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信長を包囲せよ 17-4

17-4話 ですが今後の政治的な話に絡むので大規模修正しました。

 甲斐の武田信玄が織田信長の同盟者の三河の徳川家康攻めの動きを本格化させ尾張美濃三河は騒がしくなっていた。

 逆に信長の関心が薄れた京や大阪は平穏のはずであった。

 石山本願寺に戻ったお菊は普段のように午前は修行、午後は巫女の仕事である。

 8月のある日だが見た事がある若者が来たのである。

 いきなり

「鈴木孫一殿はどこだ?」

 と聞いてきたのである。

 この男が誰か思い出せずどう返事したら良いか巫女たちが戸惑った時、

「阿波の三好長治殿じゃないか?」

 一郎が小声で言うとみんな思い出したのである。

 篠原長房の主君の三好長治である。厳密に言えば長房の主君の三好実休の子である。が、長房にとっては実子と同じ年頃の若者であるがそれでも主君である。

 この日だが長房は一緒ではなく別の男が一緒だった。

 この男が長治と分かったのでおいちも答えたのである。

「ウチやけど?何の用かいな?」

 おいちが返すと長治だがおいちをじっと見て

「今晩だが酒でもどうだ?」

 いきなり切り出してきたのである。

「はい?」

 おいちは変な返事をしてしまった。

「おいおい!会っていきなり酒飲もうだって!」

「くくく!」

 一郎と平助、小次郎は隠れて笑いをこらえていた。

 おいちの横に居たお菊とお凛も唖然としていた。


「すんません。ウチ、下戸なんで」

 おいちは断ったのである。実際、おいちは下戸だが。

「下戸だって!おいち、うまい断り文句!」

「くくく!」

 一郎と平助、小次郎は隠れたまま再度笑いをこらえていた。

 おいちの横に居たお菊とお凛も再度唖然としていた。


「阿波の当主の俺の誘いを断るとは。さすが重秀殿の娘さんは伊達じゃないな」

「別にやけど。でもさ、あなた、女を誘うにしても順番ってものがあると思うけどな」

 おいちは軽く注意したのである。

「お前の言う通りだ。俺も阿波では女が寄って来るから間違ったよ。叔父上!顕如様のとこに行こうぜ!」

「は!」

 長治は連れの男と本堂に消えて行った。


「前と同じで感じ悪いな!」

「女が寄って来るってさ!嫌な奴だ!」

 こずえとお菊が呆れたが

「あ~!見た目はまぁまぁなのに中身がしょうもないな!育ちって大事やな!」

 おいちもぼやいた。

「布施も無しかいな!ところで連れのオッサンは誰かいな?」

 お凛が聞いたが誰も連れの男を知らなかったのである。


 数日後、鈴木重秀と弥生だが毛利との交渉を切り上げ、阿波経由で大阪に戻ったのである。

 鈴木重秀と弥生は顕如や心眼と何か相談していた。

 

 ある日、お菊は心眼に呼ばれたのである。

 明智光秀が堺に入るので会いに行くと言う。お菊も光秀とは縁があるので同行を頼まれたのである。

「明智殿は何をしに?」

「鉄砲の買い付けだ」

「堺は自治都市なので別に良いのでは?今は織田と和睦ですし」

 お菊が返すと

「三好長治公の件もだ」

「長治公の件?」

 お菊はよく分らなかったが同行したのである。

 

 光秀だが松永久秀の屋敷に居たのである。

 久秀は1570年の野田福島城の戦では信長の配下になり光秀と共に石山本願寺、三好三人衆と戦うが久秀の拠点の大和の統治を足利義昭が勝手に大和の僧の出の筒井順慶を任せたので久秀が反発し石山本願寺、三好三人衆と組んだのである。

 ただ久秀は信長には敵意は無くあくまでも義昭が敵だったのである。

 お菊はそんな久秀を勝手な男とは思っていたが。


 久秀だが己の野望に忠実だが茶人としても名を馳せていた。

 光秀も茶の湯や歌が好きでその関係で互いに敵か味方か互いに分からない時期でも交友が続いているのである。久秀だが信長に敵意は無いと光秀に伝えてもらうためでもあったが。


「あれ?」

 お菊だが久秀の屋敷に着いて変な気配を感じたのである。

「明智殿じゃない。誰?」

 お菊は戸惑ったのであるが理由はすぐに分かったのである。


 久秀の家臣に果心居士と言う幻術士が居たのである。

 不思議な術を操るが法力も持っているようでお菊はそれに反応したのである。

 果心居士だがお菊を見るといきなり

「また法力持ちかい。いろはと似てるが違うかな?まぁ、俺とは関係ないかな?」

 軽く言ったのである。

 南蛮宣教師のような恰好をして頭の髪型が独特の不思議な男である。

(また いろは か。それにして変な気配の男だな)

 お菊は果心居士に何も返さず黙ってやり過ごしたのである。


 光秀との面会だが心眼、松永久秀、久秀の重臣の本多正信、果心居士、お菊が対応した。


「みなさん、お久しぶりですね。お元気そうで何よりで」

 光秀はにこやかに返した。

「堺に乗り込んで鉄砲を買うとはおぬしも信長公もようやるわ」

 久秀が呆れ気味に返した。

「今日は困った将軍様の件ですかね?」

 光秀が聞くと

「そんなもんかいな?」

 久秀も返したのである。

 久秀がこの日は茶を立てたのである。


「将軍様が信長公に従ってくれればこのようにはならなかったと」

「そやな。信長公は将軍様の動きは気付いてるんか?」

 久秀が聞くと光秀は茶を黙って飲み干した後、

「薄々ですがね。今度、信長公は17条にまとめた意見書を突き付けるようですがね」

「(武田)信玄公とは戦うんか?」

「織田と武田は同盟を組んでますのでね。今は戦わないです。でも(信長の同盟者の徳川家康の)三河を攻めたら同盟も破棄ですね」

 光秀は涼しい顔で言った。

「武田に勝てるのかよ?」

 果心居士が聞くと

「さぁ。やってみないとね」

 光秀はとぼけたが。

「ところで三好の件に首を突っ込むのはやめて欲しい。本願寺と織田の和睦は生きてるぞ」

 久秀が率直に言うと

「あの血の気の多い若者(三好長治)が阿波を自分で何とかしたいと勝手にやってるだけですよ。僕は長房殿の方が信をおけるので長治殿には困ってるくらいですよ。信長公は勝手に足並みが乱れてると喜んでるけど」

