↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/132

地獄からの巫女 26-9

「あなたがいろはなの?」

 お菊はすぐにいろはを感じたのである。光秀だが動揺して立ち止まったままだった。

「あれ?力が戻る?あなたは味方ね!ありがとう!」

 お菊は法力が戻るのを感じるといろはもにこりと笑ったのである。理由は分からなかったが。そしていろはしばらくすると姿を消した。

「いろは!分かった!」

 お菊はそう言うとすぐに体勢を直し全力で光秀に突進したのである。お菊は光秀と太刀組みしながら

「あなただって泰平の世を作るために大勢の人が死ぬのはおかしいって分かってるくせにさ!」

「うるさい!他に手段が無いからだ!大人の事情に首を突っ込むな!僕の夢の邪魔をするならもう容赦しない!」

 だが、光秀だが動揺のためかいろはの法力のためか腕力も法力も見る見る落ち始め体から放たれていた光も弱くなり始めたのである。

 お菊だが光秀の太刀を押しどかして間を作ると

「大人なら自分で間違いを正せ!正しい世を作れ!」

渾身の力で薙刀の峰(薙刀の背面)で光秀の胴丸を水平討ちしたのである。

「ぐはっ!」

 光秀は直撃を受け真横に吹っ飛び倒れたのである。

「十兵衛様を守れ!」

 光秀の苦戦を見て明智兵が慌ててお菊に飛び掛かったが

「お呼びじゃないってさ!」

 お菊は一瞬で彼らを蹴散らすと光秀を放って後退した信長を追い掛けたのである。


「みんな!お菊に続くで!」

 おいちが叫ぶと雑賀衆、お凛の堺衆やマリア配下の部隊、本願寺の兵はお菊を追い出したのである。


「十兵衛様!大丈夫で?」

 溝尾茂朝が慌てて光秀に掛けよった。

「お菊め!僕も法力を使い過ぎたか!急いで信長公の本陣に支援に行け!」

 光秀だが腹を抱えながら明智兵を織田の本陣の五智光院に向かわせたのである。


「明智隊が突破され本願寺の兵がこちらに向かってます!」

「日向守様はご無事!こちらに後退中!」

 小姓衆の万見仙千代と堀秀政が信長に報告すると

「やはり若江城に戻ります?」

 丹羽長秀が心配そうに信長に聞くと

「是非にあらず!愚かなの門徒どもめ!ここで俺、自ら血祭りにあげてくれるわ!」

 信長だが自ら愛刀の押切を抜き本願寺の兵を待ち構えたのである。


 信長だが突っ込んで来た本願寺の雑兵を簡単に叩き斬ると向かって来たお菊と太刀打ちした。

「調子に乗るな!小娘が!」

 信長は真横に押切を思いきり水平に振ったがお菊は飛び上がってそれをかわすと薙刀を信長に振り下ろしたのである。

「ぐう!生意気!」

 信長は押切で受け止めたが。

「地獄へ帰れ!地獄へ!」

 お菊は猛烈な勢いで信長に何度も斬り掛かったのである。

 信長だが何とか自力で抑えていたがついに本気を出して来たのである。

「貴様如きに俺の夢を邪魔させるかあ!」

「く!」

 信長も法力を本格的に発動し、瞳孔を赤く光らせ何か強力な妖気を発し反撃を開始した。

 本願寺の兵は信長の迫力に怖気て逃げ出したがお菊は構わず再度信長に突っ込んだのである。

「こいつ!予想外にやる!」

 信長はお菊を何とか抑えたのである。しかし信長だがだんだんお菊に苛立ったのか違う気配を放ち始めた。

「何さ?あれ!」

 お菊だが信長の背後にうっすら浮かぶ美しく若い妖艶の姫に面食らったのである。

「信長公!後ろに居るのは女の人は誰なのさ!」

