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天下布武 される者たち 31-2

 和泉の波太神社に明智光秀、松永久秀、梓らと一緒に到着したおいちだが到着早々、信長との面談になったのである。

 おいちが織田信長を見るのは天王寺合戦以来である。おいちの信長の印象は 凶暴で粗野 であるが。

 なので

「あぁ。天下の第六天魔王の信長公の前に引き出されるなんて。マジでおっかないわ。ウチ意外とおっかない人が苦手なんや」

 おいちにとって信長は苦手な人柄(タイプ)でおいちはぶつぶつ言っていたが。


 あっと言う間に面談の時間が来たが。

「おいち。行こう」

 明智光秀と梓が迎えに来た。

「はいぃ」

(長く輿に揺られて疲れてるのにもう少し休ませて欲しいわ。参るわ。人使いが荒いわ。ぶつぶつ)

 おいちは光秀と梓に連れられて信長の居る本殿に向かったのである。


「失礼しまする」

 おいちだが本殿に着くとおしとやかに中に入った。

 織田信長だが険しい顔で上座に座っていた。

 横には信長のお気に入りと思われる小姓の超美少年と信長と年齢が近い織田の重臣衆が多数、座って居た。

(うわぁ。やっぱこの人、ウチがめちゃ苦手なお人柄や。天王寺合戦でもすごいおっかない 圧 を掛けまくってたけどほんまの魔王様や。近くでまじまじと見たらほんま怖い雰囲気やわ。お菊、この人によく斬り掛かったわ。あら?隣の若い男の子はすごい美少年やねぇ)

 おいちだが信長に畏怖しつつ余計な事を考えていたが。


 しかし信長だがいきなり

「こいつが おいち 雑賀孫一か?」

「はっ!鈴木御壱(おいち)が本名です。鈴木重秀公の長女です」

 光秀だが信長に即答した。

「本物だろうな?」

「はい」

(わ!なんやねん!ウチに対するその けったいな 扱いは!何を疑ってるねん?こんな大人しい清楚な美少女、織田家中でもそうおらんやろ!って前に魔王様に天王寺合戦でウチとお菊と凛凛で会ってるやろうが!なんで稀有な美少女3人勢揃いを覚えてないねん!)

 おいちは心の中で信長にぶつくさ言った。

「天王寺合戦で見た雑賀孫一を勝手に名乗ってた女子(おなご)と同じと思いますな」

「同意です」

 丹羽長秀と三好康長はおいちを覚えていたようで信長に即答したが。

(助かったわ!おっちゃん!ありがとや!誰か知らんけど)

 おいちは安堵したが。

「フン!まぁ十兵衛(明智光秀)も五郎左(丹羽長秀)も孫七郎(三好康長)も本物と言うなら本物だろうが」

 信長は不満そう言った。

「昨年の暮れに俺の言う事を聞かなかった(伊勢の)北畠具教の一族を皆殺しにしてやったが。奴の弟の興福寺の坊主(北畠具親)が降伏してきた。随分と美しい女子(おなご)を使者に遣わせて来たが。まぁその女子だが下心があってだろうが俺と夜の関係も持とうとしたが」

 信長だが不愉快な顔で突然、話を始めた。

(男はみんな助平(スケベ)やからな。しゃあないな。魔王様も意外と脇が甘いな)

 おいちは心の中で相変わらずぶつくさ言ってたが。

 信長だが伊勢の名門、北畠家を降伏させ次男の信雄を養子に入れていたがこれに不満だった元当主の北畠具教は密かに反信長陣営の石山本願寺や武田氏と繋がっていた。信長だが信雄の正室が具教の娘だったので数年は我慢したが再度、信長を包囲すべく石山本願寺、毛利氏、上杉氏、武田氏が動き具教もこれに乗ったと聞くと決断し具教ら一族を宴会に誘う振りをして粛清したのである。世に言う三瀬の変である。

 信長だが裏切り者は容赦しないと見せつけたのでもある。

 信長はぶつぶつと話を続けた。

「しかしこの女子は俺を狙っていた伊賀甲賀のくノ一だった。内股に小刀を忍ばせてやがった。寝床で危うく刺されそうになった。寸手で取り押さえて返り討ちにしてやったがな。坊主は毛利の元へ逃げたらしいが。しかし伊賀衆甲賀衆め!調子に乗って!雑賀が一段落したら北畠家の如く滅ぼしてくれるわ!」

 信長は殺気を放ちながら言った。

「……!」

(うわぁ!怖っ!いきなり嫌な展開やぁ。舞の奴、大丈夫かいな?)

 おいちは信長に引いてしまったが。

「だからこやつが本物かどうか確認しただけだ」

(だからこんな可憐なくノ一はおらんちゅうの!)

