天下布武 される者たち 31-1
「まったく。見逃してあげようとまで言っているのに」
明智光秀だがお菊の態度に呆れたが。
お菊だが光秀に食って掛かり口論を始めたのである。
「どうしておいちを信長公の元に連れて行くのさ?」
「雑賀衆が素直に降伏しないからだよ。君には関係ないだろう?」
「関係ある!信長公の元に連れて行かれたらおいちが何されるか分からないよ!一緒にここまで地獄を這って来た友達を見捨てられないのさ!あなたこそ約束を守らなかったくせにさ!」
「君と約束などした記憶は無いが?ただ雑賀衆との約束は果たしただろ?矢宮神社と雑賀の郷には手を出さないは守ったろう?まず虎伏山砦を襲わないなんて約束もしていない。これは戦だ」
「!そうだけどさ!」
光秀に正面から返されお菊は返せなかったが。
光秀とお菊の口論を聞いておいちが輿の簾を上げて外に顔を出すと光秀と口論するお菊に仰天した。
「お菊!アンタ何しに来たん!」
「おいち!あんたこそ何なのさ!それ!」
お菊もおいちを見て仰天してた。
おいちは派手な赤い十二単のような着物を着せられていた。
「姫らしくしろって着せられてるねん。とほほ」
おいちがぼやいたが。
「ほんと似合わないね」
お菊が素で言うと
「なんやと!アンタこそなに壺装束でガラにも無く おしとやか な振りしてんねん!」
「なにおぉ!あたしは普段はおしとやかでしょうが!」
おいちとお菊は普段通り小競り合いを始めたが。
「あ!あかん!お菊と揉めてる場合ちゃうやん!」
「そうだよ。あ!おいち!助けに来た!って言いたいけど助けられなくてごめん!」
お菊はおいちに詫びた。
「ウチの不手際や!アンタが気にする事ない!ウチだって覚悟は出来てるわ!隊に帰りいな!」
「でもさ!」
おいちとお菊は予想外に久々に再開したがなんか空気に合わない話を始めたが。
松永久秀や松永兵、明智兵は唖然としていたが。光秀は苦笑いしていたが。
「日向守様(明智光秀)。飛んで火にいる冬の虫。お菊を捕らえて上様(織田信長)に献上しましょう。これは大手柄です」
梓が小声で光秀に提案をしてきた。
「……」
光秀は梓に対して黙っていたが。
「この娘があの地獄のお菊?」
「そこらへんの町娘じゃないか」
「でも気を付けろ!」
ただ明智兵や松永兵はお菊を見て驚きにも似た声が上がったが。
「日向守様!お菊は関係ないで!見逃してや!」
おいちが光秀にお菊には手を出さないよう懇願した。
「……」
光秀は再度黙っていたが。
「お菊はおいちと一緒に行きたいのよ?心配しなくて。お菊。その物騒なのは捨てて。一緒に上様の元へ行こ」
梓は例の変な力を微かに放ちながらにこやかに言った。分かるのは光秀とお菊だけだが。
「あなた?何を企んでるのさ?味方じゃなくてさ?」
お菊は梓に厳しい顔で問うと
「あたしはあなたの敵でも味方でも無いわ。あたしはあたしの理論で動くわ。あたしの 主君 のためにね」
梓は不気味に笑いながら言った?
「あなたの主君?信長公?」
お菊が構えると意外だが梓は 違う と首を横に振った。光秀は相変わらず黙っていたが。
そして
「足軽隊!上様のため!お菊を捕らえて!」
梓が光秀の頭ごなしに命を出すと足軽隊がお菊の周りに展開したのである。
「戦う気は無いけど!捕まる気も無い!」
お菊だが迷ったが
「こうなったらやるしか!やるしか!」
お菊だが覚悟して薙刀の鞘を外すと
「……」
明智光秀も黙って火の入った2口鉄砲を荒深小五郎から受け取った。そして照準をお菊に向けたのである。
「まずい!これじゃあんなの避け切れない!」
お菊だが光秀が鉄砲を構えるのを見るとすぐに避ける体制を整えたが今日は壺装束で素早く動けなかった。しかも周りも松永兵、明智兵に囲まれていた。
「アカン!日向守様!ウチは上様の言う事を聞くからお菊は助けてや!」
おいちが慌ててお菊を見逃すよう光秀に頼むため輿から飛び降りようとしたが。
「うわ!雑賀の姫様!輿の上で暴れないでください!」
「落ちたら怪我します!無理に降りないで!おわあ!」
輿の担ぎ手たちは輿の上で暴れるおいちに慌てふためいたが。
「お菊。無駄な抵抗はやめて。あたしはあなたを上様の元にお連れしたいだけよ」
梓は再度にこやかにささやいたが
