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不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第九部・新たなる脅威 後編

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199/208

199 合流地点〈運び屋〉


◆準備


 侵入者たちの殲滅を終えた〈ツチグモ〉は、戦闘の余韻を感じさせない動きで数機の小型偵察ドローンを射出し、周囲の安全確認を行う。それから、地面の状態を確かめるように散乱した死骸にゆっくりと近づいていった。


 後部コンテナのロックが外れ、内部に折り畳まれた状態で収納されていた機械人形が起動する。昆虫型変異体の外骨格を素材にした装甲を纏うグロテスクな機体で、光学迷彩の膜越しに淡く光を帯び、関節部には生体由来の樹脂が使われているのが確認できた。


 森の生物と機械が融合したような異様な姿。その気味の悪い姿だけでも驚愕に値したが、さらに俺たちを凍りつかせたのは、その機械人形が侵入者たちの装備を物色し始めたことだった。


 機械人形は、滑らかな動きで泥濘の中を歩いて死骸に近づくと、襲撃者の装備を丁寧に検分していく。予備弾倉、ボディアーマーの損傷、強化外骨格に使われたフレームの状態、バッテリーの劣化具合――その一連の動作は機械的な正確さを持ち、人間が持つ迷いという概念が存在しなかった。


〈ツチグモ〉がどのように現在の形態を獲得したのか、ようやく理解できた気がした。誰かが整備しているのではなく、特殊なAIの指示で素材を集め、必要な箇所を自律的に改修してきたのだろう。〝旧文明の亡霊〟として恐れられる理由が、目の前で確かな輪郭を帯び始めた瞬間でもあった。


 昆虫の外殻をまとった幼い子どもを思わせる機械人形は、必要な装備を回収すると本体の後部コンテナに戻り、手足を折り畳むようにして収納された。その間も索敵ドローンは上空を旋回し続け、冷たい空気の中で電子音を微かに響かせていた。


〈放射線嵐〉が近づき、森のあちこちで放電が走っているにもかかわらず、ドローンは高度を維持し、精密な軌道で周囲を監視していた。通常の電子機器ならノイズで制御不能になるはずだが、〈ツチグモ〉のシステムはそれを当然のように無視していた。


 旧文明の技術によって森の異常環境に適応しているのか、それとも異常環境に合わせて自ら進化した結果なのか――どちらにせよ、それは俺たちの理解を超えていた。


 しばらくして〈ツチグモ〉が森の奥に消えると、俺たちは襲撃者の死骸へ近づいた。だが身元を示すものは何も残されていなかった。情報端末は回収され、ポケットの中身も空だった。どこかに仮拠点があるのかもしれない。


 襲撃の際に荷物を置いてきた可能性があるが……その特徴的な刺青から、連中が〈廃墟の街〉で活動する中華系ギャングなのは明らかだった。


 それに、〈緋華(ひばな)〉から受けた依頼を妨害しようとしている組織が存在する――その事実が明確になった。森はいつもと変わらない危険を孕んでいたが、俺たちの周囲には姿の見えない敵が潜んでいる。タカクラとの接触までは油断できなかった。


 それからの数日、俺たちは配達予定の物資の準備や移動経路の安全確認に追われた。森の空気は、合流の日が近づくにつれてどこか張り詰めていくようだった。


 俺たちはその緊張を振り払うように黙々と準備を進めた。タカクラに届ける物資を再点検し、〈カーゴドローン〉に積載する際には湿気で劣化しやすい携行食に注意を払い、バッテリー類は〈放射線嵐〉の影響を避けるため鉛のシートで包んだ。


 コトネは予備の戦闘用義肢を装着し、外骨格の補助フレームを微調整していた。イジュンも偵察ドローンのセンサーを交換し、森の磁場に干渉されにくい周波数帯へ切り替えながら、何度も試験飛行を繰り返していた。


 タカクラが指定した合流地点は、森の奥でも特に危険な区域だった。巨大な食虫植物が群生し、葉の裏側には人間の腕ほどの吸着器官が並んでいる。変異体ですら近づくことを躊躇うほどの捕食能力を持ち、獲物を丸ごと溶かす粘性の消化液を滴らせていた。


 その異常な生態が逆に周囲の危険を遠ざけていた。森の捕食者たちが寄りつかない〝空白地帯〟――タカクラたちはそこを拠点として利用していた。


 タカクラとのやり取りを重ねるうちに、彼らが〈ミツバ〉と呼ばれる部族と関係を築いていることが分かった。言葉のまま未開の部族だったが、敵対的ではなく、こちらが刺激しない限り攻撃してこないことも分かった。縄張り意識が強いだけで、理不尽に暴力を振るうわけではない。


 タカクラは彼らの集落で世話になっていると言い、さらに亜人――彼らが〝豹人〟と呼ぶ種族とも交流を持っているようだった。俺たちが接触していた若い雄の亜人のことも、もしかしたら知っている可能性があった。


 準備は着々と進み、あとは仕事を妨害する連中に注意を怠らないようにするだけだった。念のため、襲撃者たちに関する情報をタカクラたちと共有することにした。実際のところ、〈廃墟の街〉で活動するチンピラが森の奥まで追ってきた理由はひとつしかない。


 依頼の妨害だ。俺たちは合流地点に向かうルートの安全確認を徹底した。森は静かだったが、その静けさは嵐の前のそれに似ていた。

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