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地獄からの巫女 26-7

「上様!お気を付けて!六花仙は本願寺の精鋭です!」

 明智光秀が慌てて信長を止めようとしたが

「手助け無用!」

 己の腕に覚えのある信長だが危険を顧みず弥生の挑戦を受けて立ったのである。


 信長の愛刀の押切は弥生の薙刀を受け止めて刃軋していた。

 信長だが弥生の意外な腕力に内心驚いていたが。

「大将自ら危険を顧みずに前線に立つなんてさすがね?」

「貴様に褒められる筋はないんだよ!しかしやるな!」

「そこ!」

 弥生は信長に押し込んだ後に一瞬後ろに下がると何度か薙刀を振り下ろしたが信長は太刀で防いだ。一撃は鈍い音と共に信長の左肘下をかすったが信長の硬い南蛮風甲冑は全く受け付けなかったのである。

 ただ織田兵からも軽い驚きの声は上がったが。

「なかなかの腕力だな?俺に挑む度胸も褒めてやる。でも無駄だな。俺には利かないな」

 信長は余裕の笑みで返したが

「百も承知よ」

 弥生は再度突っ込むと回り込んで信長に薙刀を叩き込んだが信長の南蛮風甲冑は当たっても鈍い音を発するだけで薙刀を全く受付無かった。せいぜい甲冑をへこませる程度で全く信長本人に傷を与えられなかったのである。

(予想以上に硬いわね。懐に飛び込むしかないか)

 弥生は再度下がって間を取り策を練ったのである。

「無駄だって言ったろ?じゃあ今度は俺から行くぞ」

「!」

 弥生は薙刀を構え直したのである。


「上様!本願寺の新手がこちらに間もなく着くようです!」

 信長の小姓の一人の万見重元が慌てて間に入って進言すると

「天王寺砦に佐久間隊が入った模様!荒木(村重)隊は桜花楼の敵に苦戦!」

 もう一人の小姓の堀秀政も信長に報告すると

「ここ(四天王寺)を軸にする!(佐久間)信盛信栄親子ら天王寺砦の部隊にここに援軍に来させろ!天王寺砦は一時的に放棄しても構わん!荒木隊には絶対に引くなと伝えろ!桜花楼の前に張り付かせろ!」

 信長だが指示を飛ばした。


 その時、信長の後方で鉄砲の音と兵の大声が聞こえたのある。

「東から本願寺の増援!八咫烏から雑賀衆と思われます!」

 伝令兵が慌てて知らせると

「この寺の中におびき寄せろ!中に入れて接近戦に持ち込め!鉄砲を使わせるな!美濃衆(稲葉一徹、帰蝶配下の斎藤氏一門衆)にやらせろ!」

 信長は落ち着いていたが織田兵の動きを見て

「よし!敵は浮足立った!反撃!弥生は少し休め!」

「マリアと堺衆も手伝え!」

 長兵衛と太郎は決断するとマリアの部隊、金閣銀閣と堺衆と一斉に織田兵に突っ込んだのである。


「上様!ここはいったん下がって!我々にお任せを!体勢が有利になったらまたご尽力を!」

 光秀が決断すると

「頼む!俺と五郎左衛門(丹羽長秀)はいったん下がって指揮に徹する!」

 信長だが味方の混乱を察し、明智光秀、松永久秀、蜂谷頼隆、滝川一益に前線を任せて丹羽長秀と織田の陣になっていた五智光院に戻ろうとしたのである。


 お菊だが四天王寺の講堂で横渡る小次郎の前で泣き崩れていた。

「小次郎!さよならや!ほんまありがとな!お菊!味方を支援するわ!ウチは行くな!」

 お凛は講堂のすぐ傍で戦闘が始まったのに気付いて小次郎に一礼すると堺衆と合流すべく出陣して行った。

「お菊。俺はもういい。弥生さんやお凛を手伝え。おいちも来るはずだ。でもこのままじゃ危ない。みんな信長に殺される」

 小次郎は力を振り絞り小声で言ったが

「あたし、あなたに答えられなかったのにさ!もう少し時間があってあたしが大人になったら答えらたのにさ!こんなとこで終わるなんて嫌だ!あたしたちこんなとこで何やってるのさ?なんのためなのさ?この戦いってさ!」

