女子も梟雄であれ 9-3
お菊だが次の日の修行を体調が悪いと休んだのである。
「あ~お菊の奴、すねちゃったかいな」
「意外と細やかやからな。小次郎の図太さは見習ってほしいけどな」
おいちとお凛がひそひそ話した。
小次郎は何食わぬ顔で修行に来ていたが。
「な、おいち、明日もお菊が来なかったらちょっとお菊の坊に顔出そうかいな?」
「そやな。そうするかいな」
お凛の提案においちも同意した。
「な、おいち、あと心眼様と弥生さん何かあったんかな?」
「へ?」
お凛の言い回しにおいちはぽかんとなったが
「いつも2人とも隣り合って修行を見てるけど今日は随分と間を取ってないか?」
「お!言われてみたらそうやな」
「しかも互いに今日はひとことも口を利いておらんし」
「さすが凛凛!鋭いな!」
おいちはお凛に感心したが
「本願寺の会議で揉めたんかな?」
「そかもな。でも何の話したんやろ?」
「偉い人は何を考えてるか分からんわ」
お凛とおいちはひそひそと話したのである。
「ところで弥生さんお菊と小次郎の件を知ってるかいな?」
「分からんなあ」
おいちは少し考えた後、
「凛凛!良い事思い付いたわ!明日、お菊が来なかったら早引きさせてもらおうや!お菊のとこに行くって!」
「さすがおいちや!そうしよ!」
2人は同意したのである。
翌々日もお菊は来なかったのである。おいちとお凛は弥生に相談したのである。
「弥生さん!今日、早引きしたいんですわ」
「どうしたの?」
おいちが切り出すと弥生が不思議そうな顔をしたが
「あ!お菊が心配なんですわ!」
「お菊なら大丈夫よ」
「へ?」
今度はおいちとお凛が呆気に取られたのである。
「お菊の婆やが体調悪いのでお菊が世話してるの。私も午後、様子を見に行こうと思ってるの」
「なんや。そうだったんか」
「小次郎の件じゃなくて良かったわ」
おいちとお凛が安堵すると
「小次郎の件も清澄殿と悠然殿から聞いたわよ」
「あらま」
おいちとお凛は心眼を見てから弥生を見てしまったが。
弥生も意味が分かったようで
「ふふふ。私も先日の会議でちょっと心眼殿と言い合ってしまったの。だからちょっと間を置いてるのよ」
「やっぱそうやったんや」
「弥生さんも熱くなる時あるんや」
お菊とお凛は弥生の意外な一面に驚いたが。
「こういう時はお互い離れて熱を冷ますのも悪くないわよ」
「なる(ほど)!」
「同意やね!」
おいちとお凛もとりあえず事情が分かり安堵したのである。
しかし
「なぁ、凛凛。やっぱ早引きするか」
「そやな!」
2人ともにやりと笑うと
「弥生さん!心眼殿!すんません!今日はお先です!」
2人は大声で挨拶すると走って脱走したのである。
「は?」
心眼は呆気に取られていたが。弥生はくすくす笑っていた。
「お薬ね。用意してあげよ。弥生さん。あたしも早引きさせてください」
密かに聞き耳立てていた舞だが弥生に相談したのである。
「え?あなたまでどうしたの?」
弥生が驚いたが
「堺に大和のお薬を扱う知り合いが居るのでお買い物です。お友達のためですので!今日は失礼します!」
舞もそう言うとさっと退散したのである。
「今日は何だ?」
心眼は再度呆気に取られていたが弥生は再度くすりと笑ったのである。
「婆やさん!お菊!元気か!」
「差し入れやで。元気出してや」
おいちとお凛は途中で咳に効くとか言うのど飴を買って来たのである。
「おいちに凛凛!どうしたの?」
「弥生さんから事情は聞いたんや」
「最初は小次郎とのケンカを引きずってるんかと思ったわ」
「あんな奴もう知らない!」
お菊はぷいっと顔をそむけたが。
「ま、怒らない。今は婆やさんが元気になるのが一番やね」
「すみませんね。ゴホン」
婆やは咳をしていた。
「今日はあたしが夕ご飯の支度しようと思ってね」
「え?お菊って自炊できるん?」
「すご!」
おいちとお凛はお菊の予想外の反応をしたのである。
「あたし茶店の手伝いしてたから出来るよ。今日さ、あたしがみんなに夕ご飯おごるからみんなでお買い物行かない?」
「行く行く!」
おいちとお凛は嬉しそうに返したのである。
お菊だが婆やが若い頃に使っていた町の女子が好みそうな結び目が大きい赤い派手なちょっとだらっとした着物とこれまた派手な結ぶ目のある被り物も見つけて借りたのである。お菊は自慢の長い黒髪を束ねて被り物に収めて籠を手に3人はだらだらと夕飯の材料の買い出しに門前町に出掛けたのである。
「婆やさんって意外と派手好きだったんやね」
お凛がお菊の被り物を見ながらちょっと驚きながら言うと
「いつも女子はかわいいのが好きなのよ」
お菊もこの格好がまんざらでなかったので嬉しそうに返したが
「うん!確かにかわいいわ。ウチは袴ばっかやから似合うアンタがちょい癪やなぁ。ちょっと引っ付かせてもらおうかな」
「おいち!こら!ウチのお菊にベタベタくっつくな!アンタは男だけじゃないんかい!」
