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天下布武 される者たち 31-3

 数日後、波太神社に雑賀の郷から鈴木重秀、嫡男の重朝、土橋守重、岡吉正が織田家の長岡藤孝と森好久の護衛でやって来た。

 おいちは元服したばかりの弟の重朝と軽く抱擁した後、重秀、守重、岡と信長や織田家の重臣衆との和睦の交渉に付き添ったのである。


 お菊だが鈴木重秀らが波太神社に出発した後に許されて牢を出れたのである。

 その後は織田との戦いが停戦状態になったのでお菊も弥勒山寺砦で静かにしていた。雑賀衆と信長との間の和睦が正式に成立したとの情報が雑賀の郷にもたらされるのはそれから間もなくである。

 そして3月の中盤だが鈴木重秀、土橋守重、そしておいちも雑賀の郷に無事に戻ったのである。みんな無事に生きて雑賀の郷に帰った事を喜んだが手放しでは喜べなかったが。


「お帰り!」

 お菊だがおいちと軽く抱擁した。

「ただいまや。けど、弟が信長公に取られてしまったわ」

「そうかいな……仕方ない。もうドンパチも終わりやな」

 お凛もおいちと軽く抱擁するとさばさばと言った。

「そうやな。そうして欲しいわ。そうするしかないわ」

 おいちは悲し気な顔で言った。

「爺や(岡吉正)と(住吉浜手砦で織田の人質になっている)菊坊が弟と一緒に織田の安土に向かったわ」

「そうかいな。全員安土に行ったんやな」

 お凛も複雑な顔で返した。


「あんたが安土に行けば良かったのにさ」

 お菊だがいきなりおいちに言ったのである。

「何やと!聞き捨てならん!信長公の命でこうなったんや!ウチだって安土に行く気満々やった!覚悟もしてたわ!信長公は安土からウチに付ける女中まで連れて来てたわ!でも信長公が重朝を見て気に入って 俺が立派な武将に育てる って安土に連れて帰ってもうたんや!だから重朝には申し訳ないけどウチは帰れたけどな」

 おいちだが再度悲し気に言った。

「あんたが安土に行ってくれればあたしも凛凛も喜んで安土に付いて行ったのにさ!そうしたら戦から解放されて(戦う理由が無くなって)みんなで楽しく笑って過ごせたのにさ!こんな血生臭い世界ともおさらばできたのにさ!」

 お菊だがにこりと笑いながら言った。

「アンタ何言ってるねん!そんなお気楽極楽ちゃうで!何かあったら磔台行き地獄行きやで!」

 おいちはお菊の予想外の返しに戸惑ったが

「いいじゃん。それでもさ。磔台の上で死ぬか戦場で死ぬかだけなのさ。でも運が良ければ 織田の時代 になって布団の上で死ねるかもよ。どうせ地獄行きだし」

 お菊は本気で言ったのである。

「う!アンタ、何を言うてるねん!」

 おいちはお菊の本音とお菊が織田の時代を受け入れるに返せず躊躇したが。

「……」

 お凛は黙っていたが。


「さてと、雑賀衆と織田の和睦が成立したから俺たち(本願寺の兵)も大阪に帰りたいとこだが」

「そうは問屋がおろさないんですよね?おいち殿?」

 金閣と銀閣が横から入って来た。

 おいちだが少し黙った後

「そうやねん」

 がっかりと肩を落とした。

「信長公だが太田城の雑賀衆(宮郷、中郷、南郷)や根来の連中をちゃんと従わせろ言うてるねん」

「え?太田城の雑賀衆と根来衆って信長公の味方でしょうが?」

 お菊が驚くと

「太田城の雑賀衆や根来衆が戦う気が無いのを信長公に完全に見抜かれたんだろ?結局同じ穴のムジナと思われたんだろ?まぁ、仕方ないかな?」

 マリアが言うとおいちが頷いた。

「今度から雑賀荘、鈴木家が責を持って統治しろってや。彼らが従わなければ成敗しろやて」

「アンタらが信長公の片棒を担ぐんやな。でも弟が取られてるから従うしかないって事かいな」

「惣を守るために戦ってたあんたらが惣を終わりにしてまぁ武家になって惣を統治しろって事?」

 お凛とお菊の問いにおいちは再度力なく頷いた。

「ありゃ?でもこの前は土橋(守重)様が雑賀の代表になる言うてなかったかいな?ああ、そう言う事かいな。信長公に土橋党と太田城の雑賀衆(宮郷、中郷、南郷)や根来衆はグルとバレたたんやな。だから信長公は重秀様、鈴木家を選んだんやな。あるあるやね」

