若いから許されるのさ 18-3
明智光秀と島田秀満が声のした方を見ると雑兵は全員突然現れた僧兵の部隊5名に斬り倒されていたのである。先程の家族は横で呆気にとられていた。
「ほう!これは!」
島田は嬉しそうな声を出した。
「よくやる。どこの僧兵か知らないが信長公に逆らう度胸は誉めてあげるよ。生かして返す訳には行かないけどね」
光秀が言うと新たに雑兵が展開したのである。
「お菊!よりによって明智殿だとよ!どうする!」
小次郎は焦ったがお菊は冷静に状況を見て
「どうするもこうするも突破するよ!今日は周りがいないよ!出来るよ!」
光秀だが重臣の溝尾茂朝、三宅秀満、藤田伝五や荒深小五郎など配下衆を前線に投入していたのである。京の町衆相手であれば大した反撃もないと判断し光秀にはわずかな護衛しかいなかったのである。
お菊だが突然被っていた法衣袈裟を外したのである。
「お菊!余計な事をすんな!」
小次郎は焦ったが怒りのお菊の前では無意味であったが。
お菊の長い黒髪が風になびいた。
「なんだ!この僧兵、女じゃないか!」
「調子に乗って!やっちまえ!」
雑兵5人がお菊や小次郎らに襲いかかかったがお菊たちは苦も無く5人を斬り倒したのである。
「何!まさかお菊だど?なぜここに居る!」
光秀はこの女僧兵がお菊と気付き仰天したのである。
「殿!後退を!この戦力では連中の相手は厳しく!」
光秀の護衛の明智兵もお菊らを石山本願寺の兵と見抜き危険を感じ光秀に後退を勧めたのである。
「明智殿!京都所司代のあなたが京の町衆を殺めるなんて失望しましたよ!」
お菊が啖呵を切ると
「将軍様が全ての元凶なのだよ」
光秀は無感情に返したが
「他人のせいばかりにする男は女は嫌いですよ!」
「大局が分からない小賢しい子供の分際で!」
お菊の返しに珍しく光秀は珍しく激高したが島田は苦笑いしていた。
「義はあたしたちにあります!突破しますよ!」
お菊だが今日は法力は使っていなかったが何か強烈な力を光秀は感じたのである。
「僕の邪魔ばかりする悪い子が。ここは僕が抑える。援軍を呼び戻せ」
光秀は配下の明智兵に命ずると自ら太刀を手にしたのである。
「雑兵とて盾くらいになるだろうさ」
雑兵を前にして後ろに構えたのである。
「覚悟!行くよ!」
お菊たちはそう言うと薙刀を持って猛然と突っ込んだのである。光秀は雑兵には期待していなかったが光秀の予想通り雑兵たちは次々と倒されると光秀はお菊と太刀合わせしたのである。
「ふうん。君は随分と無慈悲に人を斬れるね?」
「人と思っていないさ!獣と思ってるんだよ!」
「死ぬ前になんで殿(織田信長)が上京を焼いたか教えてやろう。ここの連中は金とか過去の伝統とかを盾に殿に放漫な態度を取ったのさ。だから成敗してやるのさ」
「そんなつまらない理由?」
「侍は名誉を重んじるからね」
「撫で斬りや焼き討ちなんて名誉を重んじる侍がする事じゃない!」
「そうだね。でも自分に従わない連中は名誉を汚すのと同じなのさ」
光秀は隙を見て得意技の水平斬りを掛けたがお菊はひらりと跳んで避けたのある。
「出来るようになったね。素晴らしい」
「明智殿。今日はあまり気が乗らないようですね?」
「何を言うんだい?」
「いつもより太刀振りが遅いですよ。それではあたしを倒せませんよ?」
お菊がにやりと笑いながら言うと
「何を!」
「分かっていますよ。この作戦はおかしいってあなたも考えている。だからいつものように力が出せないんですよね?」
お菊は再度にやりと笑ったのである。
「相変わらずなんと小賢い。否定はしないさ。でも笑っていられるのは今のうちだね。間もなく織田の正規の援軍が来る。そんな人数でどこまで持つかな?」
光秀の言った通りだが光秀が呼んだ救援の信長の本隊が戻って来たのである。雑兵とは明らかに違う毛色の兵であった。
「お菊!まずいぜ!明智殿に執着し過ぎるんだよ!」
小次郎も兵の違いを見抜き地団駄踏んだが
「すまんが今日こそは鉄砲で蜂の巣になってもらうよ。君を殺すのは惜しいが仕方が無い。さらばだ」
光秀がそう言ってお菊と距離を取ろうとしたが
「こんな所では死ねない!たあ!」
お菊は掛け声を掛けると光秀と一太刀合わせると薙刀を捨てて光秀の懐に飛び込んで体当たりしたのである。