 お菊は泣きながら返すと

「乱世だから俺たちは会ったんだよ。平和な世だったら俺たちは会ってない。偶然だ。そんだけだ」

 小次郎はふっと笑い

「戦の大義なんてみんな ホラ だ。偉い人の 欲 だけだ。だからお前は仲間のために戦えよ。行ってやれ」

 小次郎は力を再度振り絞り腕を上げるとお菊の頭を撫でたのである。

「おいち、凛凛、弥生さん、七ッ童子、みんなのためなら。分かった」

 お菊はいったん泣きやむと

「アディオス・アミ-ゴ」

 小次郎はにこりと笑いながら言うと

「アディオス・アミ-ゴ(さようなら、友よ)。これで本当に良いのかな?」

 お菊は涙ながらに返した。小次郎は軽く笑顔でうなずいた。


 その時、何十丁もの鉄砲の射撃の大爆音が連続して響いたのである。

「は!おいち?」

 お菊は小次郎に礼をすると慌てて薙刀を持って講堂の外に出たのである。


 講堂の外は予想外の本願寺別動隊の奇襲を受けて織田軍は混乱に陥り乱戦になっていた。

「間に合った!さすがおいちや!」

「良い作戦だぜ!」

 お凛とマリアが感嘆していた。


 おいちが率いる七ッ童子や雑賀衆の別動隊は2人乗りの騎馬鉄砲隊で四天王寺の北側から速攻で侵入すると織田兵が盾と槍の接近戦の兵装なのを見抜き織田兵の中に馬ごと直接突入し至近距離から鉄砲を乱射したのである。雑賀衆が鉄砲慣れしているのとさすがに織田兵も近過ぎて盾で避けきれず織田兵は死傷者が続出したのである。

 特に松永隊は壊滅的な打撃を受け久秀も後退、信長の親衛隊の赤黒衣衆すら死傷者が続出していた。

「上様!危のうござ……ぐは!」

 赤黒衣衆のひとりが信長の盾になって倒れ

「上様!まずい!後退を!」

 丹羽長秀も危険を察し慌てて自ら鉄盾を持って信長と後退しようとした。

「大将もらった!」

 雑賀衆のひとりが馬で信長の護衛を押し潰して近付くと鉄砲を信長に発射した。しかし並みの鉄砲では信長の南蛮風甲冑は貫通しなかったのである。

「小賢しいわ!」

 逆上した信長は愛刀の押切を抜くと馬の首を叩き斬ったのである。馬は甲冑を分解した簡易な防具を胸や腹、首、頭部に付けていたが信長の愛刀、押切は棚に隠れた茶坊主を棚ごと斬った名刀らしく防具ごと馬の首を刎ねると振り落とされた雑賀衆をもそのまま叩き斬ったのである。

 信長を見て織田兵はようやく落ち着きを取り戻したが雑賀衆も鉄砲を何丁も抱えて乱射し激しく抵抗し弾切れするとようやく本願寺の本隊に後退したのである。


 おいちの愛馬の龍華号だがおいちが父親の鈴木重秀に我がまま言って無理に買ってもらった馬だが普段は牝馬の尻を追い回しては道草を食い、図体がでかいだけの大飯食らいと散々に言われていたがこの日は槍傷を何ヵ所も受けて余計に怒り狂っていたのもあり織田兵を噛んでは蹴ってはと織田の陣中で大暴れしたのである。