「ほう。貴様、見えるのか。俺が信奉するのは菊理媛神(くくりひめのかみ)だ」

「それなのにあなたはなんでそこまで人を残忍に殺められるの!」

「俺は腐ったこの国の全てを壊して新しい国を産み出すのだよ。菊理媛神と一緒にすべて新たに産み直すのさ」

「それが人を殺める理由か!」

「俺に従わない者など新しい国の邪魔にしかならん。生きる価値などない。死ね。貴様もだ!」

「子を産まない 男 のぞんざいでふざけてさあ!」

「小賢しいガキが!」

 お菊は信長と何度か太刀打ちしたが

「しまった!力が!はぁはぁ」

 お菊だが体が限界を迎えたのに気付いたのである。足元がふらつき始め息が切れ始めたのである。

「まったく。ようやく大人しくなったか。ふう。さっさと死ね」

 それでもお菊は息を切らしながらも信長の一撃をかわすと少し信長との間を取ったのである。

「はぁはぁ」

(どうする!お菊!)

 気が付くと周囲は敵だらけになっていたのである。本願寺の兵が後退しているのに信長を追って前に出過ぎたのである。織田の蜂谷頼隆隊や細川藤孝隊も本願寺の雑兵を良く押し返していた。ただ信長以外の織田兵はお菊を畏れて無理に近寄らなかったが。

 

 おいちや七ッ童子、お凛ら堺衆、マリアや金閣銀閣もお菊に追い付いたがただならぬ気配で向き合う信長とお菊に近寄れず後ろで見ているだけだった。

 光秀もようやく邪魔する本願寺の雑兵を蹴散らしながら何とか信長の本陣の五智光院に到着した。


「ようやく追いついたか!上様!ご無事で!」

 光秀らも息を切らしながら信長の傍にやって来たのである。

「十兵衛!手出し無用だ!こいつは俺が仕留めてやる!お菊とやら!法力を使い過ぎて動けんのだろ?堪忍しろ」

 信長はお菊との間を詰め始めた。お菊はじりじりと後退した。お菊が下がると織田兵もお菊との間を詰め始めたのである。

(あたしも弥生さんと小次郎のとこに行くのか!でもこのままでは死ねない!隙はないか!)

 お菊が考えを張り巡らした。


「お菊!助けたる!バケモノ(信長)は怖いけどな!」

「乱戦上等や!もう捨て身や!」

 おいちやお凛たちは信長に怯えながら、じりじりと近付こうしていた。


「う!」

 突如、光秀はまた変な声を出したのである。光秀の妖力を感じる脇差だが再度突然不思議な虹色の光と存在しない紙吹雪のような物を放ち始めたのである。そして何か法楽のようなものも微かに本当に奏で始めたのである。

 おいちやお凛らは唖然として固まってしまったが。


「まただ!まさか?」

 光秀が動揺すると

「なんだ!この不快な音は!」

 信長もそれを感じたようで警戒して周囲を見渡していた。

 お菊はさっきと同じ気配を感じたのである。そして安心して落ち着きを取り戻し始めたのである。

「ええい!不愉快だ!こいつを叩き斬れ!」

 信長は足軽兵に命を出したのである。その時であった。

「あなたはさっきの!」

 お菊の前に再度いろはが姿を現したのである。

「いろは!なんでまた一度ならずとも二度まで!なぜ僕の邪魔をするのだ!なぜだ!」

 光秀は再度狼狽していた。

「十兵衛様!あなたは間違っている!」

 いろははそう言うと

「僕に間違いなどない!断じてない!」 

 光秀は狼狽しながら叫んだ。

「いいえ!間違ってる!」

 お菊も叫んだ。

「あなたは比叡山でいろはを見殺しにしてしまった事を悔いてる!信長公の大義を傘にして比叡山を焼いた事も!今、揺らいでるんでしょう!これはあなたの見たい夢じゃないって!」