「何だと!」
光秀はお菊の予想外の行動に隙を作ってしまったのである。お菊は両手で光秀の太刀を持つ手を抑えながら捻り、左足で光秀の足を払ったのである。
「しまった!痛っ!」
光秀だが押し倒されつつ痛みで太刀を落としてしまったのである。お菊は脇差を抜くと光秀の背後に回り脇差を光秀の首筋に当てたのである。
「大将を人質に取った!関を開けて!」
お菊は光秀を立たせると光秀の首に脇差を当てながら大声を上げた。
「お菊。お見事だよ。予想外だったよ。ところで背が伸びたんだね?」
光秀は降参と言わんばかりに両手を上げた。
「あなたは!いつまでも人を子供扱いにしてさ!」
「怒らない、怒らない」
「くっ!」
光秀はこんな時も恐ろしく冷静だった。
そして京に居る理由をお菊に聞いてきたのである。
「ところで何故京にいるんだい?本願寺の命かな?」
「花見に来たらあなたが巻き込んだんでしょうが!」
「ははは。とんだ花見になったかな」
光秀は終始気味悪いほど余裕であったが。
「なんと!明智様が!」
「く!手が出せん!」
ただ織田兵たちは予想外の展開に動揺したのである。
「お菊よくやった!みんな!この隙に行っておくれよ!」
小次郎が町衆に声を掛けた。家族は頷くと後ろに隠れていた別の町衆も関を突破しようとしたのである。
「関を開けて町衆を逃がしてやれ!」
光秀も関を開けるように声を上げたのである。しかし織田兵たちは急に動揺し始め関を開けなかったのである。町衆も関の前で逃げられず動揺していた。
「なんで開けないのさ!開けてよ!」
お菊も大声を上げたが
「もしかしたら殿がそこまで来てるのかもね。それで兵が怯えて動揺しているのかね」
光秀が何か諦め気味に言った。
「殿?」
「信長公がこちらに向かってるのかもね。残念だが君の作戦は良い作戦だったが失敗かな」
「!信長公が?」
神仏も恐れぬ恐ろしい男との噂ばかりが先行して見た事もない信長だがお菊も怖気たのである。
「君たちが花のように散るらんかな?」
光秀が笑顔で言うと
「あなたを盾にしてでも絶対逃げてやる!」
お菊は強がったのである。
「おお。怖い」
光秀は余裕であったが。
重装備の兵に守られた騎馬3頭が関の前に到着したのである。織田兵は町衆など気にせずそちらばかり見ていた。
「信長公か!あたしの真の敵だ!」
初めて見る生の織田信長にお菊は緊張しながら口走った。
「……」
光秀は黙っていたが。
「ん?」
しかし光秀は関に入って来た騎馬の人物を見て変な声を出したのである。
そして
「若様!帰蝶様!煕子殿!」
今度は光秀が動揺していた。
「あれ?」
お菊も3人を見て力抜けしきょとんとした。
騎馬に乗っていたのは全員甲冑を着ていたがお菊と同じ年位の若い武将と30歳半ばの女性と坂本で見た光秀の正室である。
「え?誰だ?」
小次郎もちんぷんかんぷんだったが
「帰蝶様だと!頭を下げい!」
しかし職人の男は帰蝶を知っていたようで慌てて頭を下げ、帰蝶を知っている町衆も慌ててみんな頭を下げたのである。
「右の女の人はあなたの奥方様じゃない!なんでここに居るの?」
お菊が光秀に聞くと
「それはこっちの言い分だよ。ところでなぜ僕の正室を知っている?」
「坂本の葬儀の時に見た」
「そうか。君も参加していたのか。ならばいろはの力を君も感じたかもしれないね」
「いろはの力?」
「まぁ良いさ。左の若武者は信長公の後継者、奇妙様だ。真ん中は信長公の正室の帰蝶様だ」
「信長公の後継者?奇妙様?正室の帰蝶様?なんでここに?」
お菊は驚いてしまった。
「僕らが京の焼き討ちに反対していたから殿に掛け合うために動いてくれたのだよ」
光秀が返した。
奇妙、帰蝶、煕子の3人は光秀とお菊の前まで馬を進めると
「十兵衛(光秀)。あたなたらしくないわね。若い娘に後ろを取られるなんて」
「申し訳ありません。油断しました」
光秀は帰蝶に返したが
「まぁ、焼き討ちに反対していたあなたの事だから町衆を逃すためにわざと芝居を打ったんでしょうね。あなたらしいわ」
「え?わざと?」
帰蝶の返しにお菊が変な声を出してしまった。思わず光秀の首筋に当てていた脇差の間を少し大き目に開けてしまったのである。
「お菊。隙ありだよ」
光秀はそう言うと突然右手でお菊の脇差を握る手首を掴んだのある。