 七ッ童子も接近戦が得意な小雀が薙刀を使って暴れ、下針や無二も薙刀や槍で奮戦したのである。

 蛍や鶴首、発中、但中らも弾込めを素早く行うと至近距離から鉄盾の隙を見て確実に敵兵を仕留めたのである。


「凛凛!久々やな!アンタらの大好きなおいちの登場やで!」

「相変わらずお父ちゃん(鈴木重秀)のお灸を食らってるな!今日から解禁やな!」

 本願寺側に戻ったおいちは龍華号から飛び降りるとお凛と互いに手の平で軽く叩いた(ハイタッチ)後、軽く抱擁したのである。

「ありゃ?お菊はどした?」

 おいちがお凛に聞くと

「もうすぐ出て来ると思うで」

 お凛が講堂を見ながら言うとしばらくして

「ゴメン!待たせた!」

 お菊もやっと出て来たのである。

 そして3人で手の平を軽くお互いに叩き、軽く抱擁すると

「みんな!反撃や!このまま押し切るで!」

 おいちが雄叫びを上げると

「おお!」

 本願寺の部隊に気合が戻り雑賀衆の八咫烏の旗と門徒宗の南無阿弥陀仏の旗がはためいたのである。


「(松永)久秀様!負傷して後退!負傷した赤黒衣兵も五智光院に後退中!」

「天王寺砦を出た佐久間(信栄)隊、三好(康長)隊、若江衆が東の本願寺と雑賀衆に攻撃を開始!羽柴(秀吉)隊が荒木(村重)隊の支援に向かいます!」

「天王寺砦を出た三宅(秀満)隊、細川(藤孝)隊も間もなく到着!反撃させます!」

「これより明智隊、蜂谷(頼隆)隊が前衛、滝川(一益)隊が中軸で入ります!」

 信長の元には丹羽長秀の指揮の元、次々と情報が入っていたが信長は全然聞いていなかった。

 お菊、おいち、お凛を睨みながら鬼の形相で

「あの小娘共(ガキ)め!」

 怒りをため込んでいた。


 明智光秀は蜂屋頼隆とお菊、おいち、お凛、弥生やマリアの前に立ち塞がった。

「やれやれ。若いとは素晴らしいが愚かだね。信長公の逆鱗にまともに触れるとは。南無阿弥陀仏」

 光秀はお菊たちを憐れむように手を合わせて祈ったのである。

「危ないのはそっちやろ!」

「今日こそはケリを付けるで!」

 おいちとお凛が光秀に吠えたが

「脇差の反応が今日は尋常でなくてね」

 光秀は法力が分かる者にしか分からないあの古ぼけた脇差を触りながら言った。


「うっ!」

 お菊だが脇差が強烈に光ってるのに気付いた。おいちとお凛は分かっていないが。

「信長公の真の力を味わって極楽浄土に旅立つと良いよ。僕の出番は無いかな?」

 光秀はにこりと笑うと少し後方に下がったのである。


 信長だが鬼の形相で立っていた。

「何なのさ?これ!人じゃない?」

 お菊と光秀にしか見えないが信長は体から赤い光を放ち、普通の人にも異常な殺気は感じる事が出来た。お菊だが信長を見て急に怯えだした。


「七ッ童子!大鉄砲を用意やで!」

 おいちが小声で蛍と鶴首に命じたが

「あの南蛮甲冑は貫通は難しいわね」

 弥生が横から入った。

「じゃあどうするって?」

 おいちが弥生に聞くと

「あたしがあの人の懐に入るわ」

 弥生だがにこりと笑うと薙刀を構えたのである。

「へ?」

 おいちは弥生の意味が分からずぽかんとしたが。


「こいつらは第六天魔王の名に銘じて撫で斬りだ!やれ!」

 信長が叫ぶと織田兵は本願寺の兵に襲い掛かったのである。

 ただ数では勝っている本願寺だがやはり押され出したのである。

「蛍!鶴首!やってや!」

 おいちが命を出すと蛍と鶴首は鉄砲を構えて兜を被っていない信長の頭を狙ったのである。

 しかし次の瞬間、蛍と鶴首の照準から信長は消えたのである。

「う!」

 蛍と鶴首が声を裏返すと信長は信じられない速さで押切を抜いて突撃して来たのである。

「危ない!」

 弥生がすぐに間に入り一撃目は抑えたが押し返され二撃目は間に合わなかった。代わりに長兵衛が対応したのである。

 長兵衛も槍を捨て太刀に切り替えたが

「死ねえ!」

 信長は雄叫びと同時に長兵衛の太刀を圧し折るとそのまま長兵衛を両断したのである。


「あわわ!」

 蛍と鶴首が怯えて逃げ出しおいちも慌てて後退すると

「よくも」

「長兵衛を!」

 太郎と弥生が信長に迫ったが

「雑魚が!用は無いわ!」

 信長だがひとりで太郎と弥生の相手をしていた。


 お菊だが信長に恐怖を感じ震えで足が進まなくなっていた。

