憎しみは憎しみを呼ぶのさ 15-2
佐久間信盛の最前線の鉄砲隊は篠原長房の守備隊と100mを切る距離まで詰めていた。鉄砲の有効射程に入ったのである。
「来るぞ!構えろ!抑えろ!」
「盾になるのは 何でも 使えや! 何でも や!」
最前線の篠原隊は緊張が走っていた。
「姫様!修理を終えた鉄砲を持った隊が間もなく応援に来ます!お待ちを!後方から射撃を掛けます!」
雑賀衆もおいちに報告した。雑賀衆も目まぐるしく動き回っていた。
「みずな?新兵衛?大丈夫か?」
「はい!」
長房は阿波衆になったばかりのみずなと新兵衛に声を掛けた。2人は緊張気味に長房に返した。
「弥生殿?若いのは大丈夫か?」
長房は弥生にも聞いた。
「乱戦になったらこの子たちは本領を発揮しますので」
弥生はお菊、おいち、お凛を見ながら言った。
「頼もしいな」
「鉄砲の雨を見て 伸びなければ ですが」
「そうだな。私も鉄砲の雨には嫌な思い出しか無いからな」
意味深に長房は弥生に返した。
「敵!射程内!反撃の兆し無し!」
信盛の弟の信辰が最終報告を信盛に上げると
「よし!殺れ(やれ)!」
佐久間信盛の命で佐久間の鉄砲隊が猛烈な射撃を篠原隊に始めたのである。
篠原隊を鉄砲弾の雨が襲ったのである。
「きゃあ!」
「南無阿弥陀仏!」
みずなと新兵衛は思わず悲鳴を上げていた。
「これが鉄砲の雨!これがさ!」
お菊は鉄盾の裏で当たっては跳ね返る不気味な音と振動と弾が空を斬る音、鉄砲の爆音と前線からも男の悲鳴とも断末魔か何もかもすべてが混じった不気味な音を聞いて感じていた。
「殿(三好実休、篠原長房の主君)もこれで殺られたのさ」
長房が鉄盾の裏で冷静に呟いた。
「義姉に昔、聞いた!母上、父上もこれで死んだってさ!あたしは死んでなるものか!なるものか!」
お菊だがこの場の誰も気付かなかったが例の力を出そうとしていたのである。目を赤く光らせていた。
「うわあ!アンタ何言うてんねん!南無阿弥陀仏!」
「く!これで生き残れたらオメデトさんだな!」
お凛と金閣が鉄盾の裏で悲鳴を上げうめいていた。
「頭下げろ!頭!鉄盾から手足も出すな!出したら手足無くなるぞ!」
鈴木義兼が雑賀衆に指揮を飛ばしていた。
鉄砲が無いに等しい篠原隊の前衛はただ堪えるのみである。最初の一撃は何とか堪えても2発目3発目以降は竹柵も木の盾も砕け初めて前線では戦死者が続出し始めた。
「味方の亡骸を盾に使えい!」
長房が命を出すと前線の足軽は命令通り必死に動いていた。
「そこまでするんだ。そこまで!」
お菊はうめいたが
(う!気持ち悪い!この無念な怨念はなんなのさ!)