 お凛が少しわざとらしく言うとおいちは再度頷いた。政治が苦手なおいちはあまり理解してなかったが。

「でもそうなると梯子を外された土橋党が不満だろうな」

 マリアも小声で言うと

「そうやねん。だからもう雑賀はバラバラや」

 おいちは悲しく呟いた。

「それなら仕方ないな。だが本願寺は 今の雑賀衆 には味方できない。おいち、分かってな」

 マリアが冷静に言うとおいちは頷いた。

「ウチは手伝うわ。(織田配下の)堺衆には(織田配下になった)信長公から鈴木家への支援の命が出るやろうからな」

 お凛は現実的に言ったが

「やめな。信長公の狙いは最初からそこだったんだよ。雑賀衆同士で争わせて勝手に滅ぶのを待ってるんだよ。だから和睦なんてどうでも良かったんだよ」

 マリアがお凛を止めたが

「明智殿やったらそんくらいするやろう。承知やで。むしろこれで本願寺が戦うのを諦めてくれるのをウチは願いたいわ」

「……」

 お凛の返しに今度はマリアが黙ったが。

「お菊、あんたはどうする?」

 マリアが話を変えるように聞くと

「おいちを手伝う」

 お菊は即答した。

「この前も勝手に行動して重秀様に怒られたばっかだろうに。本願寺に対してまた勝手に自分の考えで行動して本願寺のお偉いさんにばれたら顕如様にも怒られるぜ?」

 マリアが言うと

「そうかもしれない。でも雑賀衆は本願寺の手助けをずっとしてきた。雑賀衆が内輪揉めの時の本願寺は知らないじゃおかしいですよ」

「なるほど。でもそうだな」

 お菊の簡潔だが真っ当な返しにマリアは返せなかったが。

「お!さすがお菊殿!気に入ったよ。俺も手伝うかな?」

「俺たちは 義勇兵 か 傭兵 扱いなら良いですよね?」

 金閣銀閣がお菊に感心し乗り気にマリアに聞くと

「勝手にしなよ。あんたらが死んでも香典は出さないよ」

 マリアは素っ気なく返したが。

「これが顕如様の耳に入ったら面倒だからあたしはすまないが大阪に帰るよ。おふうも毛利水軍も撤収だろうね」

 マリアが言うと

「すんません。承知ですわ。ご迷惑おかけしますわ」

 おいちがマリアに詫びたが。

 マリアだが

「雑賀の郷が本願寺に戻る時は遠慮なくな!アディオス!金閣銀閣も怪我するんじゃないよ」

 さっぱりと大阪に去って行った。


「俺たちを置いて行くだけでもマリアの気持ちさ」

「そう言う事!ただ本願寺では今回の雑賀衆が浮足立ってるのは不満が出てるらしいですがね」

 金閣銀閣が言うと

「そりゃそうだろうね。でもこれじゃ雑賀の郷でも鈴木家に協力しない人がたくさん出そうだけど。兵が足りないけどどうするの?交渉でなんとかするの?」

 お菊がおいちに聞くと

「交渉で済めば一番やけど。そうもいかんやろうな。だからほんまに怒らんでな」

 おいちは躊躇しながら言った。

「織田が兵を出してくれるねん。禁じ手やって分かってるけど。兵が足りんので父上は飲むらしいわ」

 おいちが元気なく言った。

「さすがやね。明智殿なら考えそうやね。だから山手隊と違い浜手隊は戦力を温存したんやな。まぁ仕方ない」

「明智殿の配下の軍と共闘とは腐れ縁だね。まったく」

 お凛とお菊は光秀を思い出したように言った。

「問題はアンタらの予想通り、叔父上(土橋守重)が猛反発や。叔父上が雑賀の指揮を執る件を信長公が反古にしたんや」

 おいちが言うと

「土橋様が怒るのももっともだけど裏で繋がってるかもしれない人を上には置けないもんねぇ。信長公は正しいかな」

 舞が横からこそっと言うとおいちも返せなかったが。

「父上はなるべく戦わず従うよう細工してるけど。難しいやろうな。はぁ。明智殿に踊らされてるのかいな。成り行きでなったのかも分らんけど」

 おいちは溜息をついたが。

 

 大阪に帰ったマリアと入れ違うように翌日、おふうが弥勒山寺砦に来たのである。

「おふうさん!」

 おいち、お菊、お凛はおふうを歓迎した。

「すまなかったね。うまく織田の水軍衆を抑えれなかったよ。面目ない」

 おふうは織田の浜手隊の紀ノ川の渡河を止めれなかった件を悔やんでいたが。

「無事で何よりですよ」

「ホンマですわ!」

「そうそう。相手が悪いだけやねん」

 お菊とお凛、おいちが返したが。

「長宗我部が織田への援軍を送らなかったので助かったよ。長宗我部は雑賀衆の一部に顔が利くから兵を送らなかったらしいね」

 おふうも長宗我部を気にしていた。

「ところでですが……」

「マリアの件は聞いたよ。本願寺の六花仙なら仕方ない。マリアの判断は正しい。ところでお菊とお凛は残ったんだね」

 おふうはマリアの件は承知とお菊に返した。そして

「あんたらは本当にそれで良いのかい?」

お菊とお凛の本心を聞いたのである。

「おいちや雑賀のお友達を放っておけない!だから!」

「堺衆にも織田家から鈴木家への支援命令が出ると見てますんで!おいちを手伝う大義名分ですわ!」

 お菊とお凛が返すと。

「良い心構えだよ。毛利水軍と本願寺の水軍は大阪に撤収するけどあたしも残るよ」

 おふうも意外や雑賀の郷に残ると言ったのである。

「え?本願寺の偉い人たちに知られたらまずくないですか?」

「大丈夫で?」

 お菊とお凛が逆におふうを気遣ったが

「あたしは越後の阿虎さまからの命も受けてるんでね。あんたらを手伝えって」

 おふうはにこりと笑いながら言った。

「ありがとう!」

「おふうさん!助かるわ!」

「でもなぜです?」

 お菊とおいち、お凛はおふうに感謝しつつなぜおふうと越後の阿虎が味方してくれたのか分からなかったが

「いずれ分かる。気にしなくて良いよ。阿虎様はあんたらみたいな女子(おなご)を助けてやりたいだけさ。毛利村上水軍も兵はともかく物資は送ってくれる。雑賀水軍もようやく休憩できるから丁度いいね」

 おふうはさらりと何かを隠すように返したが。




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