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生き残るためなら出し抜くのさ 28-4

 お菊とお凛は明智光秀から茶事に呼ばれたのである。

「日向守(明智光秀)から茶事のお誘いとは誉れだな」

「俺たちは呼ばれなくて良かったかな。胡散臭そうだからな」

 阿形と吽形がお菊とお凛に言うと

「そうやね。嫌なこの世の裏話をたんまり聞けそうやね」

 お凛が嫌味を言うと

「ヤバかったらあとで教えてくれよ」

「俺たちは本願寺に帰る。気楽にな」

 呼ばれなかった阿形と吽形はそそくさと石山本願寺に戻って行ったのである。

「明智殿と茶事なんて訳アリ過ぎるな。もう仕方ないけどな」

 お凛がぼやくと

「遠慮しようかな?あたし茶道なんてチンプンカンプンだよ。作法も分からないよ」

 お菊が尻込みしたが

「素直に明智殿の話を聞いて茶を飲んで茶菓子を食べて終わりでええねん。茶道なんて関係ないわ」

 お凛は平然としてたが。

「政治に疎いあたしは明智殿が好きそうなこの世の裏話なんて興味無いよ」

 お菊はそれでも渋ったが

「おいちの件や雑賀衆が今後どうなるかは聞いても損はないで」

「でも濃いお茶とか飲み慣れてないからむせそうだしさ」

「明智殿は堺でも噂の茶人やで。アンタの実力くらい見抜いてるで」

「まったくもう。おいちもだけどあたしたちもとんだ災難だね」

 おいちの件が気になったお菊はお凛に押し切られたのである。


 茶事だが開口神社のすぐ近くの千利休の屋敷で行われるのでお菊とお凛は千利休の屋敷に移動して待ったのである。2時間以上待たされたのでお菊はうとうとと寝てしまったが。呆れるお凛に起こされてお菊はさっきの茶坊主が迎えに来たのに気付いたのである。