お菊は気持ち悪くなり口に手を抑えた。
「お菊!大丈夫か!生きてるかいな!」
おいちがお菊を励ますように言った。相変わらず弾が盾に当たり不気味な音を立てていた。
「雨が止んだら突撃するんだよ!金閣銀閣生きてる郎党!頼むわ!」
「雨は必ず止むのよ。雨が止んだら地獄晴れよ。生きてたら準備して!間もなく乱戦に入るわ!」
マリアと弥生が次に備えて指揮を飛ばしていた。
1分ほど連続射撃がようやく終わると篠原隊の竹柵や木盾は穴だらけでぼろぼろになり盾になった遺骸も破片となってあちこちに散らばっていた。
弥生の言う鉄砲の雨の後の地獄晴れである。
「今回も生き残れたわ!」
弥生が呟くと
「弥生殿も久米田(1562年、久米田の戦い、三好実休らが戦死)に居たのか?」
「大昔ね。あの時と一緒ね」
「ふっ。今回も期待しようか」
長房が諦め気味に言った。
戦場を見て
「酷い。気持ち悪い。あかん」
「うわあ。ウチも」
おいちもお凛も凄惨過ぎて戻しそうになっていたが。みずなと新兵衛は戻してしまって後方に下がっていた。
「構えろ!敵が来るぞ!」
長房が冷静に命を出すと
「ようし!さっさと押し潰せ!」
佐久間信盛も長槍の部隊に突撃命令を出したのである。
雄叫びと共に大量の長槍を持った佐久間隊が押し掛けて来たのである。
篠原隊も槍を構えて待ち受けた。乱戦が始まったのである。竹柵や竹盾がぼろぼろなので篠原隊は苦戦していたが熟達兵が生き残っていたのでそれでもなんとか抑えていた。
「よし!今、狙い撃ちや!てぇ!味方に当てるな!」
伸びてるおいちの代わり鈴木義兼が命を出すと後方から雑賀衆が散発的だが反撃を始めたのである。雑賀衆だが少数の熟達した撃ち手に弾込め要員が複数付く独特の撃ち方だったが熟達した撃ち手が鉄砲を替え変えに確実に仕留めるので効果があったのである。
佐久間隊の槍の部隊だが逆に押し切れず手こずってる間に後方から雑賀衆が確実に仕留めるので佐久間隊が逆に浮き足始めたのである。
「む?」
佐久間信盛の支援に向かっていた光秀だがお菊の妙な気配を感じたのである。
「どうも佐久間隊は反撃されているようです」
藤田伝五が戦況を読むと
「さすが篠原殿。よくやる。お菊め。急に法力を出すとはなんだ?何が気に入らないんだ?」
「鉄砲の雨を受けて逆上したのでは?」
溝尾茂朝が言うと
「どちらにしろお菊が法力を使ったら面倒だ。せっかくの僕の心遣い(手柄)を家老様(佐久間信盛)にはもっと活かして欲しかったが。やれやれ」
光秀は溜息をついた後に
「我々が前線に入って家老様を支援しよう。何とか家老様に花をそむけたい」
光秀が言うと
「殿が居るとお菊は余計逆上するかも?高槻城を本願寺の本隊は落としていないようです。我々も延暦寺で戦力をかなり消耗しました。これ以上犠牲を増やすのは今後を考えるとまずいです。和睦に持ち込ませましょう!」
「賛成ですな。松永久秀公、三好義継公、荒木村重殿、中川清秀殿の部隊は約束通り撤収して居ないようです。本願寺も長房殿も三好三人衆も無理はしないでしょう」
茂朝と伝五が言うと
「確かにそうだ。これ以上の犠牲は今後の信長公の長い栄光の戦いに響く」
光秀も同意したのである。
乱戦が始まると
「よし!弥生!先に三途の河原に行くわ!」
「長兵衛!太郎!行くわよ!お菊たちは第2波で待機!」
マリア、金閣銀閣らに続き弥生も配下の因島衆を引き連れて佐久間隊に自慢の薙刀隊で突っ込むと佐久間側は足が完全に止まったのである。
「さすが六花仙だな。噂に違い無しだ」
長房が感嘆したが
「高槻城を攻めている本願寺が苦戦してようです!撤収もそろそろ!」
三好長免と長虎が小声で長房に言うと長房も小さくうなずいた。
「女の分際で!ぐわあ!」
「畜生!戦慣れしてない部隊じゃあ!傭兵!びびってないでもっと前に出ろ!集団で戦え!」