 おいちは再度心の中でぶつくさ言ってた。

「まぁ雑賀衆だが今更だが俺に頭を下げる気になったのは褒めてやるが」

 信長だがそう言った後、いきなりおいちに言ったのである。

「おい!脱げ」

「はい?」

 おいちは変な声で返してしまったが。

「おいち。仕方ない」

 光秀がさらりと言い

「すみません。(武器を)隠し持っていないかの体の検査までは気が回りませんでした」

 梓も信長に詫びたが。

 信長は不満そうに黙っていたが。

「お高い重い着物を何枚も着てるから脱ぐの大変や~」

 おいちは小声でぶつぶつ言いながら梓に手伝ってもらいながら十二単を何枚ももさもさと渋々脱いで白い長襦袢(下着)姿になったが。

(うわ。なんやねんこれ。魔王様ひどいわ。雑賀の美少女に対して何するねん。めちゃ恥ずかしいわ)

 おいちは少し膨れそうになったが。


 ただ、おいちの予想に反してこれで終わらなかった。

「全部だ」

「へ?」

 おいちは信長の要求にまた変な声を出してしまった。

「えええ!この下は腰巻だけやで!これも脱ぐのかいな!これ以上はそのぉ!」

 おいちは仰天である。これ以上脱いだら素っ裸である。何かの間違いと思ったが光秀はうなずいた。

(嘘やろ?雑賀一の美少女のウチをこのおっさんだらけの間で素っ裸にさせるんかいな!なんやねん!スケベ変態大魔王!か弱いウチはお菊と違って武器を隠し持って魔王様に斬り付ける訳ないやんけ!)

 涙目でおいちが心の中で叫んで躊躇したが

「さっさとしろ!」

 信長が苛立って大声を上げると

「は!はいっ!」

(うわあ!マジかいな!最悪や!こうなったら紀ノ川に泳ぎに来たと思って脱いだるわ!)

 おいちは覚悟して全部あたふたと脱いだのである。

 そして全部脱ぐと、

「ご、ご覧のように丸腰です!怪しい物は持ってません!」

 大声で潔白を明かしたのである。

 たださすがに恥ずかしいので目を閉じながら返したが。

(うわぁ。おっさんらが いやらしい顔 でウチを見てたらウチ、マジで心が折れるわ。嫁に行けんわぁ)

 しかし覚悟して薄目で見ると信長は顔色変えずに恐ろしい形相のままだった。他の家臣衆も顔色ひとつ変えてなかった。光秀も平然としていた。

(う!嘘やろ!このおっさんらなんで美少女の素っ裸見て平気やねん!頭おかしいわ!って今度はウチが違う意味でキツイわ!このおっさんらに雑賀一の美少女のウチが全然刺さってないのかいな!)

 おいちは心の中で再度叫んでいたが。

「よし。着て良い」

「は、はい!」

 信長が冷静に言うとおいちは慌てて真っ赤になりながら着物をあたふたと着たが。

(うわぁ。なんやねんコレ。無表情の魔王様とおっさんたちの前で素っ裸にされて今度は囲まれたまま慌てて着物を着るって最悪な光景や!しかもみんな予想外に無反応やで!なんやねんこの仕打ち!いや!あの美少年だけ真っ赤で恥ずかしがってるやんけ!うぶでカワイイ!じゃなくてウチ、マジで恥ずかしいわ!)

 おいちはとりあえず心の中で叫びながら適当に羽織ると

(そうや!大事な事言うんや!ウチはこのためにだけにここに来たんや!)

「上様!雑賀の郷の件はウチ、じゃなくて私たちは上様に従うので最大限のご配慮を!」

 おいちだが渾身の土下座をしたのである。


 しかし信長は何も返事をしなかった。

(うわぁ。ここのおっさんらに刺さらんかったウチの味気ない素っ裸のすぐ後って間が悪かったかいな?ウチ、失敗やったかな?もしかしたら逆に 急にうるさい! ってメチャ怒ってたらどうしよう!怖いわぁ!)

 そしてそうっと目を開けて信長を見ると

「へ?」

 おいちは再度、拍子抜けしたのである。

 信長だがおいちの裸を見て真っ赤になって恥ずかしがってる森蘭丸を愛おしそうに見ていたのである。

「はぁあ」

 おいちは思わず変な声を再度漏らしてしまったが。

 他の家臣衆もおいちが脱がされた時の無表情と違って呆れ顔で信長と蘭丸を見ていた。光秀もである。

 信長はそんな家臣衆をも気にせず

「俺は蘭丸がうらやましい。俺にもこんな時代があったのかな」

と勝手に懐かしんでいたが。

「はぁ」

 今度はおいちも訳が分からないとぽかんとしてたが。


「おいち!」

 信長だが突然おいちに振り向いて大声を出すと

「はいいっ!」

 おいちはびくっとしたが

「本当に脱ぐと思わなかったが。その度胸は褒めてやる!さすが俺に盾突くうるさい粗野な雑賀の三羽烏だな!」

 信長だがにやりと笑うと

(ちょい!なんやねんその ヲチ は!ひどいわ!あとウチもお菊も凛凛もアナタ様よりお上品に育ってるで!)