「うわ!緊張してきた」

「さっきまですやすや寝ててそれはないで」

 お菊とお凛は千利休の屋敷の庭の離れにあるの茶室に案内されたのである。

 入り口で腰の物を預かるのはお菊もお凛も丸腰なのですぐに通してもらった。

 お菊は狭い茶室の入口に驚くも躙り口と言って茶室ではみな平等の思念からそうなってると教わり感心しながら中に入ったが。


 お凛は最低限の作法は知ってたので落ち着いていた。お菊は全然分かっていなかったので緊張していたが。だからお凛に先に入ってもらいお菊は付いて入った。

「失礼します」

 お凛は落ち着いて丁寧にお辞儀した。お菊も真似をしたが。

 中に入ると既に明智光秀が茶釜の前で待って居た。光秀も返すように頭を下げた。

 お凛は床の間に飾ってあった花にも一礼した。お菊も緊張気味にお凛を真似たが。

 お凛だが正座すると

「お似合いですね。稀有な水色桔梗をご用意されるとは」

 飾られた桔梗を見ながら穏やかに言うと

「ふ。さすが堺の姫で」

 光秀が嬉しそうに返すとお凛はにこりと笑いお菊はぽかんとしていたが。

 光秀だが茶道の手順通りまず菓子を差し出した。

「蕎麦ボ-ロ、お先に」

 お凛はそう言うとさっと蕎麦ボ-ロを平らげた。お菊はちょっと難しそうな顔のままお凛の真似をするだけである。

 光秀はお凛とお菊が菓子を食べ終えるとすぐに茶を泡立てた。そしてお凛とお菊の前に各々茶を差し出したのである。

「お手前頂戴します」

 お凛はそう言うと茶器を手に取り一度回した後に数秒茶器を眺めてにこりとし、何口に分けて飲んだ後一気に飲んだ。

 そして飲み終えると

「美味しゅうございました」

 光秀にお辞儀したのである。


 お菊も真剣な顔でぎこちなくお凛の真似をしたが

「あれ?甘い」

 濃い苦い茶を出されると思っていたのでお菊は変な声を出してしまったのである。

「ぷっ!」

 お凛が思わず笑いを抑えていたが。

 お菊も飲み終えると

「おいしゅうございました」

 とお凛と同じように光秀にお辞儀したのである。

 そして緊張もあってふぅとお菊は小声を出したが。お凛は再度笑いそうになったが堪えたが。


「変わった素晴らしい茶器で」

 お凛が感心しながら返した。

 確かに武人や茶人が好みそうなごつい茶器と違い小柄で厚みも薄く白く塗られすっと表面も整えられ色鮮やかな唐草に花が細やかに描かれた独特の茶器であった。

「妻の実家の美濃の妻木郷は陶器造りが盛んでね。僕の好みで特注を造ってもらったのさ」

 光秀も少し自慢毛に返した。

「千利休様はこういう繊細なのは好みそうではないですもんね」

 お凛が苦笑いすると

「黒いのでしかも ごつい のが好きなお方だからね。ご自分と同じでね」

 光秀の返しにお凛は吹き出してしまったが。お菊は分からずぽかんとしてたが。

 千利休だが長身の大男で黒を基調とした物を好む男であるので光秀はそれを言ったのである。お凛もそれは良く知っている。お菊は知らないが。

「お茶も甘くて驚きましたが」

「女子(おなご)は甘いのが好きだろうと。特上の濃い茶をちょっと僕が君たちも飲みやすいよう調整したのさ。だから茶は甘くしてボーロ(菓子)は甘さを抑えてみたよ」

「なるほど。さすが」

 お凛は感嘆した。

「でも甘いのはここまでで?」

 お凛が返すと光秀も急に厳しい顔になり

「堺の会合衆は信長公からの無茶振りの矢銭を払って信長公に従った振りをしながらも本願寺にも貢いでるのはお見通しさ。とて信長公も会合衆が持って来る鉄砲や硝薬、南蛮の珍品は欲しい。事を荒げたくなかった。しかし今回(第一次木津川の戦いで)織田の水軍衆を焼かれたのはさすがに信長公も堪忍袋の緒が切れたよ」

 一気に話したのである。

「ただ堺を焼けない。なら堺を焼く代わりに堺が親しい雑賀を狙ったと?見せしめと?」

 お凛が聞くと光秀は頷いた。

「(雑賀衆と同じ紀伊の)根来衆も織田に下って堺も下った。四国の長宗我部に和泉河内の三好の残党も織田に味方する。そうすると雑賀衆も毛利の村上水軍の支援を船で受けるのも今でよりも難しくなるだろう。勝負ありだよ。だから孫一(鈴木重秀)の判断は正しかった」

「確かに。雑賀衆も信長公に降伏せざるを得ないでしょう。で、雑賀はおいちを人質に出そうとしたのになんで(長男をよこせなど)話を難しくされたのですか?」

 お凛が聞くと光秀は少し黙った後、

「もう一服どうかな?」

「頂戴します」

 お凛が返すと光秀はすぐに二杯目をお凛とお菊に差し出したのである。

 さっきと同じようにお凛とお菊は飲み干しお辞儀をすると光秀は再度、話を始めた。

「以前より堺で本願寺に協力してる者は捕らえ次第厳罰に処しているが末端の運び屋ばかりなので効果が薄い。そこで信長公は捕らえたら一族丸ごと連座にしようとした。お凛。君の首をよこせと信長公も実は言っていた」

「さようですか」

「だが(堺奉行の)松井夕閑殿だけでなく僕や京の所司代、羽柴(秀吉)殿、荒木村重殿、三好康長殿や帰蝶様(織田信長正室)までも堺衆を締め付けるのは反対した。君の父上のような豪商を罰すると反感を買いタダでも面倒な堺の統治が難しくなるとね。本当に厳しくするなら毛利を抑えて本願寺を降伏させてからだとね」

「さすがですね」

「松井殿が門徒なので信長公は随分と渋い顔だったがあまりにも反対意見が多いので受け入れたよ。織田も余裕は無いからね」

 信長の官僚として信長に忠節を尽くしていた松井夕閑だが門徒衆であった。だから堺の代官は夕閑に任せたので信長も断れなかった。

「おいちだが安土に来てもらい織田の将来の紀伊や摂津和泉の担当に嫁がせる予定だった。しかし根来衆やその背後にいる高野山と交渉しているうちに信長公は傭兵として名高い雑賀衆と言えども所詮は土豪や地侍と見るようになった。だから女子じゃ箔が足りない。織田と雑賀の間で何かあった場合は捨て駒にされるだろうから男手の客将にするよう方針を変えたのさ。まぁ信長公の僕らへの不満かしれないがね」