「しまった!痛い!すごい力!」
光秀だがさっきと全然違う怪力であった。両手で振りほどこうとしたがすごい圧でお菊は痛くて脇差を落としてしまったのである。
「お菊。僕は織田家中では見た目によらず怪力と評判でね。あと帰蝶様がおっしゃった通りさ。これは芝居だよ」
「え!」
光秀はそう言うと左手でお菊の胴先緒を掴むとお菊を放り投げたのである。お菊は予想外で奇妙、帰蝶、煕子の目の間にお尻から着地したのである。
「いたたた」
お菊はお尻をさすりながら言った。
「いろは?あら?違うかな?」
煕子がお菊を見て言うと
「すごく同じ気配を感じた。一瞬懐かしかったかな」
奇妙も返した。
「?」
お菊は訳が分らずぽかんとしていたが。
しかしすぐに多数の鉄砲の銃口がお菊に向けられお菊も我に返ったのである。
「しまった!」
お菊だが脇差を落としたので丸腰だった。
「やべえ!お菊が殺られる!助けに行く!」
小次郎がお菊の危機を察したが
「やめろ!諦めろ!お前さんも殺られるぞ!」
職人が反対したが
「見捨てて化けて出て来られたく無いってね!」
小次郎だが危険を承知でお菊の傍に駆け寄ったのである。
「小次郎!なんで逃げないさ!」
お菊が返すと
「こうゆう時は嘘でも助けてくれてありがとって言え!」
小次郎はお菊に返すと薙刀を構えたのである。
「あら?この娘の彼氏?」
「まぁそんなんかな?」
帰蝶の問いに小次郎は返したが
「健気ね。好きよ。そう言うの。でも無駄ね」
帰蝶は冷徹に返したのである。
「く!」
小次郎も覚悟したが
「島田。関を解放せよ。私の命だ」
奇妙が突然関の解放を命じたのである。
「はっ!」
島田秀満だが奇妙の指示に従ったのである。
「へ?」
今度はお菊と小次郎が予想外の展開に変な声を出したが
「町衆への乱暴狼藉放火も全てこれより禁止よ!命令を聞かねば美濃衆が成敗するわ!」
帰蝶も構わず大声を出すと
「は!はい!」
織田兵も慌てふためいて各部隊に伝言したのである。
「若様(奇妙)!帰蝶様!京の焼き討ち止めはありがとうございます」
光秀が言うと
「あなたたち京都所司代だけでなく近江に所領のある丹羽(長秀)殿や柴田(勝家)殿も反対してたわ。朝廷のお公家衆の吉田(兼見)殿や妙心寺の密宗和尚(明智家の関係者)まで呼んであの人(織田信長)の本陣の等持院に押し掛けてあの人を説得したのよ。あの人も渋々呑んだわ。でも残念だげどちょっと間に合わなかったかしらね。結構町が燃えてしまってるわね」
「上京は延焼を止めるように兵を廻します。下京は被害は出ていないようです。あと将軍様は和睦に応じるようです」
島田が返すと
「将軍様って本当に困ったお方ね。とりあえず一件落着したから私は妙心寺に泊まって明日、坂本経由で岐阜城に戻るわ。武田の件で重大な情報も入ってるのよ」
「甲斐と美濃の国境の件で動きがあるなら我々もお供します」
光秀と煕子が帰蝶に返したのである。
お菊と小次郎は帰蝶や光秀の話が分からず呆気に取られてたが。
「頼むわ。あとこの子たちも解放して良いわ」
「我らに反逆した(石山)本願寺の者ですが?」
光秀が厳しく言ったが
「まだ(石山本願寺との)和睦は有効なんでしょ?なんでこうなっちゃったのか知らないけど。あとこの子たちの無鉄砲を見てたら若い頃の私やあの人、十兵衛と煕子を思い出しちゃった。うふふ」
帰蝶は笑顔で返した。
「分かりました」
光秀と煕子も苦笑いするとそのままお菊と小次郎は解放されたのである。
「お菊。運が良かったね。次はこうも行かないけどね。僕の影の主君の帰蝶様に感謝するんだね」
「あなたの影の主君?」
お菊と小次郎がぽかんとしてるのを放って光秀ら一行は妙心寺に戻って行ったのである。
足利義昭だが二条御所の周りを焼き払われて怖気づき正親町天皇の仲介もあって信長とやっと和睦したのである。
この焼き討ちだが下京は信長の直前の気変わりで焼失を免れたが上京はかなりの被害があったとルイス・フロイスの日本史や公家衆の日記にも書かれている。何千軒もの商家や民家が焼かれ多数の京の町衆が強盗殺人強姦の被害に遭うもなぜかあまり 歴史 に登場しないないだけである。
お菊と小次郎にとってもとんだ花見となったのであるが無事に石山本願寺に戻れたのである。




