大人になるってさ 10-1 挿絵あり
近江から石山本願寺に戻って年が明けてもう3か月。もうすぐ春が近づいていた。普段通りの修行や本願寺の事務など単調な生活に飽きていた頃にお菊は弥生に呼ばれたのである。
「お菊また背が伸びたかしら? 14歳になったのね。もう良い年頃ね」
「?」
「あなたは生き残りたいから戦ったのよね。それは良き心構えだわ」
「はい」
「武道だけでなく知識や策略も必要よ。あなたにそれを教えたいの。今晩お邪魔してよろしい?」
「?はい」
お菊は弥生が何を言ってるのか分からなかったが同意したのである。
その日の夜だが弥生が約束通りやって来たのである。
「久々に一緒にお風呂で清めましょう」
「はい……」
お菊は顔を赤らめてしまった。
弥生とは女同士で何回も一緒してもなんか恥ずかしいのである。弥生は身長は170センチ近くあり女子としては大柄だが体の線はお菊が見ても美しいと思うほどしっかりしていたが自分はまだ子供と思っていたのである。
弥生と一緒に湯船に入るとお菊は恥ずかしいので赤くなり目をそらしていたが
「奈阿たちの件は残念だったわ。あの後、本願寺からも詫びの使者がご実家に向かったけど」
「……」
お菊も奈阿が何か男に恐ろしい目に遭わされているのは遠目にも分かった。それでも奈阿は最後は隙を見て立ち上がり4人も討ち取って果てたのである。
「奈阿は知っていたのよ。女の武器を。そしてじっと機会を待ったのよ。そして最後に捨て身で相手を倒して極楽浄土に向かったわ。渡辺様も立派な 武士 だったって褒めてたわ。だから奈阿が勝ったら逃がすつもりだったんですって」
「……」
「あなたは武の素質はかなり良いわ。でもあなたもこれからもっと素敵な大人、いいえ、素敵な女子になるわ。それはあなたの強い武器になるわる」
「?」
「あなたに今日はそれを教えに来たわ」
「あ!」
弥生だが湯船の中でお菊をそっと抱いたのである。
お菊だが弥生に亡き母の香りをいつも感じてしまうのである。弥生に優しく抱かれてるとなぜか恥ずかしさや緊張がほぐれて来たのである。お菊も懐かしのあまり身を任せてしまった。
しばらく時間が経ってから
「上がりましょう。まだ続きもあるの。布団に入りましょう」
「うん」
お菊だが布団に入って待っていると弥生も一緒に横に入ったのである。
なんかお菊はまた緊張してきたが再度弥生は優しくお菊を抱いたのである。
「私も初めての時はとても緊張したわ。分かるわ。でも安心して私にすべて任せて頂戴。お菊。今日の事はびっくりすると思うけど女だったら誰もが通る道よ」
「……」
お菊は顔が真っ赤になっていた。
「この世は男と女しかいないから。そしてみんなこうして次の代に継いでいくのよ。お母さんが教えてくれたり相手がいれば自然に知ったりするけどあなたは私が教えてあげるわ」
(恥ずかしい!)
「本当に良き相手を見つけられればこれは素敵な事よ。嫌な相手の時は手玉に取れば良いのよ。奈阿みたいにね。今度はあなたの本当の相手とお互いに色々と深く感じて理解しあってみてね」
「あたしの本当の相手と深く感じて理解しあう?あ!」
お菊だがそう言うと着物を布団の中ですべて脱がされたのである。そして何か色々されたのを覚えていたが緊張と恥ずかしさで頭がごちゃごちゃになり、最後は少し気持も良かったがいつの間にかそのまま寝てしまったのである。
翌朝、目が覚めると弥生は既に出かけていた。
お菊はばっと跳ね起きると
「あたし昨夜、弥生さんになんて事されちゃったんだろう!わ!裸じゃん!」
慌てて布団に再度潜ったのである。
「お菊さん。寝坊ですよ」
婆やが襖の向こうから声を掛けてきたのである。
「やばい!行く!」
お菊は慌てて着替えて道場に向かったのである。
道場ではいつも通り心眼と弥生たちが居た。弥生は普段と全く変わりなかったがお菊は恥ずかしくなって赤くなったのである。
今日の修行は組み合いだが全然集中できず着地や受けは失敗ばかりであった。
「こら!お菊。集中!集中!」
お菊の相手をしていたおいちが口を尖らせたが
「あんた顔赤いけど風邪かい?あれ?熱はないね」
おいちがお菊のおでこを触ったがしばらくして
「あ!あんたもしかしたら!」
にやりと笑い
「小次郎とコレかいな?大人しい顔してやるねぇ!このお!」
「おいち!違うって!ちょっと!」
お菊は再度顔が真っ赤になったのである。
「あら図星かいな。嘘が下手やねぇ。どうやった?教えてや!いひひ!」
「こら。お菊においち。だべらない」
心眼が二人を注意したのである。
「すんません。修行早く終わらんかな!うう!楽しみや!」
(このおぉ!)
