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大人になるってさ 10-2

 お菊だが外に出たが散歩できる範囲は限られている。夜間は本願寺や坊、門前町の外に行く道は門番が居て閉じられているのである。お菊は近くの本堂の前に立って念仏を唱えた後に少し考えたのである。本堂の扉は閉じられ阿弥陀如来像も見えないが。

「あたし何やってるんだろ」

 お菊は思わず考えたのである。

「六花仙になってさち姉の仇を取ったらどうしたら良いんだろ。って明智殿だって信長の命でやったって。明智殿倒しても何にもならない。信長を倒すって信長って誰かも分からないのに。石山本願寺の敵かもしれないけど。小次郎と つがい になったら小次郎の寺に行くのかな。あ、あたしあいつがどこの寺から来たのかも知らないのに」

 その時、誰か本堂の通用門から出て門前町に向かっていたのである。

「あ!」

 弥生であった。お菊だが思わず密かに後を付いて行ってしまったのである。

 本堂のすぐ近くの門前町の裏の長屋街に弥生は向かっていた。そのうちの一軒に入ったのである。

「母上!お帰りなさい!」

 扉が開くと小さな男の子が弥生に嬉しそうに飛び付いたのである。弥生も嬉しそうに男の子を抱きしめたのである。

「おう!お帰り!」

 続いて姿は見えなかったが男性の声も奥から聞こえたのである。弥生は家の中に入って行ったのである。

「弥生さん。そうだったのか」

 お菊はなんか不思議な気持ちになったのである。

 弥生に母の香りを感じていたが本当に母だったのである。

「本当の母上なのか」

 お菊は呟いた。


「ただいま」

 お菊は自分の坊に戻ったのである。

「こんな時間にもうまったく」

 小次郎が呆れてたが

「寝る。おやすみ」

 お菊は小次郎に背中を向けて布団をかぶったのである。

「暖かい甘酒があるが飲むか?」

「いらない!寝る!」

「分かった。おやすみ。たはぁ」

 小次郎もちょっと呆れ気味に寝たのである。


 翌日だがお菊は普通に修行に出たのである。小次郎も出て行った。

「おはよう!お菊!」

「おいち!顔がいやらしい!」

 お菊はいらいらしながら返した。

「怒らない!そのこわ~い顔を見るとうまく行かなかったかな!残念!」

「あたしはおいちみたいに破廉恥じゃないからいくら小次郎でも急には無理!」

「破廉恥じゃない!女は嫁に行けって言われたら行くのさ!殿さまの姫はみんなそうしてるんだよ!あたしは今は自由にしてるけど父上から嫁に行けって言われたら行くさ!自由が良ければ町人になりな!」

 おいちだが急に厳しい顔で言ったのである。

「う!おいちの相手って決まってるの?」

 お菊が押され気味に返すと

「まだだよ。これからだよ。でも仕方なさい。殿さまの姫なんてさ、響きは良くてもただのお預かり(人質)で手切れ(裏切りなど)になったら磔台行きだってあるんだよ。あんたなんて恵まれてると思うよ」

 おいちは真面目な顔で寂しそうに言った。

「……」

 お菊も怒りが収まったのである。

「雑賀の若い元気な衆だったら楽しいけど20歳も30歳も離れたオジンとだったらウチもさすがにしんどいわ!あ!阿弥陀如来さまに若いイケメンの婿が来るようお願いしよ!小次郎と仲良くね!アディオス!」

 おいちはそう言うとちょっと怒り気味に本堂に行ってしまったのである。

「もうおいちの奴。好き放題言ってくれちゃって。でもおいちの言う事ももっともか……」

 おいちは一応紀伊雑賀衆筆頭の鈴木家の姫であるが雑賀衆は紀伊の紀ノ川周辺のみの地域領主でその周囲の農業を行う者、海運を行う者、宗教も浄土真宗が多いがそうではない者もおり、元は畠山氏の所領だが畠山氏は統治の力は無く飾りで自分たちで鈴木家を筆頭とし共同で領国の統治を行っていたのである。戦国大名と組むより侍の統治を拒否し自分たちの自治、惣 を守る事に主眼を置いており今は戦国大名の統治を拒否する石山本願寺と益があるので組んでいたのである。