 三好長治だが成人すると後見人の篠原長房を疎ましく思い出したのである。

 長房を追い落とすため信長に近付いたのである。長房もそれに嫌気が差し長治に出仕せず自分の上桜城に籠るようになったのである。

「本願寺こそ密かに武田と組もうとしているでしょ?信長公、少し怒ってますよ」

 光秀が逆に言うと心眼は少しぴくりと反応した後、

「顕如様の正室の如春尼様の亡き姉上は信玄公の正室だ。本願寺まで来た使者を無下にはできん。ただ軍を動かす気は無い。甲斐は遠いので動かせない」

(なぜ明智殿はこの件を知ってる?まさか)

 お菊は梓に何かあったかと思ったが

「分かりました。本願寺もまだ信長公と仲良くされると言う事ですかね?我々も信玄公次第ですが武田とは今は友好ですので。(信玄の)歩き巫女が織田の領内を歩いても信長公は今は手を出さないですしね」

 心眼もお菊も梓が無事に甲斐に戻れたのかと思ったのである。

「あ、余計なお世話かもしれませんが長治殿を裏で操ろうとしてる男を抑えた方が良いのでは?僕は長房殿の方が交渉は楽なので」

「そこまで三好を気遣ってくれるとはな。礼を言うわ。でもその通りやな」

 久秀は苦い顔で言った。心眼も正信も苦い顔をした。

 三好長治だが力があり過ぎる篠原長房をうるさく思い篠原一族の篠原自遁を取り立てたのである。これは長治の美しく若い母親と自遁の彼女への恋愛感情と己の野望も絡んでいた。

 顕如だけでなく久秀、三好三人衆の三好長免と長虎親子もこれは強く懸念していた。長治が信長に近付けば下手をすると三好存亡の危機に陥りつつあったのである。

「女は怖いね」

 光秀は小声で言ったのである。


「ところで将軍様を信長公はどうされたい?」

 心眼も再度直球に聞くと

「言う事を聞いて頂ければとね」

「言う事を聞けば誰でも良いのか?」

 久秀が聞くと光秀は怪訝な顔をしたが

「我々も将軍様の勝手さは危惧してます。しかし将軍様は子もいない。(義昭の対抗馬馬だった)亡き義栄様の弟の義助様は誰も知りません。将軍が居なくなったら信長公が直に(将軍を)されますか?」

 本多正信が聞くと光秀もあまりの直球にぎょっとし

「まさか」

 と答えたのである。

「真の実力者の三好長慶様は将軍様(亡き足利義輝)の威光を感じた。でも今の将軍様(足利義昭)は威光すらない。ならば真の実力者の三好が将軍でも問題なかろう」

「……」

 光秀は再度怪訝な顔をした。

 久秀は三好義継を将軍候補に担ぐと言ったのである。実力はともかくかっての畿内の実力者の三好長慶が養子であるが義継を後継者に指名して色々波乱はあったが三好氏の名目上の当主である。

「義継公は正室が足利義晴(12代将軍)の娘(義昭の妹)。血筋も悪くない。義継公は泰平の世のためなら信長公に協力するわ」

 久秀は一方的に言ったが

「三好の将軍は信長公は呑まないでしょう。尼将軍(正室を将軍にする)ならともかく」

 光秀が断ったが

「俺たちは戦を好んでる訳じゃないぜ。何とか止めようとしてるんだぜ」

 果心居士が続くと

「なら信玄公があなたたちを破って将軍になるのを認めますか?」

「絶対に負けないね。美濃衆の名に懸けてね」

 光秀が即答した。

「なにさ。同盟相手なのにさ」

 お菊が突然入ると

「それとこれは別さ。子供の君じゃ分かるまい」

 光秀が言うとお菊もカチンとして

「泰平の世を造るとか前はお話されてたけど単に戦がお好きなだけなのね」

 お菊はにやりと笑いながら侮蔑するように言うと光秀は少しむっとしてたが。

「まぁこちらには管領(細川晴元)の子(摂津中島城に籠城する星川昭元)もいるからなんとでもなるさ」

 光秀は軽く返したがただ実は光秀も信長が今後をどうるすかを聞いた事がなかった。

 天下はまだ遠いがやはり光秀だけでなく織田の家臣たちは信長が今後どうする気かも誰も分かってなかったが。


「美味な茶で。もう1杯頂きたいな」

 久秀は黙ってもう1杯立てたが。

「信長公に盾突くのは倒して見せますよ。でも今日の件は僕も為になったかな。重い課題ともさせて頂きたく」

 光秀も少し険しい顔で最後は言ったのである。


 信長だが織田氏は平氏の系統なので将軍になれなかったとも言われる。

(三好氏は河内源氏なので朝廷が許せば理屈上は将軍になれる)

 ただ信長は平氏の棟梁の平清盛のように太政大臣にもなっていない。

 それ以上に信長がどうしたかったのかも謎であるが信長が何か外的な権威を持てば1582年の事件は起きなかったかもしれないとも言われている。

 歴史の もしも は難しいが。



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