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不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第九部・新たなる脅威 後編

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200/207

200 タカクラ〈運び屋〉


〈カーゴドローン〉の駆動系が低く唸り、湿った森の空気を震わせていた。積載した物資は既定の重量を超過していないが、〈放射線嵐〉を避けるための鉛シートが余計だったのかもしれない。ドローンの機体表面には植物の花粉が薄く付着し、金色のノイズのように光っていた。


 俺たちはその後ろを歩きながら、前日に安全確認を済ませた経路に足を踏み入れた。これまで交流を重ねてきた豹人の青年が先頭に立ち、耳を立てながら風の流れを読む。彼が同行してくれている理由は分からないが、彼がいることで〈ツチグモ〉の監視を避けられるのは、俺たちにとって好都合だった。


 森の奥は、いつも以上に静まり返っていた。巨大な食虫植物が群生する区域へ近づくにつれ、空気は粘つくように重くなる。人が横になれるほど大きな葉の裏側には、昆虫の卵らしきものがびっしりと並び、ひどく気色の悪い光景を形作っていた。


 豹人の青年はその植物の危険性を熟知しているらしく、茨の迷路へ迷いなく踏み込んでいく。亜人が残す独特な足跡をなぞるように、俺たちは慎重に進む。幸い、〈カーゴドローン〉には森に適応した歩行プログラムがインストールされているので、植物や泥濘に足を取られて転倒する心配はなかった。


 途中、巨大な昆虫が道を塞いだ。カマキリの変異体だろうか。体長は二メートルを超え、抹茶色の外骨格は金属のように硬く光っている。青年が手を上げて「止まれ」と示す。俺たちは息を殺し、動きを止めた。


 カマキリめいた変異体は、長い首の先で触角をゆっくり揺らし、空気の匂いを確かめるように周囲を探っていた。


〈放射線嵐〉の影響で森が帯電しているせいか、硬質な外骨格は微かに燐光を放ち、金属的な残光が闇に滲んでいた。やがて興味を失ったのか、変異体はゆっくりと森の奥へ消えていく。青年が振り返り、短く頷く。それが「進め」の合図だ。


 茨の迷路を抜けると、森の空気がわずかに軽くなった。林立する巨木のあいだに鳥居が見え、その先で異界の――この世ならざる世界の境界が揺らぎ、光の膜が波打っている。〈カーゴドローン〉がその光を反射し、機体が青白く染まった。


 タカクラが指定した合流地点はもうすぐだ。豹人は止まることなく歩みを速め、俺たちもそれに続く。森の民の気配が近づくにつれ、〈ツチグモ〉の監視が完全に消えたのが分かる。青年がいることで、森そのものが俺たちを許容しているようだった。


 巨木の根が絡み合う広場に出ると、空気が変わった。湿気が薄れ、風が通る。タカクラたちとの合流予定地点だ。イジュンが偵察ドローンを飛ばして周囲の警戒に入るあいだ、俺とコトネは荷物の最終確認を済ませていく。


 それからしばらくして、森の奥で影が揺れた。やはり警戒しているのか、姿を見せたのはタカクラだけだった。


 風で揺れる枝葉の影が彼の顔を斜めに切り取り、〈緋華(ひばな)〉の娼館で見せてもらったホログラフィックの印象よりもずっと重たく、対面しているだけで硬い緊張感を抱かせるような男だった。


 黒く短く刈られた髪、浅黒い肌、彫りの深い顔立ち。〈廃墟の街〉ではほとんど見かけない、古い任侠映画のフィルムから抜け出したような日本人の風貌だ。腰に差した刀が場違いなほど自然に馴染んでいるのが逆に可笑しくて、思わず苦笑が漏れた。


 いずれにせよ、彼に警戒されないよう慎重に〈IDカード〉を差し出し、彼の端末に読み込ませる。タカクラは無言のまま照合を進める。その間にも周囲の警戒は怠らず、長年この森で生きてきた者のような落ち着きを見せていた。


 照合の間、俺も周囲へ視線を走らせる。姿は見えないが、イジュンのドローンが茂みの奥に潜む複数の反応を捉えていた。ミツバとかいう部族民だろう。森の民らしく、気配を消す技術が異様に高い。こちらが刺激しない限り攻撃はしてこないと事前に聞いていたが、警戒を解く理由にはならなかった。


 ただひとり――あるいは一匹というべきか、豹人の青年だけは緊張とは無縁だった。大樹の根に腰をかけ、尾を揺らしながら遠くを眺めている。


 タカクラも彼の存在を当然のものとして受け入れているのか、視線を向けることすらしない。森の民との交流が長いせいだろう。青年は俺たちとの仲をタカクラに見せつけるように、得意げに携行食を口にしていた。


 照合が終わると、タカクラは何も言わずに頷き、〈カーゴドローン〉に積まれた物資へ歩み寄った。とにかく寡黙な男で、無駄口を叩かない印象を持っていたが、その通りの男だった。


 それでも荷物を確認する指先は、どこか機嫌が良さそうだった。医療パックにバッテリー、それに食料パックと予備部品――必要なものが揃っていることを確かめると、彼は刀の柄に軽く触れながら俺たちに視線を向ける。


「ついて来い。拠点まで案内する」

 その声は低く、森のざわめきに溶けるようだった。


 俺たちは互いに目を合わせたあと、タカクラの背中を追うことにした。森の奥へ続く獣道が、ゆっくりと口を開いていく。

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