 光秀は淡々と答えた。

「色々織田の家中でも事情があるのですね」

「この世は何事も表と裏があるのさ」

 光秀は再度淡々とお凛に返した。

「しかし、雑賀衆が態度を硬化させるかもしれませんよ?」

「僕らもそれは懸念してる」

 光秀も不満そうに言った。

「今は敵が多過ぎるのさ。東は武田(勝頼)、北は阿虎様(上杉謙信)、西は毛利(輝元)に丹波の赤鬼(赤井直正)。南は本願寺に雑賀衆と伊賀惣。これではいくら兵が居ても足りないのさ」

 光秀だが軽く溜め息を付いた。

 少し間が走った後

「お粗末様でした」

 お凛は光秀に礼を言って茶室から出たのである。


「あんたすごいね。良い商人になるよ。あたしは無理だ」

 お菊だがお凛に感心していた。

「もうちょっと様子を見ようかいな。おかしいな?阿虎様と信長公は組んでるはずやがやはり噂通り破綻するのかもな?」

 ただお凛はお菊の感想にあまり気にせず、ひとり何か考えを巡らせていたが。

「おいちの件はどうなるんだろ?こんな展開になるなんてさ。おいちも雑賀の郷で仰天してるよ」

 お菊が言うとお凛は考えを巡らせていたが

「お菊。ちょっとウチに付き合ってや。3日ほど様子を見ようや。ウチとこに泊まってや」

 急に何か策を決めたのである。

「構わないけど?」

 お菊が不思議そうな顔をしたが。

「なんか大きな動きが起きそうな気がするわ。やはり明智殿自ら堺に松井(夕閑)様と乗り込んで来たのは何かあるに違いないわ」

 お凛はお菊と実家に帰ると配下衆に千利休の屋敷の監視を配下衆に頼んだのである。


 3日後、千利休の屋敷を監視していたお凛の配下が明智光秀らが屋敷を出ると知らせが入ったのである。

「思ったよりも早いかいな?ちょっと予想外かいな?」

「どうするのさ?」

 お凛にお菊が聞くと

「絶対に雑賀衆の(鈴木)義兼様、岡(吉正)様と話し合うと思ったんや。どこかでひっそり合うと思うわ。追いかけるで」

 お凛はそう言うとすぐに実家を飛び出したのである。お菊も慌てて付いて行った。


 お凛とお菊は光秀一行を見つけると尾行したのである。

 光秀だが変装もしておらず屈強な三宅秀満が居たが基本はわずかな護衛だけである。ただ堺の中では乱闘はご法度なのは徹底されていたが。

「おかしいな?松井殿がおらんわ」

 お凛だが松井夕閑が居ない事にいぶかると

「密かに先に会場に行って話合ってるとか?」

 お菊が言うと

「その可能性もあるけどなんかしっくりこないわ」

 お凛はやはりいぶかっていた。

「開口神社と違う方向だけどどこで打ち合わせするのかな?」

 お菊だけでなくお凛もだが千利休の屋敷で打ち合わせをしなければ開口神社で話合うかと思ったが全然違う方向に光秀一行は移動していたのである。

「雑賀の屋敷とも違うな?どこやろ?」

 お凛は不思議がってた。

 光秀一行だがそのまま薬屋が集まる町に入ったのである。

「え?ここかいな?予想外やな」

「さすがだね。予想外で知らないとこでお話しするんだね」

 驚くお凛にお菊は感心しながら返したが。


 光秀の一行は大和の商家系の薬屋に入って行った。しかし予想外に20分程で出て来たのである。

「あら?早い。決裂かな?残念」

 お菊が言うと

「当たって砕けろかいな!」

「え?」

 お凛はそう言うと光秀一行の前に立ったのである。お菊も慌ててお凛の横に立ったが。

「!」

 すぐに三宅秀満が両手を指の関節をポキポキ鳴らしながら前に出て来たが。

「お凛とお菊ではないか?何の用だ?」

 光秀は2人を見て驚くと

「雑賀と日向守様のお話しが気になって!」

 お凛は軽く返したが

「その件はそう易々とは決まらない話だね。今日はそんな予定では無いよ」

 光秀が素っ気なく返すと

「え?じゃあここに何しに?」 

 お凛が驚くと光秀は配下の荷駄持ちの男の荷駄を軽く叩くと

「妻が重い病でね。良い薬を買いに来たのさ」

 光秀は悲しそうな顔で返したのである。


「え?奥様が重い病?」

「ホンマにお薬を買いに来たんかいな!」

 お菊とお凛は仰天したのである。




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