 さすがにおいちも頭に来たが。

 しかし

「お前の体を張った望みは叶えてやるさ!お前の父上が明後日ここに来る!雑賀の主権は鈴木家に任せる!」

 信長はおいちにとって意外な事を言ったのである。

「へ?父上がここに?雑賀の主導権は鈴木家?」

 おいちは再度ぽかんとしたが

(ちょい待ち!魔王様!話が違うで!梯子を外される叔父上(土橋守重)マジで怒るで!)

 おいちだが雑賀の郷の織田の陣で密かに光秀と鈴木重秀、土橋守重、鈴木義兼らが同意した段取りの話と内容が違うので逆に焦ったが。

「(山手隊の)太田城の連中は土橋(守重)の家臣だろ!ろくに(山手隊の)堀(秀政)の支援もせずに堀の部隊に大損害を与えおって!(羽柴)秀長に連中の腹の中を探るようにきつく言った!サル(羽柴秀吉)は播磨に戻させる。毛利がごそごそしてるのはまた本願寺の悪企みだろうが!佐久間(信盛)も若江城に戻す!本願寺に圧を掛けろとな!」

(うわぁ。マズイわ。魔王様、雑賀荘じゃなくて根来衆や雑賀の宮郷、中郷、南郷に怒ってるやん。アイツらなんでちゃんと魔王様にゴマを擦らんかったねん。バレてるやん。これ、予想外やで)

 おいちは心の中で叫んでいたが。


 信長だがおいちの件が終わると

「十兵衛(明智光秀)!お菊をなぜ逃した!」

 突然、お菊の件を持ち出したのである。

(わ!お菊の事を言い出した!この梓って澄ました顔して超曲者やん!魔王様にチクったな!)

 おいちは再度焦ったが

「雑賀衆の鈴木重秀公を従わせる重要な局面で余計な揉め事は不可です。お菊を捕らえて雑賀の七ッ童子とかが激高して変に動かれたら雑賀を抑える目的、さらには四国攻めにも響きます。上様の天下が遠くなっては絶対になりませぬ」

 しかし光秀だが論理的によどむことなく信長に即答した。そして一瞬だが梓を睨んだ。梓は素知らぬ顔をしていたが。

(うわぁ。さすが日向守様や。魔王様からの攻めにもそつなくこなすわ。場慣れしてるわ。この人は天下の猛獣遣いや)

「ただ奴の危険さは十兵衛だって分かってるだろうに!まったく!」

 信長も光秀の回答が的を得ていたので強く反論出来ず感情的に返したが

「いざとなれば僕が責を持って討ちますので」

 光秀はまたさらりと信長に返したのである。ここまで言われると信長も黙るしか無かったが。

(日向守様、その自信、どこからくるねん?あのブチ切れた時のお菊にアナタ対応できるんかいな。この人、腹黒~ と前は思ったけど意外と大まじめの 素 か 天然 なんかいなぁ)

 おいちは心の中でぶつくさ言っていたが。

「ところで上様。僕からのお願いですが」

 光秀だが突然信長に頼んだのである。

「なんだ?」

 信長は不思議そうな顔をした。

「おいちを捕らえたのは松永久秀公のお手柄。久秀公がかねてより欲していた(久秀の)旧領の大和の所領を赦して頂けませんか?」

 光秀だがいつものように爽やかに願い出たが信長は少し考えた後に、

「大和は朝廷や室町将軍に絡む(興福寺など)坊主の所領が強い。奈良の大仏を焼いた久秀はダメだ。筒井順慶に任せる。今回の久秀の手柄は承知している。だから久秀は紀伊だ。雑賀衆を配下にしろ」

 信長の返しに久秀だが顔が見る見る険しくなった。

「しかし!久秀公にとって大和は大事な旧領!それくらいは大目に……!」

 珍しく光秀が信長に反論しようとしたが

「紀伊だって豊かな地だ。金になるだろうに。大和は今は筒井順慶だ。だから十兵衛も久秀と一緒に紀州や雑賀衆の監督を怠るな。四国にここが絡む。長宗我部に切り取り次第と言っておいたがどうも奴らは俺の言う事を聞いてるようで聞いてない。なぜ今回俺が命じた海から雑賀衆や本願寺、毛利の援軍を叩かずに傍観してた?今後、奴らをどうするかを考えている。長宗我部が俺に従わないなら四国だって逆におぬしらの手柄次第だ。久秀!長宗我部を叩き四国で再度功を上げれば大和は考えてやる!」

「う……確かに長宗我部の動きが予想外に鈍かった件は……承知!」

「は!」

 光秀は珍しく苦しそうに渋々返した。

 久秀も短く返すと下を向いて悔しそうなかなり険しい顔をしていたが。  

(うわぁ。織田の家中もドロドロやん。ウチの前で手柄の話とかやめてや。あと四国の長宗我部ってめちゃくちゃ曲者やで。雑賀の郷の中でも好き嫌い別れるんやで。日向守様のお相手にはちょうどええかもしれんけど大変やで)

 おいちは心の中でぶつくさ呟いていたが。


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