

 おいちは目配せした。

「まぁ、爺やさんと船長が良いなら良いかな」

 冬も同意したのである。


 おいちの船だが船団を離れて単独で伊勢山田に向かったのである。ただ船長の判断で沖合でも伊勢山田の町から見えないような河口の沖のへんぴな場所に船を泊めると小舟に乗り換えて船長の配下の者が町に向かい、安全を確保してからおいちらも船長と伊勢山田に上陸したのである。


「へぇ、立派な旅館だ!」

「やろ!」

 雑賀衆の馴染みの旅館の前においちは満足そうに言った。

「おいちさま!ご案内しますよ!」

 旅館の者で雑賀衆に通じている若い男女が伊勢神宮まで案内してくれると言う。

 ただお菊だがこの2人を本能的に 忍び と見抜いてしまったが。

「伊勢山田は堺と同じで商人(会合衆)が統治していますのであたしたちに手を出すことは無いと思いますが織田信長公が伊勢志摩の九鬼嘉隆の志摩城に入ったそうです。信長公の配下の者が町中をうろついてるみたいなので気を張っておいてくださいね!」

 女子が言った。

「お菊、結構モテるからなぁ!この前の佐久間殿の部隊に居た出来損ないの西遊記みたいなのにナンパされたくないな!気を付けよ!」

 おいちが軽く言うと

「小次郎が今日は居るから大丈夫だよ。小次郎、ちゃんと彼氏らしく演じてよ」

「お前なぁ!」

 お菊の言い方に小次郎は怒ってたが。おいちと冬は笑い転げてたが。


 馬の背中に揺られて30分で一行は伊勢神宮に着いたのである。

 一行は外宮、内宮を廻ってお祈りし、伊勢山田の町に何事も無く帰ったのである。

 旅館に戻る途中、

「お茶でもします?あんこ餅がおいしい茶店がありますよ」

 案内の男女が誘ってくれたのである。


「おいしい!」

「ほんまや!お代わりもらおかな?」

「歩いた後は甘いのは体に良いな!」

 お菊、おいち、冬、小次郎は名産のあんこ餅を満喫してた。

「名物なんですよ。もう100年近くここでやってるんですよ。お茶も特産ですよ」

 店の主の老婆が話してくれた。

「俺の駿河も茶は産地なんだよ。ふうん」

 冬は懐かしそうに飲んでた。


「ところで何を祈ったん?」

 おいちがお菊に小声で聞くと

「平和な世が来ますようってね」

 お菊が返すと

「アンタさすがやね!偉いわ」

 おいちは感心したが

「あんたは何お祈りしたの?」

 お菊がおいちに聞くと

「イケメンの若い旦那が来るようにや!」

 おいちが返すと

「もっとまじめにお祈りしなさいよ!あんた雑賀の姫なんでしょ?もう」

「まじめや!」

 お菊とおいちが小競り合いしたのである。

「お前らなぁ。しょうがないな」

 小次郎が呆れてたが。

「じゃあアンタは何を祈ったねん?」

 おいちに小次郎は聞かれると小次郎は少し赤くなって

「別になんでも良いだろ?」

 知らん顔をしたが

「分かったわ!当ててやるわ!かわいいお菊と仲良くなりますようにや!」

 おいちがにやにやしながら言うと

「違う!」

 小次郎とお菊は顔を赤くしながら同時に怒ったのである。

 冬は苦笑いしていたが。


 その時である。

 町の奥の方で悲鳴が聞こえたのである。

「どうした?」

 案内の男女が緊張すると

「ヤバい!信長公と九鬼殿や!」

 人々が奥から逃げて来たのである。

「あれは福島様のお屋敷だけど!どうしてかね?」

 茶店の婆やが声を震わしながら言った。福島屋は伊勢山田の商人の代表格である。

「福島様のお屋敷になんで信長公か?」

 男女も緊張気味に言ったが本当に信長だが馬で九鬼嘉隆と福島屋の前に押し掛けて馬を降りると配下衆や小姓衆らと福島屋に乱入したのである。

 店から男女の叫び声がするとしばらくして返り血で血だらけの信長が出て来たのである。

 そして信長の小姓が福島親子の首を持って出て来たのである。

 辺りは悲鳴に包まれた。お菊たちも唖然と様子を見ていた。

「俺に逆らい長島願証寺を手出すけする輩(やから)は今後は俺が成敗する!」

 信長だが大声で怒鳴ったのである。

 町衆はみんな恐怖で悲鳴を押し殺しながら信長にひれ伏せたのである。

「フン!」

 信長はそれを見て少し満足そうに落ち着いたのである。

 おいちたちもその場の空気に合わせて慌ててひれ伏せたのである。


 しかし

「ン?」

 信長だが突っ立って自分を睨む者に気付いたのである。


「こいつ、法力遣いか?」

 信長はその女子を見ると小声で呟いた。


 お菊だが立ったまま信長を睨み付けていたのである。

 体から法力を発し眼を赤く光らせていた。

「こいつが信長公?こいつがあたしの真の敵だ!」

 お菊は口走った。


「わ!お菊!何してんねん!」

「バカ!」

「お菊!頭を下げろ!」

 おいちと小次郎、冬が慌てて無理やりお菊をひれ伏せさせたのである。


 信長だがお菊の方に歩いて向かってきたのである。

「わ!マジでヤバい!」

 おいちが悲鳴を上げた。

「絶対に頭を上げないで!」

 案内の男女も口走った。

 小次郎と冬はお菊を抑え込んでいた。


 信長だが

「俺の前で良い度胸だ。気に入ったよ。女子(おなご)よ」

 不気味に言ったのである。

「申し訳ありません!貴方様が恐ろしくてついつい!」

 冬が信長に詫びると

「まぁ、良いだろう」

 信長はそう言うとにやりと笑って去って行ったのである。


「ふう。危なかったわ。冬さん。すんません」

 おいちが冬に詫びると

「お菊!頼むぜ!あれ?お菊。大丈夫か」

 小次郎がお菊に文句を言ったがお菊はまだ法力に囚われていたのである。

 無事に宿に戻ってお菊はようやく元に戻ったのである。ただお菊は何をしたのかあまり覚えていなかったが。


 ただ信長が長島願証寺に味方する豪商を直接殺した事は伊勢山田の豪商らに大きな影響を与えた。狐島船長と岡吉正だが信長からの追っ手や夜襲の危険を感じて直ぐに安宅船に戻って長島願証寺へ出航したのである。


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