「婆や。ただいま」

 お菊は桜花院に戻ったのである。小次郎はいなかった。

「お帰りなさい。小次郎さんは今日は戻らないそうです」

「分かった。小次郎の奴どこ行ってるんだろう」

「小次郎殿は有馬の温泉に心眼様と行くんですって」

 珍しいと思いつつ何か色々と教わってるんだろうとお菊は察したのである。

「お菊さん、もし小次郎殿が難しければ他の人も相談しますよ。性格の合う合わないは仕方ないですからね」

 婆やが小声で穏やかに言ってきたのである。

「婆や。ありがとう。大丈夫。今度小次郎と話すよ」


「ただいま」

 小次郎だが翌日の夜、帰って来たのである。

 お菊だがお帰りと言わなかったのである。

 しばらくの沈黙を置いて小次郎の前に座ると

「あなた、今度からここに住むって?聞いていなかったよ」

 お菊が不満そうに言うと

「しょうがないだろ?俺が決めてるんじゃないぜ!本願寺の命だぜ!」

「それは分かるけど。小次郎ってどこのお寺?」

「京だよ。でも俺は帰らないぜ」

「なんでさ」

「俺は六地蔵に確定した。お前も六花仙確定だと。だから一緒にここに住めってさ。あれ?お前、嬉しくないみたいだな?」

「奈阿の最期とか見たらそんな気も起こらないよ。いつ死ぬか分からないのに。あの子いい子だったのに」

「だよな」

 小次郎も暗い顔で返した。

「そんなんで つがい になる意味ってあるの?もし子が出来てもさ、あたしみたいに身寄りが無い子だけをこの世に残してさ」

 お菊が暗い顔で下を見ながら言うと

「……」

 小次郎は返せなかったのである。


「寝る」

 お菊はそう言うと自分の布団に入ったのである。小次郎も黙って自分の布団に入った。二人とも10分ほど天井を見ていた。


 お菊はしばらくして口を開いた。

「あたし弥生さんのお子様見ちゃった」

「……」

 小次郎は黙っていた。

「かわいい男の子だったよ」

「そうか」

「弥生さんにもし何かあったらあの子、可哀そうすぎるよ」

「そうだよな」

「弥生さんてすごい素敵な人だと思う。色々あったみたいだけど強いし気遣いできるし。あたしあの人に死んだ母上を重ねちゃう」

「……」

「だからあたしもあんな人になりたい」

「良いんじゃないか」

「あなたの言ってた渡辺様の事も分かった気がする」

「へぇ。嬉しいぜ。俺もあんな侍になりたいんだよな。己の欲じゃなくて信念で生きたいんさ」

「小次郎……」

「もしさ、弥生さんに何かあったらあの子は俺たちが面倒を見るなんて偉そうに言えないけど手助けしたら良いじゃないか。それが人じゃん。親を亡くしてここで世話になってるお前とか俺みたいにさ」

「え?」

「!何でもないさ!もう寝ようぜ!おやすみ!」

 この日は先に小次郎が目を閉じたのである。


 突然であった。お菊が小次郎の布団に移り抱き付いたのである。

「わ!なんだよ!急に!」

「奈阿を弔わなきゃね。見習わなきゃね。動くな!」

「何言ってるんだ?ちょっと待て!おい!心眼様に手順を細かく聞いたからその通りするから待て!おいったら!勝手にするなったら!」


 10分後だが二人は一通り終わって再度天井を見ていた。

「あのさ」

 お菊だが突然じっと肘を付きながら呆れ顔で小次郎の顔を見たのである。

「なんだよ?」

「男ってこれ、楽しいの?」

「た、楽しいさ!」

「本当?小次郎がすごい真剣な顔であたし引いたよ」

「お前なぁ!」

 小次郎が真っ赤な顔で返すと

「女ってこう言う使い方あるんだ。分かった。奈阿すごい。でも男ってほんとバカだね」

「お前!奈阿を襲おうとした連中は同意してないでやるから悪党で罪だ!これは本当はお互いに同意して子宝のための大事な儀式なんだぞ!お前の考えはおかしい!」

「あなたの顔見て呆れたからもう寝る」

「これの最中に人の顔を冷静に見るな!って人の話を聞けって!」


 翌日だがお菊は案の定おいちに捕まったのである。お凛も目を輝かせながらやって来た。

 お菊は率直に つまらなかった と返したのである。

 おいちは笑い転げお凛は固まっていた。



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