出る杭は打たれる 14-3
高槻城の包囲戦だが織田の援軍の佐久間信盛隊の兵力が予想外に多く松永久秀と三好義継が交野城攻めに参加しており篠原長房、三好三人衆、石山本願寺側の攻め手の兵力が充分でなく長期戦の構えになっていた。
しかも間者の伊賀衆から新たに明智光秀と柴田勝家の部隊にも動きありとの情報が長房の元に入ると長房はついに決断したのである。
高屋城に籠る幕府と織田方の畠山高政、秋高兄弟対策だがおふうと遊佐氏、まえこと弥吉に任せて鈴木重秀、三好康長、清澄と悠然、こずえと平助を高槻城に呼び寄せる事にしたのである。また摂津中島城の細川昭元対策も下間頼龍、お静、清兵衛らに任せて冬と千代目と一郎を呼んだのである。
交野城攻めの松永久秀と三好義継もいったん呼び戻し戦力を整えて堀が干上がるのに合わせて高槻城を力攻めする事にしたのである。
ただその頃、お菊、おいち、お凛は10日を超えようとしている野営で参っていた。
「きついわ。着替えたいわ」
「ほんまや。野宿ってこんなしんどいとは」
おいちとお菊がぼやいていた。
「お風呂入りたい。参った」
お菊も実は長期の野営など経験がなかったので食事と寝るのはなんとかなっても着替えも無しで風呂に入れないのは堪えたのである。
「叔父上!山に入って沢でも探して来てや」
おいちが後見の鈴木義兼に頼んだが
「ダメです。あの山は高槻城下で住んでた避難民が多数潜んでいますな。町を焼いて撫で斬りした我々を恨んでるので入ったら襲われますな」
「えええ」
おいちは変な声を上げた。
「近くの宿場に行ってお風呂を借りようよ」
「勝手に行ったらまたお偉いさんに怒られるで」
お菊とおいちがひそひそ話をしていたが
「井戸の周りに見えないよう囲いを作るんでそこで体を拭いてください。それで我慢してください」
義兼が諭すように言うと。
「あ~女子はこんな時は不便や」
お凛もぼやいていた。
「若いの元気だね。どうした?」
摂津中島城から急行して来た冬がやって来たのである。
「実はその お風呂に入りたいな って」
お菊が言い難そうに言うと
「なんだ、気合が入っていないな。俺は井戸の周りに囲いを作って体を拭いてるぜ!」
「たはぁ。さすが冬さんや。ウチらもそうするしかないか」
おいちが観念した時だったが
「ま、弥生姉さんもマリアも同じ事言ってたな。相談してやるよ。荒木(村重)殿の屋敷の風呂でも借りられるかな?」
「冬さん!お願いします!」
お菊、おいち、お凛は冬に頼み込んだのである。
その日の夕方だが荒木村重の紹介で茨木城の近くにある総持寺の風呂を借りれたのである。
お菊、おいち、お凛は大喜びで早速向かったのである。
「よかった!気分転換になるね!」
「女子は清潔が一番やね!着物の替えがあれば言う事なしやけど贅沢かいな?」
「弥生さんもマリアさんも冬さんも後で行くって。やっぱみんな入りたかったんやな」
総持寺だが馬で30分と近くであった。
荒木村重だが総持寺に居たのである。茨木城の修復が済んでいないのでここを拠点にしていると言う。
お菊、おいち、お凛は村重に礼を言って風呂場に向かったのである。その時であった。
お菊だがその途中の本堂の大広間に居た2人を思わず見てしまったのである。
(知ってる人みたいだけど)
白い頭巾で顔を隠し法衣を着ていたがお菊はこの2人が僧籍には見えなかったのである。
2人はお菊にじっと見られて一瞬驚いたようだったが再び冷静に座っていた。
「お嬢さん。風呂場は奥だ。俺はちょっと坊さんたちに話があってな」
後から来た荒木村重がお菊に声を掛けるとお菊たちに風呂場に行くよう促し自分は本堂の大広間に向かったのである。
