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若いから許されるのさ 18-2

 京の町は信長が焼き討ちを行うと大騒ぎになっていた。柴田勝家、佐久間信盛らの大軍が京のすぐ近くの近江坂本に入り摂津からも荒木村重と中川清秀が京の西外れに到着していた。京の市内には信長の軍だけでなく京都所司代の明智光秀と細川藤孝の軍も展開していると言う。

 信長だが焼き討ちの対象を上京と下京とあらかじめ宣していた。上京と下京の町衆の代表は金を集めて信長に詫びを入れ今後は義昭でなく信長を支持するので焼き討ちをしないよう交渉していたが同時に逃げられる者は京を離れるよう勧告も出していた。


 下京だが一般の住民、庶民が多い地区である。それに対して上京だが二条御所の周辺で西陣織の工場もあり豪商が多く住む京の経済の中心地区であった。室町幕府とも長い付き合いがあり上京は幕府や足利義昭を支持する層が多かった。信長だが義昭を降伏させるために義昭を支持する層が多い上京に狙いを定め今回の焼き討ちを行おうとしたのである。下京は直前に焼き討ちの対象から外したのである。


 しかし信長に反発し密かに傭兵を集める者も居た。傭兵を集めていたのは西陣の着物などを製造する織機の組合であった。彼らは自分たちの織機などがもはや持ち出し出来ないのを悟りここの工場を守る事を名分で私兵を集めたのである。お菊と小次郎はそこに紛れ込んだのである。


 集まっていたのは元比叡山の僧兵らしき者、信長に滅ぼされた家に仕えていた落武者など基本は信長に反感を持つ者である。腕は立ちそうだが癖があり士官が難しそうな浪人も居た。用意された装備だが整備はされていたが戦場流れの中古の甲冑や太刀、薙刀だけで鉄砲は無かった。ただもちろん丸越よりマシなので使うしかなかったのだが。全員顔が割れないよう僧兵のような法衣袈裟を被ったのである。そのため全員外見は僧兵そのものであったが。


 信長だが京に入ると知恩院に入り引き続き二条御所に籠る足利義昭に降伏を迫る交渉を朝廷や信長寄りの公家衆をも動員して継続していた。


 お菊たちだが大きな機織の工場を守るため武装して籠ったのである。

「こうなってるんだ。すごい」

 お菊は暇を見て機織りの機器を少し触らせてもらったのである。操作も教えてもらっていた。お菊も女子なのでお洒落な着物が好きだから興味を持ったのである。

「お前、似合わないな」

「うるさい!余計!」

 ただ小次郎の突っ込みにお菊は怒ったが。

「我々は大昔からこれで京の高貴な人達を着飾ってきた。これを焼かれるとは至極残念だ」

 工場の職人の男が残念そうに言った。

「みんなはもう逃げたんですかい?」

 小次郎が聞くと

「私の主な配下の職人や妻子は逃したよ」

「あなたは逃げないのですか?」

「そうだな。最後まで信長公と将軍様の交渉がうまく行く事を祈りたい。ぎりぎりまで居る」 

 職人の男は自分に言い聞かせるように言った。


 町中を見るとかなりの人が逃げて人が居なくなってたが時々まだ逃げていない住民もいた。

「意外と逃げてない人もいるんだね」

「さすがに京を焼くなどしないと期待してるんじゃ?あとやはり自分の家を守りたいんだろうな」

 小次郎が返したが

「みんな甘いと思うよ。信長って人は将軍様が降伏しないと分かったらやるよ」

 お菊は信長は焼き討ちを実行すると確信していたのである。


 昼になると

「見ろ!京のあちこちから火が!」

 元僧兵の男が京の町の異変に気付いたのである。

 信長だがお菊の予想通りだが焼き討ちを始めたのである。何十か所から煙がもうもうと上がっていた。

「信長公と将軍様との交渉は失敗か。逃げた方が良いと思うぜ」

 小次郎が職人の男に言うと

「無念。しかしここを守りたい」

 職人の男はそれでもまだ織機を焼かれたくないのでここを離れるのは躊躇したのである。


「雑兵が来たら金を渡して見逃してもらうか?」

「信長は意外と己の評判を気にするから狼藉まではしないと思うが」

 元僧兵、落武者、浪人たちが職人の男と相談していた。一晩様子を見て火がこれ以上、拡がらないようであればこのままここに籠り火が燃え拡がるようであれば脱出する事にしたのである。