お菊は珍しくおいちに敵意を感じたのであるが。
修行が終わると
「教えて!どうやった?みんなには内緒にするわ!」
案の定だがおいちが嬉しそうに飛んできたのである。話したくなかったがおいちの圧に負けて昨晩の体験を真っ赤な顔で渋々だがお菊は話したのである。
「なんや。小次郎ちゃうやん。弥生さんに教わったんかいな。そんなんで赤くなってるんかいな。つまんな。それじゃあ今日サボった凛凛に報告できんわ」
「凛凛に言わなくていいでしょうが!だいたいおいちはどうなのよ!」
さすがにお菊もいらっとして返したが
「え?雑賀を流れる紀ノ川で子供の頃から夏はすっ裸で泳いでるから男のなんて見飽きてるしする事ないから時々ちょめしたりさ」
「!おいち!あんた破廉恥!最低!外で何やってるのさ!」
再度お菊が真っ赤になって怒ると
「なんでやねん!田舎はそんなんやで。大きな町の人はなんか見栄を張り過ぎやで?なんで金払ってまで知らん奴とコソコソすんねん?あとコレしないと次の子供に継ながらんやろ?」
おいちは平然と言った。
「ぐ!」
お菊は反論できなかった。おいちが言ってる事も正しいとは思ったのである。
「小次郎と仲直りして過ごしたんかと思って楽しみにしてたのになぁ。どんないちゃやったんいかなって!でもあいつ淡白そうやからな。あ~。残念やわ。あら!ちょ!待って!怒ったんかな?もうお菊は うぶ で真面目やな。かわいいわ」
お菊だが怒って帰ってしまったのである。
「おい!土産だ!」
その日の夜だが突然小次郎が甘酒を持ってやって来たのである。
お菊はびっくりである。
「え?急に何よ!しかもこんな時間に!いやらしい!ここは男子禁制!」
お菊だがすぐに見抜いたように赤くなりながら言ったのである。
「仕方ないだろ!弥生さんから行って来いって言われたんだよ!心眼さんも明日は修行に出なくて良いって」
小次郎も赤い顔で返した。
「あらあら。いらっしゃい。甘酒ありがとうね。今すぐ温めますね」
「ちょっと!婆やまで!」
婆やはお菊に構わず小次郎から甘酒を受け取ると台所に向かったのである。
「あたしこう言うの苦手!」
お菊は膨れながらぷいっと反対を向くと
「お前意外と堅物だよな」
「意外じゃない!」
「怒るな!あのな。お前も知ってると思うけどみんなこれが目的なんだよ。地方の本願寺の末寺は子息をここに送ってつがいになって一緒になって帰ってもらうんさ。そうすれば箔が付くだろ!うまく行ってるのもいるだろ?」
「分かってるけどさ、おかしくない?お互い良く知らないのに誰かが決めて つがいになれってさ!」
「確かにおかしいけど今までもそうしてるんだよ!」
「もう!そうかもしれいけどさ!急に来られてもあたしだって心の整理が必要だし!」
「そうかもしれないけどさ。その。あの。今日はお前が大丈夫なはずって弥生さんに聞いたから」
小次郎はさらに顔を赤らめてしどろもどろには言ったが
「大丈夫な訳ないでしょ!急にこんな時間に来て秘め事の話なんてさ!いやらしい!最低!」
「だああ!その整理じゃないって!話が全然かみ合わないぜ!」
お菊の怒りに油を注いでしまい小次郎もお手上げである。
「帰れとは言わないけどそこで別の布団で今日は寝るだけにして!」
「分かったよ!」
「つがい、つがい ってみんなもう!つがい になっても六花仙になったらいつ死ぬか分からないのに!関係ないじゃん!」
「六花仙だろうがなかろうが人間死ぬときは死ぬんだ!弥生さんだって六花仙だけどお子さんいるじゃないか!」
「へ?」
お菊は弥生が結婚しているのを知らなかったのである。独身と思っていたのである。そう言えばこの坊は弥生の所有と聞いていたが彼女は住んでいなかった。
「でもなんで大人の都合でこんな事!」
「本願寺が末寺を抱えるためなんだよ!ところでお前、今まで素直な奴と思ってたのにどうしたんだ?反抗期か?」
「あたしだって色々疑問に思うよ!言わないだけで!」
「じゃあ俺にだけ文句言うのはやめてくれないか!」
「なに!もういい!」
お菊は部屋を飛び出したのである。
「おい!どこ行く!」
「散歩!」
「夜だぞ!おいったら!」