「凛凛!固いこと言うな!ウチだってかわいいのが居たら近づきたくなるねん!かわいいに女子も男子もないんや!」
「くう!さすがおいちや!股口、違うわ、間口が広すぎるわ!今日は一本取られたわ!」
「ちょ!二人ともあまり大きい声でその手をしゃべらないでさ!他の人の視線が恥ずかしいから!」
お菊はおいちとお凛の会話が恥ずかしかったのである。
三人だが門前町の食材を売っている店をだらだらと歩いたのである。
お菊だが好物の刺身を食べたかったがあまり鮮度が良いのが見つからず鳥肉と魚を焼いて野菜を煮ようかなとか色々考えて歩いていたのである。
色々三人で何を食べようかと話しながら角を曲がると
「わ!」
「きゃあ!」
突然走って来た小さい男の子供と鉢合わせになりぶつかってしまったのである。
三人ともこの子の勢いに押され尻持ちを付き
「いたた」
お菊とお凛は尻をさすってたいたが
「こら!なにするねん!きれいなお姉さんにぶつかったら謝るのが礼儀やろ!」
おいちは子供を捕まえて謝らせようとしたが
「放せよ!この!」
子供は謝るところか逃げようとしたのである。
「待て!こそ泥!今日こそ懲らしめたるわ!」
追っ手が息を切らしながら来たのである。
「こそ泥?」
おいちがぽかんとしたが
「あなたそうなの?」
お菊が小声で聞くと
「知らんわ!」
子供はぶっきらぼうに返したが
「この子知らないって言っていますし。何かの間違いかと」
お菊が子供を庇うように返すと
「お嬢さん。この小僧はいつもなんだ。今日こそは房に入れて油を搾らないと会合衆の名に響きますわ」
追っ手の男は厳しい口調で言った。
「そうかもしれないけどさ。だったら話し合ってみるとかもどうかいな?」
おいちも庇ったがその時である。
「あれ?もしかしたらお凛ちゃんかいな?」
追っ手の男はお凛を見て態度を変えたのである。
「そやけど?」
お凛もきょとんと返したが。
「なんや。凛凛のお知り合いかいな」
「そ、かな?」
(この人誰やろ。覚えてないわ)
お凛だが本当にこの男たちを思い出せなかったが。
「まだちびっ子やから見逃してあげてや」
お凛もこの子供に助け舟を出したのである。
「う~ん。お凛ちゃんまでがそこまで言うなら仕方ないわ。小僧!今回は特別やで!」
男たちはお凛を立てて渋々だがこの子供を見逃してくれたのである。
「ありがとう!父ちゃんに言っておくわ!(この人誰か知らんけど)」
お凛が返すと男たちは去って行ったのである。
「こら!今回はお姉さんたちの大判振る舞いやで!」
「二度と悪さしたらあかんで!」
おいちとお凛がこの子供を怒ったが
「余計な事すんなよ!フン!」
おいちとお凛の情けをこの子供は否定したのである。
「な!なんやねんその言い草は!普通は素直に ありがと やろうが!」
「庇ってやってそれはあんまりやで!」
おいちとお凛が口を尖らすと
「お前ら本願寺の戦のせいで父ちゃんが死んで母ちゃんや妹がひもじい思いをしてるんや!お前ら大嫌いじゃ!」
「!」
この子供は叫ぶと走っていずこへ立ち去って行ったのである。
おいち、お凛、お菊はこの子供に返せず走り去るこの子供を見送るしかできなかったのである。
「なぁ、さっきやっぱあの子、突き出すべきやったかな?」
「そうやな。分からんわ」
坊への帰り道だがおいちとお凛は珍しく悩んでいた。
「でもさ、あの子の父親が本願寺の戦いで死んだのが事実ならさ、あたしたちって正しいのか?って話にならない?」
お菊が暗い顔で言うと
「そうやな。そこに突き当たる」
「もう考えるのやめよ」
3人はそれ以上は話さず、お菊の坊に黙って戻ったのである。
「婆や、ただいま。今から夕ご飯の用意するからゆっくりね。あれれ?」
「お帰りなさい!」
お菊が戻ると婆やの横に舞が居たのである。
「わ!強敵や!急になんやねん!」
おいちが驚くと
「あ、お菊さん、この方から大和のお薬を頂きましてね。すごく良くなりましたよ」
婆やが返したのである。
「大和のお薬?」
お菊たちががぽかんとすると
「私の母の知り合いが居る大和の南端はお薬の産地なの。堺に大和のお薬を扱うお店があるから私からの差し入れね!」
舞がにこりと笑いながら言ったのである。
「そうなんだ。舞、ありがとう!」
お菊は舞に礼を言ったのである。
「お菊が嫌いな松永衆にも良い娘はいるなぁ」
お凛が冷やかすと
「大和衆は下衆な久秀公は嫌いよ。あたしも久秀公の娘ではないわよ。久秀公の都合で勝手に養女にされたのよ。でもね、例え捨て駒にされてもあたしは伊賀の郷には必ず生きて帰るけどね!」
舞が返すと
「そうだったんだ。勘違いしてごめんね。でも確かにあなたなら何があっても絶対に伊賀のお家に帰れるよ」
「そや!」
「同意やね!」
4人は大笑いしたのである。
「よし!夕ご飯作ろう!みんな手伝ってね」
お菊が言うと
「弥生さんも後から来るから多めにご飯炊いてね」
「了解!」
舞と弥生の分のご飯をたくさん炊いたのである。
この日の桜花院の坊は女子で終日賑やかだったのである。