佐久間隊だが延暦寺焼き討ちで兵を消耗した関係で今回、戦慣れした兵をあまり動員できず寄せ集めが多かったのである。そのため熟練した弥生やマリア相手では少数でも苦戦したのである。佐久間の足軽大将たちは怖気る味方の傭兵にも手こずっていた。
長房だが佐久間隊の足が止まったのを見ると
「お菊。出てくれ。馬廻衆(長房の直接護衛の親衛隊)もお菊と行け。伸びてるおいちとお凛は後方に下げろ」
長房が命を出すとお菊らも弥生とマリアの支援に入ったのである。
お菊だが凄惨な現場を見て完全に逆上したのである。戦死した者の念もお菊に憑依しているようだった。
「お前ら!母上!父上の仇!」
お菊は猛然と薙刀だけで突撃したのである。脱兎の如く動き回り敵を斬っては刺したのである。
「お菊!」
「うわ!あいつ憑りつかれてるわ!」
弥生とマリアが唖然とする暴れ様であった。お菊の目は赤く光り、体からは赤く光が滲み出ていた。
「ちっ!お菊め!やってくれる!」
佐久間信盛隊に追いついた光秀はお菊の法力を感じて舌打ちした。
「十兵衛(光秀)!支援してくれ!押されてる!本願寺の狂ったのがおる!」
信盛が声を裏返すと
「はっ!十兵衛にお任せを!」
光秀は信盛に即答したが光秀も今日は戦力を大して持ち合わせて居なかった。
「殿!やむを得ません!高槻城が持ってる今です!」
「例の作戦で」
茂朝と伝五が言うと光秀はうなずいた。
「後は(高槻城に籠る)高山ダリオ殿に任せる。てつはう を上げよ!」
光秀はうなずいた。
篠原隊と佐久間隊が揉み合っている最中に大音響を轟かせる何かが空中で数発炸裂したのである。
「何だ?」
長房が驚くと
「てつはう?随分古い武器やな」
「合図?」
マリアと弥生も異変に気付いたが
「敵の新手!北からです!山中に潜んでいたようです!桔梗紋と十字紋。明智隊とキリシタンの部隊と思われます!数は不明!」
三好長虎が慌てて知らせたのである。
「ふむ。さすが十兵衛殿。信長公の贔屓を受けるだけはある」
長房は諦めるように言った。長房だが全軍後退の機会を探ったのである。
高槻城は本願寺の猛攻で穴だらけになりながらも硬い土塀と鉄の門のおかげで持ち堪えていたのである。逆に本願寺は敵がいないと思われていた北側からの伏兵の攻撃で完全に浮足立っていた。攻城を諦め北側の伏兵の迎撃に体制を変えようとしていた。
本願寺の攻撃が緩んだその時、高槻城から鏑矢が長房の陣に音を立てて飛んできたのである。矢には手紙がくくり付けられていた。高槻城の和田惟政の重臣の高山ダリオから長房に当てた手紙だった。
「和睦をか。 無駄な血はイエス様の前で流すべからず。篠原隊の部隊の安全はダリオ殿とオルガンティ-ノ殿が信長公の承認を得たり か」
ダリオのサインと血判も押してあった。三好三人衆の三好長免、長虎長房、岩成友通らも目を通すと長房はすぐに決断しだのである。
「白旗あげろ!停戦!」
長房が命を出すと阿波衆も戦況を読んだようですぐに佐久間隊と間を取るよう動いたのである。佐久間隊も体勢を整えるためか後退したのである。
「降伏するんかいな!」
おいちが長房に聞くと
「大将になるんなら引き際くらい覚えておけ。自分の命だけではないのだ。本願寺がが高槻城攻めに失敗、荒木村重と松永久秀の裏切りがあったのと我々の連携の悪さが敗因だな」
長房の返しにおいちは返せなかったのである。
「さすが篠原殿。引き際が良い。佐久間隊も良い。それに比べてまったく」
光秀が苦い顔をしたのは篠原長房が停戦に応じ佐久間隊が後退したのに比べ停戦に応じずまだ戦う本願寺を苦い顔で見ていた。
「鏑矢は受け取ってるはずですが。キリシタンの救援に行きますか?」
「そうだな。見捨てたらダリオ殿やオルガンティ-ノ殿に申し訳が立たない。家老様(佐久間信盛)に相談して兵を少し回してもらおう。本願寺を止めないとまずい」
光秀は茂朝、伝五らと相談したのである。




