地獄からの巫女 26-6
「至急信長公の本隊に行って鉄砲隊を待ち伏せさせるよう!僕がおびき寄せる囮になる!」
「は!」
光秀だが弥生との太刀打ちを止めると下がって溝尾茂朝に小声で耳打ちした。茂朝も素早く光秀の策を理解し信長の本隊に支援を依頼するために移動したのである。
光秀も
「全軍後退!体制を整える!こんな雑魚どもに構うな!」
大声で部隊を信長本隊に移動させる素振りを見せた。
しかしお菊は雑魚扱いされた事に怒って光秀の挑発に乗ってしまったのである。
「何ですって?」
弥生との太刀打ちをやめて後退する光秀をお菊は追撃しようとしたのである。
「お菊!深追いは危険よ!」
弥生がお菊を止めようとしたがお菊は光秀を追おうとしたのである。そこにお菊の追撃を阻もうと立ち塞がったのは藤田伝五である。
「お嬢さん。越前では騙してすまんかったな。大人しく極楽浄土に行きなさい」
藤田伝五が十文字槍でお菊を突こうとしたが
「あの時はまんまとオジサンに騙されたけど借りは返す!」
お菊は伝五の槍を軽々と避けると薙刀を水平斬りし反撃したのである。
「オジサンだと?ええい!」
伝五も慌てて槍の柄でお菊の薙刀を抑えたが勢いに押され柄は折れそうになった。「口の利き方も気を付けろ!たああ!」
伝五も槍を諦め捨て、太刀を抜きお菊に振り抜いたのである。
ただお菊はこれも素早く避けると逆に
「お返し!やあ!」
連続で再度水平斬りを仕掛けたのである。
伝五も太刀討ちで2発は避けたが3発目は避け切れず左上腕をかすったのである。
「ぐ!やるではないか!」
左上腕を斬られて伝五はようやく下がった。その間に光秀は先に行ってしまったが。
「明智殿!待て!」
お菊は思わず追いかけたのである。
「お菊!行ってはダメよ!ここ(講堂)で守りを固めるのよ!小次郎!お菊を止めて!」
弥生が慌てると
「お菊!勝手に動くな!堺衆が来てからにしろって!盾も持たずにやめろって!こら!」
小次郎と配下衆もお菊を慌てて追いかけた。
途中でお菊と小次郎は織田の雑兵を排除しながら進んだが
「お菊!勝手に行くな!状況を考えろ!」
「今を逃がしたら明智殿を倒せないよ!」
「お凛らが間もなく着く!おい!待てったら!」
結局言う事を聞かないお菊に小次郎は呆れ同行するのだが。
六時堂を過ぎて何軒か坊を過ぎて光秀が入った門のある本坊にお菊は入ろうとしたその時だった。
「しまった!」
お菊は門で鉄砲隊の待ち伏せに遭い斉射を受けたのである。
数丁の鉄砲が火を一斉に噴いた。お菊はやられたと思ったが走馬灯は走らず
「馬鹿野郎!」
小次郎の怒鳴り声が代わりに聞こえたのである。
我に返るとお菊は無事だったが小次郎は腹から血を流して苦しそうな顔をしてお菊を庇うように建っていたがもう崩れそうだった。小次郎の配下衆も何人か倒されていた。お菊はようやく悟ったのである。
「小次郎!なんで庇ってくれたのさ!」
腹から血を流す小次郎にお菊は動転していた。
「俺はいいから早く逃げろ」
小次郎は息絶え絶えに小声で言ったが
「あなたを置いて行けないってさ!」
お菊は泣き崩れ必死に小次郎を連れて行こうとしたのである。
「オイ!あれ、本願寺のお菊じゃねぇか?」
「殿(松永久秀)も汚名返上だな。第2波!構え!撃て!」
お菊と小次郎を狙撃した松永隊は鉄砲の弾を充填終えると再度構えた。
「お菊。本当に残念だよ。こんなところで朽ち果てる己を呪うが良い。さらばだ」
光秀は後は松永隊に任せて信長と合流しようとした。
再度鉄砲の大音響がすると今度は松永兵がばたばたと倒れたのである。
「何?」
光秀が驚くと
「間に合ったわ!大丈夫かいな!お菊!」
お凛が堺衆を率いてようやく到着したのである。
「凛凛!小次郎が!小次郎が!」
泣きながら動転するお菊と腹から大量に出血し意識がもうろうとする小次郎を見てお凛も悟ったが。
「お菊!小次郎を講堂まで連れて行こうや!手当するで!堺衆!時間を稼いでや!」
ただお凛はこの傷では小次郎は助からないとは思ったが。
お凛はお菊と一緒に小次郎の両肩を支えながら本願寺の四天王寺の陣の講堂に戻ったのである。
「俺はもういい。逃げろ。信長が来る」
講堂に戻った小次郎は息も絶え絶えに言ったが
「手当するから待って!救護してあげて!」
お菊は半泣きで狼狽しながら言ったが
「もはやこれでは……」
到着した救護班ももうお手上げと小声で言ったのである。
弥生もお凛も暗い顔で黙るしかなかった。
光秀だが大きな坊の奥にある五智光院に入っていた信長とようやく合流出来たのである。
「上様!ご無事で!」
光秀は普段通り爽やかに言ったが
「十兵衛こそ無事で何よりだが随分苦戦したな。自慢の明智兵が随分減ったそうだな?」
「くっ!申し訳なく!例の面倒な雑賀衆の三羽烏がいまして」
光秀は信長の嫌味に苦い顔で言うと
「そいつは楽しみだな。今日の俺は最高に力が湧いてる」
信長は不気味に言った。
(確かに今日の信長公の法力はなんだ?人を斬り過ぎておかしくなったか?)
