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母なるとは良いことさ 20-2

 お菊たちが石山本願寺への布施の対応で大忙しの1573年12月、伊勢の長島願証寺の救援に海路で行っていた雑賀衆の鈴木重秀、六花仙の冬、お静、清兵衛が雑賀の郷に帰って来た。陸路で大和、甲賀経由で伊勢まで進んだ六花仙のろくとマリアも石山本願寺に帰って来たのである。

 ただ織田信長との戦いは一件落着ではなく激化を予想させる事件が次々と起きたのである。


 1574年1月の終わり

「アミ-ゴ!みんな元気に働いてるね。儲かってそうで何よりね」

 伊賀衆の舞が百地正永、正西親子と一緒に布施をしにやって来たのである。

「グラッェ!儲かってるで!へとへとやけどな」

「舞!久しぶりだね!」

 おいちとお菊が返したのである。


「顕如様に報告がたくさんあってね。小次郎、お布施は頼むね」

 舞たちは伊賀の名産のかたやきと言う固い保存が効く餅や甲賀で生産される信楽焼の壺を持って来たのである。

「さすが舞だな。戦で使える物ばかりだな」

 小次郎は軽く言っただけだが

「そ!今年は大変なのよ!後で本願寺の偉い人から聞いてね」

 そう言うと舞たちは本堂に向かったのである。


「(駿河と伊豆の出の)お静と清兵衛だが(武田)信玄公の後継者の勝頼公から依頼で本願寺に戻る予定を変更してそのまま国に帰ったらしい」

 一郎が舞たちの布施を蔵に運びながら言った。

「勝頼公だが将軍様の信長攻めに応えるため織田領の西美濃と徳川領の東遠江に攻め入るので兵が必要だからね」

 平助も一郎を手伝いながら続いた。

「俺らも春になったら国に帰るって。越前一揆衆の物になった敦賀湊から加賀の門徒へ物資を運ぶのをおふうさんと対応するって」

 庄助も続いた。

「でも越前の一揆って門徒衆は関係ないでしょ?」

 たまが不思議そうな顔をしたが

「加賀の門徒に戦の達人って取り立てられている本願寺の杉浦玄任さんが越前に入って土一揆を煽ってるってさ」

 庄助は呆れ気味に言った。

「あのオジサン相変わらずだね」

 杉浦玄任だが近江でも六角義賢らを散々煽っていたが越前の土一揆にも同じ事をしているのである。さすがにお菊も呆れたが。


 2月になるとお菊たちは布施を集める巫女の仕事もようやく一段落して午前は武道の訓練、午後は巫女の生活に戻ったのである。

 道場で

「新しく来た雑賀の女子3人はなかなかやね!」

 お凛が感心していた。

 おいちが連れて来た小雀、蛍、鶴首だが真面目に組み合いの訓練をし、こずえやたま、まえこ相手に互角以上に対応していた。

「あたた。男子もやるじゃないか」

 庄助が無二に投げ飛ばされてうなっていた。

「すみません!庄助さん。ちょっと力入れ過ぎました!」

 無二は庄助に謝っていたが。

「心強いね!これからは本願寺に来るのがあたしたちだけじゃ難しいかもしれないからね」

 舞がやって来た。

「何でやねん?」

 お凛が聞くと

「伊賀の郷は大変なのよ」

 舞は事情を説明したのである。


 信長だが大和の統治は松永久秀から筒井順慶と言う大和の出の武将に責任者を切り替えたのである。久秀の今までの裏切り等の行いから仕方ない面もあったが。

 筒井順慶の上官に明智光秀が付いて大和の統治を厳格にすると言う。

 目的は大阪の石山本願寺と長島願証寺の行き来を遮断するのと伊賀への締め付けである。


 伊賀は守護が居たが元々伊勢や大和の寺院勢力の荘園(領土)が多く統治を任された地侍が勢力を伸ばし自治的に統治していた。紀伊の雑賀の郷の 惣 の統治に似たような状況だったのである。信長だが長島願証寺を抑え込むにはこの地域と道を抑えようとしたのである。信長の目標は最終的には伊賀の 惣 を倒し織田領にする事にもあった。

 甲賀は近江が織田領になった事で 惣 は失われようとしていたが伊賀は手付かずだったのである。

 

「越前の土一揆、甲斐の勝頼様、長島願証寺、石山本願寺で魔王の信長公と戦おうってね!顕如様は受けてくださったのよ」

 舞が嬉しそうに言うと

「そや!ウチらは負けんわ! 惣 は正しいんや!」

 おいちが気勢を上げた。

「海路は(安芸の)村上水軍も付いてくれるので補充は心配無用です!」

 小雀が横から入って来た。


 安芸(広島)の毛利輝元は織田信長と表向きは友好だったが毛利の息が掛かる播磨や但馬(兵庫)に信長が手を出そうとしてる事を不快に思っていた。密かに配下の村上水軍に本願寺や雑賀衆への支援を行い始めたのである。