「どうしたん?」
おいちが不思議そうにお菊に聞くと
「なんか知ってる人にあのお坊さん似てた」
「それはないで。あんたここ初めてやん」
お凛が言うと
「そうだけどさ(明智殿と溝尾殿に体形とか雰囲気が似てたように感じたけど。気のせいかな?)」
「ま!はよ入ってゆっくりしよ!」
おいちが言うと3人はとりあえず風呂に入り気分転換したのである。
高槻城包囲から11日目、明智光秀が佐久間信盛の陣に入ったと長房の元に物見の知らせが入ったのである。報告によると光秀の兵は思ったよりも少なく2千もおらず代わりに荷駄がとにかく多いと言う。長房、三好三人衆、下間頼総だがこちら向かってると思われる第3陣の柴田勝家の荷駄を先に搬入したと推測したのである。
長房、三好三人衆、頼総も勝家の武勇は聞いていた。そこで3人は相談し勝家が到着する前に高槻城を落とす事にしたのである。堀の水もかなり減り徒歩で渡れるようになっていた。交野城に展開していた松永久秀と三好義継も高槻城の包囲陣に戻っていた。
その日の夕方だが長房は頼総、三好三人衆(長免、長虎、岩成友通)、松永久秀、三好義継、荒木村重、中川重政らと緊急に打ち合わせしたのである。
高屋城から高槻城に移動している鈴木重秀ら雑賀衆や三好康長はまだ到着していなかったが勝家らが到着する前、戦力が有利の内に翌朝早朝、総攻撃を最終決断したのである。
高槻城を囲む堀の水は引き包囲軍が2万5千弱、高槻城が2千、佐久間信盛と明智光秀が1万2千と戦力が多少有利の内に決着を付けるのである。
その後、頼総は本願寺の陣で六地蔵と六花仙、主要面子を集めて先程の軍議の説明を行ったのである。
「一番激戦になりそうなのはやはり東側だ。高槻城への攻城が始まれば絶対に佐久間と明智が後ろから我々を攻めてくる」
頼総が地図を広げながら言った。
「東は篠原長房隊1万、北は本願寺隊1万。この戦力で佐久間と明智の1万2千を防ぐ。その間に西の荒木村重隊3千、南の松永久秀隊2千で高槻城を落としたい」
「高槻城の籠城の戦力は2千から3千と思われる」
心眼が頼総に続いたが
「ギリギリやん。父上(鈴木重秀)や康長様を待った方がええと思うけど」
おいちが口を尖らせた。攻め手は守り手の3倍以上の戦力が鉄則である。おいちはそれを言ったのであるが
「柴田勝家公が来る前に落とすのだよ」
頼総が言うと
「避難の住民も混じってるので実際はもっと少ないと思う」
心眼も続いたが横から口を挟んだのはお凛である。
「そんなん降伏させればええやん。そろそろ兵糧も切れるやろ?」
一同静かになったのである。
「それは本願寺の意向ではないのでな」
頼総が言うと
「キリシタンが多いからかいな?堺は良くて高槻はダメなんかいな?」
お凛が珍しく厳しく言うと
「それは断じてない」
心眼が苦し紛れに返したが
「落とせと言うのは優しい顕如様の命かいな」
おいちも再度不満そうに言うと
「おいち、お凛。我々は教えを世界に広げないといけない。だからそれを妨げる者は排除しないといけないのだ。だからだ」
「ふううん」
「納得せんけど分かった。心眼殿の命なら従うわ」
心眼の苦し紛れとはぐらかした言い方にお凛とおいちは不満そうだが下がったのである。
「高槻城だが堀の水も干上がってるし外壁もぼろぼろだ。柴田勝家公が到着する前に決める。冷静に対処すればみなで落とせる」
心眼は最後に言ったのである。
ただお菊、おいち、お凛らは何か不満そうであったが。
このやりとりを終始いらいらいと見ていたのは頼総と六花仙第2席次のろくであった。
