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不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第九部・新たなる脅威 後編

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202/205

202 接敵〈運び屋〉


◆接敵


 豹人の青年は無言で先頭に立ち、茂みの影を縫うように進んでいく。イジュンは偵察ドローンを上空に飛ばし、取得した映像をリアルタイムで俺たちの端末へ転送した。


 映像には、〈ミツバ〉の戦士たちがコンパウンドボウらしき武器を構え、倒木の陰から略奪者へ矢を射掛ける姿が映っていた。


 矢は鋭い軌道で飛び、迷彩服に身を包んだ襲撃者たちの腕や太腿を正確に貫いていく。泥で塗られた肌に骨の装飾、獣のようなしなやかな動き――だが、その戦術は驚くほど洗練されていた。


 軽装の略奪者たちはアサルトライフルや自爆ドローンで応戦していたが、戦士たちは地形を熟知し、射線を切りながら巧みに距離を詰めていく。


「確認できただけでも、敵は十名以上」と、イジュンが端末を見ながら言う。「ほとんど略奪者と変わらないような連中ですが、何人かは重装備のサイボーグですね」


「了解。コトネは俺の援護を頼む」


 彼女はライフルにサプレッサーを装着しながら頷いた。新しい義肢にもすっかり慣れたのか、指先は機械的な正確さで滑らかに動いている。


 俺たちは茂みの影を利用しながら敵の側面へ回り込んだ。略奪者たちはタカクラの部下と〈ミツバ〉の戦士に集中していて、俺たちの接近には気づいていない。


 イジュンのドローンが敵の位置をマッピングし、端末に赤い点として表示していく。距離、遮蔽物、そして最適な射線が頭の中で静かに組み上がっていった。


 高台に陣取ると、コトネはその場に伏せて狙いを定める。サプレッサー越しの乾いた発射音が森に吸い込まれていく。敵のひとりが後頭部を吹き飛ばされて倒れる。近くに立っていた襲撃者が異変に気づいて振り返るが、こちらの位置はまだ掴めていない。


 わずかな混乱が生まれた瞬間、〈ミツバ〉の戦士が矢を放ち、次々と敵を無力化していく。コトネもイジュンから受信する情報を拡張現実で視界に重ねながら、即座に照準を調整し、敵を狙撃していった。敵のヘルメットが跳ね飛んだかと思うと、二発目で脳漿が撒き散らされていく。


 イジュンのドローンは上空から敵の動きを追い、俺たちの端末に位置情報を送り続けていた。しかし略奪者たちも監視されていることに気づいたのか、自爆ドローンによる迎撃でこちらの〝眼〟を潰していく。


 本来、ドローンを対象にした迎撃機体と言うこともあり、イジュンの偵察ドローンが次々と失われていく。


 そのとき、豹人の青年が低い唸り声を上げた。背後へ視線を向けると、草むらの中から敵が姿をあらわす。つぎの瞬間、青年は軽々と倒木を跳び越え、敵の背後へ回り込んだ。その動きは、もはや人間の領域を逸脱していた。


 青年は敵の腕を掴み、関節を逆方向へ折り曲げる。敵が悲鳴を上げる前に、〈ミツバ〉の戦士が放った矢が喉を貫いた。


 そこへライフルを乱射する男が飛び込んでくるが、タカクラが刀を抜きながら接近するのが見えた。刃が陽光を反射したかと思うと、略奪者の腕は斬り落とされ、そのまま返す刀で首を刎ねる。どうやら、彼らの剣術は本物らしい。


 森が静けさを取り戻したのは、ほんの数秒だけだった。倒れた略奪者の血が湿った土へ染み込み、〈ミツバ〉の戦士たちがサルにも似た短い声で互いに合図を交わす。その声が消えた直後、遠くで銃声が弾けた。


 乾いた破裂音が連続し、森の空気が一気にざわつく。イジュンの端末が震え、ドローンからの映像に新たな赤点が複数あらわれた。「増援だ」彼の声は低く、緊張でわずかに震えていた。


 つぎの瞬間、空気を裂くような高周波音が頭上を通過した。超小型の自爆ドローンが林立する巨木の影から飛び出し、俺たちの位置を探るように不規則な軌道で旋回する。敵はこちらの正確な位置を把握していなかったが、それでも数十機のドローンを一斉に送り込んできた。


 そのうちのひとつが大樹の根に衝突し、閃光と爆風が土を跳ね上げる。金属片が雨のように散り、樹皮へ突き刺さっていく。コトネが俺を押し倒し、義肢の腕で頭を覆った。耳鳴りが森のざわめきをかき消す。


 次々とドローンが爆散していくなか、負傷者は出なかったが、タカクラは即座に撤退を決断する。敵との接敵にはまだ距離があり、彼の判断に疑問符が浮かぶ。〈ミツバ〉の戦士たちも健在だ。このまま敵を押し返せるはずだ――そう思った瞬間、イジュンのドローン映像が切り替わった。


 森のあちこちで、巨大な影が動いていた。見たことのない黒々とした外殻を持つ甲虫の変異体。脚が異様に長いサルの変異体。樹皮に擬態した巨大なムカデ。おそらく銃声と爆発音に引き寄せられたのだろう。


「マズいですね……」イジュンは唇を舐めた。

「このままだと変異体の群れに囲まれます」


 映像には、襲撃者たちが変異体に襲われ、銃撃しながら後退する姿が映っていた。けれど銃声はさらに変異体を呼び寄せる。悪循環だった。森にとって人間は餌でしかない。このまま戦闘を続ければ、俺たちも包囲される。


 タカクラは指笛を鳴らし、近くで待機していた〈ミツバ〉の戦士に短く合図を送った。彼らは即座に動き、安全な経路へと俺たちを誘導する。森の地形を熟知している彼らは、変異体の通り道を避けるように進んでいく。豹人の青年が先頭に立ち、耳を立てて周囲の気配を読み取っていた。


 俺たちは息を切らすように茂みのなかを走り、湿った土を蹴り上げながら撤退を開始した。背後では略奪者たちが巨大な甲虫と交戦しているらしく、断続的な銃声が響いていた。甲虫の外骨格が火花を散らし、サルの変異体が木の上から飛びかかり、狙撃銃を手にした男へ容赦なく襲い掛かる。悲鳴が森に吸い込まれ、つぎの瞬間には別の爆発音が響いた。


 森は捕食者の巣窟だ。人間同士の争いなど、森にとってはただの〝呼び鈴〟に過ぎない。俺たちは戦士たちの背中を追い、森の奥へと駆けていく。背後の銃声は、やがて悲鳴に変わり、そして静寂へと溶けていった。

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