憎しみは憎しみを呼ぶのさ 15-1 挿絵あり
明日の総攻撃に備えてみんなこの日は早く寝たのである。
お菊は弥生、おいち、お凛、鈴木義兼、雑賀衆と高槻城の南側の松永隊に配置されたがやはりお菊は松永隊の近くにあまり居たくないのと今日は弥生に迷惑をかけたので気後れして弥生の近くではなく高槻城の西側の荒木村重隊の陣の近くで休ませてもらったのである。
お菊を気遣っておいちとお凛も一緒に休んだのである。
「敵だ!敵だ!起きろ!起きろ!」
早朝であったがほら貝が鳴り響き怒声が響く中でお菊は目が覚めたのである。
「まだ暗いじゃん。お点灯さんが上ってないじゃん」
「敵?なんでやねん。向こうの方が数が少ないやん。寝言を言うな」
お菊とおいちは寝ぼけながら言ったがその時、遠くで何か大きな爆発音が何度か起きたのである。
「起きや!ほんまに敵さんや!」
お凛の焦った大声でお菊とおいちは目が覚めたのである。
爆発音の後、今度は水が激しく流れる音が聞こえて来たのある。まだ周囲が暗くてよく分らなかったが高槻城の南に展開していた松永隊の陣の焚火など明かりが次々と消えて行ったのである。あとは人の怒鳴る声が間接的に聞こえるだけである。
「何やねん!コレ!」
おいちは唖然としていたがしばらくして雑賀兵がおいちの元にずぶ濡れになって走ってきたのである。
「どうしたん!」
「はい!敵の忍びと思われますが(高槻城へ堀の水を堰き止めていた)堰を爆破して大量の川の水が高槻城の東側と南側の流れ込み篠原隊や松永隊や我が部隊は大混乱です!鉄砲や硝薬が水に浸かって使えません!」
「マズイ!南と東に展開してる部隊が全部水浸しやん!叔父上(鈴木義兼)に頼んでいったん荒木殿の陣まで後退させて再編成や!」
おいちが青い顔で雑賀兵に指示を出したのである。
「大変です!佐久間隊がこちらに向かっている模様!」
「篠原隊より至急の支援の依頼!」
次々とまずい知らせが入り出したのである。
「さすが織田や!機会を逃さんわ!予想外にキツイわ!この戦!」
だが雑賀衆だが自慢の鉄砲が使えなくてはお手上げであった。
おいちは決めたのである。
「腕に自信があるのだけウチと一緒に篠原隊に合流や!弥生さんたちがおればなんとかなるわ!後退した部隊も鉄砲の修理選別終えたら援護に来てや!荒木殿と本願寺本隊にも支援してもらわねばな!」
「あたしが荒木殿のとこに要請に行く!凛凛は本願寺の本隊へ!」
「頼むわ!なるはやでな!」
お菊は荒木隊へ、お凛は本願寺の本隊へ篠原隊の支援を頼むため急いで向かったのである。おいちも鈴木義兼と少数の戦える雑賀衆を率いて篠原隊の支援に向かったのである。
荒木村重に救援の依頼に行ったお菊だが村重の陣で面食らっていた。村重は陣におらず茨木城におり不在だったのである。そのため村重の不在を言い分に荒木兵は動かなかったのである。
「篠原隊が鉄砲が使えず苦戦しています!援軍をお願いします!」
お菊は村重の留守役に必死に懇願したが
「殿の命が無いと動けません!連絡します。お待ちを」
「茨木城まで行って判断を待ってたら戦況がひどくなります!せめて鉄砲だけでも貸してください!」
「殿の許可が無いとダメです!鉄砲は金が絡むんです!」
お菊は村重の留守役に抗議したが彼は頑として動かなかったのである。
「(松永)久秀殿と(三好)義継殿は何処へ?」
お菊は久秀と義継に動いてもらおうと彼らが何処に行ったか聞いたが
「!殿たちは交野城攻めで疲れてるので今日はここにいません。総持寺で休んでまして」
なんと久秀も義継も野営が面倒なのかここに居ないと言う。
「戦える兵と使える武器を集めて篠原隊の支援してください!」
「殿の承認が出たら動きます!お待ちを!」
松永隊も久秀の承認が無いと動かないと連れなかった。
お菊は諦めて篠原隊の支援に向かったのである。
石山本願寺の本隊に戻ったお凛も仰天していた。
高槻城の東と南に展開していた篠原隊や松永隊や雑賀衆が水攻めで鉄砲が使えず松永隊と雑賀衆が荒木村重の陣に後退しているので孤軍奮闘する篠原長房隊の救援をと話すや本隊は突如高槻城へ攻撃を始めたからである。
「下間(頼総)様!篠原隊も鉄砲が使えない状態です!佐久間隊との戦いは苦戦必至!まずは篠原隊に救援を頼んます!」
お凛は頼総に頼んだが
「お凛。こちらの1万の戦力ですぐに高槻城を落とす。高槻城を落とせば佐久間や明智は諦める。篠原殿に何とか持ち堪えてくれるよう伝えよ。君も篠原隊の救援に行き給え」
