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他力本願 27-3


 大阪湾に展開した織田水軍だが石山本願寺への直接の攻撃は行わず沖合で大型の安宅船数隻を中心としてずらりと縦に隊列を組み関船や小早で安宅船を守る独特の編隊を取っていた。

「もうすぐ毛利水軍が着くよ。海戦が始まったら恐らく若江城や天王寺砦からも本願寺への攻撃が始まるよ。出陣の準備は抜かりなくね」

 おふうは冷静に言った。

「全部で200艘はいるかな?でも大きいの(安宅船)が数隻いると迫力があるねぇ」

 お菊は織田の水軍衆に変に感心したが

「南蛮船の戦い方やな。さすが信長公やな。南蛮船も戦の時は並んで大型船同士で大筒を撃ち合うらしいわ」

 お凛が冷静に言ったが

「でもたくさんの小さい船で囲まれて飛び乗られたら終わりじゃないのさ?」

 お菊が聞くと

「乗り込まれる前に敵さんの船に大筒や鉄砲で穴をあけて沈めるんやな」

 お凛が背負ってる鉄砲を叩きながら返すと

「あんた水練(水泳)できないじゃん。訓練しないと船が沈んだらやばいじゃん」

 お菊が心配すると

「凛凛!今度雑賀の郷に行って水練の訓練しようや!ええとこやで!」

「そうだよ!真っ白な砂浜で青い海ですごい良いとこだったよ!また行きたい!おいしいお魚さんとか海老さんと蟹さんもたくさんいるしさ!」

 おいちとお菊が嬉しそうに言うと

「だからウチはなるべき船に乗らんねん。どんなに水練してもそんな長距離は泳げんて。どうせ溺れてお陀仏やて」

 お凛はサバサバと返したが

「あ~!またあの真っ白な砂浜と青い海で泳ぎたい!行きたい!」

「そうや!今年も休みを何とかもらって行こか!」

 お菊とおいちが勝手に盛り上がっていたが。

「真っ白い砂浜に青い海ねぇ。悪くないかいな?むう」

 お凛はひとり言を小さな声で言ったが

「おふうさんって泳げるんですか?」

 お凛がおふう聞くと

「もちろんさ!あんたも長生きしたかったら鍛えた方が良いよ!」

 おふうが返すと

「あちゃあ!でも裸で泳ぐのは引けるもんなぁ。死ぬよりマシやけど」

 お凛が溜息をつくと

「ははは!確かにね。実はあたしも水練は滅茶苦茶苦手なんだけどね」

 おふうが小声で言うとおふうとお凛は大笑いしてしまったが。


 他人事では無いが他人事のように木津川砦でお菊たちは織田の水軍衆の動きを見守っていた。

「失礼」

 突如雑賀衆の家老の岡吉正やって来るとおふうとおいちと何か話し合うと再度どこかに去って行った。

「みんな!もうすぐ毛利水軍と織田の水軍が衝突するよ!織田の若江城と天王寺砦からの部隊もこちらに向かってる!顕如様より守りに徹して外にでないようにとね!」

 おふうが号を出すと木津川砦は一気に緊張に包まれたのである。


「おいち。毛利水軍ってどんくらいの数が来るの?」

「織田と同じくらいかな?村上水軍と雑賀衆の軍船が織田水軍を足止めしている間に毛利水軍の本隊の輸送船団が本願寺に荷駄を搬入するで。結構大事やで」

 おいちが緊張しながらお菊に返した。

「だからここ(木津川砦)は絶対に死守しないとダメだね。まぁ信長公が来ていないのでここは何とか守れると思うよ。あとは村上水軍と雑賀の水軍衆が織田を追い払ってくれればそれで良しだね」

