地獄からの乙女 2-1 挿絵あり
翌朝の早朝、明智光秀、松永久秀は仰天したのである。
「敵だ!敵だ!みんな起きろ!起きろ!」
安兵衛が櫓の上から大声で怒鳴り三郎がほら貝を鳴らしていたが完全に油断していたのである。奇襲を受けたのである。
松永兵は慌てて対処していたが完全に押されていた。
「何だ?何事だ?」
頑強らが騒ぎに気付き慌てて起床すると多数の石山本願寺の兵が光福寺内に乱入しており住民が悲鳴を上げて隅に集まり怯えていたのである。
安兵衛、三郎、小太郎が櫓の下で既に石山本願寺の兵に囲まれていた。
「こんな朝早くから何の騒ぎよ。昨日飲み過ぎたかな。え!」
さちも寝ぼけながら起きたが思わず声を失ったのである。
「さち姉!怖い!小太郎!」
お菊は怯えながらさちに抱き付いた。
それでも安兵衛、三郎だが外に出て味方に合流しよう奮闘したのである。が、多勢に無勢で討たれてしまったのである。最後に残った小太郎も
「僕もお侍だ!」
そう叫んで突っ込むも呆気なく討たれてしまったのである。
「小太郎!」
お菊はその恐ろしい光景に怯えていた。
「これはどうしたって!何をしとるか!」
頑強が石山本願寺の大将に食って掛かると
「は!織田軍が石山本願寺を焼き討ちするとの情報があり顕如様より攻撃せよと!」
「そんな話は聞いていないぞ!」
怒る頑強に大将の男は黙って顕如からの密書を見せたのである。
そこには確かに 織田方を攻めよ 進むは極楽 退くは地獄 と短く書いてあった。ただ頑強も本物かどうか分からなかったが。
「今日、ワシらは石山本願寺に避難するはずだったが!」
「今から松永や明智とやら織田を壊滅させるのでそれは不要で」
この男は楽勝と言わんばかりに言ったが
「戦はそんなに甘くはないのだぞ!」
頑強は思わずどなり返したのである。
元三好兵の頑強は松永兵よりも信長が目付で送って来た少数であったが明智光秀の隊、いや、厳密に言えば光秀本人に戦場で培った勘だが何か嫌な モノ を感じていたのである。
光秀と久秀の陣地では次々と良くない戦況が上がっていた。
「安兵衛、三郎、小太郎討ち死に!」
「味方が押されています!」
「明智様、久秀殿は舟で撤収を!荷駄の船があります!」
「まずいぞ!十兵衛!ここはやむをえん!アレで行くぞ!」
久秀も光秀に荷駄船での撤収を勧めたのである。が、光秀だがすぐに立ち上がると
「僕を本気で怒らすとは。僕も信長公も騙し討ちは大嫌いでね」
普通の人には感じないが怒りで普段と全然違う異常な殺気を発していたのである。
普通の人には見えないが瞳孔を赤く光らせ体からも赤い光をもうっすらと放ち彼の愛用の古ぼけた脇差も怪しい光を放っていた。
そして
「中央突破する。松永隊は前線で守りに徹して頂きたい」
信じ難い命を出したのである。
久秀は 無理だ と言いたかったが言えなかったのである。光秀の殺気に押されてしまったのである。
光秀はすぐに甲冑を着て馬に跨ると盾や槍で必死に防戦する松永隊のすぐ後ろに陣取ったのである。
光秀の周囲は鉄砲の弾を込める兵が10名と光秀の親衛隊で護衛の藤田伝五、溝尾茂朝、明智秀満、荒深小五郎らわずかである。
しかし10名は黙って素早く鉄砲に火薬と弾を込める作業をまるで機械のように無口ですごい勢いで始めたのである。
光秀愛用の2口鉄砲のうちの1丁を光秀配下の荒深小五郎が黙って騎乗の光秀に渡すと
「カトンボが」
光秀は呟くと発砲したのである。2口なので1丁で理論上は2人倒せる。ただそのように撃てる人間はいない。しかし光秀は本当に2人を平然と仕留めたのである。そして撃ち終えるとすぐに別の2口鉄砲を荒深から手渡されるとすぐに連射したのである。5秒に4発と言う信じ難い早さで撃ち始めたが更に信じ難いのは全く的を外さないのである。石山本願寺と松永兵は直の太刀打ちなのでかなり密集していたがその隙間を確実に通し石山本願寺の兵だけを次々と射抜いたのである。
石山本願寺の兵は予想する間もなく次々とばたばた倒されていた。何が起きてるのかも分かっていないようであった。