頼総は冷静に返したのである。
「お嬢ちゃん。せっかくの手柄の機会を与えてやったけど運がなかったかね?こちらで手柄は頂くよ」
ろくは不敵に笑ったのである。お凛もこれ以上は何もできないと判断し篠原隊の支援に向かったのである。
「ごめん!荒木隊も松永隊も動けないってダメだった!」
「すまん!ウチもや。本願寺のお偉いさんたち今から高槻城を落とすって!」
篠原隊の救援に戻ったお菊とお凛はおいちに謝ったのである。
「たは!マジで困ったお偉いさんやで!アンタらのせいじゃなくてさ!こうなったら阿弥陀様頼みや!」
おいちは諦めるように言った。
「あなたたちも来たのね。今回はとても危険よ。長房殿の陣にみんなで行きましょう」
弥生だがマリアたちと行動しておりお菊、おいち、お凛を見つけると長房の本陣に戻るよう指示したのである。
「乱戦に備えて前に居た方が良いのでは?」
お菊が返すと
「前に居たら織田の鉄砲の雨で穴だらけになる。本陣には鉄盾がある。そこに潜んで敵が突っ込むのを待つのさ」
「まぁ頼総様が高槻城を落とすのが先か我々鉄砲の雨で極楽浄土に行くのが先か。どっちですかね」
金額と銀閣が諦め気味に言った。
「鉄砲の雨?」
鉄砲の雨を知らないお菊たちは良く分からなかったが。
「本願寺のお偉いさんはホンマに偉そうに軍議しながら最悪のオチやな。ったく」
マリアは吐き捨てるように言った。
「鉄砲の雨が始まったら絶対に鉄盾から顔を出さないで。怖くなったら阿弥陀如来様に祈ってくださいね」
鈴木義兼が意味深に言った。
篠原長房の陣地も大わらわらであった。
「長房殿!鉄砲が使えず支援が無ければここを抑えるのも難しいかと!もはや後退もやむなしかと!」
三好三人衆の三好長免が苦戦を予想して進言した。
長房の足軽兵は鉄砲対策で柵や竹を束にした防御装備を一応持っていたがこちらが反撃できない上に鉄砲の飽和攻撃を受けたら持たないのは見えていた。上級将兵は鉄砲をある程度防げる鉄製の盾も持っていたが足軽たちはそんな防具は無かったのである。
「本願寺の頼総様には一刻も早く高槻城を落城させるよう頼め。あと弓矢と生きてる鉄砲をかき集めろ。それで反撃すれば良いさ」
長房も不利を承知で冷静に振る舞った。自分たちが崩れたら本願寺も崩れると判断し壊滅覚悟で踏みとどまる事にしたのである。
しかし同時に長房はある疑念を持っていたのである。
(おかしい?なんで今日の攻撃を織田は見抜いた?偶然か?いや、堰を爆破している。明智は荷駄が多かった。偶然ではないはずだ。堰を破壊するための硝薬だったのか?これは最初から仕組まれた?いや、裏切者が居るのかもな)
「大変です!荒木隊と松永隊が鉄砲が濡れて使えないので茨木城へ後退を開始しました!」
三好三人衆の三好長虎が慌てて報告すると
「村重め!鉄砲なんか濡れてないではないか!変だと思った!口ばかりの久秀め!また裏切ったな!」
三好三人衆の岩成友通も歯ぎしりしたが
「予想通りだな。間もなく敵の射撃が始まるぞ。前衛の足軽には盾になるのは 何 でも使えと言っておけ」
長房は冷静に対応していた。
お菊らも鉄製の盾の後ろに潜んだのである。
その間も佐久間兵は鉄砲隊を一番前にしてじりじりと篠原隊と距離を詰めていた。
その頃だが明智光秀は佐久間信盛の本陣で待機していた。信盛の前線に鉄砲の弾や硝薬などを送る後方支援をしていたのである。
「今日はのんびりとここで勝利の美酒でも味わいたいな。君が淀川の水量がいつもより多いのに気付いたから(堰の爆破は)予想以上にうまく行ったよ。あとは總持寺で内応してくれた彼らも正しい情報を出してくれた。あとは彼らが約束を果たすかどうかかな?」
光秀は溝尾茂朝を称賛していた。
「勝利の女神がこちらに微笑んでくれました。ここまで上手く行くとは思わなかったです」
茂朝も嬉しそうに言った。この堰の破壊と總持寺での内応工作は茂朝の手柄であった。
「あとは家老様(佐久間信盛)が高槻城を解放してくれればこの前の大津での無礼への詫びになれば良いかな」
光秀は饒舌に言った。
そして
「我々も乱戦が始まったら前線に行こう。そう簡単に行くとも思えない」
光秀が言うと
「殿の予定通りに進んでいるかと思いますが?」
藤田伝五が光秀に返すと
「久秀殿から野田福島城の時の嫌な娘が居るって連絡があったよ。お菊は僕の常識が通じないからね。勝利の女神を振り向かすための障害は取り除かないとね」
光秀も出陣の支度を始めたのである。