光秀も法力を感知する脇差が反応していたのに気になっていたが。
「野田福島砦の荒木村重はどうした!まだ(本願寺の)桜花楼を落としてないだと!何とかさせろ!俺は今から四天王寺を血祭りにして弟たちの借りを返してやる!お菊とか言う奴は四天王寺にいるのか?」
「味方が負傷して四天王寺の本願寺の防衛線の講堂に後退したようです」
信長の親衛隊の赤母衣衆の兵が即答すると
「休憩が終わったら松永兵を支援して一気に本願寺の拠点の講堂を落とす!焼き討ちでも構わん!蜂谷頼隆隊、稲葉一徹隊は入れ替えだ!後で良い!」
信長だが素早く命を出すと出陣の支度を行ったのである。
松永兵とは互角に戦っていた本願寺の堺衆や木津川砦の援軍だが信長の親衛隊の赤黒母衣衆が支援に入ると押し返されだしたのである。
信長本隊、丹羽長秀隊、滝川一益隊、松永久秀隊、明智光秀隊は数では本願寺の戦力より少なかったが精鋭だけあって兵の装備、練度が本願寺の雑兵や僧兵では相手にならなかったのである。あっという間に本願寺は防衛線の講堂まで迫られたのである。
「本願寺の本隊は間もなく来る!堪えろ!うわぁ!」
「ここは死守!進むは極楽!退くは地獄!ぐは!」
本願寺の鍛えられた僧兵らが味方を激励するもその僧兵らも次々と討たれたのである。
「本願寺の本隊が来るまで抑えられるか」
「さすが信長公かな。永禄銭の旗も見納めかいな」
弥生配下の太郎と長兵衛は冷静に戦局を見てた。
弥生も黙って何かを考えながら戦局を見ていた。
「お菊。残念やけど小次郎は助からんと思うわ。お別れの挨拶したろ」
講堂の中でお凛はお菊を説得しようとしたが
「嫌だ!あたし、小次郎に何も出来なかったのにさ!」
お菊は泣きじゃくって動転したままであった。
本願寺は鉄砲でも反撃したが雑兵は倒せても鉄盾を使いこなす親衛隊は倒しきれず本願寺が苦手な接近戦になったのである。
「お菊は戦えないわね。私が出るわ。マリアと堺衆は雑兵を!太郎と長兵衛は赤黒衣衆の露払いを!私が狙うは信長公のみ!」
弥生は決断すると出陣したのである。
「意外と大した事ないな?数が多けりゃ良いってもんじゃない」
信長は手応えの無い本願寺相手に余裕すらあったが
「上様!雑賀衆や本願寺の本隊は要注意で!間もなく来るはず!」
「雑賀の三羽烏は気を付けて!鉄砲隊は後方でいつでも支援できるよう!」
久秀と光秀が信長に注意を促したが信長は聞く耳を持たなかったが。
その時だが信長の雑兵が数名倒され赤黒衣衆も数名斬られ後退し、信長の前方でどよめきが起きたのである。
「なんだ?」
信長が警戒すると目の前に背の高い薙刀を持った女と配下衆の厳つい男たちが現れたのである。
「さすが魔王とご自分で名乗られてるだけあるわね」
「貴様、誰だ?名乗れ」
信長は不愉快そうに女に返すと
「六花仙筆頭の村上弥生。信長公、お命頂戴」
弥生が言うと
「少しは腕が立つようだが法力は無いと見た。俺は女には優しいんだ。すぐに楽にしてやる。安心しろ。お前らの大好きな極楽浄土に送ってやる」
信長はにやりと笑うと
「信長公。うぬぼれた男は女は嫌いなのよ。覚悟!」
弥生はそう言うと信長に突っ込んだのである。




