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地獄からの巫女 26-8

「こいつ!法力持ちか!」

 織田信長だがお菊を見て驚いていた。信長は己も優れた法力持ちなので相手の法力も見抜く事が出来る。

 ただ明智光秀はお菊の異常な法力を感じ

「上様!危ない!下がって!この女子(おなご)は異常な法力持ちです!」

 光秀は信長に下がるよう促したのである。

「構うもんか!ええい!雑賀の三羽烏め!まとめて仕留めてやる!」

 信長はそれでもお菊の異常な法力に怖気ながら斬り掛かろうとしていた。


 ただ光秀が先に動いて

「赤黒衣衆!こいつらを排除しろ!」

 命を出すと3名ほどが槍でお菊を刺し倒そうとしたが

「どけってさ!」

 お菊は叫ぶと邪魔に入った3人の攻撃を回避しつつ反撃、突き刺したり薙刀の柄で首をへし折ったりし最後のひとりも槍の柄ごと薙刀で斬り倒したのである。

 あっという間に赤黒衣兵3名が倒されるとさすがに織田兵の間でもどよめきが起こった。

「おのれ!この女、般若か!成敗してくれるわ!」

 信長は歯軋りしそれでもお菊に向かおうとしたが

「殺してやる!地獄へ帰れ!」

 お菊は叫ぶと猛然と信長に突っ込んで来たのである。

 慌てて今度は明智兵が飛び出し防ごうとしたが彼らも止められず負傷すると

「お菊め!よくも僕の部下を!僕の手を煩わせるな!」

 光秀だが自ら太刀を抜きうっすらと体から法力を発しながらお菊に向かったのである。

「く!」

 お菊も光秀の法力を感じていったん守りに入り、光秀と何度か太刀合わせし

「あなたに用は無い!邪魔だ!」 

 お菊が叫ぶと

「君は危険過ぎるんだよ!信長公の前に行かせるか!ええい!それにしても今日は何が起こるんだ?」

 光秀は変な反応をする脇差にも戸惑っていた。


 ようやく天王寺砦から応援の三宅秀満と細川藤孝の部隊が到着すると秀満は太刀を抜くと光秀を差し置いてお菊に突っ込んだのである。秀満だが怪力で有名である。

「ぐ!」

 法力は無くても怪力の重い太刀打ちで勝る秀満にお菊は苦戦し後退し始めた。

「お菊を支援や!撃て!」

 おいちが我に返り命を出すと雑賀衆は至近距離から鉄砲で反撃した。

 秀満の配下や藤孝の兵が何人か倒れたがそれでも秀満はひるますお菊を押していた。

「雑魚は任せてや!」

「弥生の仇を討て!」

 お凛と配下の堺衆やマリアや配下の金閣銀閣らが秀満隊や藤孝隊に反撃を始めると再度戦線は均衡になり出したのである。


 武勇に優れる秀満だがお菊の薙刀を素手でわしづかみしてお菊の動きを止めると脇差を抜いた。

「ヤバい!」

 刺されると思ったお菊が慌てると

「やらせるか!」

 おいちは叫ぶと背負っていた鉄砲を抜き至近距離から発砲したのである。

「うぐ!」

 秀満は慌てて避けたが右上腕を撃たれるとお菊の薙刀を手放してしまった。

「うわああ!」

 お菊は叫ぶと体勢を直し秀満に薙刀を水平斬りしたのである。

「うぐ!」

 秀満は巨体に似合わず俊敏に飛んで避けたが脇腹をわずかにかすられ苦痛の表情で後退したのである。

 藤孝隊も秀満隊も本願寺に押されたが何とか光秀と合流したのである。


「おいち!ありがと!」

「長島でのお返しや!」

 おいちはお菊にいつもの軽い口調で返したが

「凛凛とマリアさん金閣さん銀閣さんを助けるで!七ッ童子も再稼働やで!押し返すわ!」

 おいちが戦況を悟り命を出すと

「弥生さんのためにこいつらを叩きのめす!」

 お菊だが再度法力を出し前に出ると本願寺や雑賀衆も勢いに乗り反撃に転じたのである。


「休んでいた蜂屋隊を前線に戻して何とか上様を守れ!みんな落ち着け!」

 法力に集中する光秀に代わり溝尾茂朝が代わりに指揮を執ったが織田側は押されていた。

「十兵衛様!味方は押されてます!もはや若江城への後退もやむなしと!」

 茂朝は冷静に戦局を分析し後退を光秀に勧めたのである。

 丹羽長秀も同じように感じたようで信長に直に後退を進言していた。


「お菊め!小賢しい!しかし」

 前線で暴れるお菊を見て光秀は歯軋りしたが決めたのである。