「何が起きてる!ぐ!」
「盾だ!盾を!がは!」
一部の兵は凄腕の鉄砲撃ちに気付き慌てて盾で身を守ろうとしたが
「気付くのが遅いんだよ」
光秀は盾を持って来た足軽には1撃目で足か肩を射抜いて盾を持ったまま体制を崩し防御できなくなったところに2撃目で止めを刺し始めたのである。
石山本願寺兵もようやく騎乗で射撃する光秀に気付いて慌てて後方より光秀を狙撃しようしたが
「当たらなければどうってこと無いのだよ」
遠くからは当てるのが難しくまごついている石山本願寺兵をも光秀は次々と無慈悲に連射しばたばたと倒したのである。
光秀配下の鉄砲隊数名も光秀と同じように光秀の支援のため遠距離撃ちを次々と始めると石山本願寺の前線の被害が予想外に増え動揺し崩れ出したのである。
「化け物か!後退!後退!」
石山本願寺の第一波だが予想外の展開に慌てふためき光福寺に逃げ込み籠城したのである。
後方に居た野田福島城の兵は予定では同時に外に出て光秀と久秀を挟み撃ちにするつもりだったが本願寺の兵が後退するのを見ると再度籠城に徹したのである。
「伝五。野田福島城の連中が出てきたら牽制の斉射をしろ」
「心配無用で。怖気てるみたいですので」
「意気地なしめ。せっかくの好機を生かせない愚か者めが。まぁこちらは背中を気にしないで良いが」
光秀は怒りが収まらないのか野田福島城の兵を散々侮蔑していた。
「なぜここに逃げ込む!巻き込むな!」
頑強は石山本願寺の兵が光福寺に逃げ込んで来ると大将の男に激怒した。
「うるさい!ここからあいつらを狙撃させる!」
石山本願寺の大将格の男はそう言うと鉄砲隊を武者走りに登らせ迎撃態勢を整えたのである。
松永久秀と光秀の部隊は石山本願寺の攻撃を押し返すと隊列を整え直して光福寺の前にゆっくりと移動した。このまま通り過ぎて信長の四天王寺の本陣に戻る手もあったが石山本願寺の第二波がこちらに向かっている可能性もあった。
「悩ましい。後ろから野田福島城の連中に挟まれたり前から新手に迎撃されるのも癪だな。光福寺から撃たれるのも嫌だな。うむむ」
光秀だが怒りも収まりどうするか悩んでいると東から騎馬が数頭こちらに向かって来たのである。
「まずい」
頑強はそれを見て蒼ざめていた。
騎馬は石山本願寺の騎馬ではなく織田の騎馬であった。光秀は満面の笑みになりすぐに騎馬を迎えると伝令を受け取ったのである。そしてそれを嬉しそうに読むと久秀に手渡したのである。
「久秀殿。喜んで。信長公は石山本願寺の裏切りに激怒しており現在目の前の石山本願寺の部隊から血祭りにあげてるとか。だから敵の新手は来ないです。安心してここの連中を撫で斬りにしてから四天王寺の本陣に戻るようにと」
光秀は恐ろしい事をにこやかに言ったのである。
「まさかワシらに撫で斬りをしろと?」
久秀が青い顔で言うと
「この功で信長公は久秀殿への信頼を一気に上げるでしょう。僕も喜んで信長公に口添えしますよ」
光秀は再度にこやかに返したのである。
(畜生!嫌な仕事をやらせやがって!)
久秀は一瞬光秀に敵意を持ったがそれでも光秀以上に信長を恐れたのである。
「あいつら何を企んでるんだ?」
「援軍を待て!落ち着け!」
石山本願寺の兵や僧兵は構えていたが
「援軍は織田に殺られちゃったんじゃないの?」
さちが横から入った。
「一本道を東から織田の伝令が来るなんてさ!勝負あったかな。悲しいね!」
さちはこれから始まる地獄を見越したように諦めたように言った。
「明智殿!待たれい!」
頑強が慌てて武者走りの上から声を上げた。
「このような事になるとは本当に知らんかったのだ。せめて町の者だけは逃してくれ!ワシの首をよこす!頼む!」
「頑強僧正。あなたはさすが武人です。あなたがこの件を知らなかったのも分かりました。信用します。しかし信長公は裏切りは大嫌いですので。でも安心してください。すぐにみなさんは極楽浄土にひと思いで送らせて頂きますので!」
光秀は再度爽やかに言ったのである。光秀は信長の命で裏切りの見せしめとして光福寺に籠る者の撫で斬り、皆殺しを宣したのである。