 翌日だが火の勢いは収まるどころか拡がり始めたのである。新たな放火が始まり更に大きな火の手が工場の近くで上がり始めたのである。

 そして予想通りだが織田の雑兵らが工場に押し入って来たのである。

「お侍様!ここは織機しかありません!お金ならお渡ししますので見逃してください!」

 職人の配下の男が乱入して来た織田の雑兵に懇願した。

 お菊や小次郎、元僧兵、落武者、浪人らは物影に潜みもし乱暴狼藉が始まった場合はいつでも飛び出せるよう構えていた。


「へえ?これしかないのかい?ここにある機械は金になりそうもねぇな」

 そう言うと雑兵は職人の配下の男をいきなり斬ったのである。

「!何をするか!乱暴狼藉は禁止されておるだろうが!」

 職人の男が青ざめて言うと

「旦那。今回は信長公から乱暴狼藉を気が済むまでやれって言われててさ。あんたも殺してやるよ。へへへ」

「そんなバカな!」

「恨むなら将軍様を恨みなってさ」

 雑兵が職人に近寄ったその時であった。

「ぐはあ!」

 潜んでいた小次郎がこの雑兵に薙刀を突き刺したのである。

「畜生!やったな!な!が!」

 別の雑兵が反撃しようとしたが今度は潜んでいた元僧兵にこの雑兵も薙刀を突き刺され果てたのである。

「ひい!」

 最後の一人も逃げようとしたが浪人にこの雑兵も斬られたのである。


「くうう!すまん!佐平!」

 職人の男は斬られてしまった配下の男に涙していた。工場の近くまで火の手も迫っていた。

「旦那さん!逃げましょう!この人のためにも!あなたが生き残れば工場は絶対再興出来ますよ!」

 お菊が言うと職人は涙ながら立ち上がり脱出を決断したのである。


 外に出ると上京の町は至る所から火と煙が上がっていた。

 道には殺された住民の遺骸もいくつか転がっていた。

「なんてことに!」

 職人の男は愕然としていたが

「ひどいぜ!畜生!」

「許せないよ!」

 小次郎とお菊は怒りに燃えていたのである。


「わはは!今日は良い日だ!お?また獲物だぜ!」

「おいおい!女だぜ!へへ!」

 その時、商家から銭箱を持って出て来た雑兵4人と鉢合わせたのである。

「ひ!」

 職人の男は怖気たが

「あなたたち!下衆(げす)なんだよ!」

 お菊はそう叫ぶとすごい早さで猛然と突っ込むと小次郎と一緒にあっと言う間に雑兵らに反撃する機会すら与えず4人を叩き斬ったのである。

「ひ!」

 職人の男は今度はお菊らに怯えて再度言葉を失ったが。


「おい!なんだ!すごいのが居るぞ!」

「畜生!」

 他の織田の雑兵3人が異変に気付き慌ててお菊たちに向おうとしたが

「俺で充分さ!」

「ワシらも助太刀す!」

 小次郎と元僧兵、落武者、浪人でこの3人は片づけたのである。

「あなたたちは!只者じゃなくて?」

 職人の男は唖然としたが

「あたしたちの事など気にせずに!まずは逃げましょう!」

「どこに逃げるんだよ?」

 小次郎が聞くと

「南の下京も今回焼き討ちされるだろう。東は御所や二条御所があり織田の兵が多いだろう。西の等持院が織田の拠点になっているとの噂がある。北に行くのが一番安全では早いだろう」

 職人の男は冷静さを取り戻し一行は京の外れの北にある今宮神社を目指して向かったのである。

 途中に何度か織田の雑兵に出会うもお菊たちは躊躇なく斬って進んだのである。


 その頃、京都所司代や細川藤孝ら信長寄りの奉公衆は相国寺を本陣にして上京から出る通りに柵を造り兵を配置して封鎖していた。出口は北の室町通りに一ヵ所だけ関を造り公家衆や信長に親しい商人だけを通していた。そしてそうとは知らず逃げて来た町衆は見せしめで処したのである。

 明智光秀と島田秀満がこの嫌な仕事を渋々こなしていた。

「十兵衛殿。私は近く隠居しようかと思っている」

 島田は突然言い出したのである。

「島田殿?何をおっしゃいますか?」

「信長公は天下を鎮めてくれると思って仕えたが自分に逆らう者は容赦しないやり方にもう私はついて行けない」

「島田殿」

「あの屍の山を見て私は反吐(へど)が出る」

 島田秀満は逃げようとして殺され無造作に積まれている町衆の遺骸を見て言った。

「……」

 光秀も返せなかった。

 

「お助けください!」

 ちょうど逃げて来た家族連れが捕らえられたのである。

 父親と母親と娘2人である。

「なんだ。金も無いのか。女だけよこせ。男はいらんわ。死ねや」

 そう言って雑兵は男だけ斬ろうとしたのである。

「あなた!お代官様!お助けを!」

 母親が光秀と島田に聞こえる大声で命乞いしたのである。

「くっ!」

 光秀だが不覚にも自分の家族を思い浮かべてしまったのである。しかし助ける訳には行かなかった。

「これが 織田 がしてることさ」

 島田は吐き捨てるように言った。

 しばらくして女や娘たちの悲鳴が聞こえた。

「京都所司代であろう僕は何をしているのか!」

 父親が殺されたと光秀は思い後悔の念を心の中で呟いたのである。


 しかし想定外の事が起きたのである。

「ぎゃあ!」

「ぐお!」

 雑兵と思われる男の叫び声が続いたのである。

「ん?」

 光秀と島田は何か異常が起こったのを察したのである。




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