「おのれ!子供はなんて図々しいんだ!なんで大人を分からないんだ!」

 光秀は狼狽していた。


「ええい!比叡山の死に損ないの亡霊め!足軽隊!あいつを殺せ!あいつは幻覚だ!」

 信長も怒りながら命を出すと織田兵が何名かいろはに突進したが何か宙を切る音と同時に兵たちはいろはに近付く前に斬り倒されたのである。

「バカな!何が起きた?幻術か!」

 信長は仰天したが

「いろは!大丈夫だよ!」

 お菊はそう言うと甲冑をすべて外し始めたのである。

「信長公は倒さないといけない。弥生さんがやったようにあたしもやる!」

 お菊が呟くといろはにこりと笑い再び姿を消したのである。


 いろはが消えると虹色の光と存在しない紙吹雪のような物はふわりと宙を舞い光秀のあの脇差に吸い込まれて行ったのである。

「いろは!こんなところに君はいたのか?なぜだ!僕は君に何も(できなかった)!君は僕に何を(求めてるんだ)!」

 光秀の脇差は激しく反応し過ぎたのか光秀を巻き込み光秀は気を失い倒れたのである。溝尾茂朝と手傷を追いながら出て来た三宅秀満や藤田伝五に抱えられ光秀は退場したのである。

 

 光秀の騒ぎが終わる頃にはお菊は巫女着だけになったのである。

「こいつ!ふざけた真似ばかりしやがって!」

 信長だが殺気立っていた。

「信長公。あたしを殺しなさい。そして一緒に地獄に参りましょう」

 お菊は冷静に捨て身を選んだのである。

「さっきの女と言いほざけ!一人で行け!そんな丸腰で俺に勝てると思うなよ!死ね!」

 信長はお菊に突進し押切を振り下ろしたがお菊は素早く避けると猛烈な速さで愛用の薙刀で信長に斬り付けたのである。重い甲冑を着ていないとしてももはや人とは思えない異常な速さであった。

「バカな!法力を使ってなくて!いや?俺の知らない何の力だ!どこにそんな力が残ってた!」

 信長は首辺りなど当たれば致命傷になるところだけは必死に抑えていたがお菊の薙刀裁きが早過ぎて他の箇所は鈍い金属音を放ちながら直撃を受けていた。

 何人かの兵が信長を助けようと間に入ったが彼らにもお菊の薙刀をかわす術はなく次々と倒された。

「お、おのれ!地獄の巫女め!」

 信長だが息を切れ切れに言った。お菊は信長の南蛮甲冑の継ぎ目を何度も何度も斬ると言うか叩き付けていた。そして衝撃で破損する箇所を冷静に見定めていたのである。ただ、お菊も再度体力が減り始めていた。

(そろそろ決めないと体が持たない!)