「部隊配置だが六地蔵全部隊と六花仙のろくと根来衆、冬は本願寺の本隊と篠原隊と共同で佐久間及び明智への防戦。弥生とマリアとお菊、おいちと雑賀衆、お凛は松永隊と高槻城の攻略だ」
心眼が言うと
「松永と一緒は嫌だ。降りる」
お菊が口走ったのである。変な緊張が流れたがろくが立ち上がるとお菊の傍に駆け寄りお菊の頬を思いっきり引っ叩いたのである。
「さっきから甘ったれるんじゃないよ!ガキ共が!」
ろくは恐ろしい形相でお菊を怒鳴ったのである。
「ろく!やめろ!」
「落ち着きなってよ!」
騒然とする一同の中でも心眼と冬がすぐに止めに入ったのである。
「上官に やれ って言われたら何も考えずにやるんだよ!それが軍なんだよ!」
「松永はあたしの義姉や僧正様や町の人を皆殺しにしたんだ!許せないんだよ!」
しかしお菊は泣きながら反論したのである。
「おまえたちガキ共に手柄を持たせてやろうと言う気遣いをなんで読めないんだい!」
ろくもムキになって返したが
「本願寺の目の仇の織田信長と同じことを本願寺がやってどうするのさ!撫で斬りが功なものか!あたしは人殺しが嫌いなんだよ!そんな功はいらないってさ!嫌な事をやらすなってさ!」
お菊も素早く立ち上がりろくに殴り掛かろうとしたのである。
「やめなさい!お菊!」
「お菊!落ち着いてや!」
しかし弥生とおいち、お凛がお菊を取り抑えたのである。
「頼総様!軍議でこのような騒ぎは申し訳ない!」
心眼がすぐに大将の頼総に詫びたが頼総は顔は怒ってたが冷静に対処したのである。お菊の前に立つと
「お菊。君が松永を憎んでいるのは分かった。しかしろくの言ってた 君に功を持たせたい のは本当なんだよ。私もそう思ってる。それが例え撫で斬りであってもね。君の実力は色々聞いている。君には顕如様が特別な計らいまでしている。だから本願寺のために見せて欲しいな。君のその力をね」
「……はい」
お菊だが急に反論する気が失せてしまったのである。
「心眼殿、弥生。若者たちの躾を頼むぞ」
「申し訳ありません。気を付けます」
心眼は頼総に詫びたのである。弥生は不満そうに返事をしなかったが。
頼総が陣の外に出ると
「あたしは本願寺の本隊に帰るよ。今日は癪なんだよ!ったく!」
ろくもそう言うと根来衆を連れてずかずかと出て行ったのである。
心眼もしばらくすると頼総を追って出て行ったのである。
冬は複雑な顔をしていたがなんか弥生に目で合図すると外に出て行ったのである。
「弥生さん。ごめんなさい」
陣中が静けさを取り戻すとお菊は涙をぽろぽろこぼしながら弥生に詫びたのである。
「思った事をすぐに言わず胸に留めておくのは大事だわ。覚えておいてね。でもあなたは間違ってはいないわ。こんな事、本願寺がすべきではないわ」
軍議が終わるとお菊は陣の外れで淀川の流れを見ながら一人たそがれていた。
「こんなとこにおったか」
「やれやれやったな」
おいちとお凛がお菊を見つけて来たのである。
「お菊らしかったよ。もう」
「さすがお菊さんだな」
ひなたと松丸も来たのである。
「これ食べて元気出しなよ。どうぞ」
「陣の周りの売り子から買ったぞ」
ひなたと松丸は陣の周りをうろついてる売り子から饅頭売りを見つけて買ってきてくれたのである。
「みんなごめんね。ありがと」
お菊は饅頭をひなたと松丸から受け取ったのである。
「本音で文句を言うのは今後は俺だけにしとけってさ」
小次郎が言うと
「うるさい!でもありがとう」
お菊は笑いながら小次郎にも正直に返しておいたのである。
みんな笑いが起きたのである。
「明日は早いらしいから早く寝よ」
「そうそう!嫌な事は寝て忘れろっていうやん!」
ひなたとおいちが締めたのである。