「僕が殿(しんがり)を務める!」

「おやめください!早死にしたらダメです!あなたはまだまだする事が!」

 茂朝が焦ったが

「策はある!」

 光秀そう言うと本格的に法力を発動させたのである。

「おのれ!神は不平等だ!人は鬼に勝てないんだ!隋風殿!僕を鬼にしてくれ!」

 光秀が叫ぶと天王寺砦に居た隋風が光秀の念を感じ覚悟すると何か強力な呪文を唱えたのである。すると光秀も体からお菊と同じように赤い光を放ち出したのである。

「そんなもの!呼ぶな!」

 お菊も光秀の変異に気付いてたじろいだが。

 本願寺の兵が数人、光秀に斬り掛かったが光秀はこれを容易く斬り倒すとそのままの勢いでお菊に斬り掛かったのである。お菊もこれを何とかかわしたのであるが

「明智殿、いつもと全然力が違う!」

 お菊だが光秀と以前、何度か太刀討ちしているが今日は今までと明らかに力が桁違いに違いお菊は驚き戸惑ったが

「僕だって君のような狂った法力を出せるのだよ!お菊!すまんが君は今日でさらばだ!君は危険過ぎる!僕に従っていればもっと良い世界を視れただろうに!」

 光秀は再度、お菊に突っ込んだのである。

 光秀だが息も切らさず目を赤く光らせ、ここでもお菊を支援しようした本願寺の兵や堺衆を躊躇なく何人か斬り倒した。

「十兵衛様!まずい!取り込まれた?」

 茂朝は動揺していたがお菊も

「明智殿が壊れた!ヤバい!」

 お菊だが怯えて後退しようとしていた。


「十兵衛!支援してやる!」

 信長だが光秀が押し返しつつあるとみて支援しようとしたが

「逃げろ!信長!」

 光秀が叫んだ。

「あれは阿修羅だ!いや、鬼なんだ!地蔵菩薩の僕が倒す!」

 光秀だが我を失ったように言った。

 信長は唖然としたが

「ここは十兵衛に任せましょう!法力に憑依(取り付かれてる)されてるけど時間は稼いでくれます!その隙に大勢を整えましょう」

 丹羽長秀が冷静に言うと信長も頷き、後退したのである。


 光秀だが再度、お菊に斬り掛かるとお菊は何とか防いだが

「助太刀や!」

「バケモンめ!」

 光秀とお菊が太刀合わせしている最中にお凛と小雀が薙刀で光秀に左右から飛び掛かった。

「図々しい子供たちめ!」

 しかし光秀は難無く太刀で防ぐとお凛と小雀の胴丸を足蹴にして吹っ飛ばしたのである。

「あたああ。なんて力や!」

「本当にバケモンだぁ」

 吹き飛ばされたお凛と小雀は伸びていたが。


「畜生!どうする?」

「マジであいつ憑依されてるぞ!」

「3人掛かりで何とかするしか!」

 マリアと金閣銀閣も光秀に躊躇すると再度勢いは織田側に戻りつつあった。


「死ねや!」

 突如、おいちは落ちていた鉄砲を奪い取ると光秀の目の前で発砲したのである。

 直撃距離だが光秀だがこれも信じられない速さで避けるとおいちに斬り掛かったのである。

 おいちだが驚いた後に慌てて鉄砲の銃身で光秀の太刀を防いだ。

「ウソや!あんな距離じゃ絶対避けれんって!」

 おいちだが必死に光秀の太刀を抑えたが

「死ねや!なんてお嬢さんの台詞じゃないね。はしたないね」

 光秀がおいちに冷静に不気味な笑顔で言うと

「うるさい!バケモノはどっかに消えや!」

 法力を感じないおいちですら光秀の異常の力を感じ怯えたが。

「信長の押切だったら君も真っ二つだったかな?君は運が良いね。でも僕は今日は君を殺すつもりはなくてね」

「何でやねん!」

「信長は君に大きな利用価値を見出したのだよ。殺すなんて勿体ない。ふふふ」

 光秀が怪しく笑うと

「え?」

 おいちは予想外に再度怯えたが

「おいちから離れろお!」

 お菊が突如、光秀に横から突っ込んで来たのである。

「素晴らしい友情だね」

 光秀はこれを難無く防ぐとお菊と太刀打ちし、お菊の薙刀の刃に己の太刀を押し当てた。双方の刃はギシギシと不気味な音を立てていた。

「はぁはぁはぁ」

 お菊だが息が荒くなっていた。

「法力を使い過ぎたか?そろそろ終わりにするかな?君を斬ればここの面子は戦意を喪失する。本願寺は負けだ。最後の言葉は?」

 光秀は冷静に言うと

「まだ死なないってさ!」