 信長の左側の肩とももの甲冑の部品が壊れて外れ始めたのである。信長も体力を消耗し足元がふらついていた。

「そこ!」

 お菊は信長が自分を刺す間に肩から胸に薙刀を刺し込もうと思い信長との間をかなり縮めたが

「わらわの邪魔をするな!」

 突然、信長の目の前にあの女神、菊理媛神が姿を現しお菊を阻んだのである。

「なんであなたが邪魔するのさ!」

 お菊は驚きと同時に叫ぶと

「この男とわらわは新しい日ノ本を築く。そのために人は死ぬ。邪悪な鬼の姫よ」

 菊理媛神は美しくも何か不気味に笑った。

「人を 鬼 呼ばわりするな!」

 お菊が怒ったが

「そなたは感付いてるのだろう?己が人と違うと。だからそなたはわらわが見えるのだ」

 菊理媛神だが変な力を出し始めた。

「鬼と蔑まれようとあなたたちは倒す!」

 お菊が叫ぶと

「愚かな。鬼の武器等わらわには効かぬよ。消えよ。鬼の姫よ。地獄に帰れ」

 菊理媛神はそう言うと彼女の不思議な扇子は怪しく光り始めたのである。

「力が吸われている!嘘だ!」

 お菊だが急に動けなくなったのである。


「ヤバい!バケモノがまた出てるわ!お菊のために突っ込むかいな!南無阿弥陀仏!行くで!」

 おいちが密かに懐に隠し持ってる持念仏を取り出し握るとお菊の支援に突っ込もうとしたが

「ちょっと待て!お菊の薙刀が変や!」

 お凛が異常に気付いたのである。


 今度はお菊の薙刀の刃が突如、怪しく光を放ち始めたのである。

「おのれ!まだ生き血を求めるのか!なんと邪悪な鬼め!」

 菊理媛神は驚き、光る薙刀とお菊を恐ろしい形相になって睨んだが。

 でも薙刀が光ると同時に再度突然お菊は自分でも分からなかったが法力を取り返したのである。

「力が戻った?何でさ?」

 そして再度体勢を整えると

「神が人を殺すなら!鬼が神を殺してやるさ!」

 お菊は普段と違う太い声で叫ぶと無理に薙刀を菊理媛神の扇子に押し込んだのである。見えない結界でもあるのか互いに一瞬雷のような物を放ちながら固まったがしばらくして硝子が割れるような音がすると薙刀は菊理媛神の扇子を突き破りそのまま彼女の胸に刺さったのである。

 彼女は恐ろしい悲鳴を上げた。感触もあった。

「幻覚じゃない!もう神様でも何でも殺ってやるさ!」

 お菊が泣きながら絶叫すると菊理媛神は姿を消しそのまま菊理媛神の後ろに居た信長の左太ももに突き刺さったのである。

「ぐおお!」

 信長だが地面に響くような不気味な叫びをあげると背景に鬼とも違う見た事がない魔物が姿を現したのである。

 さらに信長は真っ黒い血を吹き出したのである。

「この魔王に立て付きおって!」

 お菊は信長が 人 にはもはや見えなかった。

「こいつ! 人 じゃない!」

 お菊は信長の黒い返り血を浴びると恐怖を感じ力を失い始めたのである。

「こいつ。血が真っ黒だ。真っ黒。あたしと同じだ……」

 そしてお菊は気を失って倒れたのである。


 石山本願寺はお菊、弥生らの奮闘もあり信長に傷を負わせ退散させたのである。

 しかしその代償は大きかった。信長の負傷に残された織田の将兵を本気にさせたのである。美濃の稲葉一徹隊、帰蝶配下の斎藤氏一門衆や佐久間信盛、信栄隊だが四天王寺の東側で雑賀衆の鈴木重秀、下間頼廉の部隊に数や鉄砲では押されていたが鉄盾で防御しながら雑賀衆や本願寺の兵が苦手な捨て身とも言える接近戦、格闘戦に持ち込みかなりの犠牲や負傷者を出しながら雑賀衆や本願寺を後退させたのである。

 おいちの雑賀衆やお凛の堺衆、マリアの部隊や本願寺の雑兵も信長の負傷に激高した織田兵に逆上され苦手な接近戦、太刀打ちの持ち込まれると相手が織田の名将、滝川一益、蜂谷頼隆、細川藤孝らの配下衆だけあって押されてお菊を連れて最後は四天王寺を焼きながら石山本願寺に後退せざるを得なかったのである。


 石山本願寺には多数の味方の遺骸が運び込まれていた。本堂には名のある者たちの遺骸が無言の帰還をしていた。弥生たちや小次郎の遺骸も帰還していた。生き残ったおいちやお凛、七ッ童子は弥生たちや小次郎の遺骸の前で泣きじゃくっていた。心眼ら六地蔵、鈴木重秀、下間頼廉らはただ黙って手を合わせていた。顕如ら石山本願寺の首脳も厳しい顔でこの戦いの代償の大きさを痛感し、ひたすら念仏を唱えていた。

 

 お菊だが本堂の人気の無い隅っこで目を覚ましたが疲れ切っており一人で黄昏がれていた。

 本堂に駆け付けた婆やがお菊に気付き

「お菊さん。大丈夫?弥生さんと小次郎殿とお別れの挨拶をしなくも?」

 婆やはお菊に声を掛けたが

「もう涙も血も枯れた」

 お菊はうつろな目で返した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。