 おふうは冷静に言った。


「水軍衆同士の戦が始まった!気を付けろ!」

 しばらくして物見が大声を上げた。


 南方の堺や岸和田方面に展開する織田の水軍衆と南から回り込んで来た村上水軍、雑賀衆の戦いが始まったのである。鉄砲や大筒の音が絶え間なく響いていた。

「戦況、どうだろ?」

「分からんな。お?」

 お菊とおいちだが所々で織田水軍の船から火の手が上がり始めたのに気付いた。

「なるほどな。焙烙火矢かいな。焼き討ちかいな」

 お凛が感心していたが。

「東から織田の兵が来た!迎え撃て!」

 しばらくして物見の兵が大声を出すと東から織田の兵、佐久間信盛、信栄、松永久秀、三好康長の部隊が木津川砦に予想通り押し掛けて来たのである。

 お菊、おいち、お凛や雑賀衆は砦の壁に登って鉄砲を構えた。ただお菊はあまり鉄砲が得意でないの弾込めや城門が破壊された時の接近戦要員であったが。

 織田側は遠方から大筒や鉄砲、火矢を撃ち込んで来た。

「敵さんも水軍衆に動きを合わせてるね。こちらも無駄に撃たないよう。近付いて来た連中だけ撃つようにね」

 おふうだが冷静に指揮していた。織田側もその通りで水軍衆の動きに合わせて遠くから竹束の裏に隠れて鉄砲足軽が射撃し無理に近付いて力押ししたりはしなかった。雑賀衆の鉄砲の腕をも警戒していたのである。


 このようなだらりとした戦況が数時間続くと織田側も本当に散発的にしか鉄炮を撃ってこなくなった。

 海上では燃える船がさっきより増えていたがどちらが優勢か良く分らない状況であった。


 午後になると再度動きが起こった。織田の船団が編隊を崩しながら急に北に移動し始めたのである。

「北から毛利の船団が大阪に向かってる!」

 物見櫓の兵が大声を上げた。

「勝ったね。この戦。やっぱり最後は戦いは数だね」

 おふうが呟いた。


 織田水軍と村上水軍、雑賀衆は数が互角だったので双方均衡に戦っていたが突如、北から毛利水軍の本願寺への輸送船団およそ300艘が姿を現したのである。

 毛利水軍の輸送船団だが戦闘艦は少なかったがそれでも織田水軍との数の均衡が破れたのである。倍以上の相手に織田水軍は朝からの戦いで疲労も蓄積していた。

 さすがの織田水軍も毛利水軍、村上水軍、雑賀衆の水軍のこれ以上の相手は難しかった。織田水軍自慢の安宅船が焙烙火矢の集中砲火を浴びるようになり次々と燃え上がり始めたのである。村上水軍や毛利水軍には安宅船のような大型船は無く関船や小早のような小型船ばかりだったが数の多さと速さで織田軍を翻弄したのである。


 木津川砦を攻めていた佐久間信盛、信栄、松永久秀、三好康長らも織田水軍が押され出したのに気付き浮足立っていた。木津川砦への攻撃は完全に止まっていた。

 

「え?なに?」

 お菊たちが驚くと突如、石山本願寺の方から本願寺の部隊が現れ佐久間信盛らに襲い掛かったのである。

「下間頼廉様やね。勝ったわ。この戦」

 おいちが旗印を見て淡々と言った。

「応援に入る?」

 お菊がおいちに聞くと

「本願寺の部隊に任せたらええかな?ウチらは今日は休もうや」

 おいちや雑賀衆は参加しないと言った。

「?」

 お菊は少し不思議な顔をしたが。ただ急に菊之助を思い出しなんとなく事情は掴んだのであるが。

「マリアさんの部隊が頼廉様の援軍に出て行ったわ。六地蔵も居るから大丈夫やろ。とりあえず勝って良かったわ」

 お凛も淡々と言った。


 佐久間隊だが慌てて天王寺砦に退却して行った。下間頼廉らはその後は天王寺砦まで追撃したがここは佐久間信盛が粘って守り抜いたのである。

 その日の夜半には大阪湾の海戦も終結しつつあった。

 そんな中だがお菊は暗くなりつつある海を静かに眺めていた。

「なんだか不謹慎だが綺麗だな」

 明るく燃え盛る船を見ながらお菊は呟いた。

「そうだね。まぁ明日になったら現実に引き戻されるよ」

 おふうが静かに言った。

 

 しばらくして本願寺から早馬が飛んで来た。伝令の僧兵は大声で早口でまくし立てた。

「我が軍の大勝利!織田水軍は壊滅!野田福島城から荒木村重は有岡城へ逃走!佐久間隊も若江城や天王寺砦へ潰走!毛利水軍の荷駄は先程、顕如様が毛利の大将の乃美宗勝様よりしかと受領!」

 その知らせに木津川砦は勝利の雄叫びで盛り上がっていた。

 お菊、おいち、お凛や雑賀衆、おふう、マリアらも久々の勝利に歓喜したのである。


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