 お菊はそう言うと押し返し再度、光秀に水平斬りを掛けたのである。光秀は苦も無く避けたが。お菊は息を荒げていた。

「君は義姉の仇を討てなくて残念だったね。でも世の中は思い通りに行かないものさ。誰もがそうなのさ。悔いる事は無い。君は良くやったよ。最後に褒めてあげるよ」

 光秀はそう言うと太刀を再度構え直してお菊に突っ込もうとした。

「悔いなんて無い!って言ったら嘘になるけど。あなたたち獣(ケダモノ)に一泡吹かせられたらそれで良いさ!」

 お菊は息を荒らしながら返すと

「君の信仰心のなせる業だね。素晴らしい。でも最後に言わせてもらう。僕らは獣でも何でもない。僕らに従わない君たちがいけないのだよ。信長の夢は僕の夢。乱世を鎮めて神の国を再興するだけさ」

 光秀が言うと

「神の国?信長公は神にでもなるって?自惚れだよ!驕りだよ!」

 お菊が返すと

「僕は神が誰これだなんて一言も言ってないよ?でも君たちの信仰は君たちに現世の益を与えると教えた癖に君たちの現世になんの益ももたらさずに君たちを地獄に導いたとしか僕は思えないな。進むは極楽、退くは地獄。おかしくないかな?」

 光秀が冷静に返すと

「う!」

 お菊は光秀にうまく返せなかった。

「雑賀の惣(自治)を守るためや!本願寺も今まで寺社領を守るためや!何が悪いねん!」

 おいちが横から割り込んで来た。

「だから乱世は応仁の乱から100年も続いたのだよ?終わりにしないといけないのだよ?雑賀の姫よ」

 光秀が冷静に言うと

「明智殿。あなたの言う通りあたしは多分、信仰で戦っていない。でももうあなたに恨みがあって戦ってる訳ではない。あたしは政治(まつりごと)は分からない。でも小次郎も言ってた。所詮、あなたたち薄汚い大人はどんな綺麗事を言っても自分の欲のためなんでしょ?だから人の物を奪って殺めて女を犯して喜んでるでしょう?」

「そうだとしても君は何を言いたい。僕は手段はともあれ天下泰平のために戦っているのだよ?」

 光秀はお菊を睨むと

「あなただって分かってるんでしょう?これは自分の夢じゃないって!自分の求めている泰平の世じゃないって!従わないから罪の無い人を殺めて犯してなんてさ!」

 光秀はイラッとすると

「手段はともあれ乱世を終わらせるのだよ!お菊!」

 きつい口調で返したが

「あたしは自分を救ってくれた人や一緒に命を懸けて戦う仲間のために戦ってる。綺麗事ばかりで嘘つきで盗人(ぬすっと)なあなたたちのような大人は大嫌いだ!」

 お菊が言うと

「分かった。子供の綺麗事も友情も愛も理屈も素晴らしい。でもこの世は力だ。さらばだ!」

 光秀が構えると

「みんな逃げて!」

 お菊は大声を上げた。

「あたしが抑える!」

 お菊は覚悟したのである。光秀が怪力なのは知っていたが懐に捨て身で飛び込むしかないと悟ったのである。

「そんな!く!」

「なんでこの世にバケモノがおるんや!」

 お凛とおいちは泣きそうになったが今の光秀がとてもまともに戦える相手で無いのは承知だった。

「最期に良い友情を見せてもらったよ。すまない。お菊」

 光秀がお菊に飛び掛かろうと構えたその時である。


 光秀の法力を感じると光るあの脇差だがさっきのように、再度突如不思議な虹色の光と存在しない紙吹雪のような物を放ち始めたのである。そして本当に微かに法楽を鳴らし始めたのである。


「何ぃ!何が来る?」

 光秀は狼狽した。


「あれ?」

 お菊は唖然としてしまった。

「急に誰やねん!」

「幻覚かいな!」

 おいちとお凛も仰天した。

 お菊の前に見知らぬ少女がお菊を庇うように立ち塞がっていたのである。


「いろは!なぜ、君がここに!」

 光秀だがこの少女を見るとお菊が見た事も無い狼狽した表情を見せた。茂朝も腰を抜かさんばかりに驚いていた。光秀の古い親衛隊兵も驚きの顔をしていた。

「いろは!なぜ君が僕の邪魔をするんだ?なぜだ!」

 光秀は驚き戸惑いながら叫んだ。唖然とするお菊にいろはは振り返るとにこりと笑ったのである。


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