「あたしを連れて行ってどうするのさ?」
「あたしはあなたを上様の元に連れて行けばそれでいいの。あなたをどうするは上様が決めるわ。上様はあなたを憎んでるらしいけどあたしはあなたには何の感情も無いわ」
「くっ!むさむさ信長公に殺される気はないのさ!」
お菊は薙刀を再度構えたが。
「日向守様!堪忍や!お菊!あかん!やめ!」
おいちは光秀に穏便に済ますように頼みお菊にも無駄な抵抗を止めるよう言ったが。
その時である。
弥勒山寺砦の方から少数の騎馬隊がこちらに向かって来るのが見えたのである。
「雑賀衆?気を付けろ!」
松永兵が鉄砲を用意し構えたが。
「今更何なの?」
梓も不愉快そうに言った。
「……」
光秀は黙っていたが。
「(鈴木)義兼殿!心眼殿!お凛!舞!マリアさんたちに金角殿、銀閣殿まで!」
お菊は思わぬ援軍に驚きの声を上げたが。
「通してやれ!発砲は厳禁だ!鉄砲下げ!」
しかし光秀は味方の兵に大声で厳しい口調で命じたのである。
松永兵、明智兵は光秀の命に従い鉄砲を下げると道を開けた。
雑賀衆の騎馬隊はそのまま光秀、お菊、おいち、梓の前まで進んで来た。
「日向守様!配下の者の無礼をお許しを!」
鈴木義兼だが馬を降りると開口一番光秀に詫びたのである。他の者も全員馬を降りて光秀に頭を下げた。
お菊は援軍と思ったのにこの展開に唖然としていた。
「いやいや。若気の至りで良いですね」
光秀だが馬上で普段のように爽やかににこやかに返した。
そして
「こちらも約束通りに行くか心配で用心していたがこれで丸く収まりそうだね。良いね。約束はお互いに守りましょう。義兼殿」
「当然!姫には寛大な処置を!」
義兼だが再度、光秀に媚びらった。
そして
「お菊!帰るぞ!」
心眼がお菊の前につかつかと怒りの顔でやって来た。
おいち、お凛、舞、マリア、金閣銀閣は複雑な顔をしていた。
「何のさ!これはさ?約束?知らないよ!」
お菊だが訳が分らないと珍しく心眼に怒ったが
「下っ端は知らんでも良いのだ!」
心眼だがそう言うとお菊の腹を渾身の力で殴ったのである。
「ぐ!」
お菊はそのまま気を失ったのである。
「お菊。ほんまにごめんや。みんなもごめんや」
最後まで見終えたおいちは半泣きで輿の簾を閉じた。おいちの乗った輿は信長の居る和泉の波太神社目指して光秀らと去って行ったのである。
お菊だが目を覚ますと牢のような部屋に居た。
「あたた……」
お腹をさすると
「お目覚めかいな?」
「さすが!頑丈だね!」
お凛と舞が牢の外にやって来た。
お菊だが弥勒山寺砦に戻されたのである。
「なんなのさ?これ?って言いたいとこだけどおいちの件、いや、この戦の件は雑賀と織田の偉い人の間でもう決まっていたんだ」
お菊が不満そうに言うと
「お菊、賢い!大当たり!」
舞は軽く言ったが
「あたし、雑賀と織田の邪魔、しちゃったんだな」
お菊が悟ったように言うと
「そこまで分かればお菊も立派に成長やな!心眼さんが すまん って言うてたで!」
お凛が言うと
「別に良いよ。おいちが本当に無事なら」
お菊が返すと
「でも勝手な行動は許し難いから牢で頭冷やすように!(鈴木)重秀様はおかんむり!以上!」
舞がにやにやしながら言うと
「明日か明後日に重秀様がちゃんと反省してるか確認して牢から出す言うてたからちゃんと反省するようにな」
お凛も苦笑いしながら続くと
「は~い。反省。しとこうかな?」
お菊が言うとお凛、舞で大笑いしたのである。
「お菊さん!お目覚めですか?ご飯ですよ!」
しばらくするとちはやが食事を持って来てくれたのである。
「頂くね!おいちが無事で安心したし。おいちも信長公や明智殿のところに少し居たらあたしみたいな勝手なのは直るかもね」
お菊が言うと再度みんな大笑いしたのである。
波太神社に到着したおいちだが小さいが新築したばかりの小綺麗な建屋に通された。
「くしゅん!誰かウチの噂してるわぁ」
おいちがくしゃみをしながらぼやくと
「おいちさま!お待ちしておりました!長旅お疲れ様です。上様とのお話の前に少しお休みください。その後は安土への長旅ですので!」
信長の安土城から来たと思われる世話役の女中衆がおいちを出迎えたのである。
「あ~。今日から翼の折れた不自由な姫様や」
おいちは再度小声でぼやいた。