「噂だと勝頼公だけど織田の西美濃を落としたらしい。武力は父の信玄公譲りとか」

 尾張の出の一郎も入って来た。

「信長公も越前か長島に集中したいから勝頼公とは穏便に済まそうと思ってるみたいね。でも実は勝頼公の妹が信長公の嫡男の奇妙様と政略婚の予定だったみたいだけど本当に良い仲なんだって。それで信長公の正室で美濃の帰蝶様がその件を気にしてるから信長公も動けないみたいよ」

 伊勢の出の千代目も続いた。

 お菊だが京で明智光秀と帰蝶に会った時、光秀が帰蝶を 影の主君 と言った事を一瞬思い出したが。

「ええ話やな!政略婚でも 愛 が育まれるなんてな!それで 武田と織田 が仲良くなったら あれ? 本願寺はマズイかいな?あかんな。世の中うまく行かんわぁ」

 おいちが微妙に言ったが。

「あんたも頑張りなさいよ。どこに嫁に行かされるのか知らないけど」

 お菊はおいちに言うと

「わ!その他人事な言い分(セリフ)は気に入らんな!」

 おいちがお菊に膨れたが。

 しかし

(梓、大丈夫かな?なんだろ?急に胸騒ぎしたな)

 お菊は歩き巫女の梓も急に思い出したが。


 この春だが石山本願寺と信長の関係は悪化の一途であった。


 まず若江城を脱出した足利義昭だが堺を経由して雑賀衆ら石山本願寺に友好的な勢力が根を張る紀伊に入ったのである。義昭を京に戻すよう信長は本願寺に文句を言って来たのである。本願寺は紀伊は友好勢力の地域であるが指導までは届かないとはぐらかしたが。


 するとそれのお返しと言わんばかりに淀川を挟んで本願寺の向かいにある細川昭元が籠城していた摂津中島城を信長配下の荒木村重が奪い取ったのである。

 今度は本願寺が信長に抗議したが信長は村重が勝手にやった事で知らないと交渉に応じなかったのである。村重は信長から摂津の切り取りは好きにしろと許可されていたが。


 ただ本願寺も信長の怖ろしさは承知していた。

 信長だが今年の正月の岐阜城の新年の挨拶で昨年討った朝倉義景、浅井長政の遺骸をわざわざ墓から掘り起こして頭蓋骨(しゃれこうべ)を漆と金箔で塗って加工し諸将の前で披露したと言う。その意図は不明だが まとも では無いと噂は飛び交っていた。


 さらに信長は大和東大寺の正倉院に収められている香木、蘭奢待を切り取ったのである。蘭奢待は権力者のみが切り取りを許され過去には有名な人物では室町将軍では足利義満、義教、義政が行っている。そして切り取った蘭奢待を東大寺の近くの大和多門山城で諸将に披露し暗に自分は足利将軍を超えたと主張したのである。

 ただ信長の難しいのは家臣の筒井順慶や塙直政を介して朝廷、正親町天皇の赦しを得て行い2片切り取った内の1片を正親町天皇に寄付しているので 横暴 とまでは言い難いのであるが。


 信長だが義昭が居なくなった後だが正親町天皇に近付き年号も元亀から天正に変えている。


 本願寺だが信長とのこのような諍いの経緯から尾張の出の一郎と伊勢の出の千代目を信長への気遣いとして実家(寺)に戻したのである。

 本願寺としては一郎と千代目には信長に本願寺としては浄土真宗の教義を広めたいだけで争うつもりは無いと伝えてもらおうと考えたのであるが。


 1573年の暮れより信長が滅ぼした旧朝倉領の越前でも信長に反発する土一揆が起こりこれに隣国の加賀の一向宗が介入し協調しようとしていた。

 土一揆だがあっと言う間に光秀配下の溝尾茂朝ら信長の代官を追放したのである。

 本願寺もこの動きを見て急遽、信長に配慮して土一揆ではなく加賀の門徒衆に支援物資を再度送る事にしたのである。

 おふう、たま、庄助を越前敦賀に派遣しマリアとろくの部隊も本願寺に友好的で信長を良く思わない丹波に播磨経由で派遣したのである。


 しかし本願寺の読みは外れたのである。


 信長は先に長島願証寺を征伐するため大量の軍船を造ったり買い集め、尾張や美濃にも大軍が集まっているとの知らせが長島願証寺より入ったのである。

 

 本願寺だが急遽、雑賀衆、おいち、お菊、お凛、小次郎らに海路での救援軍の準備を命じたのである。

 陸路は大和が通れないので紀伊山地を進む進軍困難な陸路隊を心眼、阿形、吽形と弥生に編成準備を命じたのである。

 信長だが長島願証寺には降伏せねば7万の大軍で根切り(殲滅)すると事前に信長なりの優しさで伝えたのである。

 いよいよ3度目の長島合戦が始まろうとしていた。


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