「お菊!あかん!下がるで!」

 お凛に促されてお菊はようやく下がろうとしたが

「おっと!逃がさないよ」

 光秀と溝尾茂朝がお菊に迫ったのである。

「お菊!お凛!逃げろ!」

 マリアと配下の金閣、銀閣が光秀の相手をしたがここに蜂谷頼隆隊も乱入したのである。

「行かすか!」

 小雀、下針、無二も蜂屋隊に応戦したが下針、無二は茂朝に斬られ後退、

「邪魔をするな!」

 小雀だが光秀の懐に無理に入ったところを防御され甲冑越しに足蹴にされ吹っ飛んで後退した。

 それでも金閣銀閣で蜂屋隊を後退させ光秀と茂朝を足止めするとマリアは動けないお菊の後退に向かったのである。

 信長だがお菊を明らかに狙っていた。動きが遅いお菊を下がらせるためおいちも慌ててお菊の元に向かったが

「三羽烏が揃ったか!まとめて極楽浄土に送ってやる!どけよ!」

 信長はこの機会を逃さず突っ込んで来たのである。

 素手で太郎を殴って油断させたあと一気に太郎を斬り倒し突っ込んで来たのである。


「ヤバい!」

「あかん!」

「逃げろって!」

 おいちとお凛、マリアは悲鳴を上げ

「やべぇ!」

「殺られてしまう!」

 金閣銀閣も悲鳴を上げたが

「行かせない!」

 弥生が信長の前に立ち塞がったのである。


「法力も無い分際で!どけよ!」

 信長だが弥生と太刀合わせすると弥生を押しまくった。弥生は薙刀の柄で防御したが柄はあっさり両断されると信長は押切を弥生の左脇腹に突き刺したのである。


「嘘や!」

「弥生さん!」

 おいちとお凛が悲鳴をあげたが弥生は表情を変えることなく薙刀を捨てると左手で押切が自分の左腹腹から抜けないよう信長の右手を抑え付け、自分の右手で脇差を素早く抜き信長の首だけ狙い足技を掛けながら信長を押し倒したのである。

「言ったでしょ?うぬぼれた男は女は嫌いって」

 弥生は青筋を額に立てながら信長の首に渾身の力で脇差を突き差そうとした。

「こいつ!クソ!なんて力だ!」

 信長も左手で弥生の右手を必死に抑えていた。

「魔王様。一緒に地獄に参りましょう」

「一人で行ってろ!」

 ただ弥生は限界に来ており力が抜け始め顔を一瞬しかめたがその時信長は真横に火の入った鉄砲が落ちているの気付いたのである。

「死ね!」

 信長は叫ぶと右膝で弥生の腹に一撃を入れ弥生の力を抜かせると弥生の右手を払い鉄砲を素早く掴み無理な体制のまま引き金を引いたのである。鉄砲は弥生の腹部を直撃し弥生は一瞬浮き上がり苦痛の顔の後、諦めとも悟りの顔の後に目を閉じ息絶え、信長の上に覆いかぶさったのである。


「母上様!」

 お菊は固まりながら無意識に呟いた。


「危なかった。この女、散々手間かけやがって」

 信長は弥生の遺骸を手で払いどかすと立ち上がり足蹴にした。


「弥生さんが殺られてもうた」

「あああ」

 弥生の死を見て涙目で固まるおいちとお凛を信長は見つけると

「うるさい雑賀の三羽烏どもめ。すぐに極楽浄土に送ってやる。安心しな」

 にやりと笑った。


 その時、地面に響く不気味な重い声がしたのである。

「お前ら。お前ら。お前らぁ!」

 声の主はお菊だった。

「お菊?」

「お菊!」

 おいちとお凛はお菊を見て再度固まった。

 お菊は瞳孔を赤く光らせ髪を逆立て気味に体から赤い光をうっすら発し涙を流して歯ぎしりしていたのである。法力が無いおいち、お凛にも見えたのである。

「バカな!僕の錯覚のはずだ!」

 光秀も声を裏返した。いつの法力を感じると光るあの脇差だが今日は信長に反応し激しく光っていたが今度は突如不思議な虹色の光と存在しない紙吹雪のような物を放ち始めたのである。そして何か法楽のようなものも微かに聞こえるように感じたのである。しばらくすると嘘のようにいつもの古ぼけた脇差に戻ったが。

「何が来るんだ!何が!また比叡山の時の あれ が起こるのか!」

 光秀は一人取り乱していた。

「何だと?」

 信長も動揺していた。


 お菊だが唖然とするおいちとお凛を置いて薙刀を構えて信長と光秀の前に進むと

「お前ら!殺してやる!」

 普段と違う重い声で叫んだのである。



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